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「観光革命」地球規模の構造的変化(235) ワクチン接種と東京五輪

2021年6月1日
編集部:木下 裕斗

2021年6月1日(火) 配信

 東京五輪が目の前に迫ってきたが、現実には政府による3度にわたる緊急事態宣言の発令にも関わらず、新型コロナウイルス感染拡大に収束の兆しはまったく見えない。菅政権は「安全で安心な大会を開催できる」と繰り返し表明しているが、各種メディアによる世論調査では「東京五輪の中止・延期」が多数を占めている。

 欧米のメディアは、東京五輪が「一大感染イベント」になりかねないという論調を強めており、米紙ニューヨーク・タイムズは東京五輪について「危険なまやかしを止めるときだ」という寄稿を掲載している。欧米メディアは日本におけるワクチン接種の極端な遅れを問題視している。5月中旬の時点での日本のワクチン接種率(1回接種を含む)は約3%に留まり、発展途上国レベルの世界110位前後に低迷。米国のワクチン接種率は約46%であり、接種率約53%の英国では5月中旬から飲食店の屋内営業を再開し、6月には大半の規制を解く予定と言われている。

 そういう状況の中で、5月24日に大きな変化が生じた。先ず米国のCDC(疫病予防管理センター)は、日本の感染状況について最高レベルの「極めて高い」と認定し、「ワクチン接種を終えた人でも変異株に感染し、感染を広めるリスクがある」と勧告した。これを踏まえ、米国国務省は日本への渡航警戒を最高位のレベル4「渡航中止・退避勧告」に引き上げた。また同日に開催されたWHO(世界保健機関)の年次総会で国連のグテーレス事務総長は「世界は新型コロナウイルスとの戦争状態にある。コロナ対策の必要な武器(ワクチン)の不公平な分配に対して戦時体制の論理で対処が必要」と演説した。

 グテーレス事務総長は富裕国10カ国に75%のワクチンが集中している事態を批判したものであるが、日本の一部の識者は「戦時体制」という発言に注目して「参加者の安全が深刻に脅かされている場合(戦時)にはIOCに対して五輪開催の返上が可能であり、賠償金の支払いは不要」と主張している。

 いずれにしてもワクチン接種に全力を投入し、医療体制の万全を期すことで、早く平穏な日常生活を回復させることが政府に課せられた至上命題であり、安心して旅行に出掛けることのできる日々の到来を祈念している。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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