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〈旬刊旅行新聞5月21日号コラム〉旅館経営者は食事会場へ行こう  宿泊客の表情にヒントと答えがある

2019年5月21日
編集部:増田 剛

2019年5月21日(火) 配信

経営者も料理人も食事会場に行こう

 旅館やホテルに宿泊するとき、とても気になるのが食事会場の雰囲気である。私は一介の客なので、自分だけ楽しければそれでいいはずなのに、なぜか隣のテーブルの家族がこの宿の滞在を本当に楽しんでいるのか、気になるのである。ヘンな人間である。

 

 
 数年前、私の三男坊が「広島の商船学校で学びたい」と言うので、息子の入学試験に付き添い、2人で大崎上島という離島まで行ったことがあった。

 
 私は息子の受験で訪れたことを忘れて、瀬戸内海の新鮮な魚介を満喫したのであったが、ふと我に返ると、食事会場はアワビの焼ける音や、鍋の音以外に会話がないことに気づいた。

 
 周りを見回すと、どのテーブルもうちの息子と同じ中学3年生の男の子と、その母親が向かい合っていた。食事処は、全国から商船学校に入学試験を受けに来た親子ばかりだった。

 
 15歳という思春期の男の子と、母親の2人旅では、母親が何を聞いても、息子は「うん」とか、「分かってる!」としか返答しないので、会話が成り立たない。母親も諦めて黙っているという光景だ。受験の前日ということで少し神経質になっているせいかもしれないが、「そういえば自分も食べてばかりで、目の前の息子と大して会話してないな」と思ったのを覚えている。ただ、この宿はとても料理が美味しく、おもてなしも素晴らしかったので、その後、私は何度も訪れている。

 

 
 このような特殊なケースは別にして、食事中に会話の弾まない宿にしばしば出会う。小さな子供がいる家族はにぎやかな雰囲気になるのは分かる。また、お酒が入った10人くらいのグループ客は、逆に周りを気にせずに騒がしいくらい大声を出す。

 
 けれど、夫婦や恋人同士、高齢者連れの家族などは、“楽しいはず”の旅先の夕食や朝食なのに、会話も、笑顔もなく、「ただ黙々と食べ物を口に運ぶだけ」という光景を目にしてきた。私がいつも気に掛かるのが、これら寂しい光景なのだ。

 
 もし、私がそのような宿の経営者であれば、「もう少し宿泊客が楽しそうな顔で食事ができるようにしたい」と考えるだろう。「せっかく当館を選んでいただいたのに、無表情で、会話もなく食事をされたのでは申し訳ない」と思うはずだ。しかしながら、そのような宿には往々にして食事会場に経営者はおろか、スタッフの姿すらほとんど見掛けない。

 

 
 食事中に会話が多いか、少ないかは、料理で大きく変わる。作り手側に“思い入れ”のない料理を前にして、食べる側は会話の糸口が見つからない。一つでも工夫があれば、そこから会話が弾むものだ。見た目にこだわれば、写真を撮りたくなる。どこで採れた食材なのかを説明すれば、スタッフとの会話も生まれる。料理人だったら、客の表情を見ながら料理を提供したいはずだ。コミュニケーションを取れる環境づくりも必要だ。

 
 旅行者は旅先の宿で少なからず料理に期待をしている。豪華な食材もうれしいが、決してそれだけではない。地元で採れた山菜などを、少量でも出してくれたら、その土地を訪れたことを実感できる。

 
 旅館の経営者や料理長は、夕食会場や朝食会場に足を運ぶべきである。「客がどのような表情で食事をしているのか」を見れば、そこにヒントと答えがある。

 (編集長・増田 剛)

 

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