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「津田令子のにっぽん風土記(38)」 人のつながり、伝統、地域も大切に~ 東京・浅草千束編 ~

2018年6月16日(土)配信 

かたねり、中練りをはじめ、さまざまな種類がある
星徳商店 星 佳徳さん

 東京都台東区・浅草千束で星佳徳さんが営む星徳商店では、鬢付け油を自家製造、販売している。主に歌舞伎役者や芸者、テレビ番組や旅芝居の役者用のものだ。さまざまな種類があり、「かたねり」はちょんまげなど日本髪の鬢に、「中練り」はその日本髪を固定させるために裏から添える紙に塗る。「すき油」はそれがほつれてきたときに直すものだ。かたねりよりも固い「太白」は、宮中の女官などの「おすべらかし」の髪などに使う。髪以外に歌舞伎の白塗りの下地や和竿の手入れ、海底調査などに使うものもある。

 常連客は、好みに合わせて少しずつ固さなどを変え、夏と冬でも変える。「レシピ」は何百にもなるという。材料は南京櫨(はぜ)の実から精製した木蝋(もくろう)と、菜種油の2つが主で、粘り気を出すときにはひまし油も使う。植物性のものばかりだ。

 星徳商店の創業は1924(大正13)年、近くに吉原のあったこの地の地場産業の一つだった。しかし歓楽街が減って同業者の廃業が相次ぎ、浅草周辺で星徳商店が唯一だ。

 星さんは3代目として、1996(平成8)年から父親のもとで始め、今では1人でこの仕事をしている。練るには体力が必要だし、熱いうちに形を整えるのも簡単ではない。「伝統というけれど、食べていけないとね。ただ、大切な仕事をしているという自負はあります」と星さん。木工などの伝統工芸品は形に残るが、鬢付け油は使うとなくなるため、重要性が認識されにくいようだ。しかし最近では純植物性のエコな整髪料として、ヨーロッパから注文が入ることもある。

 星さんは地元である光月町会の役員も務めている。近年は近隣にマンションが増え、星さんはまちの分断を心配する。町内のマンションでは管理会社と相談し、居住者全員に町会に入ってもらうことにした。浅草三社祭のみこしなどにも参加してほしいという。

 トロンボーン奏者の顔も持つ。それを知る人から頼まれ、仲間と地域のイベントにも出演している。「地元の方が飲食などの出店をしているのですが、生の演奏があると、『一杯飲んでつまみながら聞いていこうか』と思ってもらえます」。

 星さん自身も、墨田区で行われるジャズフェスティバルでボランティアスタッフを務め、さまざまなバンドに接する。「趣味で始めた音楽ですが、やらせてもらえる限りは演奏しますし、人のつながりがあることで、また声を掛けてもらえます」と話す。

コラムニスト紹介

津田 令子 氏

社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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