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【特集 No.479】ヘルスツーリズムの実践 住民と来訪者、双方に寄与

2017年12月1日
編集部

2017年12月1日(金) 配信

 PR動画の作成や、SNS(交流サイト)の利用、斬新なキャッチコピーなど、誘客に対する期待は、派手やかさとなって表れることが多い。今回、「健康づくり」をテーマに、誘客だけでなく地域住民の生活力アップにも貢献する民間活力開発機構(みんかつ)の取り組みに着目した。現在日本の高齢化率は27%。超高齢社会を生きるなか、「健康づくり」は医療や介護費負担減に貢献でき、高齢者層の旅行需要を取り込む可能性も有する。地域住民と来訪者、双方に寄与する着実な活動に注目したい。
【謝 谷楓】

観光資源を健康づくりに生かす

 健康寿命の伸長に地域の健康・観光資源を活用する、分野を横断した複合型の取り組みに注目が集まっている。医療費適正化や介護費負担軽減、歳入減など、超高齢社会が抱える課題解決の糸口となり得るからだ。

 厚生労働省の調べによると、2016年の日本人の平均寿命は男性が80・98歳、女性は87・14歳。いずれも過去最高を更新し、11年前(05年)と比べ1・62―2・42歳伸びている。一方、三大死因とされ、生活習慣病とも呼ばれるがんと心臓病、脳卒中、いずれかで亡くなる確率の減少は鈍い。05年と比べて5―7ポイントの減少に留まっているのが現状だ。とくに、がんについては性別にかかわらず、減少値は1ポイントに満たない。

 政府を中心に、健康寿命を伸ばす取り組みが続けられ、生活習慣病予防を中心とした「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」は13年から第2期目が始まった。スマート・ライフ・プロジェクトなど、地方行政と事業者の連携による各種イベントも盛んだ。経済産業省が中心となって進める「次世代ヘルスケア産業協議会」では、各省庁の守備範囲を超えた健康アクションプランが提唱され、地域の観光資源を健康づくりに生かす旅行商品造りの検討が進む。

健康志向と交流人口2つの課題を解決

 民間活力開発機構(みんかつ、里敏行理事長)は、1989年の設立以来、交流人口増加につながる健康づくり運動を、現場レベルで牽引してきた。

 昨今、地方行政は医療・介護費の負担増と、働き手不足による歳入減に頭を悩まされてきた。2つの課題はともに少子高齢に起因するものだが、地方行政の性質上、異なる部署が個別に対応策を練る必要があった。

 同機構の主力事業「健康づくり大学」は、温泉と食事、環境(自然)、スポーツ4つの角度から、地域内外に働きかけることで、課題をまとめて解決する。地域住民に対し、誘客に結びつく要素だった温泉・食事・環境(自然)が持つストレス軽減やリフレッシュ効果を強調。ウォーキングなどのスポーツと掛け合わせることで、健康に対する地域住民の関心を高めるイベントを実施してきた。08年に湖北町(滋賀県)で行った「健康づくり大学」では、ウォーキングとともに、専門家が地元産野菜を使った健康食の調理法をレクチャー。観光資源の再発見を促しつつ、健康に興味関心を抱かせる工夫を施した。

 健康志向の観光客を取り込む活動も行う。15年には、三条市(新潟県)で日帰り温泉施設を利用して「健康づくり大学」を開講。市民向けプログラムだったが、ヒメサユリ祭をはじめとするイベントと連動し首都圏での情報発信を実現した。交流人口と消費額増加に貢献している。

 同機構は、地域の医療機関との連携も重視。健康相談を行うなど、ターゲットである高齢者の意識改革も狙う。「健康づくり大学」はこれまで、20を超える自治体で実施されている。

上天草市と提携、取り組みをバックアップ

 同機構は17年4月から上天草市健康福祉部と提携。同部が中心となって進める「複合型スポーツ&ヘルスツーリズム事業」に参画した。ここでも、地域住民の健康促進と交流人口増、2つの課題に取り組む。

 3年計画で進む同事業。初年度の今年は事業推進委員会を立ち上げ、関連部署や事業者の関係構築をはかってきた。11月、市の商工観光課らによるガストロノミーウォーキングイベント(特別協力=ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構)に、健康福祉部が健康関連のテントブースを設け、部署の枠にとらわれない活動が始まっている。

 住民の健康意識向上を促すため、指標となる健康度数値も作成する。事業の浸透と恒久化を目指すのが狙いだ。上天草総合病院と協力し、人間ドックプログラムを通じた観光客の誘致にも励む。

 市の健康福祉部は、地域の食材を使った健康メニュー開発や、特定健康診査受診率の向上プランを作成している最中。来年2月開催のトレッキングフェスティバルでは、温泉・食事・環境(自然)・スポーツの各視点に基づく取り組み(健康づくり大学の開講)とともに、アンケート調査も実施。初年度プログラムの成果を測定し、取り組みをバックアップする。

 観光庁の調べによれば、16年の「立寄温泉・温泉施設・エステ」の延べ利用者数は、約4400万人。14年以降3年連続で増加しており、温泉に対する関心は低くない。「健康づくり大学」の主なターゲットである高齢者(60―80代以上)の延べ旅行者数と宿泊数(観光・レクリエーション目的)はともに、14年以降3年連続の増加で需要も高い。上天草市での成果を、全国の各地域で役立てる日は近い。

※詳細は本紙1694号または12月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

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