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共同浴場 ― 地元の人たちと旅人が一緒に憩う

2017年2月21日
編集部

 春に向けて、寒い日と暖かい日が交互に訪れている。この原稿を書いている東京の外は、春一番が吹き荒れている。

 この冬は、ほとんど温泉に行かなかった。それが、心残りでもある。そんなときは、過去の旅の記憶に浸るのが心地よい。

 一時期、温泉地の共同浴場ばかりを巡っていた時期があった。今でも温泉地に行くことがあれば、極力立ち寄るようにしている。共同浴場は基本的に誰でも入浴することができる。地元の人にとって生活の一部のように日常的な空間のため、旅人にはそれなりのマナーが必要だが、高級旅館の内湯とはひと味違う、その土地の文化に浸ることができる。

 山形県・かみのやま温泉「下大湯公衆浴場」や、熊本県・人吉温泉の「新温泉」は、レトロ感があって個人的には気に入っている。宮城県・鳴子温泉の「滝の湯」や、同じく宮城県・遠刈田温泉の「神の湯」、福島県では、飯坂温泉の「鯖古湯」や、高湯温泉の「あったか湯」も印象に残っている。

 北陸では、山代温泉には「総湯」と「古総湯」を中心に、周辺に温泉宿が立ち並ぶ「湯の曲輪(ゆのがわ)」文化が今も残る。松尾芭蕉が称賛した山中温泉の「菊の湯」などもいい。山口県の長門湯本温泉の「恩湯」や、長野県・別所温泉の「大湯(葵の湯)」などの外観も、なんとも言えない風情がある。佐賀県・嬉野温泉の「シーボルトの湯」のように、洋風のハイカラな建物もある。

 もちろん、愛媛県・道後温泉の「道後温泉本館」や、大分県・別府温泉の「竹瓦温泉」、それに新しくできた群馬県・草津温泉の「御座之湯」は威風堂々として、存在感も横綱級だ。道後温泉には「椿の湯」もあり、私はあまりに有名な道後温泉本館よりも、地元の温泉街の人が利用する椿の湯の方が好きだ。道後温泉には今年9月、新たに飛鳥時代をイメージした「道後温泉別館飛鳥乃湯泉」がオープンする予定で、いつか行ってみたいと思っている。

 湯がすごくいいな、と思ったのは長崎県・雲仙温泉の「雲仙小地獄温泉館」や、大分県・長湯温泉の「御前湯」、群馬県・川原湯温泉の「王湯」など。また、和歌山県・白浜温泉の「崎の湯」や、岡山県・湯原温泉の「砂湯」、山形県・蔵王温泉の「大露天風呂」は、大海原や山など大自然に囲まれた露天風呂で開放感と旅情いっぱいだ。

 共同浴場のある温泉地は古くから続く温泉文化が継承されているところが多い。地元の人たちと旅人が一緒に憩うことができる。沖縄県にも古くからの共同浴場がある。沖縄市の「中乃湯」は情緒ある温泉銭湯だ。兵庫県・城崎温泉には、「一の湯」をはじめ、外湯文化が古くから根付いているため、湯めぐりができる。草津温泉や、長野県の野沢温泉や、渋・湯田中温泉にも外湯が散在している。外湯があると、旅人も宿から出るので、土産物屋や食事処などの店も活気づき、温泉地での散策が楽しくなる。

 最近、共同浴場を新しく建て替えるところも増えてきた。施設が新しくなるのはいいのだが、昔ながらの風情や歴史を感じることはできない。ネーミングが健康センター的な感じのところもあり、情緒を感じるのは難しい。しかし、100年先も、温泉文化が続くような共同浴場が全国にたくさんあればいいなと思う。

(編集長・増田 剛)

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