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料理長が顔を見せる ― 「厨房は裏方」という考え方は古い

2015年2月11日
編集部

 先日、会社の近くでずっと気になっていながら、入る機会を逸していた居酒屋でランチを食べた。その日の日替わり定食はカキフライと刺身定食で、値段も手ごろだったので、それにした。2階なので多くの客で混み合うということもなく、カウンターに並ぶ日本酒や酒場関連の本を読んで料理を待った。間もなく運ばれて来たカキフライは素材の良さが一口でわかるほど瑞々しく、ジューシーだった。刺身も新鮮で薄口の刺身醤油ともよく合った。でも、これだけなら10軒入れば2、3軒はあるかもしれない。「この店は美味しい」と、新たな隠れ家を開拓した気分になったのは、ごはんを食べたときだった。黒塗りの器に入れられた艶やかな米は、しばしば出会うしゃもじの平面的な跡がべっとりと残ったり、塊となったごはんとは一線を画す“強いこだわり”を感じた。

 過去、いくつかの定食屋を気に入り、何度も行きつけたのに、ある事が原因でそれ以来一度も行かなくなった店がある。ある事とは、「ごはんの炊き方がぞんざいに感じたから」だった。小学校の給食で出されたごはんの炊き方があまりにひどくで、おそらくそのトラウマからどんなに料理が美味しくても、ごはんが美味しくなければ、二度と“行けない”という習性が身についてしまった。

 私は美味しいごはんを出してくれた居酒屋を出る時に、どのようなご主人(料理人)がこんなに美味しいごはんを出すのかと、レジから見える厨房を覗いた。滅多にこのようなことはしないのだが、とくに美味しい料理を食べたときには、料理人がどんな人なのか、無性に知りたくなるのである。

 名の通ったレストランでは料理長やシェフがスポットを浴びる。旅館やホテルでも、料理長の写真とともに「料理長お薦めコース」などのプランを前面に出す宿もある。しかし、依然として旅館では「厨房は裏方」との意識は強い。

 オープンキッチンを取り入れる宿も多くなった。お客は料理人が料理する姿を見ることができる“ライブ感”を得られる。一方、料理人もお客が料理を食べたときの反応をダイレクトに見ることができるので、双方にとってメリットがある。

 女将やフロント係、客室係は宿泊客と接する機会は多いが、料理人は厨房の中だけで、お客と接する機会が少ない。自分たちが作った料理がどのようにしてお客が楽しそうに食べているか知りたいだろう。お客の姿を目にすることで、さまざまなアイデアも沸くし、モチベーションも上がるだろう。食べ残りだけを見るのは辛いものだ。

 職人気質が強く、表に出てお客と話したがらない料理人も多い。しかし、今は料理人にもコミュニケーション能力が求められる時代になった。

 仲居さんが空で覚えた料理を説明しても暗記することで精いっぱいで、刺身の三点盛りの最後の一つが思い出せず、記憶を探りながらお客に試験問題の回答をするようなシーンも見られる。メニューの説明をするのはいいが、実際に社長や料理長が仲居さんを連れて魚市場に行ったり、メニューの品を食べさせたりしない限り、あまり意味がない。であるならば、可能な限り料理長が食事処に顔を出し各テーブルに声を掛け、客からの質問に答えた方がいい。「厨房は裏方」という考え方は、もう古い。

(編集長・増田 剛)

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