【特集No.331】鶴雅グループ 地域に根差した“開拓精神”
2013年2月11日(月) 配信

高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している旅館がある。なぜ支持されるのか、その理由を探っていく「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第9弾は、鶴雅グループの大西雅之代表取締役社長が登場。産業技術総合研究所の工学博士・内藤耕氏との対談で、大西社長は多店舗展開のメリットや、(1)ひとり旅(2)ペット同伴(3)長期滞在(4)海外のFIT旅行をしっかりと取り込み、新たな北海道滞在型リゾートを目指す構想を語った。
【増田 剛】
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大西:釧路で小さな商人宿を営んでいましたが、父が阿寒湖温泉で旅館を始めたのが1955年。私は旅館としては4代目、観光旅館では2代目となります。
26歳で私が旅館に戻った1981年のころは8畳間中心の136室。客室と宴会場しかなく、大浴場もそれほど力を入れていない状態で、最初に父から命じられたのは越冬資金を銀行から借りて来ることでした。木造から初めて鉄筋の建物にしたのが1970年で、その後少しずつ客室を増やし193室になったときに念願の1日に1千人宿泊を達成させました。つまり、8畳一間に5人を詰め込んでいた計算です。当時は「顧客満足」とか「品質向上」というような言葉は会社にはなく、「どうしたら満館にできるか」ということばかりを考えていました。
阿寒グランドホテル時代の1987年にJTBのアンケート評価が58点となり、60点を下回ったために送客停止となりました。まさに崖っぷちから落とされたような気持ちでした。狭い客室、パブリックスペースもない旅館でしたが、そこから「品質を高めていきたい」と、方向転換をしていきました。
内藤:ターニングポイントとなった送客停止を機に、品質向上への大転換に向かっていったのですね。
大西:低位でずっと価格競争を強いられてきた立場から脱却しようと、93年に鶴雅別館に着手しました。当時売上が21億円程度にも関わらず、50室足らずの鶴雅別館の工事費は36億円でした。そのときにどこにもないような大浴場にしようと、洞窟風呂など多様な風呂を作りました。周りからも心配されましたが、迷いはありませんでした。価格競争から抜け出し選んでもらえる施設にしたい思いが強かったのです。
今から考えると、私にとっての一番の勝負だったと思います。これによってJTBのアンケートも85点に上がりました。宿はハードだけではダメですが、ハードのないソフトも難しいと私は思っています。
内藤:私は鶴雅のビュッフェが好きなのですが、料理についても大転換をはかりました。
大西:87年当時、レビューショーをやっていたショーホールをもっと旅館としての本質に近いものにしていこうという流れのなかで、屋台村を始めました。当初、屋台を並べるという社内のアイデアに私はあまり賛成ではなかったのですが、これが思いのほか好評でした。それで和・洋・中のすべてを備えた本格的なビュッフェスタイルを展開していこうと思い切った転換をはかりました。
内藤:多くの旅館では、とくに朝食はバイキング化が進んでいます。「手抜き」のためにバイキング化している宿も散見されますが、鶴雅では「でき立て」感を出していくというのが特徴です。
定山渓の鶴雅リゾートスパ森の謌なども多くのシティホテルで見られるような大量に作り置きするビュッフェ料理ではなく、寿司屋のカウンターのようにでき立てのものを小まめに出していくという「屋台の源流」があることが今のお話でとてもよくわかりました。
大西:ビュッフェは決してコストが下がるものではないのです。おそらく大宴会場でお決まりの料理を出していく方が、満足度は下がるでしょうけど、原価も下がると思います。
内藤:団体旅行の流れで多くの旅館では「厨房がつくり置きをすることで品質劣化が生じてしまう」という課題があるわけですが、ビュッフェであっても「でき立て」の料理を出していくという鶴雅グループの努力は素晴らしいと思っています。一般的にビュッフェにすると品質が下がることが多いのですが、それを逆の方向に持っていったのは鶴雅リゾートの非常に面白い取り組みだと思っています。
大西:しかしながら、「料理を自分で取りに行くのが嫌」という層もいらっしゃるので、ビュッフェだけでは限界があると思っています。しこつ湖の「水の謌」などはビュッフェスタイルとレストランが併設できているので、それぞれのニーズに応えられるのかなと思っています。森の謌はレストランを作ることが次の投資の課題だと考えています。
内藤:北海道での多店舗展開のメリットは現れていますか。
大西:私たち温泉旅館も複数の地域に拠点を持っていくと、エリア内のネットワークのメリットを感じます。リスク分散の営業上の利点もありますが、オペレーション上も大きなメリットがあります。これまでは繁忙期、閑散期にはニセコのリゾートホテルさんとスタッフの融通を行っていたのですが、今年、小規模ですがニセコでもグループ展開を広げるので、オン・オフを活かした人材活用ができるようになります。グループが拡大していけば目が届かなくなるリスクもありますが、各支配人の権限の拡大によって面白いことになるのではないかと期待の方が大きいですね。
私は各地域の会合などで地元の行政や観光協会、旅館組合などの代表者とお会いしたときには、「地域の中で弊社の代表である支配人がお約束したことを本社が覆すことは一切ありません」と申し上げています。これはかつて私たちも困ったことで、地域で決まったことを全国チェーンの本社に伝わると決定事項が覆ることが多々ありました。また、各支配人には「大西色が見えなくても構わないから、あなたの色で個性旅館を追求してほしい」と話しています。これによって支配人の自覚が変わってくるのです。
内藤:それぞれの宿に自治権を与える一方で、グループとしては「何を」共有していくのですか。
大西:「地域に根ざし、観光のフロンティアに立とうという開拓精神」でしょうか。大手ホテルチェーンはどこに行っても同じサービスを受けられるメリットがありますが、一旦中に入ってしまうとどこにいるのかわからない。鶴雅グループの宿は「どの宿も全部違う経営者がやっているようにしよう」と言っています。「北天の丘あばしり湖鶴雅リゾート」では自分たちの農園で作った木苺などを自ら考えながら喜んで出したりしています。
今年、ホテルグループも11軒になりますが、まだ1軒の延長です。これがもっと大きくなり、20―30軒の規模になれば別のビジネスモデルが必要なのかもしれません。
旅館業界は、総キャパシティは供給過多ですが、高度成長時代の団体旅行形態のキャパが圧倒的に多く残っていて、一方で、新しい時代の個人客のニーズへの対応はまだまだ不足しています。全体のキャパでみると、稼働率低下に映りますが、実は新しい時代に合った施設をもっと作っていくことが求められているのではないでしょうか。
東日本大震災以降、これまで私たちが目を背けてきた4つのマーケットがあると思います。(1)ひとり旅(2)ペットと同伴旅行(3)長期滞在旅行(4)海外からのFIT旅行――。この4つの市場をしっかり掴むことで我われのグループの特色が出せるのではないかと考えています。
旗艦の鶴雅ウィングスは昨年リニューアルしましたが、北海道の新しい大型温泉リゾートのモデルを作ってみたいと思っています。鶴雅ウィングス以外は大きな施設はやらないつもりです。それぞれの支配人に「個性的な宿を作れ」と言っているわけですから、支配人が1人で見ることができる範疇の50―80室というのが一番いいのではないかと思います。
内藤:ひとり旅も積極的に受け入れているのですか。
大西:そうですね。ひとり旅は飛躍的に伸びています。12年9月が前年同月比60%増、10月は2倍の伸びです。男女比は圧倒的に女性が多いです。
鶴雅ウィングスの宿泊プラン数は100近くあるのですが、一つひとつはそんなに売れない。ロングテールで商品数を増やし、これについてきてくれるお客様を大切にする発想に切り替えようとしています。運営だけで、コストはほとんどかからないので、とくにネット商品はロングテールの顧客を考えることが大事になってきました。
内藤:アマゾンは本のロングテール化に成功しましたからね。
大西:まさにアマゾンの話をしました。個人客の時代には団体客の時代のような単一ヒット商品は難しい。さまざまな客室、ソフトを備えていかなければなりません。たとえば、ペットは国民の約2割が飼っています。鶴雅グループのペット専用旅館は大型犬まで客室OKです。「森の謌」でも3階のワンフロアはペット同伴客専用にしています。客室のテラスにペットを走らせる小さなスペースも作りました。エレベーターを完全に一般客と分けて、外から3階まで直通で行けるように工夫しています。グループの各ホテルも、数室はペットも泊まれる部屋として用意しています。ペット同伴のお客様は「ひとり旅」の割合も高く、「ひとり旅」との連携が必要だと思います。これらのカテゴリーは目を向けてこなかったというよりも、「3泊目以降の料理を何を出したらいいかわからないので長期滞在を受けない」「語学ができないので外国人観光客を受けない」「ペットはほかのお客様に迷惑をかける」などの理由を挙げて、見ないようにしてきたわけです。新しいマーケットに取り組んでいかないと国内の旅行市場は今後ますます縮小してしまうし、成熟していきません。
長期滞在についても、日本人は1週間以上の滞在は難しいかもしれないですが、3―5泊くらいは当然の時代がくるのではないでしょうか。必要なニーズにきちんと応え、いかにリーズナブルに提供できるかが勝負になります。
大震災を転機に長期滞在に対応するために、11年に抜本的な価格体系の見直しを行いましたが、一旦できる限りのサービスを削ぎ落としたルームチャージ制をどのくらい導入できるかが今後の課題です。1泊2食で子供料金を大人の5割なんて設定していると連泊はできません。家族で長期滞在したときにどれだけ負担感をなくすことができるかが問われてきます。
旅館が「ノー」と言われている部分はものすごく多い。旅館が守らなければならない伝統もありますが、時代に合わせて変わっていく勇気も必要だと思います。
内藤:旅館は施設、料理が非日常を追求していった結果、連泊、滞在に合わなくなっているのではないかと強く感じます。高級にしていく、豪華にしていくと逆に人間は豪華さに飽きて連泊しづらい状況にもなります。
その意味でサービスの作り込みという部分はこれまでとまったく違う、新しい方向で展開していく必要があります。
大西:私たちが考える連泊プランは基本的に料理は外し、ビュッフェを選択されたお客様には割安な料金を提示するシステムです。また、ミニキッチンで自分たちで作るけど「ご飯やサラダを人数分注文したい」というニーズに対応する仕組みも必要です。
内藤:大西社長が思い描く北海道の新しい大型温泉リゾートのスタイルとはどのようなものですか。
大西:北海道では200室程度は中型旅館で、400―600室などが大型旅館といわれるスケールになっています。でもこれらは団体旅行の周遊のための施設です。大宴会場、大型ビュッフェ会場、客室はできるだけ同じスタイル、10畳一間くらいのユニットバスの部屋が400室くらい並ぶのが一番効率が良く、団体客からもクレームが起きないスタイルなのです。しかし、21世紀になり個人型旅行に大きく移行していきましたが、施設としてはそのまま残ってしまっています。
沖縄のホテルは大きいけれど満足度は高い。大規模がダメなのではなくて、団体旅行のスタイルに合わせている北海道流の大型化が時代とズレてきているだけなのです。そして、近年さらに判断を難しくさせているのが、海外からの募集型団体旅行が国内の団体旅行が廃れたあとをカバーしていることです。これが決断を遅くしている面もあります。しかし、先般の中国との領土問題などが生じると、一気にまた厳しさが露呈してきて、北海道は今ものすごく大きな転換が起こってきています。
「そこに滞在してどれだけ楽しんでいただけるかという付帯をきちっと作れるか」が、新しい北海道スタイルではないかと考えています。私たちは北海道の連泊型の新しい施設を提案していきたいと思っています。鶴雅ウィングス本体は春の大浴場の大改装で一つの形ができるだろうと思っています。これ以外のグループ旅館は、より中・小型化して今の時流に合った施設づくりをしてみたいと思っています。
内藤:海外進出についてはどうお考えですか。
大西:2010年に私たちはインターナショナル宣言を行い、国際部を設置しました。すべてのFITのお客様に国際部のメンバーの内線が書かれたカードをお渡しし、医療的なことや、細かなことでも24時間対応できることを目指しています。
将来的には台湾に進出した加賀屋さんのように海外での運営受託、設計監理などにも積極的に取り組んでみたいと考えています。
なぜ海外に進出していくかというと、現地で事業利益を得るという目的以上に、スタッフの交流や現地でしっかりとした運営を行うことによって「鶴雅」という名前を広く知ってもらい、ブランドイメージの定着に主眼を置いています。中国・蘇州市の太湖リゾートにヒルトンや、マリオットとともに和風の鶴雅グループが運営する約60室オールスイートの中型旅館「太湖鶴雅」ができる予定でしたが領土問題で一時中断しています。車で2時間圏内で円を描くと1億2千万人がおり、中国では2番目に個人所得が高いエリアなので、鶴雅ブランドを上海を含めたエリアに認知され、日本に旅行する時に使っていただけるようなブランド戦略を考えています。近いうちにぜひ実現したいと思っています。



