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「観光革命」地球規模の構造的変化(200)米朝首脳会談と東アジア観光

2018年7月1日(日) 配信

今まで以上に中国、韓国からのインバウンドが必要

 訪日旅行者数は4月末で1051万人に達している。このまま順調に推移すれば、今年中にインバウンド3千万人の実現が確実だ。昨年の訪日旅行者数は2869万人で、そのうち中国から735万人、韓国から714万人で両国だけで全体の5割。とくに韓国からの訪日旅行者は16年に509万人であったが、17年に714万人へと激増している。

 韓国人による訪日激増の背景には中韓関係の変化がある。16年当時の韓国はパク・クネ政権下で中韓蜜月関係が実現され、経済・観光交流が進展した。16年の中韓観光交流は両国合わせて1500万人に達していた。さらに韓国ロッテグループは中国東北で最大の都市・瀋陽で約3千億円の資金を投入して「瀋陽ロッテタウン」の建設に力を入れていた。ロッテワールドを核にして、ショッピングモール、ホテル、コンドミニアムなどの大規模開発を進めていた。

 ところがパク・クネ政権は北朝鮮による核・ミサイル開発に対抗して、米国主導によるTHAAD(高高度防衛ミサイル)システム導入を決定したために中韓蜜月が終わりを告げた。中国は直ちに韓国への団体旅行商品の販売中止を決定し、禁韓令(中国国民による韓国観光の統制)を発した。またロッテが慶尚北道で所有するゴルフ場をTHAAD設置のための用地として提供したことを受けて、中国国内でロッテボイコット運動が生じると共に、瀋陽でのロッテワールド建設工事停止の動きが生じた。

 中韓観光交流に黄信号が灯ったが、17年5月に親北派のムン・ジェイン大統領が就任し、今年6月12日に史上初の米朝首脳会談が開催され、北朝鮮の非核化に向けた第一歩が踏み出された。具体的な非核化への道筋は不透明であるが、ムン政権の下で中韓関係が円滑化し始めており、中韓の経済交流・観光交流の進展が予想されている。

 日本政府は20年にインバウンド4千万人を目指しており、今まで以上に中国、韓国からのインバウンドが必要だ。しかし中国も韓国も観光立国に注力しており、観光客誘致合戦の激化は必至だ。史上初の米朝首脳会談によって北朝鮮の非核化の幕が開いたが、一方で日中韓による観光客誘致合戦の激化を招来するので、今後は東アジア諸国に力点を置いたインバウンド戦略の修正が必要になる。

コラムニスト紹介

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

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