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「女将のこえ211」帽子山 麻衣さん、宝生亭(石川県山代温泉)

2018年6月24日(日) 配信

帽子山麻衣さん 宝生亭

再建成功と新ビジネス

 宝生亭が前面に掲げるのは「子供に優しい宿」。女将の麻衣さん自身、5歳から15歳まで4人の子育て中だから、実に説得力がある。取材中、学校帰りの長女と長男がロビーにやってきた。自分の子供にも優しく、寂しい思いをしなくて済む環境にしているのだ。

 宿泊の若いママから子育ての相談を受けることもある。「教えるのが好き」と麻衣さんは嬉しそうだ。かつて、英文科卒を生かして学習塾を開業。中学生8人に英・算・国を教えた時期もある。自分の存在意義の実感を、麻衣さんは大切にしているようだ。

 2009年4月、宝生亭の再建のために夫の宗(たかし)さんとここに越して来た。同館は、和倉で宝仙閣、寿花、渡月庵を経営する宝仙閣グループの1つで、義父が経営難だった宿を買い、2人に経営を打診したのだった。「私も実家が客商売で、普通の家庭に憧れていました。当時の主人はサラリーマンで、これが理想の暮らしでした。でも、20代で女将ってかっこいいなと思ったのと(笑)、厳しい義父母が任せてくれるということは、信用されている証拠だから、その期待に応えたいと」

 実は麻衣さんは、実家が営む店の1つ、大型パチンコ店の倒産を経験し、苦境から立ち上がった経緯がある。そのうえ、実家の飲食店、グループ旅館の事務手伝い、自ら主宰した塾、子育てと、4つを「楽勝で掛け持ち」したこともある。宗さんも勉強熱心で意欲的。2人の力は宝生亭で発揮された。

 スタッフは一人一役から数役へ。事務室に3台あったコピー機を1台に。少しずつ改革を進めていった。

 対顧客は、老人会を主体に接待に力を入れた。本店の宝仙閣を参考に、コスプレや踊りで大いに宴会を盛り上げ、1人残らずお酌して回る。次回のために後日、改めて営業に出向く。借金は3年で返したという。

 老人会が来られない田植え時期対策として誕生したのが、赤ちゃんプランだ。麻衣さんは母として女将として、毎日SNSに温泉旅館の魅力を投稿。ママたちの口コミが広がり、今ではロビーが保育園のような状態になる日も珍しくない。

 宝生亭を人気旅館にした今、新ビジネスにも目が向いているという。人材派遣会社だ。グループ会社も周辺旅館も人手不足で困っているなか、ある夜、会社設立の夢を見た。

 麻衣さんは宝生亭の経営者でも社員でもなく、給料ももらってこなかったため、起業できた。社名はエイトリピート。無限の広がりを持って、繰り返し必要とされる自分へ。邁進する先が楽しみだ。

(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)

住所:石川県加賀市山代温泉桔梗丘1-80-1▽電話:0761-77-1143▽客室数:23室(120人収容)、一人利用可▽温泉:アルカリ性単純泉▽創業:1912(大正元)年▽料金:1泊2食付18,000円~(税込)▽大人・子供ともに無料でコスプレを貸し出ししている。あひるが200羽浮かぶ貸切風呂、床が畳風のすべりにくい大浴場、温かな接客など。

コラムニスト紹介

ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。

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