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「街のデッサン(200)」ショパン狂い 文化のおもてなしの時代

2017年12月2日(土) 配信

カタリナ・フシュタのコンサート

 ワルシャワを訪れたのは、ショパンの生きた音楽に触れたいという一心からだった。丁度さる旅行会社が、彼のためのツアーを企画していた。その1日の始まり、昼食はショパンがよく通っていたというレストラン・ホノラトカ。立派な館の地下のワインセラーと倉庫を活用した豪奢な空間だ。店の入口にはショパンの似顔絵が飾られ、彼がよく食事をしたというアルコーブの席が残されている。私たち団体も、丸天井に可愛らしい少女たちの絵柄が描かれて楽しい雰囲気を醸す部屋に案内された。メインの魚のピカタも結構美味に思え、気持ちは合格の判を押していた。

 昼食後、レストランからも歩いて行ける旧市街地を観光。今度はそこからバスで、ショパンの心臓が保存されている聖十字架教会へ。さらに、ショパンの父親がフランス語を教えていた学園近辺と、家族で住んでいたアパートを徒歩で巡る。

 思いがけなかったのは、この日は日曜日で、ショパンの大きな銅像が残るワジェンキ公園で野外コンサートが開かれている。バスで10分もかからず、池の向こうに銅像とステージがあって、1千人近い聴衆に囲われて、スリムな女性ピアニストが体をくゆらせて一心にピアノを弾いている。そのピアノ曲に合わせ客席のかわいい3人の少女が手をつないで踊っている。ワルシャワの空の下、市民に愛されるショパンにも出会えた。夕刻からは、ベラルーシ出身の若きピアニスト、カタリナ・フシュタさんのコンサートを聴きに王宮の小さなホールに。ヴィスワ川に夕日が映え、ショパンの曲が美しい。

 異国の旅の幸福な1日は、音楽音痴の私さえショパン狂いにさせてしまう、よくできたコース設計だと感嘆した。

 これからさらに「カルチュラル・エンターテイメント」という考え方が、観光産業の重要な位置を占めてくるだろう。すなわち、地域文化や芸術、歴史や民俗が持つ個性など「文化のおもてなし」が、観光の主要なテーマの時代である。ディズニーランドのような「非日常」ではなく、自己の日常とは異なった「異日常」を通して私たちは自分自身の生き方や暮らしのデザインを相対的に見極めていく時代、ともいえる。

 ニューヨークやラスベガスのエンタメ都市が研究され、IR(統合型リゾート)の構築やナイトライフエコノミーが注視されているが、違った文化の基底に流れる感性の通時性に共感する「文化のおもてなし」視点も忘れてはならない。ワルシャワでのショパンとの出会いは、私に深遠な哲理をもたらしたと思えた。

(エッセイスト 望月 照彦)

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

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