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対談 日本政府観光局(JNTO)理事長 松山 良一氏 × ナビタイムジャパン社長 大西 啓介氏

ナビタイムジャパン社長の大西啓介氏(左)と
JNTO理事長の松山良一氏

消費額8兆円達成へ

松山氏「“日本の原風景”をPR」
大西氏「地域の魅力発掘したい」

 1月25日、日本政府観光局(JNTO)の松山良一理事長と、ナビタイムジャパンの大西啓介社長が対談。インバウンドの受入れをめぐる課題や施策を中心に語り合った。観光資源の発掘や、2次交通対策など、訪日外国人旅行者(インバウンド)4千万人や旅行消費額8兆円といった目標を達成するために、自治体が取り組むべきことは多い。世界標準の視線を持つJNTOと、豊富なビッグデータを有するナビタイムジャパン。両トップが示す課題と解決に向けた提言に注目したい。
【謝 谷楓】

 ――海外でのPRを担うJNTOから見た、インバウンド対策に関する課題とは。

松山:受入環境の整備が、大きな課題だと考えています。例えば2次交通対策や夕食のあとにも旅行者が楽しめる娯楽施設を用意することも重要です。

 ――まずは、インバウンドのニーズを正しく把握する必要があるようです。自治体はどのような方策を取っていけばよいのでしょうか。

大西:ビッグデータに代表される、“事実”に目を向けることが重要です。例えば、自治体には、宿泊施設や飲食店の増加計画など、政策を決定する際のきっかけとして、ビッグデータを活用してほしいと考えています。

 奈良県を中心とした動態(人の流れ)に関するビッグデータを分析すると、人の流れが昼間に集中していました。夜間、旅行者の多くが、大阪府や京都府へと向かっていたのです。データに基づく“事実”を知ることで、夜の滞在時間を伸ばすなど、効果的な政策を期待できます。

 ビッグデータのなかには、旅行者の回遊ルート情報も含まれています。国籍についても知ることができ、ルートやスポットについて、国籍別の傾向を把握することができます。想定していたのと違うルートに人が集まるのであれば、道しるべとなる掲示物や標識を設置し、特定スポットへの誘導というように、政策の修正も可能です。

 自治体だけでなく、観光庁の調査事業でも、当社のビッグデータは利用されています。

 ――JNTOでの、ビッグデータの活用について。

松山:JNTOのミッションは、インバウンドの琴線に触れるPR活動を展開し、誘客を実現することです。海外個人旅行客(FIT)が増加し、体験型や地方への分散化が進んでいます。昨今、旅行者一人ひとりの行動パターンをよく理解するという点でも、ビッグデータをどんどん活用していきたいと考えています。

 ――2020年に向けた取り組みのなかで、地方創生も大きなテーマです。サポートできることは。

大西:自治体と手を携えて、地域の観光資源を発掘していくことができます。動態や回遊ルート情報といった、確かなデータに基づく提案をしています。インバウンドの興味を引く観光資源の発掘を、自治体の皆様と一緒になって行っています。

 2次交通についても、旅行者が安心して移動できるようナビゲーションをしていきたいと考えています。乗合いと貸切、日本のバス事業者数は現在、2千社にのぼります。5年の歳月をかけ、各社について整理してきたデータは、全体の8割を超えました。18年には完成するため、情報の多言語化を目指します。

 当社のナビゲーションサービスを利用し、電車を降りたら温泉まではバスで向かうという、よりスムーズな移動が可能となります。インバウンドが増えれば、バスの発着回数の増加も見込めるはずです。

松山:2020年に向け準備は万全のようです。大いに期待しています。

 ――兵庫県神戸市では多言語によるバスロケーションサービスを提供しています。DMOに関する考えを、それぞれ教えてください。

松山:JNTOでは各地域のDMOに対し、海外の成功事例を紹介しています。米国のナパバレーや、スイスのツェルマットの取り組みを参考に、提案をする場合もあります。

 DMOの要は、民間の方々、とくに地域が主体となって行動することにあります。地域の魅力を広域にまたがってPRするのが狙いですから、中心となってリーダーシップを発揮する存在が必要だといったアドバイスも行うよう心がけています。

 北海道観光振興機構や、せとうち観光推進機構など、成功事例も出つつあります。JNTOでは、DMOが日本のインバウンドを牽引することにより、モデルケースが増えることを期待しています。

大西:当社では、定性・定量調査の実施や、自治体職員向けインバウンド対策のワークショップの開催など、コンサルティングという形で、地域への誘客をサポートしています。奈良県ではデジタルサイネージを利用し、モノ・コト消費の拡大もはかっています。

 ――地域の“稼ぐ力”を伸ばす施策ですね。DMOの理念と重なります。

大西:インバウンドの訪日目的も、把握しています。インバウンド向けナビゲーションサービス「NAVITIME for Japan Travel」アプリを利用する際、国籍や性別、訪日回数といった情報も合わせて取得しているのです。旅行者の国籍別に、滞在者数や目的を知ることができ、国内地域ごとの比較も容易です。例えば、四国地方を訪れるインバウンドの数や目的を他国と比較すると、フランス人旅行者が多く、神社仏閣や四万十川など、文化や自然に高い関心を示していることが分かります。

 これらデータに基づく“事実”を知れば、フランス人向けの標識増加や、案内パンフレットにフランス語を加えるといった、効率の良いPRができるはずです。

 ――今後、インバウンドの消費拡大をはかるためのキーワードとは。

松山:“日本人の日常生活”こそ、一番強みのあるコンテンツだと考えています。例えば、あぜ道を散歩するという、日本人にとっては当たり前となった原風景も、外国人旅行者にとっては、魅力ある素晴らしい体験の1つなのです。

大西:田植えも良い体験となるはずです。また、川で鮎を釣り、囲炉裏で焼く。ただそれだけでも、関心を持つ旅行者は多いため、地域での消費増加を望めます。

松山:体験を通じ、大きな感動が生まれます。感動が生じれば、自ずと財布の紐も緩むはずです。立派な施設を立てるだけが正解ではないと思います。

大西:現在、日本在住の外国人クリエイターが、地域の魅力を海外に発信する「EXPLORE JAPAN PROJECT」の取り組みを行っています。WebサイトやSNSを通じ、地域の観光資源を発掘・発信しているのですが、今後も、自治体と協力しながら、誘客や消費に貢献していきたいです。

 ――ありがとうございました。

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インバウンド対策の
現状を語る松山氏

インバウンド観光セミナー、松山氏、大西氏らが登壇

 当日、対談が行われた東京国際フォーラム(東京・有楽町)では、インバウンド対策の立案に携わる自治体担当者を対象に、ナビタイムジャパン主催による「インバウンド観光セミナー」も開かれた。日本政府観光局の松山良一理事長と、蜷川彰インバウンド戦略部長、JTB総合研究所の早野陽子主任研究員、同社の大西啓介社長が、それぞれ登壇した。

 松山理事長は、「今後、口コミはますます大きな影響を及ぼすことになる。SNSの活用が大切だ」と強調。インバウンド者数4千万人(2020年)を達成するためにも、海外個人旅行客(FIT)を取り込むPR施策を創出することが重要との考えを示した。

 続いて蜷川戦略部長は、消費拡大のノウハウを説明。早野研究員は、「データから見る訪日旅行者の変化」と題し講演した。

大西氏は、ビッグデータの
活用について説明

 大西社長は、「旅行者の視線で、地域の観光資源を、自治体の方と発掘していく。インバウンドの滞在実態など、データを分析しないことには、分からないことがあるのも確かだ」と、ビッグデータの有用性を紹介した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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