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「観光革命」地球規模の構造的変化(255) 生物多様性と観光

2023年2月10日(金) 配信

 

 政府は新型コロナの感染法上の位置付けを従来の「2類相当」ではなく、季節性インフルエンザと同じ「5類」に5月8日から移行する方針を打ち出した。コロナ禍が生じた3年前から今日に至るまで、観光業界は不況で苦しみ続けてきたので、人の動きの活発化に伴って、ようやく本来の活況を取り戻すことができそうである。

 

 とはいえ、新型コロナウイルスが完全に終息したわけではなく、世界のどこかで新しい変異ウイルスが生じて、日本にもたらされることは必至だ。従って観光業界は5類への移行で浮かれて、コロナ禍以前の「観光の量的拡大」に戻るのではなく、「観光の質的向上」を重視すべきだ。ポストコロナで、観光の質的向上をはかる際の重要な要素は数多くあるが、とくに「健全な生態系」と「生物多様性」が重要だ。

 

 スイスで設立された「世界経済フォーラム(WEF)」は、毎年1月に世界10大リスクを公表している。今年の10大リスクは、次の通り。①気候変動緩和策の失敗②気候変動への適応の失敗③自然災害と極端な異常気象、④生物多様性の喪失や生態系の崩壊⑤大規模な非自発的移住⑥天然資源の危機⑦社会的結束の低下と二極化⑧サイバー犯罪の拡大とサイバーセキュリティの低下⑨地政学的対立⑩大規模な環境破壊の事象――。

 

 WEFは生物多様性の喪失や生態系の崩壊を危惧している。現に地球に生息する800万種以上の動植物のうち、約100万種が絶滅の危機にさらされていて、毎年約4万種が絶滅しているともいわれている。生物多様性とは地球上の数多くの生き物が多様な生態系の中で互いに支え合っていることを意味している。森林伐採や乱開発による生物多様性の喪失と生態系の崩壊は、地球温暖化やパンデミックの発生につながっている。ひいては観光の質的向上を阻害する要因になり得る。

 

 昨年12月にカナダで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議で、生物多様性の回復に向けて30年までに「地球の30%保全」を目指すことが国際目標として採択された。いわば世界全体の3割を自然保全区域にすることを目指すわけだ。生物多様性の恩恵を受けている観光業界は真っ先に「地球の30%保全」に賛同して社会的アピールの促進をはかるべきである。

 

 

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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