2025年11月16日(日) 配信

旅館でもフロント横に設置された自動チェックイン機を見かけることが多くなりました。人手不足への対応という面ではやむを得ませんが、利用者の感じ方はさまざまです。なかには「機械の方が便利」という声もある一方で、「不甲斐ない接客を受けるくらいなら機械の方がましだ」といった残念な意見も聞かれます。こうした機械化が進むなかで、これからの宿泊業はどのように変化していくのでしょうか。
「変なホテル」が話題となったころ、実際に宿泊したことがあります。フロントには上半身のロボットが設置され、入館すると「いらっしゃいませ」と音声が流れました。続いて「チェックインの方は機械でお願いします」と案内され、試しに「近くにおいしいラーメン屋さんはありますか?」と尋ねてみました。
返ってきた答えは再び「いらっしゃいませ。チェックインの方は機械でどうぞ」でした。思わず笑ってしまいました。まだ会話としては成立しませんでしたが、AI技術の進化を思えば、近い将来には期待する受け答えができる日も遠くはないでしょう。やがては入口のカメラで顔認識して過去の宿泊記録から「西川様、お帰りなさい」と迎えてくれるかもしれません。
しかし、機械がいくら進化しても、一日の仕事の疲れを吹き飛ばしてくれる笑顔での迎え入れや、温かく声を掛けるような心のこもった接客は、まだ難しいものです。人の表情や声のトーンから相手の気持ちを察する力、そこに宿る「おもてなしの心」こそが、人にしかできない価値ではないかと考えます。
自動チェックイン機は人に替えて導入するものではなく、人の力を最大化するために活用するべきものと考えます。重要なのは、機械に任せる仕事と人の役割を上手に使い分けることです。機械操作に慣れない方へのサポートや、困っている人への声掛けには人的対応は欠かせません。混雑時の効率化を機械に任せつつ、個々の事情に寄り添う柔軟な対応を人が担うことです。
最近宿泊したホテルでは、チェックインはスタッフが笑顔で対応し、チェックアウトは完全に自動化されていました。しかし、出発時にはドア付近で「いってらっしゃいませ」と見送るスタッフがいて利用者の不満を聞き出す仕組みを持っていました。アンケートなどでは聞き出せない声を、スタッフのあいさつに応えるお客様の表情や雰囲気から察知して、その声を聞き改善点を見つけ出そうとする取り組みには感動すら覚えました。
人と機械が上手に役割分担し、人が入口で期待感を高めて、出口で次へのヒントを見つける在り方に、ひとつの自動チェックイン・アウト機の生かし方ではないかと感じた体験でした。
コラムニスト紹介
西川丈次氏
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。