宿泊増売の仕組みを、情報交換の方法検討

磯田光治会長
磯田光治会長

 JRグループ協定旅館ホテル連盟(磯田光治会長、2711会員)は6月8日、ホテルメトロポリタン(東京都・池袋)で2012年度通常総会を開き、マルス共同宿泊在庫システムの終了を受け、企画商品として宿泊増売の仕組み作りをJR各社と検討することなどを確認した。

 磯田会長は冒頭のあいさつで「昨年は震災の影響で上期はさびしい結果だったが、九州新幹線効果で九州とくに鹿児島ではかなり良い数字を残している。また、下期は全国的にも震災前とまではいかないがかなり近いところまで戻してきて、会員としてはとても喜ばしい状況」と語った。

 今年度は、12月末でマルス共同宿泊在庫システムが終了することを受け、企画商品として宿泊の増売をしてもらえるような仕組み作りの検討にJR各社と尽力していく。

 JRグループ総合Webタリフシステムで使用している基本ソフト「WindowsXP」のメンテナンスサービスが2014年に終了するため、「Windows7」の導入を目指しシステムの改修を行う。また、昨年度に経費削減のため機関紙「JR旅連ニュース」を廃止し、「会員向けWebサイト」の活用に切り替えたが、Webサイトの活用がうまく機能していないため、会員間の情報交換ツールの有効な方法を検討していく。

 今年度デスティネーションキャンペーン(DC)は4月1日―6月30日に岩手県、7月1日―9月30日に北海道、10月1日―12月31日に鳥取県・島根県、1月1日―3月23日に京都市で開催。JR各社と連携を深め、DCを基軸に鉄道と宿の一体的なPRを展開し、宿泊券の拡販を目指す。

 なお、自己都合による退任にともなう役員選任で、磯の宿石花海(静岡県・稲取温泉)の定居康夫代表が新しく監事に就任した。

日本の農村の原風景、砺波平野の「散居村(さんきょそん)」

郷愁を感じる散居村の風景
郷愁を感じる散居村の風景

 富山県の砺波市は6月3、4日の2日間、メディア招聘事業を実施した。3年後の2015年春に北陸新幹線の開業を控え、首都圏からの誘客拡大に向け、通年型の観光地を目指している。砺波市といえば、「チューリップのまち」として知名度が高いが、屋敷林に囲まれた家々が点在する「散居村」(さんきょそん)の景色は、日本の農村の原風景。庄川峡湖上遊覧クルーズなどと組み合わせた観光がゆったりのんびりとでき、お薦めだ。

【増田 剛】

代表的なアズマダチの入道家
代表的なアズマダチの入道家

<散居村>

 富山県の西部に位置する砺波平野は、庄川と小矢部川がつくった約220平方㌔の広さを持つ扇状型の平野。そこに、屋敷林に囲まれた約1万戸の農家が点在して散居村(散村)の景観をつくっている。

 それぞれの農家が、自分の家のまわりの農地を耕作して稲作を行ってきた歴史があり、その家々の大きな特徴は、家のまわりに杉や欅、竹などの屋敷林をめぐらせてきたことだ。

 屋敷林は冬の冷たい季節風や吹雪、春先の強い南風から家を守ってきた。また、杉の落ち葉や枝木などは、日々の炊事や風呂炊きの燃料として大切に利用されてきたという。

庄川峡遊覧船からの眺め
庄川峡遊覧船からの眺め

 散居村の農家の人々は、家の周りで米や野菜を育て、日常生活に必要な資材を屋敷林から調達する「自給自足」に近い生活を行ってきた文化の面影を今も濃く残している。

 散居村の農家の広い屋敷の母屋は、季節風の強い西南側とは反対の東を向いて建てられており、「アズマダチ」と呼ばれている。なかでも入道家はその代表的な存在。家の間取りは、広間を中心として、座敷・茶の間・寝室・台所などを配置した広間型。座敷には大きな仏壇が置かれ、その規模が家の格式を表していた。冠婚葬祭や仏事などが行われるときには、座敷と広間の戸を外して多くの人が集まれるようにした。アズマダチが生まれたのは、金沢の武家住宅への憧れもあったという。

 標高約430メートルの散居村展望台や展望広場からは、四季それぞれに美しい景色を見せる散居村を一望することができる。また、となみ散居村ミュージアムでは、「アズマダチ」を復元した伝統館、情報館、交流館、民具館などがあり、貴重な資料もそろい歴史を学ぶことができる。   

<庄川峡遊覧クルーズ>

小ぶりな鮎を囲炉裏で炭焼き
小ぶりな鮎を囲炉裏で炭焼き

 庄川の小牧ダム周辺の船着場から、上流の大牧温泉まで、遊覧船が運航されている。大牧温泉は船でしか行けない秘境の温泉宿として知られる。片道大人1400円、子供700円。小牧ダムを中心とする庄川峡は、県定公園にも指定されており、春には桜、夏には新緑、秋には紅葉、冬には絶景の雪景色を楽しめる。25分間の短時間遊覧コース(大人1千円、子供500円)も設定している。

 近くの庄川郷温泉には、赤茶色の「炭酸鉄泉」と、白濁色の「炭酸水素鉛泉」の2種類の個性的な濁り湯がある「鳥越の宿 三楽園」などで、静かにのんびりゆったりとくつろぎたい。

 また、庄川の名物は小ぶりの鮎だ。庄川沿いの川金庭園内にある超人気店の「いろり茶屋 鮎の庄」で食べられる。

 問い合わせ=電話:0120(01)0257。

1年中チューリップと出会える四季彩館
1年中チューリップと出会える
四季彩館

<砺波のチューリップ>

 砺波市といえば、チューリップが有名。毎年ゴールデンウイーク時期に「となみチューリップフェア」を開催し、61回目の今年も期間中約30万人が訪れる一大イベントに成長した。チューリップ四季彩館は、15度前後に温度調整され、いつ訪れてもチューリップに出会える世界唯一の場所。

 問い合わせ=電話:0763(33)7716。

 

新会長に菊間氏(ワールド航空サービス社長)、“旅行会社の存在意義を”

JATAの新執行部。(左から)田川副会長、菊間新会長、吉川副会長
JATAの新執行部。
(左から)田川副会長、菊間新会長、吉川副会長

 日本旅行業協会(JATA、金井耿会長、1127会員)は6月14日、東京都千代田区の経団連会館で2012年度通常総会を開き、任期満了にともなう役員改選で、ワールド航空サービス社長の菊間潤吾氏を会長に選任した。菊間新会長は就任のあいさつで「消費者やサプライヤーから旅行会社離れの声も聞こえてくるが、今こそ旅行会社の存在意義の確立が必要だ」と意気込みを語った。副会長にはJTB社長の田川博己氏(新任)と近畿日本ツーリスト社長の吉川勝久氏が就任した。

 菊間新会長は「業界一筋のプロパーでこの業界を愛し、健全な発展を願う者として、この大役を引き受けるかとても悩んだ」と本音を吐露。一方、「引き受けるからには覚悟を決め、業界のために尽力したい。JATAの弱点も今後の課題も充分承知しているつもりだ。無我夢中で精神誠意努めていく」と会長としての意気込みを語った。

 また、4年間会長を務めた金井会長は「最近、好調な動きもあるが、本質的に我われが直面している厳しい状況や問題はまったく変わっていないと考えている。新しい体制で一丸となって厳しい課題を克服し、本当の意味でのリーディング産業になることを願っている」と述べた。

 今年度の事業は従来の基本方針のもと、新たな旅行需要創出やビジネス環境の変化への対応などの重点課題に取り組んでいく。国内旅行推進については、宿泊旅行拡大に向けたムーブメントづくりや、震災復興への継続的な取り組みとして住宅エコポイントなどをあげる。また、法制関係業務は、標準旅行業約款の改正実現への働きかけに力を入れていく。

宿泊販売3500億円目指す、JTB旅ホ連 理事・監事数を削減

福田朋英会長
福田朋英会長

 JTB協定旅館ホテル連盟(福田朋英会長、4093会員)は6月6日、ホテルイースト21東京(江東区東陽)で2012年度通常総会を開き、規約・規定の改定で理事・監事の人数を減らし、常務理事を廃止することなどを決めた。12年度の宿泊販売は3500億円を目指す。

 今年度は「活発な支部活動、元気な地域づくり」をテーマに掲げ、(1)宿泊増売(2)人財育成(3)組織の安定・強化に尽力する。福田会長は「予約の早期化と、地域の魅力づくり、新たなライフスタイルの提案の3方針へ取り組み、宿泊販売目標3500億円へ向け、JTBとともに歩んでいく」と力を込めた。

 11年度の宿泊販売実績は、前年度比1・7%減の3206億円と4年連続目標未達に終わった。旅ホ連名誉会長のJTB田川博己社長は「4―6月累計で前年度比16%のマイナスと第1四半期の落ち込みが非常に大きく、7月以降7カ月連続で前年度実績を上回るも、挽回できなかった。4年連続で目標未達となったのは大変残念」と話した。

JTBの田川博己社長
JTBの田川博己社長

 今年度の目標は同9・0%増の3500億円。14年度の4千億円を目指し、尽力する。また、中期課題検討推進プロジェクトの報告により、規約・規定の改定が議題に上がり、連盟の理事を92人以内から71人以内に、監事を3人から2人に、理事のうち35人を選考していた常務理事を廃止することが決まった。

 田川社長は先日発表したジェットスターを利用した初となるLCC商品の造成について触れ「航空運賃が安くなる分、地域でお金を使ってほしい。地域経済の活性化、地域とともに発展する会社を目指す」と力を込めた。

 そのほか役員改選では、髙橋広行副会長がJTB西日本社長への就任にともない連盟副会長を退任。新たに、JTBグループ本社執行役員で旅行事業本部長の大谷恭久氏が連盟副会長に就任した。

 来年の総会は6月5日に京王プラザホテル(東京都新宿区)で開かれる。

定款変更を承認、法人移行まで役員再選

大畑貴彦会長
大畑貴彦会長

 日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA、大畑貴彦会長、140会員)は6月6日、東京都内で2012年度通常総会を開いた。昨年度、一般社団法人への移行を決定し、今回はそれにともなう定款変更を承認した。役員改選では来年4月に予定する一般社団移行までの役員として、例外的に大畑会長をはじめとする前理事を全員再選した。

 大畑会長は国内での高速ツアーバス事故に触れ、「車両点検の徹底は我われツアーオペレーターの最重要事項だ」と強調。「過密旅程や無理な日程の実行は、ドライバーに無理をさせ、結果としてお客様の安全や健康を揺るがすことになる。無理な日程をそのまま受け入れるのではなく、現地をよく知るプロの立場で、ツアー企画段階でアドバイスし、安全で健全な旅程の実行を徹底していくことが我われの役割だ。改めて安全対策の徹底をお願いする」と呼び掛けた。

 昨年度は一昨年に実施した「OTOA会員の実情に関する調査」をもとに、インバウンドに関する勉強会を初めて開催。現定款では海外事業に限定しているが、今回承認した法人移行後の定款では国内の垣根を払拭し、訪日事業への取り組みが可能な体制を整えていく。具体的な取り組みは、新法人移行後に進める予定だが、今年度も勉強会を開き、会員からの声が多い「インバウンド保険の開発」に対する要望や現状をより把握したうえで、OTOAサービス保険参画損保会社に検討を依頼するとした。

 このほか、中小企業庁から提案を受けて進めている「下請法ガイドライン」策定に向けた取り組みは、関係各所の理解を得られず、進展は見られないが、今年度も継続して働きかけていく。また、都市別安全情報の充実では、更新対象の90都市と前年度未更新の25都市の調査を行うことを確認した。

全旅連全国大会 岡山で開く、860人が集結、次回は山梨へ

岡山の地で90回目を迎えた全旅連全国大会
岡山の地で90回目を迎えた全旅連全国大会

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(佐藤信幸会長、1万6093会員)は6月14日、岡山県岡山市のおかやまコンベンションセンターで第90回全旅連全国大会を開き、約860人が一堂に集結した。大会テーマは「海に山にあっ晴れおかやまへ」。

厚生労働大臣賞の咲花温泉旅館協同組合
厚生労働大臣賞の
咲花温泉旅館協同組合

 佐藤会長は「昨年の東日本大震災によって被災者の受入れや風評被害、東京電力管内の値上げなど危急存亡の危機の対応に終始した1年だった。原発事故、放射能汚染など未曽有の事態に対し、全旅連として何ができるのかを考え、まず取り組んだのが被災者の受入れで、皆さんのご協力に感謝したい。また、義援金も旅館3団体計で約4550万円の支援があり、速やかに被災県にお届けした」と語った。さらに、「固定資産税の評価見直しが決まったが、15年度からどのように見直されるか今年度の実態調査を踏まえ来年度検討される。見直し方によって減額に大きな違いが出てくるので、全旅連として一生懸命対応していきたい。また、消費税の増税が国会で議論されているが、現状の総額表示では我われ中小企業は増税分を料金に含めなければならない。外税表示を求めていくので協力をお願いしたい」と強調した。

全旅連会長賞の上山市観光物産協会
全旅連会長賞の
上山市観光物産協会

 第15回「人に優しい地域の宿づくり賞」では、厚生労働大臣賞に咲花温泉旅館協同組合(新潟県)の「水害からの復興『咲花温泉かわまちづくり』―咲花きなせ包み河床―」が受賞。全旅連会長賞には上山市観光物産協会(山形県)の「かみのやま温泉クアオルト・EVエコタウンプロジェクト事業」が受賞した。

 次期開催地は山梨県に決まった。

 当日は協賛業者展示会や岡山県物産コーナー、岡山後楽園へのエクスカーションも行われた。

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佐藤信幸会長
佐藤信幸会長

 全国大会の前日には、倉敷市の鷲羽ハイランドホテルで2012年度通常総会が開かれた。今年度は地熱発電検討委員会を設置し、勉強会を開くことで情報収集や啓蒙活動にも取り組む。温泉保護の立場と、「補助金が付くため過疎化対策に有効」などという多様な立場もあり、委員会での意見交換が必要になる。

 また、全国旅館会館建て替えについては、専門家による調査によって税務問題は解決したことを報告。今後は単独の建て替えか、耐震工事かの選択肢に絞られた。

 
 
 

豪華寝台列車「ななつ星」、博多駅から九州巡る

「ななつ星」外観(イメージ)
「ななつ星」外観(イメージ)

≪来年10月、運行開始、国内、アジアの富裕層狙う≫

 JR九州は5月28日、九州の観光地を豪華寝台列車で巡るクルーズトレイン「ななつ星in九州」を、来年の10月から運行すると発表した。博多駅を起点に由布院、宮崎、霧島、鹿児島、阿蘇を周遊する3泊4日と、長崎、阿蘇・由布院を巡る1泊2日の2コースを設定。1人当たり15万―55万円で、国内やアジアの富裕層の獲得を狙う。

 列車名の由来は九州7つの県と、九州の自然、温泉、食、歴史など7つの観光素材の魅力を表現。列車も7両編成、7人の乗務員などこだわる。

 JR九州の唐池恒二社長は会見で「世界に誇れる新しい鉄道の旅を作り、アジアに架ける橋のような7色の虹にしたい」と抱負を語った。

 列車は「和」のクルーズをコンセプトに、日本の美しさや伝統文化、地域や人との交流、和みの創造を目指す。デザインは、JR九州の数々の列車を手がけた水戸岡鋭治氏が担当する。

1号車のラウンジカー(イメージ)
1号車のラウンジカー(イメージ)

 機関車と客車7両で編成。外観は赤い古代漆色に金色を配して高級感を出す。1号車がバーやピアノなどを配したラウンジカー。2号車がダイニングカー。3―6号車がスイートの客車で、各車両3室で構成。7号車がデラックススイート2室。全部で14室28人の定員。各室は壁やソファの色も異なり、DXスイートにはホームシアターも設置。床はい草で、素足で寛げるという。

 唐池社長は「今まで日本に無いものへの挑戦。世界一だと思う」と緊張感を表現。水戸岡氏も「旅館やホテルを走らせる感覚。心豊かなオンリーワンの夢のある車両をつくりたい」と意気込みを語った。

 クルーズは週1回ずつ運行。基本は車中泊だが、霧島では高級旅館で1泊する。阿蘇から由布院など一部コースでは豪華バスで結ぶ。1人料金は3泊4日コースが38万―55万円。1泊2日は15万―22万円。アジア、国内それぞれ5割の利用客を見込み、90%の乗車率を目指す。

女子大生がガイド、谷中を「まち歩きツアー」

分かりやすいガイドを展開
分かりやすいガイドを展開

 実地研修やインターンシップなど、実践教育に力を入れている跡見学園女子大学マネジメント学部は6月5日に、芝原脩次教授と篠原靖准教授ゼミの3、4年生が、下町の谷中地区を舞台に「女子大生おすすめのまち中歩きコース」を案内する新型都市観光プログラムによる地域活性化戦略ツアーを実施した。同事業は東京商工会議所、JTBとタッグを組んだ初めての産学連携事業。JTBの旅行商品として販売し、学生たちはボランティアとしてではなく、ツアー参加者に対し、料金の対価としてプロ並みのガイドサービス提供を目指す。

【伊集院 悟】

散策中も受信機でガイド
散策中も受信機でガイド

 今回のツアーは、東京商工会議所が主催しているまち中散策による東京の観光振興・地域活性化を目的とした都市型観光プログラム「TOKYO DISCOVERY」の一環として実施された。同プログラムは企画・実施をJTBが担い、これまで観光として注目されなかった商店街や町工場、都市のインフラなど地域の宝を新しい観点から掘り下げ、その土地で暮らす人々の日常にスポットを当てる新しい旅のスタイルを提案。今回のツアーでは産学連携を目指し、実践教育に力を入れる跡見学園女子大学マネジメント学部に話を持ちかけた。

 学生たちは4月から準備を開始し、現地の谷中へは5、6度入り、フィールドワークを実施。地域の人と触れ合い、歴史や文化、人物、伝統、食、しきたりなど街の魅力を調査・研究し、「女子大生おすすめのまち中歩きコース」を選定した。

 篠原准教授は、ボランティアではないことを強調。「旅行商品として売り出し、お客様はお金を出して参加される。その対価としてガイドを行うので、はずかしくないサービス、プロとしてのクオリティが当然求められる」と語り、学生には「有料」であることの意味を強く意識させたという。

手紙には集合写真も
手紙には集合写真も

 当日は、参加者20人がA、B2班に分かれ、学生たちはリレー方式でツアーをガイドした。谷中の場所柄、狭い路地や商店街、住宅街を散策するので、ツアー隊が縦長になり距離が離れてもガイドの声がしっかりと届くようにと、参加者全員にイヤホン付きの受信機を用意。また、フィールドワークをもとに、絵や写真などを多用した分かりやすい手作りガイドブックを参加者へ配った。

 全生庵、大圓寺からスタートし、蛍坂、観音寺の築地塀、蒲生家、七面坂、宗林寺、岡倉天心記念公園、旭プロセス製版などを通り、谷中ぎんざ商店街での自由時間をはさみ、富士見坂を抜けて諏方神社でゴールする約3時間のコース。学生たちは、ガイド役、旗を持っての先導役、安全を確保する交通整理役などに分かれ、訓練の成果を発揮した。

 ガイド内容は、初めにプロのガイドの手本を見て学び、そこに自分たちで肉付けする形で、オリジナルなガイドを作り上げた。当日は、お客一人ひとりに語り掛けるようなガイドを展開し、蛍坂では「転ぶと3年のうちに死ぬ」と言い伝わる「三年坂」の異名を、笑いを交え披露。観音寺の築地塀では、時代劇の忍者が塀を飛び越えるシーンの撮影などで使われていたエピソードなどを紹介した。

手づくりのガイドブック
手づくりのガイドブック

 女子学生の独自の視点として光るのは、女優の蒼井優さんが雑誌で紹介したかわいいかき氷店「ひみつ堂」や、手作りパイのお店「マミーズ」、昔なつかしい昭和レトロにタイムスリップしたかのような駄菓子屋「木村屋」など「食」にスポットを当て、小さいけれどかわいく、おいしい、味のあるお店を数多く紹介していた点だ。諏方神社では神社の歴史を紙芝居を使って紹介。お参り方法などを案内し、ツアーを終了した。

 ツアー終了後にはサプライズで、学生から参加者へお礼の手紙が読まれ、参加者一人ひとりに学生たちから手紙が手渡された。手紙にはスタート時に記念撮影し、ツアー最中に手の空いた者が現像、焼き増しをした写真も貼られていた。篠原准教授は「今回のツアーは、お客様に『満足』してもらうのではなく、『感動』してもらうのをテーマに掲げ、学生に指導してきた。最後のサプライズは学生たち自らの発案」と喜ぶ。

 参加者の1人は手渡された手紙を前に「学生たちの真剣な取り組みがとてもフレッシュで、参加して本当によかった」と目を潤ませた。別の参加者からは「学生らしさも良かったけど、プロのガイドにも劣らない知識豊富なしっかりしたガイドだったと思う。相当、準備を重ねて練習してきたのではないかな」という声も聞かれた。また、安全を徹底した交通誘導や、参加者に配慮した受信機での案内なども評価が高かった。

 学生たちにガイド指導を行った仁戸部勇氏は「今日のガイドは、初めの研修時とは比較にならないほどしっかりしていて滑らかだった。私の模範ガイドにさらに自分たちで肉付けして、歌を歌ったり、笑わせるネタを追加したり、お客に語りかけるガイドなど、自分たちで試行錯誤しながらも進化させていたのにびっくりした」と教え子の成長に喜んだ。

 学生の1人は「緊張したけれど、練習の成果は100%出しきれた。あとはきちんとお客様に届いていれば」と満足気。別の学生は「何度も練習を重ねたけれど、実際にお客様を前にすると、お客様の反応によってマニュアル通りにはいかないということが改めて分かった」と反省点を口にし、別の学生は「フィールドワークの重要性を改めて実感した」と話す。

 跡見学園女子大学では、今後もフィールドワークなど学生の実務教育に力を入れて取り組んでいくという。

観光地にベンチを ― 「消費」する空間づくり(6/21付)

 西洋の都市や観光地と比べると、日本には広場が少ない。街道沿いの宿場町の名残もあってか、道の両側に宿が軒を連ねている町並みが多いのが特徴だ。

 このため、滞在する宿泊客たちは、宿に到着し荷物を置いたあと外に出ても、観光地を一直線に貫く道路の端から端を歩き、目ぼしい土産屋で一つ、二つおみやげを買って、そして宿の中に吸い込まれるように帰っていくしかない。美味しそうな焼き鳥などを売っていても、食べるところもなく通り過ぎる。

 古くからの湯治場などには、共同浴場や外湯などの周りにわずかな空間があり、多少なりとも滞在客を意識した造りとなっている。しかし、そぞろ歩きをするにも、そう間が持たない。

 その最大の原因は、観光地や温泉地にベンチが少ないことだ。たとえば、城崎温泉や下呂温泉などは、適度に足を休めて温泉情緒を楽しめる場所が用意されている。このため、土産物屋で買ったお団子やソフトクリームなどを食べたり、デジカメで撮った写真をベンチに座って確認し合ったり、観光地マップを広げることだってできる。

 どこかの商店街が、シャッターが閉まったままの空き店舗を買い物客が自由に使える空間にしたところ、そこで買ったものを食べるようになり、商店街が活性化した例をテレビが紹介していた。つまり、一方的に「売る」だけでは売れないものだ。そこで「消費」する空間を作ってあげることが大切である。

 最近は減ったが、街の煙草屋さんの前には、灰皿とちょっとしたベンチがあったものだ。酒屋さんもビール箱をイス代わりにして、酒屋のつまみで飲む、北九州風にいえば「角打ち」があり、憩いの場になっている。観光地には空き店舗が多い。そこを開放して洒落たベンチを置き、大きな観光案内図を掲出していれば、くつろぎの空間に早変わりだ。「あそこに座って食べよう」と、その土地の名産物や珍味、B級グルメなどとともに、地ビールや地酒、ご当地ジュースなども売れるだろう。

 東京もベンチが少ない。都会のオアシスである公園にも意外にベンチが少ない。ニューヨークなどはそこかしこにベンチがあり、老人が眼を細めて摩天楼を眺めている。ゆっくりとベンチにくつろげる街こそ、文化の成熟を感じる。「ビジネス街に、観光地に、温泉地にベンチを!」

(編集長・増田 剛) 

子ども旅行専門の「引率舎」

引率舎社長 岸 幸成氏
引率舎社長 岸 幸成氏

 「子ども専門旅行会社」「子ども旅行制作会社」を謳う「引率舎」(岸幸成社長、東京都葛飾区)は2010年4月に設立された旅行会社。行政機関や学校機関、民間企業、NPO法人などが主催する小・中学生の子供に特化した旅行の企画や制作、運営、引率、観光施設・宿泊施設・観光バスの手配などを行っている。エリアは国内で、得意とするのは体験活動がメインの教育旅行だ。代表の岸幸成氏に事業内容を聞いた。

【飯塚 小牧】

≪“運営力”で大手と勝負、安全第一で価格競争せず≫

 会社の設立から日は浅いが、岸氏の子供旅行の引率経験は15年を超える。中学時代に区主催のリーダー講習会を受講し、高校生で行政主催のキャンプの引率を開始。これらの活動から高校時代には、年に1人しか選ばれないという東京都の「模範青少年」の表彰を受けた経歴も持つ。

 卒業後はフリーのディレクターとして、大手企業、スポーツクラブ主催のキャンプやスキー教室などに携わり、旅行会社勤務の経験も経て、会社を立ち上げた。昨年の実績は、スポーツチームの夏合宿手配が50チームと地区の子供会が20件、スポーツクラブなどが主催する教育旅行の運営委託が7件など。

 岸氏は、現在の教育旅行が抱える問題点として旅行会社間の価格競争をあげる。「安全と価格の両面は追えない。価格競争は高速ツアーバスの事故のような惨劇を招く恐れがある」と危機感を示す。

 また、教職員が実務のほかに、教育旅行に関する業務をこなす点も、実施面で問題がないとはいえない。

 「引率人数について各教育委員会の定めはあるが、充分ではない。我われが運営すれば、そういう部分も解消される。さらに、旅行先で先生たちが夜、飲酒する行為も問題がある。24時間体制でサポートするため、当社はツアー中の飲酒を禁止している」と語る。

 こういった問題点に対し、同社がアプローチするのが、運営委託事業だ。強みは大手旅行会社には真似できない「運営力」。「安全を第一に考え、価格競争ではなく運営力で付加価値を付けて大手と勝負する」と強調する。また、手配などは取引のある旅行会社に依頼し、運営面のみ同社に委託することも可能だ。

 同社のいう「運営力」は、詳細なプログラムなどに現れる。数時間で何項目にも及ぶ緻密な行程表は同社ならではのもので、それは2回の視察やスタッフとの打ち合わせのなかで何度も見直される。「第1回目の視察前に、これまでの経験からイメージトレーニングで叩き台のプログラムを作成する。イメージというのは、例えば家を建てるのと同じで、玄関をどうするか、リビングは……と想像を膨らませて作っていく。そして現地へ行って、それが可能かどうかを確認し、女性スタッフの同行のもと、隅々まで下見する。現地で関わる人にも会って話を聞くことで、細かい時間の調整ができる」と語る。その緻密さは事前資料や保護者への事前説明会にも反映される。「場面ごとに必要な衣類や、脱いだ衣類をどうするかも考える」というように、事前資料には荷物用のシールを添付して細かく分ける指示をだすなど、忘れ物の防止や現地で子供たちが分かりやすいような工夫を施す。

 これらのことから、昨年実施された行政主催のスキー教室の運営は、参加した子供の88%、保護者の97%が実施後のアンケートで「満足」と回答。とくに、保護者からは「学校でも採用してほしい」「よく考えられた指導で感銘を受けた」など高評価を博した。「運営委託は安全性が高まり、先生の負担は軽減するメリットがある。一方、デメリットは費用が上がってしまうことだが、保護者アンケートから、いいものにはお金を出してくれることが分かった」と自信を見せる。

 今後の課題は、認知度を上げていくことだ。「運営を委託できるということ自体、知らない学校が多い。私や会社の名前は二の次で、“外注できる”という事実を発信したい」と意気込む。認知度向上をはかるため、同社は9月30日まで「詳細プログラムの無料制作」(http://itaku.insotsu.com/ima-una/cp.pdf )を実施中だ。前年度の実績資料などを用意すれば、同社が詳細なプログラムを作成する。制作数は20事業。

 将来的には人材の確保も必要になる。「現在、主業務は1人で行っているので、運営委託は年間24本に限定している。1本3カ月ほど時間がかかるので、質を重視するとこれが限界だ」。しかし、当面は事業拡大よりも「一歩一歩着実に、受託した事業の満足度を上げることが目標」と堅実に語る。

 「なぜ子供に特化するのか聞かれることもある。子供を相手にする方が手間はかかるが、利益が同じならやりがいのある方を選びたい。自分が生き生きとしていなければ、お客様も楽しくないと思う。ただ、1人ではできない。支えてくれるスタッフが多いからできること」と笑顔を見せた。