ANA、新型コロナワクチンの国際輸送に協力 アストラゼネカ社製を東南アジアへ 

2021年8月24日(火) 配信

アストラゼネカ社製ワクチンを海外へ輸送

 全日本空輸(ANA、平子裕志社長)は8月23日(月)、アストラゼネカ社製の新型コロナウイルスワクチンについて、日本からベトナム、フィリピン、タイへの国際輸送に協力したと発表した。今後も新型コロナワクチンの輸送・供給に協力することで、人々が安心して生活できる社会の実現を目指す。

 今回の輸送は、郵船ロジスティクス(神山亨社長)が日本政府を通じて実施し、ANAが協力した。

 同社は、国際航空運送協会(IATA)が策定した医薬品における国際品質認証「CEIVファーマ認証」を、2017年に日本の航空会社で初めて取得。厳密な温度管理や安全な輸送おけるオペレーション体制を世界的な規模で構築している。

「観光人文学への遡航(14)」 利己愛にならないための憐れみの情

2021年8月24日(火) 配信


 ルソーは、「エミール」において、自己愛と利己愛を明確に区別した。自己愛とは自分が生存していくための本源的な欲求であり、自己愛を求めるときは他人の存在を想定しない。一方、利己愛とは、自分が他者と比較してより優れた存在、恵まれた存在でありたいと願う欲望をいう。

 
 ルソーは、和やかな愛情に満ちた情念は自己愛から生まれ、憎しみに満ちた苛立ちやすい情念は利己愛から生まれると述べている。そして、その自己愛こそが他者への愛につながっていくと言う。

 
 ただ、利己愛も悪いことばかりを引き起こすわけではない。まさに人文学が起こった西洋ルネサンスの勃興は、芸術家たちの利己愛から生まれたと言っても過言ではないだろう。人類の発展、進歩、技芸の発達のモチベーションは往々にして利己愛に基づく。資本主義もまさに利己愛をエンジンに加速していった。

 
 ルネサンス以降、西欧の人々は、個々人が自分の能力を磨き上げ、それぞれの幸福を追求していくことこそが、社会全体の繁栄と幸福につながると信じ、その考え方を世界中に広げていった。

 
 ただ、その只中から、ルソーは「エミール」を通して、人類の発展、進歩、技芸の発達に伴う危険性を指摘していたのである。ルソーは、その人類の発展において、強者によって弱者が餌食になっていってしまうことに対して強烈に批判した。人類の発展の先には、強者と弱者の格差が拡大する世の中が待っているのだ。

 
 そのような世の中でなんとか生き抜くために、たとえ家庭が貧乏でも、受験勉強を頑張れば、その立場の固定化を乗り越えることができると信じて、親は子に教育を受けさせ、子は勉強に励む。しかし、今、その教育こそが格差を再生産する最大の要因となってしまっている。

 
 世の中の人々に、他人を出し抜こうという気持ちがある限り、教育は出自の格差を縮めるどころか、広げていくことになる。

 
 ルソーは、理性の支柱として、憐れみの情を持ち合わせていない人間を「怪物」と呼んでいる。怪物は憐れみの情を持たないだけでなく、他人をも陥れる。それはすべて相手に対する自分の優越を認めさせたいとの欲求に起因する。今はやりの言葉で言うと、マウンティングである。

 
 子供のときにピュアな自己愛を育み、それが青年期となったときに利己愛にならないようにするために、憐れみの情が必要となってくる。憐れみがあれば、自己愛が利己愛につながらず、隣人愛、同胞愛、人類愛へと昇華していくのである。青年期の教育は、他人との比較において優越感を得るための競争心に火をつけることよりも、憐れみの情を持つことの大切さを教えていく必要がある。そこに、観光・ホスピタリティ教育の存在意義がある。

 

コラムニスト紹介 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。日本国際観光学会会長。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

萩姫の湯栄楽館 居心地のよさを追求 和モダン客室オープン

2021年8月24日(火) 配信

窓側にごろねソファを配したツインルーム

 福島県・磐梯熱海温泉の「萩姫の湯栄楽館」は8月6日、全54室ある客室のうち18室を、心地よい滞在をかなえる和モダン客室へとリニューアルした。

 新しい客室は、38・7平方㍍のツインルームが2タイプ16室、23・5平方㍍のシングルルーム2室の計3タイプ。総投資額は約1億5千万円。1泊2食付きの平均宿泊単価は2万円前後を見込む。

 ツイン客室は畳敷きの空間に、「ごろねソファ」やシモンズ社製セミダブルベッドを配するなど、「巣ごもり需要に応えるべく、居心地の良さや眠りを追求した」(菅野豊晴取締役本部長)。滞在利用を見込むなか、ワークデスクやウォークインクローゼットなども備えている。一方、シングル客室は駅前旅館という地の利を生かし、1人旅やビジネス客を意識した造り。窓側全面にワークデスクとワークチェアを配し、ワーケーション利用を前面に打ち出した。

菅野豊晴取締役本部長

 菅野取締役本部長は「14年前に新装した部屋食専用客室への評価が高まったことが、リニューアルの礎になった」と明かすとともに、「来やすさ、楽しさ、親しみやすさという特徴に、居心地の良さが加わった」と、リニューアル後の栄楽館の魅力を紹介した。

 同日、開いたオープニングセレモニーであいさつした菅野豊社長は、「コロナ禍をどう脱却するか、その答えが今回の客室改装」と力を込めた。今般のリニューアルで栄楽館の客室は、露天風呂付客室や部屋食を楽しめるダイニング広縁付客室、洋室など、全10タイプとなった。「旅の自由が深化する温泉旅館を目指す」(同館)という。

松山市が企業に感謝状 ポニーキャニオンらが「火の鳥」の工事膜を再生し小学校へ寄贈

2021年8月23日(月) 配信

 

道後温泉本館ラッピングアート©TEZUKA PRODUCTIONS

 愛媛県松山市(野志克仁市長)はこのほど、ポニーキャニオンや手塚プロダクションらに感謝状を贈呈した。事業者らが、道後温泉本館の保存修理工事中に建物を覆っていた、漫画家・故手塚治虫氏の代表作「火の鳥」をデザインした素屋根テント膜「道後温泉本館ラッピングアート」を学校用テント膜30張りに再生し、地元小学校へ寄付したことに謝意を示した。

 道後温泉本館は2019年から2024年末の完了を目指し、重要文化財の公衆浴場としては全国で初めて、営業を続けながら保存修理工事を行っている。この前期工事中のシンボルとして親しまれた、手塚氏の代表作「火の鳥」をデザインした巨⼤な「道後温泉本館ラッピングアート」(素屋根テント膜)は本来、廃棄されるものだが、今回は学校用のテント膜として再生加工を行った。

 松山市のSDGsの取り組みや、教育活動の推進に大きく貢献したことから、「火の鳥」デザインの版権を管理する手塚プロダクションや施工業者、ポニーキャニオンらの企業へ感謝状を贈った。

松山市東京事務所・渡部広明所長(左)、 ポニーキャニオン・吉村社長(右)

 このなかで、ポニーキャニオンは「道後REBORNプロジェクト」と題して、手塚氏がライフワークとして執筆した「火の鳥」とコラボレーションを行い、保存修理工事中ならではの取り組みとして、日本文化の「再生」をテーマに道後温泉の魅力を国内外に発信。2020年には、観光庁とスポーツ庁、文化庁が展開する「スポーツ文化ツーリズムアワード2020」の文化ツーリズム賞を受賞した。

 テント膜の寄贈にあたり、ポニーキャニオンの吉村隆社長は「本館工事の間に重要な役目を担ったラッピングアートが役目を終え、この後は小学校に寄付され、本館の次は児童たち、子供たちの日除け、風よけとして用いられると伺って、再び胸が熱くなった。あの鮮やかな「火の鳥」の翼が、道後の子供たちを引き続き、力強く見守ってくれることに感動した。記憶と記録に残る大きなプロジェクトが、子供たちの記憶に残るものとして未来に引き継がれることを嬉しく思っている。この後、後期工事は残り3年だが、早々にコロナも落ち着き、日本中、世界中から観光客が訪れ、松山・道後温泉がさらに発展されることを心から願っている」とコメントした。

「上質な宿泊施設の開発促進事業」 自治体とデベロッパーをマッチング(観光庁)

2021年8月23日(月) 配信

観光庁は8月20日から、「上質な宿泊施設の開発促進事業」に係る自治体を募集している

 観光庁は8月20日(金)から、「上質な宿泊施設の開発促進事業」に係る自治体を募集している。観光庁が目指す2030年訪日外国人旅行者数6000万人のため、訪日促進に向けた取り組みの一環。

 上質な宿泊施設の誘致に意欲的な自治体などの公募と、宿泊施設運営会社やデベロッパーなどを引き合わせる場を提供するマッチングをモデル事業として実施する。このモデル事業をもとに、以降の普及と展開につなげていきたい考え。

 要件は、①具体的な開発候補地を所有している、または所有者と調整済み②開発事業者に対する支援制度を有している、または制度導入に向け検討中──など。

 採択基準として、「上質な宿泊施設に適した候補地であるか」や、「候補地周辺に、上質な観光サービスを求める旅行者にとって魅力的な観光資源があるか」などを審査する。

 1次締切は9月16日(木)、2次締切は10月29日(金)。

「トラベルスクエア」瓜田に履を納れず李下に冠を正さず

2021年8月23日(月) 配信

 「面倒くさい話、蒸し返すなよ」とか「余計なお世話、もういいよ」と顰蹙を買いそうだし、話題の注目度も下がっているとは思うのだが、やはり一言残しておきたい。

 例の文春砲に迫撃された外食企業トップ5人(うち1人は加工食品メーカー)の掟破りの会食事件である。

 7月8日、菅首相は4度目になる緊急事態宣言を発出。とくに、飲食店にまつわる規制が強化され、会食は同一グループ2名以内、滞在時間が90分と厳しい内容だった。それが午後7時のこと。

 それから2時間後の9時前後に品川のある料亭で、外食産業トップのミーティングが始められた。終わったのが3時間以上たったあと。会食人数も時間も政府の要請を破っている。この5人の中に現職の衆議院議員もいたというのだから、マスコミが一斉に喰らい付くのは無理もない。

 各トップが自らを減給処分にしたり、公式のお詫びを示すなどの後始末を行ったが、この5社のみならず、業界全体が「安いイメージ」と捉えられてしまう危険性もあった。ということで、「人の振り見て我が振り直せ」で、我らが宿泊業界の皆さんにも、改めて注意を促したい。

 コロナ対策、業界への助成問題、Go Toの行方、討議すべき事柄は山のようにあるから、業界横断的な会議はどうしても必要だし、不要不急と僕は微塵も思っていない。かなりの数の会議や打ち合わせがリモートになってはいると思うが、やはり会って話す方が早い案件も多いだろう。

 だからこそ、そういう集まりはぱっと開き、短時間に能率的に終わらせることが必要だろう。

 できるだけ、飲み会を兼ねてというのは避けたいが、どこかで誰かが、脇を甘くして、それがすっぱ抜かれたら、大事になる。いやな提案だが、喉元すぎて熱さ忘れる、「人の噂も七十五日」くらいに油断も起きる。

 大体、休業補償もGoToキャンペーンも財源は税金でしかない。

 今回の五輪騒動で唯一、僕が希望を持てたのは、広告代理店などへの丸投げ体質、手数料などの費目での莫大なお金の還流の仕組みに、国民が怒りを覚えたことだ。

 なんだか、国家的な事業の大半がタックスペイヤーとしての国民のためではなく、タックスイーターとしての中間業者のためだったとなれば、怒るよね。

 タックスの割り前が欲しいということに異議はないが、もらうにはタックスペイヤーたる国民に納得のいくビヘイビア(振る舞い)を期待したい。旅館、観光関連のトップ、幹部の皆さん、ここはひとつ「瓜田に履を納れず李下に冠を正さず」(本当はしていなくても、したように見えてしまうことも慎めなさい、の意)をお願いします。

 

コラムニスト紹介

松阪健氏

 

オフィス アト・ランダム 代表 松坂 健 氏=1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年~19年3月まで跡見学園女子大学教授。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。

 

九州・沖縄の景色とソラシドエアの写真を募集 入賞作品は来年のカレンダーに

2021年8月23日(月) 配信

フォトコンを通して思い出を振り返ろう

 ソラシドエア(髙橋宏輔社長、宮崎県宮崎市)は9月5日(日)まで開催中の「ソラシドエア フォトコンテスト 2021」で、九州・沖縄の景色とソラシドエアの写真を募集している。新型コロナウイルスの影響で旅行や帰省ができないなか、過去に九州・沖縄を旅行した際の思い出や地元の懐かしい風景を、フォトコンテストを通して感じもらいたい考え。

 募集テーマは「ただいま!おかえり!ソラシドエアでつながろう!」。遠出が難しい今、旅先や地元の「ただいま!」「おかえり!」を感じられるような写真を募る。

 各賞はグランプリのほか、今年3月の東京(羽田)―沖縄(那覇)線の新規就航を記念して、沖縄美ら島財団と連携した「東京(羽田)―沖縄(那覇)線新規就航~美ら島コラボ賞~」と、ソラシドエアの整備士やパイロット、CA、地上旅客係員が選考する特別賞を新設した。また、入賞作品計12作品は「2022年 ソラシドエア カレンダー」に採用する。

 応募は、インスタグラムか郵送のどちらかの方法で、「横構図(横長)」の写真を提出する。

 インスタグラムの場合、ソラシドエア公式アカウント(@solaseedair_official)をフォローのうえ、ハッシュタグ「#ソラシドエアフォトコンテスト2021」と撮影場所を記載して投稿する。なお、ストーリーズでの投稿や非公開アカウントからの投稿は選考対象外となる。

 郵送の場合は、ソラシドエアホームページからダウンロードした応募用紙に必要事項を記入し、写真データを保存したCD-R(CD-R以外の媒体やプリント作品の応募は不可)と一緒に下記宛先へ送付する。

送付先: 〒880-0912 宮崎県宮崎市大字赤江 宮崎空港内(宮崎空港ビル2階)
     (株)ソラシドエア 「ソラシドエア フォトコンテスト 2021事務局」 宛

 なお、同社は応募にあたってはホームページの応募要項を確認することを要請している。

〈観光最前線〉身延で思うアニメツーリズム

2021年8月22日(日) 配信

みのぶだんご

 身延山久遠寺。山梨に出掛けることがあれば行きたいと思っていた場所。本堂外陣に描かれている「墨龍」などを見た。堂内では読経するお坊さんとともに仏様にお祈りをしながら、心を静めた。

 頂上では名物の「みのぶだんご」を。渡される際に串を少し切り落とすことで、食べる人の「苦死」を切り、幸運を願ってくれるという、ありがたい一品。

 しかしながら、職業病は抜けないようで。この場所や身延町は漫画「ゆるきゃん△」の舞台になった場所ということもあり、どういった活用をしているのか、真剣に見てしまった。作品にも登場する町内のスーパーでは、同作品の風景を再現するために、実在しない店名が書かれた建物を用意し、ファンを楽しませていた。すごいおもてなしだ。

原作にだけ存在する酒屋

【後藤 文昭】

 

〈旬刊旅行新聞8月11・21日合併号コラム〉男性1人旅の宿――「高級」や「ラグジュアリー」感は不要

2021年8月21日(土) 配信

 「青森から日本海側を静かに南下しながらドライブしたい」と、近年ずっと思っていた。

 
 今夏、高速道路で一気に盛岡まで北上し、久しぶりに東北らしい、信号のない道を楽しんだ。

 
 弘前から鯵ヶ沢までの「青森県道31号弘前鯵ヶ沢線」は素晴らしかった。理想的なドライブ・ツーリングロードだった。適度に曲がりくねった道路の両側には、まだ青い林檎の実が成っており、これが秋になって赤味を帯びてくる風景を想像し、大人気なく興奮してしまった。

 
 鯵ヶ沢から、千畳敷海岸、深浦、能代、男鹿半島の入道崎、秋田、象潟、酒田、あつみ温泉などに立ち寄りながら、新潟市まで右手に日本海を眺めつつ、夏の東北の美しさを堪能した。そして、東北を代表する岩手山、岩木山、鳥海山の雄姿をしっかりと目に刻み込んだ。

 
 秋には、山口県まで日本海側をゆっくりとドライブしたいと考えている。

 

 
 さて、今回のドライブ旅行で新たな発見があった。田沢湖高原の旅館では、60代男性が1人旅をしている姿が多く見られたことだ。

 
 女性を主な対象としたツアーや、限定プランなどは旅行会社のパンフレットやOTA(オンライン旅行会社)の企画でしばしば目にしていたが、中高年男性の1人旅を対象にしたプランを目にすることは少ない。

 
 自分もこの「中高年男性の1人旅」の範疇に入るものの、「どのような特典があればいいか」と考えると、すぐには思いつかないのであった。

 
 個人的な考えではあるが、中高年男性が1人旅をするときに、「高級旅館」や「ラグジュアリーなリゾートホテル」を選択肢に入れることは、あまり多くないような気がする。

 

 
 実際、宿泊した田沢湖高原の温泉旅館も、夕食無しの1泊朝食付きで6千円程度のものだった。近くのコンビニでビールやつまみなどを大量に買い込んで、1日の疲れをほぐしながら大露天風呂の温泉に浸かる。そのあと、布団の中で明日のドライブの行程について、酒を飲みながら考える時間が「至福の時」なのである。

 
 中高年の男性の旅人にとって、客室がオシャレである必要はない。一定のレベルで清潔であれば、古くても構わない。新装の客室が1万円で、古い客室が6000円ならば、迷わず古くて安い方を選ぶだろう。

 
 中高年男性の多くは広い温泉に入れて、酒が飲めて(安酒可)、1人きりの時間と空間が確保され、そのうえ安ければ、大きな不満は見当たらない。

 
 そう考えると、宿で改修前の「ぱっとしない」客室を、中高年男性の1人旅プランとして「お得感」のある料金で提供すれば、双方に利があるような気がする。宿の売店で酒やつまみに利用できる「1000円分のクーポン」などを付けてもいい。

 

 
 その後もドライブ旅行は続き、山形県酒田市で宿泊した旅館で、もう一度新しい発見をした。女将の手作りの料理が自慢で、客室にトイレも付いていない小ぢんまりとしている宿。こちらは女性の1人客が多かった。田沢湖高原の宿と比べて、さりげなく女性への配慮もしっかりとされている印象を受けたが、食事処で「これほどまで1人旅の女性に支持されているのか」と、感心してしまった。

 ともあれ、旅は予想不可能な出来事が楽しく、新たな発見があるものだ。

 

(編集長・増田 剛)

 

【特集No.589】武井功氏インタビュー 「新しい次の道」へ仕組みづくりを

2021年8月21日(土) 配信

 「信州田沢温泉 富士屋」(長野県・青木村)の社長に武井功氏が就任する。武井氏は「旅の宿 滝の湯」(長野県・戸倉上山田温泉)を経営していたが2018年に倒産。その後、さまざまな経験をしながら、旅館業に戻ることになった。「代々続く大型旅館を手放しても、新しい次の道がある」仕組みを作りたいと語る武井氏は、「自分が1つの道標になりたい」と人生の第2ステージを歩み始めた。富士屋を訪れ、武井氏にインタビューした。

【増田 剛】

 ――波乱万丈な武井さんの半生からお話いただけますか。

 1929(昭和4)年に祖父が長野県・戸倉上山田温泉に「旅の宿 滝の湯」を創業しました。そして父が1950年ごろに祖父から宿を買い取りました。

 私には別の道に進んだ年の離れた兄もいましたが、中学に入ったころから、父には「お前が後継ぎだ」と言われていました。早くから宿の手伝いをしていましたし、高校を卒業すると、自然なかたちで働き始めました。

 布団敷きや洗い物、風呂掃除、送迎など何でもやりました。父が旅行作家や旅行雑誌の編集者らとの付き合いがあったため、旅好きの個人客が多かった記憶が強く残っています。

 高校2年生だった1979年に宿が火事で全焼しました。翌80年10月に新たに離れの10室の宿をオープンし、燃え残った4室と合わせて14室で営業していました。

 96(平成8)年12月には、焼け残った4室を壊して12室の新館を建てました。これで合計22室になりました。

 20歳を過ぎたころ、上諏訪温泉の「布半(ぬのはん)」で1年間、修業しました。うちは母親の女将を中心に、家族・親族経営でしたが、布半は既に企業経営で、「同じ旅館でこれほど違うのか」と驚きました。

 自分が大きく変わったのは、27歳の時。全旅連青年部への出向が大きなきっかけとなりました。当時、青年部長だった「福一」(群馬県・伊香保温泉)の福田朋英さんにとても可愛がっていただきました。また、組織活性化委員会の担当副部長だった倉沢章さん(別所温泉・上松や)の運転手役として2年間で200日近く行動を共にしていました。

 全国各地でさまざまな出会いや貴重な経験をさせてもらうなかで、「自分ほど無知な人間はいないな」と実感し、「井の中の蛙 大海を知らず」とは本当に自分のことだと思い知りました。

 ――宿の倒産も経験されました。

 バブル崩壊後に、売上が落ち込みました。当時、母が設計士に頼んで新館を建てる計画を立てました。図面を持ってメインバンクに行ったのですが、けんもほろろの塩対応でした。

 旅館に帰ってきて、銀行からバカにされたことが悔しくて、「自分も2年間、青年部で勉強させてもらった。もう自分が経営を担うから口を出さないでほしい」と母に言いました。料理長とも真剣に話し合い、自分の考えた献立を作る流れに変えました。……

【全文は、本紙1840号または8月25日(水)以降、日経テレコン21でお読みいただけます】