展示会向けパンフレット

 先月、旅館100選台湾プロモーションを実施した。詳細は次号にゆずるが、文具・ギフトの見本市「ギフショナリー台北」では、旅館100選の展示小間を構え、18旅館のパンフレットを並べた。
 肌感覚だが、大勢の来場者が最初に手にしたのは新潟県・ホテル双葉のパンフレットだった。全面露天風呂の写真と中央に「二十八湯」の文字。見た目の印象が強かった。デザイン重視は単体で美しい反面、並べて俯瞰すると埋もれる欠点もある。
 来場者への案内時は、じゃばら折りでさっと広げられるものが一番。素早く全体像を見せることができる。逆に一般的な中とじは使いにくい。
 書くと当り前だが、そうでないものが多かった。展示会や対面説明を意識したパンフレット制作を考えてもいいのでは。

【鈴木 克範】

日旅新社長に堀坂明弘氏

堀坂明弘氏
堀坂明弘氏

 日本旅行はこのほど6月30日付で、堀坂明弘取締役が新社長に就任する人事を決めた。丸尾和明社長は、代表権をもつ会長となる。

 堀坂 明弘氏(ほりさか・あきひろ)1979年3月慶應義塾大学経済学部卒業後、日本国有鉄道に入社。87年4月に西日本旅客鉄道に入社し、財務部経理課副長に就任。2008年6月執行役員総務部長、12年6月取締役兼常務執行役員総務部長、13年6月日本旅行取締役、14年6月西日本旅客鉄道取締役兼常務執行役員鉄道本部副本部長、鉄道本部営業本部長などを経て、16年6月日本旅行代表取締役社長兼執行役員に就任予定。
 
 
 

宿泊客数1割増へ、全国宣伝販促会議開く(来年4―6月 四国DC)

四国DC成功に向け機運を高めた
四国DC成功に向け機運を高めた

 JRグループと四国4県、四国ツーリズム創造機構などが共同で来年4―6月に実施する大型観光キャンペーン「四国デスティネーションキャンペーン(DC)」に向け、全国のJR関係者や旅行会社など約500人を集めた「全国宣伝販売促進会議」が5月11日、香川県高松市のサンポート高松などで行われた。

 四国DC実施は14年ぶり。「しあわせぐるり、しこくるり。」のキャッチフレーズのもと、周遊型観光などを提案し、全国からの誘客をはかる。

 冒頭、四国ツーリズム創造機構の松田清宏会長(JR四国会長)は「DCが決まってから、四国各地で新しい素材の開発や磨き上げに力を入れてきた。682の観光素材を用意し、このうち72が新しい素材。秋にはプレDCを実施し、JR大阪駅でPRイベントも行う。世界に向けて四国の魅力を発信していきたい」とあいさつした。

4県の知事らが魅力PR
4県の知事らが魅力PR

 観光プレゼンテーションでは、4県の観光情報のほか、DCに合わせ来年4月にデビューする観光列車「四国まんなか千年ものがたり」などPR。新観光列車は土讃線の多度津・琴平(香川)―大歩危(徳島)間で運行。「おとなの遊山」をコンセプトにした和のテイストの車内には、アテンダントが乗車し、食事サービスや観光案内など充実のおもてなしを行う。

 高知県では来年3月、高知城横に「県立高知城歴史博物館」がオープン。土佐山内家伝来の美術工芸品など歴史的に貴重な資料を多数展示する。

 会議後には、松田会長とJR四国の泉雅文社長、徳島県の飯泉嘉門知事、香川県の浜田恵造知事、愛媛県の中村時広知事、高知県の尾﨑正直知事による記者会見が行われた。

 DC期間中の数値目標について松田会長は「宿泊客数10%増を目指したい」と述べた。飯泉知事は吉野川クルーズや大歩危ラフティングなどを挙げ、「徳島はクルーズを提案したい」。浜田知事は「国内外のアートファンを引き付ける瀬戸内アートや食を楽しんでほしい」。中村知事は別子銅山や南予地域、しまなみ海道などを挙げ、「個性豊かな4県が結び付くことで四国観光に厚みが出る」。尾﨑知事は「高知城歴史博物館は6万点を超える山内家の資料などを展示する。来年3月からは志国高知幕末維新博も行う」と、それぞれPRした。

39カ月ぶりに減少、4月の外客売上高(日本百貨店協)

 日本百貨店協会がこのほど発表した2016年4月の外国人観光客の売上高・来店動向によると、調査対象の外国人観光客観光客誘致委員会委員店84店舗の外国人観光客の総売上高は前年同月比9・3%減の約179億9千万円と13年1月以来39カ月ぶりのマイナスとなった。

 外国人旅行者向け消費税免税制度で対象となる消耗品の売上総額は同56・1%増の約52億2千万円。消耗品を除く一般物品売上高は、同22・5%減の約127億7千万円。購買客数は同7・8%増の約26万人。1人当たりの購買単価は、同15・9%減の約6万8千円。

 免税手続きカウンターの来店国別順位は1位が中国本土で、2位が台湾、3位が香港、4位が韓国、5位がタイ、6位がシンガポールと続く。

 外国人観光客に人気の商品は1位婦人服飾雑貨で、2位化粧品、3位婦人服、4位食品、5位家庭用品となった。

効果的に日本PRへ、国際交流基金と相互連携(JNTO)

安藤裕康理事長(左)と松山良一理事長
安藤裕康理事長(左)と松山良一理事長

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)と国際交流基金(JF、安藤裕康理事長)は5月20日、「国際文化交流及び訪日旅行の促進に向けた相互連携に関する協定」を締結し、共同で記者発表を行った。今後JFの国際文化交流事業とJNTOの訪日旅行促進事業を連携し、より効果的に海外で日本をPRしていく。

 冒頭、JNTOの松山理事長は、3月30日に決定した観光ビジョンについて触れ、「JNTOはインバウンドの旗振り役として、インバウンドの果実を全国津々浦々にまで届けられるよう、観光の質の向上に努めていきたい」と決意を新たにした。

 JFは1972年に特殊法人として創設され、世界における日本文化の紹介と、相互理解の推進に取り組んできた。近年では〝文化のWA(和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~〟として東南アジアとの交流の強化をはかっているという。安藤理事長はこのほどのJNTOとの連携について、「従来からの基金の強みである、日本の文化芸術の紹介と海外での日本語教育と、JNTOが戦略的に取り組んでいる若年層の訪日促進などの分野で有機的な連携をめざす」とし、お互いの強みを活かし、世界における日本への関心をより高めていきたいと語った。

 今回の連携では、(1)JFによる日本文化紹介などの国際文化交流事業と、JNTOによる対日関心層の訪日旅行促進(2)JFによる海外での日本語教育普及事業と、JNTOによる訪日教育旅行促進(3)2020年東京オリンピックとパラリンピックに向けての、国際文化交流と訪日旅行の促進に架かる連携協力――の3つが柱となっている。今年度の連携事業としては、9月にイギリス・ロンドンで開かれる「ロンドン・デザイン・ビエンナーレ」で、日本の存在感を高めるため、JFは日本公式主催者として、グッドデザイン賞などを受賞しているアーティスト・鈴木康広氏を派遣。同ビエンナーレにおいて、オブジェクト製作やアニメーション製作などを予定している。また、JNTOは欧州からの誘客強化の一環として、メディアを通じて、日本のアートやデザインをめぐる訪日旅行の魅力を発信していく。そのほか国際文化交流と訪日旅行の促進のために、ロンドン・ジャパン祭り(9月)や、世界各地で随時開かれる日本映画上映会・テレビ番組放映でも連携をはかっていく。

 日本語教育普及事業と訪日教育旅行促進のための取り組みとしては、9月にバリ島で東南アジア初開催となる「日本語教育国際研究大会」において、JFは海外における日本語の質をより一層高めるため、「JFにほんごネットワーク(通称『さくらネットワーク』)」を通じて、開催経費の助成を行っている。JNTOでは、訪日教育旅行者6万人達成に向け、同大会にブースを出展し、各自治体からの情報提供を行っていく。また合せて、JNTO本部に4月から訪日教育旅行の一元的窓口を設置し、訪日教育旅行の認知度向上をはかっている。

 さらにリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック期間中に、リオデジャネイロで美術・映像・公演事業の実施や、会期中設置されるTOKYO 2020 JAPAN HOUSEでの、次の開催地〝東京〟の観光魅力の発信など、定期的に各本部同士で意見交換を行い、国際文化交流の促進と、訪日旅行拡大を目指す。

LCC8社が同盟、乗り継ぎ予約を一括提案(バリューアライアンス)

設立発表会のようす
設立発表会のようす

 アジア太平洋地域のLCC8社は5月16日、世界初のLCCの多国籍同盟「バリューアライアンス」を設立した。世界の3分の1のエリアを網羅する加盟航空会社の路線ネットワークを生かし、最適な乗り継ぎルートや運賃などを一括提案していく。

 加盟会社はバニラエアとセブパシフィック航空、チェジュ航空、ノックエア、ノックスクート、スクート、タイガーエア・シンガポール、タイガーエア・オーストラリアの8社。8社で東南アジアと北東アジア、オーストラリア地域の160以上の就航地を有し、15年の利用者は4600万人以上という。

 バリューアライアンスはエア・ブラック・ボックス社(ABB、英国)が開発したシステムを導入。これまでは乗り継ぎで複数の航空券を購入したい場合、各社それぞれのサイトで航空券の予約、決済が必要だったが、今後はいずれかの加盟会社のサイトから出発地と最終目的地を指定するだけで、最適な便や運賃を選択し、ワンストップで予約、決済が可能になる。同サービスは数カ月以内に提供を開始する予定。

 今回の同盟についてバニラエアの五島勝也社長は、「バリューアライアンスが導入する技術で、当社が運航していないルートでもお客様は一度の予約・決済で乗り継ぎ手配を完了できるようになり、利便性が大きく向上する」と期待している。

風評被害を払拭へ、東京で元気な九州PR

九州の19自治体が「今こそ九州へ!」と観光プロモーション実施
九州の19自治体が「今こそ九州へ!」と観光プロモーション実施

 福岡県福岡市をはじめとした九州地方の19自治体は5月20日に東京都内で、「WITH THE KYUSHUプロジェクト 今こそ九州観光!」のプロモーションを行った。熊本地震の直接被害がない地域でも、観光客や宿泊客のキャンセルが相次いでいることから、元気な九州地方各地の現状を紹介すると共に、風評被害を払拭し、来訪を呼びかけた。

 各自治体を代表し、高島宗一郎福岡市長は、「自粛をすることが復興につながることは決してない。観光は命のように大事な生活のすべてなので、支援の1つとして九州に遊びに来てほしい」と述べた。

 来賓として登壇した観光庁の加藤庸之観光地域振興部長は、「観光は経済的な影響が大きいが、それに加えて人の交流も大切。国内外から九州へ行くことで、地元の人が笑顔を取り戻し、エールを送ることにもなる」と話し、「地元の人と協力し連携して、1日でも早く九州の復興に役立ちたい」と強調した。

 会場には九州に縁のあるタレントを呼び、終始和やかな雰囲気で行われ、笑い声が飛び交っていた。また、それぞれの自治体の代表らが特産品やイベント、観光名所などを紹介し、元気な姿を見せていた。

「民泊」解禁へ ― 旅館・ホテルは違いを際立たせるべき

 訪日外国人旅行者が急増し、東京や大阪、京都など一部大都市部でホテルや旅館などが不足していることを受けて、政府は住宅地でも“一定の条件”を満たせば、「民泊」を解禁する方針を固めた。規制改革実施計画に盛り込み、今月末に閣議決定されたあと「民泊新法」として、今秋以降に国会に提出する予定だ。国家戦略特区として規制緩和された大阪府や東京都大田区は1回の利用で7日以上の滞在が必要であるが、あまりに利用者が少ないため、滞在日数を大幅に減らすなど、「さらなる緩和へ」との動きも見られる。

 違法民泊による住民とのトラブルも各地で報告されており、1日も早いルールづくりが求められるなか、規制改革による“シェアリングエコノミー”を強力に推し進めたい政府と、空き部屋を有効活用し、利益を得たい不動産業界、旅館業法などの縛りがあるホテル・旅館が求める“イコールフッティング”の立場が錯綜し、もつれた糸のような状態になっていたが、ようやく新たな法律を整備する道筋が描かれた。これまでもウイークリーマンションやインターネットカフェなど新たなビジネスモデルが登場したときに、旅館業法に抵触する部分で激しい議論がなされてきたが、その都度新たな解決策が生み出されてきた。

 大手不動産会社で「ライオンズマンション」などを展開する大京は、民泊の事業化に積極的に乗り出す構えだ。一方、新規分譲マンション販売やすでに販売済みのマンションでも住民に配慮して「民泊に使用しない」と規定しているところもあるという。今までは旅行者は、旅館やホテルなど宿泊施設に滞在していたが、これからは普通のマンションにも外国人旅行者が滞在する社会となる。多くの地域は、商業エリアや文教エリア、工場エリアなどを棲み分け、住宅エリアは静寂や治安面での安全性などを第一に求める。千葉県の住宅地で保育園の建設を反対する動きによって開園を断念したという報道は記憶に新しいが、多くの住民は見知らぬ外国人観光客が滞在することに不安を感じ、ナーバスになる面があることは確かだ。日本に限らず、世界中で地元住民と旅行者との間で軋轢は生じている。

 東京・谷中で外国人旅行者を多く受け入れる澤の屋旅館は、周辺の地図を作ったり、地域全体で外国人旅行者を受け入れる環境づくりに腐心されている。このような努力や配慮を大手不動産会社が考えているか、どうも不安だ。また、価格設定はどのようにされるのだろうか。おそらく周辺のビジネスホテルなどと比較しても格安感を出すことが予想される。自社の利益最優先で、周辺住民や社会の不安を増大させるようでは、巡り巡ってマイナス面は大きくなる。

 民泊解禁によって、ホテルや旅館へどの程度影響があるのかは、現状でははかれない。しかし、民泊サービスと、ホテル・旅館はまったく異なるサービスである。民泊サービスとの違いを際立たせることが、ホテル・旅館のおもてなしの奥深さを認識してもらえるチャンスと捉えた方がいいだろう。現在、外国人旅行者の増加による稼働率上昇で、急激に宿泊料金をアップするビジネスホテルも見られるが、多くのビジネスマンも動静を見守っている。地道な努力で少しずつ支持を得ていくサービスが最終的には一番強いのだと思う。

(編集長・増田 剛)

【特集No.431】ホテルエクレール博多 女性に優しいホテルづくり

2016年5月20日(金) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」の第3回は、福岡県福岡市のホテルエクレール博多支配人の永安重喜氏が登場。「女性に優しいホテルづくり」をコンセプトに、朝食のルームサービスなど、お客様の声を基に女性スタッフからの積極的な提案を取り入れ、高い評価を受けている。

【増田 剛】

 永安:会社設立は1999年ですが、ホテルが開業したのは2000年11月です。その後、10年8月にアサヒ緑健のグループ会社となりました。

 内藤:どのような経緯でホテルがオープンしたのですか。

 永安:前のオーナーの実家が福岡市内で旅館を経営されていましたが、自分で独立して宿泊業をやりたいと考え、現在のエクレールが建つ地に新たにホテルを建てました。
 そのときのオーナーは私の実家が営む食堂によく来ていて、私が小さいころからの知り合いでした。「一緒にやらないか」とお話をいただいたのが26歳のときです。それから2年後の28歳のときにホテルが開業しました。
 このエリアは98―99年に再開発が始まり、向かいのホテルオークラ福岡は当館よりも1年早く開業しました。
 私は開業時から支配人でした。「ぶっつけ本番」で、まったくホテルでの経験はなかったのですが、実家が食堂という環境のなかで、親のお客様やスタッフに対する接し方を見ながら育ってきたので、ホテルの仕事をするからといって何か特別に意識したわけでもなく、「きちんとあいさつしよう」「お礼を言おう」「謝るべきところは謝ろう」など当たり前の、基本的なところからスタートしました。それは今でも変わりません。

 内藤:当時は宿泊特化型のビジネスホテルが一気に出始めたころですね。

 永安:そもそも広い土地ではなかったので、大きなレストランを作れるわけでもなく、できるだけ客室を多くするシンプルなスタイルしか選択肢はなかったと思います。
 オーナーはデザインにもこだわりを持っており、他にはないお洒落なデザインにしたいという思いが強く、何度も設計図を描き直していました。
 開業直後は、ホテル経験者はほとんどいなかったので、売上のお金が合わないことは日常茶飯事で、3年くらい経ってようやくかたちができ始めてきました。
 03年ごろから世界水泳大会や国際会議といった大型のイベントが福岡市で開かれ、市内の宿泊需要も高まってきました。

 内藤:開業当時は大変だったけど、数年後には軌道に乗ってきたという感じですか。

 永安:そうですね。私も、スタッフも日々、目の前のお客様への接客で精一杯という状態で、何か明確な戦略を持って取り組む余裕もなかったですね。

 内藤:オーナーが変わった10年というのは、リーマン・ショックの影響もあったのですか。

 永安:大きく影響を受けました。ホテルの稼働率も落ちました。リーマン・ショック後も稼働率は低く続きましたね。当時は飲食店なども展開し始めていた時期で、東京などにも出店していましたが、飲食店舗の方が波動が大きかったので、オーナーの判断で切り離してホテルだけをアサヒ緑健に売却することになりました。私を含め、スタッフ全員が新会社のグループに移行しました。

 ――梶井さんが入社されたのはいつですか。

 梶井:私はオープンから2年後の02年です。

 内藤:その当時はどんな感じでしたか。

 梶井:ただ目の前のお客様に対して決められた通りに、決められたことをやっていました。自分のなかにはサービスに対する強い「想い」もあり、どこかモヤモヤしながら対応していました。お客様に関する会話は少なかったですね。仕事の会話は分からないところを聞くくらいで、「このようなお客様がいらっしゃいますので、こういう風にしませんか?」などの提案はほとんどありませんでした。

 永安:スタッフとお客様との間に距離がありました。今から考えると、私たちの方が勝手に距離を作っていたように思います。本当はみんなお客様に近づき、コミュニケーションを取りたいと感じていたと思うのですが、でも現実は、距離感を探りながらどうするべきか迷っている状態でした。

 内藤:社員が前のめりになろうとしているのに、会社の方針が定まらない状態だったので、それぞれが余裕があるのに、単なる作業にとどまっていたのですね。

 梶井:はい。とても時間に余裕がありました。(笑)

 内藤:スタッフの人数はどうでしたか。

 永安:今より2人ほど多かったですね。

 内藤:「お客様には誠実であれ」という理念を掲げられたのは、いつからですか。

 永安:オーナーが変わってからですね。これまで手がけることができずにいた部分で、私が一番やりたかったのは、就業規則と賃金規定の見直し。そして、ホテルの経営に10年間携わるなかで、「フィロソフィー(哲学)や理念を言葉にしたい」という欲求があり、クレドカードを手作りでつくるところから着手したのです。
 表現もスタッフみんなで話し合い、決めていきました。前オーナーのときもやりたいと思っていましたが、利益に直結しないような理念を話し合うことは、大切なことだとわかっていながらも、今すぐにやるという段階には至っていませんでした。
 現在のオーナーとは、「目先の利益よりも理念を決めることが先だ」という姿勢が一致しているので、物事がスピーディーに進んでいきました。

 内藤:とても難しいですね。数字を追いかけることもとても大事で、当時は稼働率をまず優先させたのですね。

 永安:稼働率が先にあって、そこに向かってすべての作業をしていましたが、結果として稼働率アップには結びつきませんでした。
 今は、スタッフ同士の関係性などを優先し、取り組みのアプローチは以前と逆転しました。

 内藤:クレドをつくるときは、どのような議論をされたのですか。

 梶井:今は3冊目になりますが、最初のときは2班に分かれて話し合い、それをすり合わせました。スタッフはなんとなく働いているなかでも、「お客様には誠実であれ」といった気持ちを持っていたので、スタッフから出てきた単語はほとんどが一致していました。

 永安:他社のクレドも参考にしましたが、難しい言葉ではなく、無理をせず、カッコつけず、普段自分たちが使っている言葉をかたちにしました。「お客様だからこうしなければならない」といった特別のものではなく、「ちゃんとあいさつをする」とか、人に対する接し方の基本的な部分をみんなで一度整理したいと思っていました。

 内藤:「女性に優しいホテルづくり」というコンセプトはいつからですか。

 永安:現在のオーナーに変わった段階です。少しお洒落な造りなので、もともと女性の宿泊客は多く、女性の出張利用も年々増えています。
 例えば「ルームサービス」を始めたのも、「朝食会場で女性が一人で食べるのはどうなのか」といった会話がスタッフ同士で交わされるようになり、「それだったらお部屋に届けたら?」などのアイデアが出てきたからです。
 「ビジネスホテルのカテゴリーでは女性は使いづらいよね」などの意見も出て、もっと女性が安心して泊まれて、使い勝手の良いホテルにしたいという思いから、「女性に優しく」というコンセプトが固まりました。
 今では女性客の割合は5割に近づく月もあるほどです。女性客の比率が高くなるにつれて、「女性がもっとこんなものがあると助かる、うれしいことってなんだろう」と、みんなで考えています。「手鏡やアクセサリーを入れるジュエリートレイがあるといいよね」などのアイデアが出ると、すぐに実行しています。

 ――女性客が求める声をどのように集めているのですか。

 永安:アンケート用紙を客室に置いています。お礼や、ときには厳しい意見もありますが、結構、びっしりと書いていただいています。これらの声を基に、女性スタッフが中心に、さまざまな意見やアイデアを出し合い、できるものからすぐに改善しています。

 内藤:すぐに対応できるものと、難しいものの取捨選択はどのように判断され、どのようなことを取り組まれてきましたか。

 永安:例えば、朝食のルームサービスと、客室にはコーヒーを用意しているのですが、女性客からのアンケートに「紅茶があったらいいな」という声がありました。すぐにレディースフロアのエレベーター出入口の横の小さな空間に、手作りの紅茶サービスのボックスを作りました。お金をかけずに、手作りで工夫しながら温かみが感じられるようにディスプレイしています。

 梶井:「メイクのときは使いやすい手鏡があった方がいい」という声もありました。女性は“カワイイ”デザインが大好きなので、可愛い手鏡を買いに行きました。ジュエリートレイも手鏡に合った可愛いものにしました。

 永安:会議で「女性客が喜ぶのでこういうモノやサービスを提供したい」とスタッフに提案された場合には、制限する理由なんて基本的にはないので、「やってみよう!」という感じで物事は進んでいきます。

 内藤:女性は部屋着なども気にされるのではないですか。

 梶井:そうですね。当館の部屋着はオープン以来、生地がやわらかく、パジャマっぽいので女性客には「いいよね」と好評をいただいています。

 永安:松延さんが入社したときには、加湿器の貸し出しは有料で、200円くらい取っていました。入社してすぐ違和感があったらしく、「お金取るんですか?」と聞いてきました。それからすぐに無料にしました。それでとくに女性客ですがニーズが増え、今ではレディースフロアには常備して貸出用の台数も増やしました。

 内藤:今多くの接客の現場で議論されているのが、お客の名前を「○○様」と呼ぶか、「○○さん」で呼ぶか。大部分のスタッフは「さん」で呼びたいのですが、一方で会社は「様」で呼ぶように指導し、現場のスタッフが悩むケースが多くみられます。私は「さん」で呼んだ方がいいと言っています。なぜかというと、お客の方がお互いの距離を縮めようとしているのに「○○様」と呼ばれると、壁を感じるようになります。

 永安:確かに、自分が客の立場で考えると、「永安様」と呼ばれてもピンとこない印象があります。

 内藤:飲食店で働くスタッフも「様」から、心の距離を縮めるために「さん」に切り替える努力をしています。

 永安:当社でもお客様との会話を楽しんでいるスタッフをしばしば目にします。その場合にはやはり、「様」ではなく、「さん」だろうと思うことがあります。

 内藤:松延さんは自分がお客の立場として見た場合、接客で気をつけていることはありますか。 

 松延:作業をしながら目線を合わせないで「いらっしゃいませ」と言われるのは嫌ですね。誰に向かって言っているのだろうと感じてしまいます。
 私は必ずお客様の目を見てごあいさつをしています。入口のドアが開くと音で分かるので、お客様が通り過ぎるまではお客様の方を見てごあいさつをしています。

 永安:どのように接し、あいさつをするかといったことは社内でしばしば話し合っています。あいさつと一緒に、笑顔に関しても強く意識していると思います。

 梶井:「エクレールではこのような気持ちでお客様に接してください」というように教えています。

 内藤:成文化されていないけど、習慣的なルールとして浸透しているのですね。
 私が初めてエクレールを訪れたときの印象は「女性はこのホテルが好きだろうな」と感じました。一つはエレベーターホールに行くにはフロントの前を通らなければならないことです。スタッフが笑顔で見ているという安心感があり、玄関で笑顔で迎えるということが、一方で防犯につながります。

 ――シャンプーなどアメニティにもこだわっていますね。

 梶井:現オーナーに変わったときに、アメニティをすべて見直しました。シャンプーや入浴剤なども女性スタッフが家に持って帰り実際に使ってみて、質と香りなどで選びました。シェーバーなどは男性スタッフが使用して決めました。

 永安:以前は、アメニティはリンスインシャンプー、ボディソープ、歯ブラシ、シェーバー、ヘアブラシなど最低限度必要なものを置いていました。消耗品なので、そこにお金をかけるという価値観はなかったですが、今はものすごく種類が増えました。

 ――アメニティが多様化されると選択肢が増え、お客としてはうれしいですね。

 内藤:具体的に、何を増やしたのですか。

 梶井:コスメセット、化粧水、乳液、洗顔フォーム、クレンジング、ヘアピン、ボディシャンプーは全室に備えています。女性フロアには入浴剤も加えました。ほとんどのお客様は使われています。

 内藤:シャンプーや入浴剤などは個人の好みが分かれます。

 梶井:そうですね。あらゆるニーズに対応するために、最近は「シャンプーバイキングをやろう」という話も出ていました。

 内藤:それはなぜストップしたのですか。

 梶井:最初はレディースフロアだけにという話がありましたが、「管理は誰がするのか」「お客様が元の位置に返却されなかったときはどうするの?」などの議論もあり、いったん中断しています。「やってみたらどうか」という部分と、「それはやらなくてもいいんじゃないか」という意見に分かれています。

 内藤:サービスを選択できるようにする施設が増えています。シャンプーバイキングを始める際には不安もあると思いますが、マイナス面を考えるよりも、「選びたい」というお客の心理を考えて、一度やってみたらいいのではないかと思います。

 梶井:ルームサービスを始めるときも、「誰が持っていくのか」「件数が多かったら対応できるのか」など、色々考えていたのですが、実際にやってみたらほとんど大きな問題はなかったということもあります。

 内藤:ホテルでは、スタッフがお客の客室に入り、会話を交わす機会はほとんどありません。ルームサービスはその機会をお客の方からわざわざ提供してくれるのに、なぜ「忙しくなる」という理由で、せっかくの接客の機会を拒否するのか。定食屋さんでも満席だったら「すみません」とお客を断ります。それでいいのではないかと思います。「ちょっと混んでいるので30分かかります」と誠意を込めて答えれば、きっとお客は理解してくれると思います。

 永安:断ったり、待たせたりすることに妙に憶病になっているところはあると思います。

 内藤:現状でも実際は待たせることもあるはずです。だけど、新しいサービスで待たせることがダメだと言うのは、今の問題から目をそらして新しいサービスを「やらない」理由にも聞こえます。

□   □

 内藤:エクレールでとくに感心するのは、部屋にあるお茶などの種類の多さですね。ミネラルウォーターも置いてあります。

 梶井:ミネラルウォーターを客室に置くときも、キャップに封をしたビニールをつけたままにするか、開けやすいようにビニールを剥がしておくかも迷いました。

 内藤:今はどうしているのですか。

 梶井:ビニールを剥がしています。飲み残しや、なかには開けただけで飲まれていないものもあり、清掃の担当者もしっかりそこを確認をしています。

 永安:エクレールでは清掃と、スタッフのルームチェックには、相当に時間をかけて力を入れています。

 内藤:全客室を回られるのですか。

 梶井:連泊のお客様以外は、すべてスタッフが確認します。
 前のオーナーの時は、客室をチェックする本当の意味がよく分からず、単に髪の毛が落ちていないかといった視点でチェックしていたので、1部屋に1分もかからなかったと思います。でもお客様が客室に入って残念に思われる顔を見たくないという気持ちから、納得いくまでチェックするので、1部屋にかける時間はすごく長いですね。全96室をスタッフが分担してチェックするのですが、みんな2時間は帰ってきません。

 内藤:チェックの仕方は決まっているのですか。

 梶井:毎日チェックしているので、チェックシートはスタッフの頭の中にあります。

 内藤:客室のチェックでは具体的にどういう点を注意されるのですか。

 松延:梶井マネージャーに教わってすごく印象に残っているのが、ハンガーのピンの位置がそろっているかどうかという点ですね。

 内藤:すごく細かいですね。

 松延:順番に客室の入口から見ていくと、スリッパは汚れていないか。浴室では髪の毛が残っていないかをまず確認し、シャンプーの柄の向きや、水周りの銀色のところに水垢が残っていないか。タオルで拭くと水垢が落ちることもあるので、細かくチェックします。浴槽も上から覗くだけでなく、お客様が座った視点から裏側までチェックします。アメニティがそろっているかも確認します。コンセントの上に埃がたまっていないか、冷蔵庫の中や、ティッシュは三角に折っているか、ドライヤーがきちんとまとまっているか、机の上が整理されているかもしっかりと確認します。引き出しの奥に何も残っていないか。たまにアンケート用紙やチラシなどが奥にくしゃくしゃに入っていることもあります。人によって確認の手順に違いがあると思いますが、チェックするポイントはすべて決まっています。

 梶井:シャワーカーテンも右側に寄せているのですが、実際にお客様が入るときに開き、見落としてしまった髪の毛に気づかれることもあるので、それを必ず開いた状態で確認しています。

 内藤:徹底されていますね。ベッドメーキングのシーツと掛け布団のセットはどのようにされていますか。

 梶井:今は掛け布団をマットの中に挟み込むように入れています。でも、これではお客様が布団の中に入ると、足で空間を広げていかなければならないので、見た目は綺麗なのですが、お客様の使い勝手はどうかなと悩んでいます。女性のお客様で爪が折れてしまった方もいらっしゃいました。

 内藤:私は宿泊したホテルや旅館のベッドメーキングは、必ず記録していますが、意外と違うのです。皆さんはこのベッドメーキングの方法を悩まれているのですが、多くの施設では「ウチはどうだっけ?」という経営者がほとんどで、そのくらい無関心です。
 掛け布団を中に入れてしまうと、足が入らなくてもがくのでベッドメーキングが崩れます。最近は掛け布団をただ載せているだけというホテルや、足の先の部分はマットに入れていないところもあります。すべて中に入れると、清掃部門も大変になります。
 細かい部分ですが、かたちから教えると、お客にとって利便性はどうなのかという視点が抜け落ちてしまうことが多々あります。

 ――お客から気づかされる部分などはありますか。

 梶井:以前、素泊まりで予約をされていたお客様に対して、チェックインの際に朝食が別料金で用意してあるので、いつものように「ご朝食はいかがされますか。お付けすることができますよ」とお伺いすると、そのお客様は「そもそも朝食を取る気がないので素泊まりプランを選んだのに、『朝食を付けますか』と聞くマニュアル化した接客が嫌だ」とおっしゃられました。これはすごく勉強になりました。

 内藤:今はどうされているのですか。

 梶井:朝食を付けられていないお客様には、「ご朝食が必要であればおっしゃってください。ご準備があります」という言い方に変えました。

 内藤:その表現はすごくいいですね。

 梶井:「朝食があることを知らなかった」とおっしゃるお客様もいらっしゃるので、同じように言ってもいいものかと考えます。

 内藤:予約のときには朝食が不要でも、事情が変わり、朝食を取りたいと思うお客もいるかもしれないし、難しいですね。
 朝食ルームサービスの利用は多いですか。

 梶井:比較的女性の方が多く、ルームサービス付きプランも出しています。

 ――市内でも朝食のルームサービスを取り入れるホテルもあるのではないでしょうか。

 永安:客室の内装などは当館と同じように、一部屋も同じものがないように壁紙も変えているホテルもあります。ただ、朝食ルームサービスは他ではあまりやられていないのではないかと思います。

 内藤:壁紙はモノですが、サービスは人の働きなので真似するのは難しい。だからこのサービスをお客は支持していくのです。

 ――アメニティを充実されていったことで、客室の単価も上がっていったのですか。

 永安:5年で700円くらい上がりました。今も上がっています。

 内藤:単価が上がっている要因はなんですか。

 永安:極端に週末を上げているわけではないのですが、女性客が増えていくなかで、安いプランを求められている感覚はなくて、よりサービスの充実を求められているような気がします。格安プランから売れるのではなく、ちょっとした特別なサービスが付いているプランの方が人気が高い傾向にあります。

 内藤:サービスの内容と品質を重視していたら、それを求めるお客が増えていったということですね。価格は最も大きなニーズで、同じものだったらお客は価格の安い方を選びます。同じでなければ、価格以外の部分が重要視されます。
 稼働率も上がっているのですね。

 永安:2011、12年は60%前後でしたが、13年の夏ごろから80%まで上がってきました。

 内藤:外的要因で一度は来てくれますが、品質が良くなければ続きません。

 永安:「期待していなかったけど、来たら意外と良かった」という感じではないでしょうか。評価されている部分も施設などよりも、スタッフがお客様のことを考え、少しずつ変えていったサービスの部分ではないかと受け止めています。

 内藤:平均レベルを上げることが大事で、特徴を出し過ぎるとお客に飽きられてしまいます。一部分で突き抜けるとお客の好き嫌いがでてきます。幅広いお客が利用するビジネスホテルなどは、「普通に良い」というのがいいのではないかと考えます。「意外にいいよね」というのが一番の褒め言葉なのかもしれません。今後の取り組むべき課題はどの部分ですか。

 永安:ここにいる2人のスタッフはお客様目線で向き合ってくれていますが、「もっと笑顔で接客してくれるといいのに」というお客様からのアンケートもあります。ものすごく褒められているときと、ものすごく怒られるときもあるのが現実です。接客レベルの個人差もあるので、この2人がいないときのサービスレベルを、全体的にもっと上げていくことが今後の課題です。
 対策としては、朝礼や終礼に時間をかけ、お客様の情報に関して丁寧過ぎるほどの引き継ぎをやっています。そのときに、アンケートでこういった声があったと話し合っています。クレドも1日2回、皆で唱和しています。

 内藤:このような日々の地道な努力が、エクレールの素晴らしいところだと思います。

本紙関西支社 移転のお知らせ

 旅行新聞新社は5月23日に、関西支社(大阪市浪速区)の事務所を移転します。なお、電話番号、ファックス番号の変更はありません。

 新住所は、〒556―0011 大阪府大阪市浪速区難波中1丁目14番14号 エミューイモトビル4階。

 電話番号は06(6647)5489、FAX06(6647)7626です。引き続き、よろしくお願いいたします。