地熱開発緩和に反対、資源エネ庁などに要望(日本温泉協会)

資源エネルギー庁に手交
資源エネルギー庁に手交

 日本温泉協会(大山正雄会長)は5月27日、経済産業省資源エネルギー庁の上田隆之長官宛てに、「地熱開発のための国立・国定公園内の規制緩和に反対する」趣旨の要望書を手渡した(別掲)。大山会長と、佐藤好億・地熱対策特別委員長の連名で、「現在17カ所の地熱発電所の総電力は全体の0・3%に過ぎず、3倍でも1%に満たない。一方、地熱開発で温泉が枯渇した場合の雇用や地元経済の損失とは比較にならない」と反対の理由を説明した。

 5月20日には、大山会長や佐藤委員長らが環境省を訪れ、同様の趣旨の要望書を望月義夫大臣宛てに手渡した。 

環境省に要望書を手渡す
環境省に要望書を手渡す

          
 【要望書】
 地熱開発のための国立・国定公園内の規制緩和に反対します

 政府は2030年時点の電力供給シェアで再生可能エネルギーの割合を 20%台にする計画であると聞いています。このうち、地熱発電を現在の50万キロワットを約3倍の140万キロワットまで引き上げるために高温の火山性熱水が多く分布する国立・国定公園内の規制を緩和し、政府主導で地熱発電を多くの地域で開発する計画が持ち上がっています。すでに環境省は「国立・国定公園内の地熱開発に係る優良事例形成の円滑化に関する検討会」を持ち、今年7月ごろに結論を出すことを予定しています。

 1・我が国の地熱資源と利用について

 我が国は世界第3位の地熱資源量を持ちながら、その8割が国立・国定公園内の火山地域にあるので活かされていないという地熱発電側や資源エネルギー庁の意見があります。しかし、世界第3位の地熱資源量の数値自体が暖昧です。さらにその地熱資源量とは地下深部の地熱貯留層の体積と温度を掛け合わせた容積法によって30年間の発電量として推定されたもので、数十万年にわたり地下深部からの熱水や熱伝導によって地熱貯留層に蓄積されたと推定される熱量です。すなわち、これは周辺から絶えず供給されているにしても、多くが地熱貯留層内に閉じこめられている蓄積熱量ですから、再生可能エネルギーというより、石炭・石油に類似する「化石熱エネルギー」です。

 日本の地熱発電所は1力所でおよそ5万キロワットです。それに要する蒸気は150℃以上毎時500トンを必要とし、箱根・草津などの大温泉地の温泉の総熱量に相当します。

 地熱発電は温泉の源である地熱貯留層の熱水を深度1千―3千メートルの掘削井(生産井)で大量に湧出させるため、周辺の温泉地では、その影響と思われる「湧出量の減少」や「泉温の低下」などの温泉の枯渇化現象が報告されています。

 温泉地には観光や健康保持や癒しを目的に、年間1億2千万人の宿泊と数千万人の日帰りの利用者が訪れています。我が国の温泉は最古の「日本書紀」に記されているように1300年を超える歴史があり、地元産業と世界に冠たる温泉文化を育んでいます。また、温泉は訪日外国人観光客にも好まれ、観光立国を目指す21世紀の我が国の観光の重要な一翼を担っている貴重な資源であり、自然環境と一体です。

 温泉は日本人の好むものですから日本列島の至る所で開発・利用されています。そのため主に火山地域に分布する地熱資源の豊富な約190力所の主要温泉地でも温泉資源の利用はすでに限界に達しています。日本の温泉の総熱量は非火山地域のも含めると石油換算で年間900万トンで、原油輸入量の約5%に相当します。すなわち、日本は地熱を「温泉」として最大限に利用している世界有数の地熱利用国です。

 2・地熱発電の問題点について

 地熱発電は熱水が地下深部から上昇する過程で熱水から分離した蒸気で発電機のタービンを回転させています。蒸気は使用後、大気中に放出されますが、熱水は高濃度のヒ素などを含んでいるため還元井で地下に戻しています。熱水を地下に戻しやすくするためには、熱水から析出する物質が地層に目詰りを起こさせないため硫酸を混入させているので地下環境の汚染が起きています。この汚染された熱水が周辺の温泉地に湧出したならば、その温泉地に人は訪れなくなり、温泉旅館や観光産業のみならず、交通機関を含めた地元経済が壊滅的な状況に直面するでしょう。

 地表の自然環境は、とくに火山地域においては地下環境の結果です。地下環境が変化すれば、地表の自然環境はいずれ変化するでしょう。地表部の風致景観に影響のない開発や、傾斜掘削による地下開発であれば可能とする考え方は理解できません。また、地熱発電は地表のみならず、地下の大規模開発にも関わらず、地下で何が起きているか目に見えないため大きなリスクをはらんでいます。

 現在の17力所の地熱発電所の総電力は日本の水力や火力などによる総電力量のわずか0・3%です。たとえ3倍にしても1%にも達しません。その地熱発電が1億数千万人の温泉利用者と、数十万人の温泉関係者の雇用と地元経済、および観光立国としての貴重な自然環境資源と比較になるとは思えません。

 地熱発電は地球温暖化をもたらす二酸化炭素の排出量が石炭・石油火力より単位発電量当たり2ケタほど小さい利点を有していますが、発電量が全体の0・3%―1%未満なら総量に対する寄与率は小さく、むしろ有害な硫化水素などを危惧しなければならず、必ずしもクリーンとはいえません。しかも経済産業省の2015年度の試算によれば地熱発電は192円/キロワット・時と、水力、石炭・LNG火力、太陽光などより高価です。

 温泉の利用は地下の自然供給量、いわゆる再生可能エネルギーという概念を基礎としています。日本の温泉が1300年以上前から今日においても変わらず利用されていることがそれを証明しています。しかるに、地熱発電は自然供給量のみでなく、地熱貯留層の熱水と蒸気から分離した熱水を再び地下に戻す行為を含めての再生可能エネルギーという概念ですから、温泉の自然供給の熱水利用の概念とは似て非なるものです。

 3・温泉資源の保全について

 電力確保は国の重要課題ですが、一方で観光や福祉も将来にわたる重要課題です。温泉は有史以来、日本人に好まれ、保養や医療的効果が経験知として認められてきたからこそ大切に守ってきたものであり、老齢者の医療費削減にも大きく貢献しています。高齢化社会を迎えた今日、温泉の重要性は一層高まっています。

 繰り返しとなりますが、地熱発電所と主要温泉地は地下の火山性熱水を利用しています。主要温泉地でも多くは温泉資源の利用が限界に達しています。すべての資源は有限です。地熱資源といえどもその例にもれません。地熱発電能力を現在の2倍から3倍にするならば、新たな地熱発電所は最も有望な地熱水の存在する現在の温泉地に近づき温泉枯渇をもたらすことは大いに推測できます。

 4・まとめ

 我が国の多くの温泉は国立・国定公園内に存在し、規制と長年にわたり多くの人々の努力によって守られてきました。その温泉を、総電力の1%に満たない地熱発電のために失ってもよいのでしょうか。地熱発電の増加は将来に大きな負の遺産を残し、国家的利益の損失であることは明白です。

 以上により、一般社団法人日本温泉協会は、かけがいのない国立・国定公園の自然環境と温泉を守り後世に継続し、また観光立国のためにも地熱開発のための国立・国公園内の規制緩和に反対します。

伊豆半島ジオパーク

 今年9月の世界ジオパークネットワークの加盟を目指す「伊豆半島ジオパーク」。各地に点在するジオサイトでは、長い年月をかけて伊豆半島のジオ(大地・地球)が育んだ地層・岩石・地形などの貴重な遺産を学習・体感でき、ガイドツアー等も充実する。

 海あり山ありの伊豆半島を旅すると、なるほど道中で多くの奇妙な岩や美しい地層に出会える。今まで旅の途中、何気なく見過ごしていた海岸線や山肌の風景が旅の目的地として輝きを放つのだ。

 壺にも人の顔にも見える「ルビンの壺」ではないが、“背景”と思い込んでいたものが、実は見方を変えると“図”だったのかもしれない。そう思えてしまうほど、伊豆半島ジオパークには自然や歴史、文化など、伊豆の魅力がぎゅっと詰まっている。

【森山 聡子】

天然温泉表示制度見直し、現地調査難しく、新制度検討(日本温泉協会)

理事会のようす
理事会のようす

 日本温泉協会(大山正雄会長)は5月20日、東京都千代田区の全国旅館会館で15年度第1回理事会を開き、天然温泉審査委員会は天然温泉表示制度について、新規の審査と更新の申請を中止し、現行の制度のとりやめも視野に、見直しを検討していくと報告した。

 同制度はこれまで、基本的に書類による審査を行っていたが、より正確で公正な審査には1軒1軒現場での審査が不可欠な一方で、協会としては人的、資金的にも調査には限界があるのが現状だ。さらに、日本温泉協会が適性度などを「5段階」で評価した天然温泉表示看板を発行しているが、源泉と浴槽の泉質の変化などさまざまな難しい問題を抱えるなか、万一の不正などにも対応できず信頼問題にも関わるため、制度見直しの必要性が生じてきた。

 日本温泉協会では、現在貸与中の天然温泉表示看板の最新のものが5年間の有効期限を迎える2018年8月31日で同制度を中止し、これに代わり、協会加盟施設の保証として、新しいロゴマークを制定し、これを取り入れた会員証の制作なども一つの案として検討していく考えだ。5月20日現在、全国で天然温泉表示看板の貸与数は237施設・447枚だが、有効期限の5年ごとの更新を行わないために、6月1日には21施設・43枚減少し、216施設・404枚になり、18年8月末でゼロになる。

緊急企画で箱根プラン、メイトのツアーで応援(近ツー・個人)

5月20日には同社社員が箱根PR
5月20日には同社社員が箱根PR

 近畿日本ツーリスト個人旅行はこのほど、国内パッケージブランド「メイト」のツアープランに、火山活動が心配される神奈川県・箱根エリアの応援企画として「緊急企画 箱根に行こう!」を追加し、発売を開始した。

緊急企画パンフ
緊急企画パンフ

 パンフレットには箱根湯本や小涌谷、千石原など箱根全体エリアの28旅館を掲載。火山活動の影響で立ち入りが規制されるエリアは大涌谷の噴煙地を中心とした半径300メートルの範囲で、範囲外では宿泊業も通常営業されており、「箱根=立ち入り規制エリア」と理解されないよう、パンフレット冒頭では箱根町周辺マップを掲載し、立ち入り規制エリアは箱根町のごく一部であることを説明している。同社社員も5月20日に東京・有楽町の同社支店前で、パンフレットや箱根のお菓子などの配布活動を行い、箱根旅行をPRした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

全国の通訳案内士が「新しい日本の旅」を提案、トラベリエンスの「プラネタイズ」

 関東を中心に英語の観光ガイドツアーを実施している「トラベリエンス(橋本直明社長)はこのほど、訪日外国人旅行者と日本人旅行者向けに、インターネット上で地方創生を目指したガイドブック「Planetyze」(プラネタイズ)のサービスを開始した。

 プラネタイズは、「サイト上の旅行ガイドブックで気に入った場所を選ぶと、旅程表が作成でき、その場所に精通した通訳案内士にガイドしてもらえる『ツアーマーケットプレイス』につながる、外国人のための新しい日本の旅を提案する」(橋本社長)サービスだ。

 特徴は、「外国人が旅行したい場所を発見できる」記事をオリジナルに執筆。日本全国を細かく網羅するガイドブックを作ることにより、定番以外の観光地を紹介する。日本語、英語版からスタートし、多言語化していく。また、ワンストップで旅程表の作成ができ、ガイドブックに掲載されている記事で気に入った場所を旅行カレンダーに追加すれば、旅程表として印刷・ダウンロードすることも可能。旅程表を作るのが難しい旅行者には、通訳案内士が旅程を提案するサービスも提案する。さらに、日本全国の通訳案内士の自己紹介動画も閲覧でき、ガイドの語学力や知識・人柄を知ったうえで納得してツアーを申し込むことができる。

 橋本社長は「今後、ホテル予約や航空券予約、旅行会社のツアーなどラインナップを拡充していきたい」と語る。

日本は前年同位の7位、アジア・大洋州で3年連続トップ、14年の国際会議数

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 国際会議協会(ICCA)がこのほど発表した2014年の国際会議開催統計によると、世界で開催された国際会議数は前年比1・5%減の1万1505件。日本での開催数は同1・5%減の337件で、昨年と同じく世界第7位となった。アジア・大洋州、中近東地域では3年連続の1位。

 世界で開催された国際会議数は昨年から180件の減少。国際会議は数年前に開催を決定するため、14年の国際会議はリーマンショック以後の世界経済不況の余波のほか、途上国での開催の減少が影響したとICCAは分析する。

 国別の国際会議開催件数をみると、1位はアメリカで831件、次いでドイツ659件、スペイン578件、イギリス543件、フランス533件、イタリア452件、日本337件、中国(香港とマカオを除く)332件、オランダ307、件ブラジル291件と続いた。

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 アジア・大洋州、中近東地域でみると、日本は3年連続の1位。次いで中国332件、オーストラリア260件(世界13位)、韓国222件(世界17位)、台湾145件(世界28位)、シンガポール142件(世界29位)、マレーシア133件(世界30位)、タイ118件(世界33位)、インド116件(世界35位)、香港98件(世界38位)と続いた。

 都市別にみると、トップはパリで214件、次いでウィーン202件、マドリッド200件、ベルリン193件、バルセロナ182件、ロンドン166件、シンガポール142件、アムステルダム133件、イスタンブール130件、プラハ118件と続いた。

 アジア・大洋州地域の都市別では、シンガポールが142件でトップ(世界7位)。次いで北京が104件で世界14位、ソウルが99件で世界第15位、香港が98件で世界16位、台北が92件で世界20位、東京が90件で世界22位、シドニーが82件で世界25位、クアラルンプールが79件で世界28位、バンコクと上海が73件で29位と続いた。

 日本の都市をみると、東京は昨年より4ランクアップの世界22位。次いで京都が47件で1ランクアップの世界54位、札幌が19件で57ランクアップの世界125位、横浜が18件で14ランクアップの世界134位、奈良が16件で41ランクアップの世界152位、沖縄が同じく16件で90ランクアップの世界152位、福岡が15件で29ランクアップの世界164位、神戸が同じく15件で28ランクダウンの世界164位、名古屋が11件で49ランクダウンの世界208位、大阪が10件で105ランクダウンの世界222位など。

台北・日勝生加賀屋にて旅館文化の今後を語る

(左から)小田禎彦相談役、葉信村総裁、賈惠安社長、小田真弓女将(台北・日勝生加賀屋にて)
(左から)小田禎彦相談役、葉信村総裁、賈惠安社長、小田真弓女将(台北・日勝生加賀屋にて)

加賀屋(石川県・和倉温泉)
相談役 小田 禎彦 氏
「観光とはその土地の文化を味わい、またその期待に応えること」小田相談役

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ABBA RESORTS 坐漁荘(静岡県・浮山温泉)
総裁 葉 信村 氏
「旅館が今後、本当の意味での国際交流の場になれば」 葉総裁

 石川県・和倉温泉「加賀屋」が台湾の台北・北投温泉で運営する「日勝生加賀屋」を4月25日、静岡県浮山温泉「ABBA RESORTS 坐漁荘」のオーナーである「CIVIL GROUP」(本社=台湾台中市)の葉信村総裁と、同社のグループ企業で、リゾートホテル事業を行う「ABBA RESORTS」の賈惠安社長が訪れた。当日は、加賀屋の小田禎彦相談役と小田真弓女将が出迎え、互いに日本と台湾で旅館経営を行う立場から、日本文化の魅力や旅館の持つ可能性、これからの展望などについて、自らの経営哲学を交えながら思いを語り、交流を深めた。会談は、本紙が台湾で4月23―26日に行った「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」プロモーションの時期に合わせ、台北に滞在していた両者に働きかけて実現した。

≪旅館の伝統を受け継ぎ、日本文化を未来へ≫

■葉総裁:私が日本に深い関心を抱くようになったきっかけは、「越後の上杉謙信公が、敵方である武田の領民に塩を売り、その生計を助けた」という話に触れたことを始まりとします。私は彼の義の心に大変感銘を受け、その言葉は胸に刻まれました。
 その後、新潟を訪れ、人間国宝の刀剣作家・天田昭次先生に出会い、日本の素晴らしい文化でもある日本刀の魅力を知る御縁を持ちました。先生は作刀の依頼を簡単には受けない方ですが、お願いしたところ、「この刀を作る意義は何か」と問われました。そこで私が「義」という言葉を伝えたところ、先生は生涯の集大成と言える「義之刀」の作刀を承諾してくださいました。先生の遺作ともなった作品です。
 坐漁荘では、新たに「義の心」という日本刀のギャラリーを設け、皆様の目に触れていただけるよう、展示をしています。本当は客室に刀をお持ちし、手に取ってじっくりと鑑賞していただきたいところなのですが。

■小田女将:お話を伺い、葉総裁は日本人以上に、もしかしたら日本の感覚をお持ちの方のように思います。私たちも日本刀に関心があり、収集の経験がありますが、管理などは大変ではないですか?

■葉総裁:そうですね。ただ、私は文化というのは、国家民族所有のものではなく、全人類の文化遺産として引き継いで行くべきものだと考えています。 
 刀の展示も、決してコレクションとして自慢をしたいわけではありません。日本で生まれたものですから、日本の坐漁荘に置いて、多くの方にその素晴らしさを再発見していただきたいのです。
 刀に限らず日本の素晴らしい文化を、旅館を通して、国内外のお客様へお伝えしていきたいと思います。できれば、お客様には3泊くらい滞在いただき、その土地の文化をゆっくりと味わっていただきたいですね。

■小田女将:坐漁荘さんは現在30部屋ということで、お客様へ目が行き届きやすいという意味では、ちょうど良い規模ですね。少しうらやましくも思います。

■葉総裁:坐漁荘の始まりはわずか4部屋だったと聞いております。加賀屋さんも初めは4部屋だったと伺い、両館は大変似ていると思いました。共通点は女将さんが素晴らしいということです。
 御縁をいただき、坐漁荘を運営しておりますが、リニューアルに際して本館に大きな手を入れなかったのは、前オーナーとともに旅館を築いて来られた、松本美代女将への敬意でもあります。
 ヤマモモなどの敷地内の樹木も、極力残すようお願いしました。この土地で坐漁荘とともに育ってきた木にも、大きな意味があると思うのです。
 改修工事は、多くの旅館建築を手掛けられる石井建築事務所へ依頼しましたが、条件として、なるべく地元の素材を使うこと、また地元の業者に工事に入っていただくことをお願いしました。
 初めは我われを「転売目的ではないか」など疑い深く見る方もいたかもしれませんが、そうではないということを一つひとつ証明してきました。

≪国際交流の場としての旅館、文化を残すためには≫

■葉総裁:私は日本の素晴らしい温泉文化を、世界の舞台に引き上げたいという希望を持っています。
 旅館では、例えば茶会や演武、和服の展示会などを行うことで、文化の交流ができればと考えています。とくに日本の若い方、外国の方に来ていただき、互いに交流してもらいたいですね。
 時に、中国大陸など、日本と政治的に緊張状態になることがありますが、文化を通じ、互いに理解が深まることを願っています。そして旅館が本当の意味での交流の場になればと思います。
 先ほどから文化と言いますが、その文化を残すための唯一の道は、ビジネスとマッチすることだと考えます。そこが合致していないと、文化は残せないと思うのです。
 刀を例に考えても、注文し買う人がいなければ、作刀家はこの世に刀を生み出すことも、後世に残すこともできません。
 台湾には古くから、「仏様もお腹が満たされていないと、人々の願い事を叶えられない」という言葉がありますが、食べていかれなければ、文化を残すことは難しい。

■小田相談役:日本と台湾という、互いに海外で旅館を持つ者同士として、素晴らしい志を聞かせていただきました。文化論へと発展しましたが、私も文化を残すためには、ビジネスと結びつけることが重要だと思います。
 話は少し変わりますが近年、金沢の兼六園を訪れる外国の方が増えています。私は先日、イスラエルの方をお見かけしました。聞けば、高山を観光してから来たとのこと。第二次大戦中、迫害を受けたユダヤ系避難民にビザを出して命を助けた、岐阜県出身の杉原千畝氏の故郷を見るためにやって来たといいます。
 また台湾の方々は、日本統治時代にダムを作った八田與一氏を、“農業の父”として銅像まで建てて、大切に思ってくださっています。故郷に目を向け、歴史の大切さを再認識する思いです。

■葉総裁:私も今回、日勝生加賀屋さんを訪問させていただき、あらためて「台湾の文化とは何か」考えるきっかけとなりました。

■小田相談役:観光の語源は、「国の光を観る」という中国の言葉に由来しています。観光とは、その土地ならではの文化や宝を味わい、またその期待に応えることだと思います。
 昔は、文化はお金にならないものと思われていました。ですが、今は文化がないと人が集まらない時代です。人やビジネスと上手に結びつけて、文化を大切に育てていくことが重要です。
 加賀屋は「館内は美術館」というコンセプトを掲げています。地域の伝統工芸である、九谷焼や輪島塗、象嵌、金箔、加賀友禅などの作品を館内に展示し、お客様のご到着から夕食までの間に、スタッフがご説明をさせていただいております。
 まだ計画段階ですが、今年9月ごろには「美術館に泊まろう」という企画もスタートする予定です。これからも文化というものをしっかりと見据えて、経営に生かしていきたいと考えています。

■葉総裁:ビジネスモデルは多様にあり、その土地に合ったものを選択することが大切です。我われも、日本では日本の文化を、台湾では台湾の文化を感じてもらえるような施設運営を心掛けています。
 例えば東京でも台北でも、同じように均一なサービスを提供するホテルにいると、私は、今自分がどこにいるのか忘れてしまうような、どこか味気なさを感じるのです。
 お客様が、世界中を渡り鳥のように飛び回っても、その地の文化を知り、味わうことができるような滞在の場を提供していきたいと思います。

≪これからの旅館の展望、宿支える「人」を育てる≫

■小田相談役:台湾に加賀屋が店を開き、4年4カ月が過ぎました。最近では、日本の旅館の方が見学に来られることも増え、「加賀屋ができたのだから、私たちもそろそろ海外へ」というムードを感じます。
 クールジャパンを掲げる政府も、中国をはじめ、旅館ビジネスは海外でも概ね成立するのではとの見方を強めているようです。今まさに旅館文化が世界に広がる時代を迎えようとしています。

■葉総裁:温泉旅館は代々、家業として引き継がれている場合が多いですが、一つの企業としてきちんとビジネスが成り立つかどうかも重要です。
 私が思う、今後、温泉旅館が直面しうる心配事が3つあります。1つ目は、資本を持ち、ビジネスとして成立するかどうか。2つ目は、人件費の問題。そして3つ目は、女将さんが持つおもてなしの心を、今後、若い人が持てるかどうかです。

■小田相談役:例えばですが、「どこにいても、ハンバーグがご馳走」と思う世代の方に、旅館文化をどのように伝えていくかという問題もあります。

■葉総裁:そうですね。ただ「こっちの方がご馳走ですよ」と、無理やりに強要することはできません。時代の変化を受け入れることも大切だと思います。
 先日、坐漁荘がテレビ局の取材を受けた際、リポーターの方に「畳の上にベッドがあるとは、少し変ですね」と言われ、私は「おかしくはないですよ」と答えました。
 実際に、高齢の方など、布団で寝起きすることが難しい方が増えている現状があります。どう時代に沿った変化ができるか、現代の生活にマッチできるか、試行錯誤を重ねているところです。

■小田相談役:当館の場合、「加賀屋に来たのだから、畳の上に布団を敷いて寝たい」というお客様からのリクエストもあります。その経験もまた、一種のエンターテイメントになりうるのです。
 旅館は突き詰めると、「飯・風呂・寝る・楽」から成ります。「楽」は楽しむという意味です。旅館ごとにスタイルは多々ありますが、お客様は何を楽しみに、何のためにいらっしゃるのかを捉えることが大事です。

■葉総裁:私は旅館業に携わり、日々学ぶことがたくさんありますが、その中で難しいと思うことの一つが、他との差別化です。
 たしかに温泉、料理、おもてなしだけでは、極端に言えば、一見どこも同じになります。先ほどおっしゃった「楽」ではありませんが、我われは他との差別化を模索するなかで、例えば、アンチエイジングや美容、医学などを組み合わせて提供することを考えています。そのためには、ターゲットとなる客層をしっかりと決めることが必要です。すべての方を対象にすることは難しく、提供できることや目標を定めつつ、取り組んでいきたいと思っています。
 また、人材の育成や人件費の問題も経営者としては悩ましく、とても大変な仕事に就いたと思っています。これらは、我われの永遠のテーマでもあります。

■小田相談役:今年3月の北陸新幹線の開業にあたり、加賀屋では、80人の新卒採用を行いました。旅館業は大変な仕事ですが、なぜ希望するのかと彼らに問うと、「日本一のサービスを学びたい」「英語や台湾語を学び、生かしていきたい」などという答えが返ってきました。
 料理であれば、道場六三郎さんや久兵衛さんにお願いし、預けることもあります。「一人一芸」ではありませんが、例えば、茶道や華道、山野草に詳しいなど、各人が何か精通するものを持てると、それもまた、おもてなしへとつながります。
 いずれにせよ、仕事を通して自分が高まり、たとえ他に移ったとしても、培った能力が発揮できる。そんな愛のある教育が必要だと思います。
 葉総裁のお話を伺い、大変崇高なものを感じております。その意志をもはや願いと表現した方がよいかもしれませんが、実現されるのは、社員の皆様一人ひとりです。葉総裁の狙いをいかに理解し、現場で形にしていくか、実行していけるかどうかが、今後重要になるのではと思います。

■葉総裁:大変な道だとは思いますが、私はよく社員に対し、「夢を持って歩いていこう」と言います。
 もはや食べるために宿をやっているのではなく、その自負は加賀屋さんも同じだと思います。働くことや、その自負も楽しみ、夢を持って進んでいきたいと思います。
 もちろん、大変なこともあるでしょう。結果がどうなるかは私自身もわかりません。ですが、皆で努力をし、その先にある夢を叶えたいと思います。また、その過程が大切だとも思うのです。

■小田相談役:話は尽きませんが、そろそろ時間が来たようです。この度は貴重なお話を伺うことができ、大変勉強になりました。

■葉総裁:こちらこそ、次回はぜひ和倉温泉の加賀屋さんを見学させていただきたいと思います。

■小田女将:お待ちしております。私たちも坐漁荘さんにお伺いさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

芦之湯温泉と竹田温泉群、国民保養温泉地に指定(環境省)

(前方)北村副大臣を挟んで、左が山口箱根町長、右が首藤竹田市長
(前方)北村副大臣を挟んで、左が山口箱根町長、
右が首藤竹田市長

 環境省は5月1日、新たに芦之湯温泉(神奈川県足柄下郡箱根町)を国民保養温泉地に指定したほか、すでに指定されていた大分県竹田市の長湯温泉は、同温泉に、久住高原温泉郷、竹田・荻温泉を加えた「竹田温泉群」に拡大して指定された。これによって、全国の国民保養温泉地は92カ所となった。5月21日に開いた指定式では、北村茂男副大臣から箱根町の山口昇士町長と、竹田市の首藤勝次市長に指定状が渡された。

 国民保養温泉地は、温泉法に基づき温泉の公共的利用増進のため、温泉利用の効果が充分に期待され、健全な保養地として活用される温泉地を環境大臣が指定するもの。

 新たに指定された芦之湯温泉は、江戸時代に「箱根七湯」と称された温泉の一つ。文献では、鎌倉時代から湯治場として機能していたことが記載されており、自然や歴史遺産に囲まれた温泉地となっている。主な泉質は単純硫黄泉であり、効用としてはアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などがある。

 一方、竹田温泉群は日本有数の炭酸泉である長湯温泉、泉質や効能が豊富で広大なロケーションを誇る久住高原温泉郷、旧岡藩城下町や農村地域に温泉を有する竹田・荻温泉の竹田市にある3つの温泉地で形成される。主な泉質は、炭酸水素塩泉・二酸化炭素泉で、効用はきりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症などがある。

台湾で「100選」売り込む、旅館が現地旅行会社と交流(本社)

日本からの約30人が参加
日本からの約30人が参加

 旅行新聞新社は台湾で「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」事業や入選施設、日本の地域を売り込むため、4月23―26日まで、雑貨などの見本市「ギフショナリー台北」に出展した。日本からは100選入選旅館の21軒・31人が参加し、台湾の提携紙・旅奇(Travel Rich)の協力で、24日は台湾の旅行会社約30社・50人との説明会・交流会を実施した。

 また、25日はギフショナリー台北で来場者に自館をPRした。

 24日の説明会であいさつに立った旅行新聞新社の石井貞德社長は、台湾の旅行会社を前に、40年前に開始した「100選」事業を説明。「40周年を記念して台湾でのイベントを企画した。観光の面から、日本と台湾の交流を深めていきたい」と述べた。
【次号詳細】

No.402 全旅連全国大会特集、佐藤会長、北原次期会長に聞く

全旅連全国大会特集
佐藤会長、北原次期会長に聞く

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(佐藤信幸会長)の全国大会が6月3日、佐賀県佐賀市で開かれる。4期8年間の佐藤体制では、東日本大震災や耐震問題などさまざまな課題に直面し、一つずつ成果を上げてきた。今期からは北原茂樹氏が会長を引き継ぎ、耐震問題など「佐藤会長が成し遂げてこられたものを強固にしていく」と決意を語る。佐藤会長には8年間を振り返っていただき、北原次期会長には今後の抱負や、旅館業界の課題などを語ってもらった。

【聞き手=増田 剛】

 

 

佐藤信幸氏
佐藤信幸氏

一歩ずつ前進し一定の成果、佐藤信幸会長(日本の宿古窯)

 ――佐藤体制8年間を振り返って。

 全旅連活動では1995―96年度に青年部長として活動しました。03年からは、小原健史会長のときに東北ブロック会長も兼ねて2期4年間、財務担当の副会長を務めました。そして07年から4期8年間、全旅連の会長を引き受けさせていただきました。

 □NHK受信料問題

 会長に就任して最初に大きな課題に直面したのは、NHKの受信料の問題で、NHKはホームページで「受信料の事業所割引を導入する」と発表されました。事業所割引と言いながら、実際はテレビの設置台数がわかりやすい「旅館・ホテルを対象とした制度」ではないかと大きな問題になりました。これまでは施設ごとに異なっていたNHKの受信料が一律50%割引で徴収するということになり、全旅連を中心とした当時の宿泊5団体では到底受け入れ難く、英国のBBC方式(15室までは1契約、さらに5室増えるごとに1契約)ならば、ということで話し合いを進めていました。双方譲らず膠着した状況のなか、NHK側から全旅連をはじめ、宿泊5団体に「集金業務を引き受けてもらえないか」という提案がありました。

 小原体制のときに財務担当の副会長だった私は、…

北原茂樹氏
北原茂樹氏

耐震問題「この2年が勝負」、北原茂樹次期会長(旅館こうろ)

 ――全旅連会長に立候補された理由は。

 青年部の時代から約30年間、全旅連という組織に関わらせていただきました。小原健史会長の体制では、専任理事という立場でさまざまな仕事もさせていただきました。その後、常任理事として佐藤信幸会長を補佐してきました。

 佐藤体制の8年間には東日本大震災や、原発補償、耐震問題、NHK受信料問題、固定資産税減免など、天災や数々の難題に直面しましたが、佐藤会長が一生懸命対応され、大きな成果も出されてきました。佐藤会長がやり遂げて来られたものをさらに強固なものにしていくことが、私の最後のお勤めかなと思いました。

 とくに耐震問題は佐藤体制の最後に突然出てきた大きな問題で、補助金制度の交渉も現在進行中であり、各都道府県の対応も定まっていないなか、「きちっと詰めていかなければならない」という思いは強くあります。というのも、…

 

※ 詳細は本紙1585号または5月21日以降日経テレコン21でお読みいただけます。