個人客志向へ転換、サービスを劇的に変化

リョケンセミナー 浜の湯で開催

浜の湯・鈴木良成社長

 リョケン(佐野洋一社長)は7月10―11日に静岡県・伊豆稲取温泉で、2017年第1回(通算159回)旅館大学セミナーを行った。1日目は「食べるお宿 浜の湯」の鈴木良成社長が「成長を続ける『浜の湯』の経営戦略」と題し講演。計145人の旅館経営者らが集まった。「浜の湯の『個人客志向』をぜひ学んでほしい」(佐野社長)。浜の湯は完全担当制と部屋出しを徹底し、リピーターを取り込んでいる。個人客旅館を追求するなかで、これまでの変遷を語った。 【平綿 裕一】

 転機は02年の設備投資。「個人客志向へと高質化の転換期だった」(鈴木社長)。昨年の第5期設備投資まで、施設の個人客化をリピーター向けに進めてきた。第5期ではバーラウンジを新設。夕食までの間は3回以上来館して、宿に直接予約した客だけが入室可能。アルコール類を無償で提供し、リピーターにこだわった空間にした。

佐野洋一社長

 ただハード面の施設は個人客・高質化したが、ソフト面のサービス強化が遅れていた。サービスを劇的に変えるため、4年制大学に絞った新卒採用を始めた。

 鈴木社長が会社説明から最終選考まで一貫して行う。学生には選考過程で宿の考え方や方向性を理解してもらい、共有する。「何度も話したうえで、最後まで残ってくれる。だから絶大な信頼がある」。徐々に新卒採用が増え、現在客室係は若年層が半数以上を占める。「これでサービスレベルが大きく上がった」と振り返る。

 さらに「今の時代はいかにリピーターに合うパーソナルサービスをするかが勝負だ」と強調。とくに力を入れるのが顧客カルテだ。来館のたびに新たな顧客情報を追加する。些細な会話から、料理の好みや写真撮影は必要かなど多岐にわたる。情報を元に浜の湯だけのパーソナルサービスを積み重ねていき、リピーターを囲い込んでいく。

 これらを追求するため「完全担当制」「部屋出し」を徹底。客に密接に関わる機会が多く、細かい情報を仕入れることが可能だ。「ものをいうのは情報量。完全担当制と部屋出しはつぶれるまでやっていく」とこだわりを見せた。

 このほか独自の宿泊プラン造成や、団体向けの料理を一品出しへ段階的に変えるなど、間断なく手を打ってきた。宿泊単価は年に1500円ほど上げて、今の平均宿泊単価は3万円を超える。直販の客は7割。繁忙期に全体の3分の1がリピーターという状況だ。「これまでリピーターを少しずつ増やしてきた。徐々に高単価の部屋に宿泊して下さるリピーターが増えた結果、現在に至る」と述べ「まだ成長していきたい」と締めくくった。

 講演後は浜の湯の館内で、参加者はリニューアル後の客室やバーなどを視察。個人客化の変遷を肌で感じていた。


新設のバーラウンジを見学
一圓泰成社長
井口智裕社長

 2日目は彦根キャッスル リゾート&スパ(一圓泰成社長)、越後湯澤HATAGO井仙(井口智裕社長)の代表と社員が講演。「若手社員が主役『私はこんなに旅館が楽しい!』」と題し、社員の業務や働く目的、考え方を発表した。

 次回は12月12―13日、千葉県・木更津三日月温泉「龍宮城スパ・ホテル三日月」を予定。
 
 

託児所委託契約を締結、女性が働きやすい環境を(RAKO華乃井)

白鳥和美社長

 長野県・上諏訪温泉のRAKO華乃井ホテル(白鳥和美社長)はこのほど、諏訪市内にある託児所「ももいろのきりん」と、地域初となる外部託児所の委託契約を締結した。同施設で働く子育て世代の女性スタッフが働きやすい環境を整えるため、託児料金の一部を補助。託児所は優先的に受け入れ、要望により営業時間外の託児も行う。

 今回の託児所委託契約について白鳥社長は「女性が働き続けられる企業にしたい。結婚出産を機会に退社を選択させてしまうことにずっと心を痛めていました」と語る。サービス業は女性スタッフに支えられていると言っても過言ではない。人をもてなすことができるサービス業が好きで、生涯の仕事にしたいと願う女性も少なくないという。「しかしながら、当社のような宿泊業では土・日曜が休みでなく、シフト制で不規則な業種(労務体制)なため、出産後は非常に働きづらい環境となります」。

 子育てをする女性の一番の悩みは「子供を家で1人にできないこと」だ。その悩みを解決するため諏訪市内にある公共的な託児所の利用などを検討したが、延長託児の時間にも限界があり、また週末や年末年始などの多忙期には開所しないなど、実動に添った体制ではなかった。「社内託児所も検討しましたが、中小企業の当社では運営が難しいため、断念しました」と話す。

 そのような苦悩が続くなか、2つの機会が同社に訪れる。1つは産休後、苦労しても正社員として復職したいと申し出た女性スタッフが数人いたこと。そして同社の勤務形態にも対応してくれる託児所に出会えたことだ。「さっそく託児施設代表の平田由喜美さんにお会いして悩みを打ち明けたところ、共感していただけ、まずは復職する女性スタッフのために2人で準備を進めてきました。ようやくその仕組みができ、同施設との外部託児所の委託契約が締結し、スタッフが安心して子育てをしながら復職できる環境が整いました。これにより宿泊業でキャリアアップを諦めていたスタッフが仕事を継続できる仕組みの第1歩が踏み出せました」と白鳥さんは語る。

 「当社で働く子育てと仕事に頑張る女性スタッフが働きやすいようにしたい」という思いから、今回の支援内容は正社員に限らず、短時間労働契約者(週30時間以上)も対象とした。

 「人財確保が難しいと、企業が嘆いてばかりではいけないと思います。人財育成をすべての企業が最重要項目として取り上げている延長線に、育てた人財を活かすべく企業が従業員に寄り添う時代が来ています。今回地域でも初となる託児所と当社との契約がきっかけとなり、諏訪地域が女性スタッフがより働きやすい優しい企業が集積する地域に向かっていくことが私の喜びです。ぜひ我が社がモデル社となり、多くの中小企業がこの仕組みを使って『子育てをガンバル女性に優しい諏訪市』が今以上に広がっていくことを願っています」と力を込めた。

 託児所「ももいろのきりん」は、0―9歳児を対象に開業。働く女性が利用しやすいよう営業時間が自由にできる認可外をあえて選択している(許認可の要件はそろっているがあえて認可にしていない)。営業時間は午前8時―午後10時(最大翌日2時)まで。お盆、年末年始を除いて無休。相談すれば時間外も対応している。所在地は長野県諏訪市四賀赤沼1676―2。

地元産品の再建支援、新事業創生と販路拡大へ、ふくしまみらいチャレンジPJ

テスト販売も実施

 「ふくしまみらいチャレンジプロジェクト」は6月に2年目を迎えた。同事業は2011年の東日本大震災以降に、避難指示などの対象となった同県被災12市町村の事業者を支援するもの。地元で親しまれる産品や伝統工芸品の再建を後押し、新たなビジネスの創出と、販路拡大をはかる。1年目は52事業者を支援。2年目は倍増の100以上の事業者を目指す。^t【平綿 裕一】

 福島相双復興官民合同チームと連携し、経済産業省の委託事業「17年度地域経済産業活性化対策委託費(6次産業化等へ向けた事業者間マッチング等支援事業)」の取り組みとして、ジェイアール東日本企画が受託し運営している。

 対象は(1)田村市(2)南相馬市(3)川俣町(4)広野町(5)楢葉町(6)富岡町(7)川内村(8)大熊町(9)双葉町(10)浪江町(11)葛尾村(12)飯舘村――の被災12市町村。地域の持続的な経営確立・産業創出を目指し、まちの復興をサポートする目的がある。

 支援はヒアリング後に事業者ごとに方針を検討・決定し、具体策を講じる。例えば昨年度は専門コンサルタントを派遣することで、商品力強化をはかった。

 既存商品の名称やパッケージデザイン、キャッチコピーなどを改良。マーケティングやブランディングも見直した。首都圏などで「ふくしまみらいチャレンジキャラバン」の特設コーナーを設置。支援を通じて開発・改良された商品を中心にテスト販売を実施した。

 一方、伝統工芸品の存続にも力を入れた。「大堀相馬焼」は避難先で原料入手が困難となった。派遣した専門家は「新しい大堀相馬焼」を提案。現在入手可能な原料の使用や、現代のライフスタイルに合わせた新作開発をアドバイスした。

 この取り組みで生まれた「新たな大堀相馬焼」は、全国規模の「テーブルウェアフェスティバル」に出展するまでに至った。このほか事業者間のマッチング交流会も開くなど、昨年度はさまざまな手を打って出た。

 被災から6年経ったが、帰還や移転後の事業再開は難しさが残る。引き続き被災12市町村のより多くの事業者を積極的に後押しして、再起をはかる。

No.467 インスタグラム×お祭り×アナリティクス、地域へ集客、ベンチャーが実現

インスタグラム×お祭り×アナリティクス
地域へ集客、ベンチャーが実現

独自の発想と高い技術力で、自治体といった大組織では着手し難い分野にチャレンジするベンチャー企業。IT(情報技術)化とグローバル化が加速するなか、集客力や競争力を高めるためにも、ベンチャーの持つ創造性は味方に付けたいところ。今回、SNSの活用から、お祭りを通じた地域活性、位置情報解析まで、集客に直結する分野で活躍するベンチャー企業が集まり、地域を盛り上げる施策や、連携の可能性を語り合った。ベンチャーならではの発想を取り込むキッカケにしてほしい。

【司会進行・構成=謝 谷楓】

 

【座談会参加者】
石川 豊 社長 ナイトレイ
加藤 優子 代表 オマツリジャパン
松重 秀平 執行役員 テテマーチ

※順不同

 ――SNS(交流サイト)の活用を通じて期待できる成果について。

松重:テテマーチは、SNSのなかでもとくに、インスタグラムに特化したサービスを提供しています。インターネット上で写真コンテストを開くことのできるキャンペーンCMS(コンテンツ管理システム)「CAMPiN」を提供し、主に地域の観光協会が利用しています。
自治体が指定したハッシュタグを付ければ、誰でも気軽に地域の景色やお祭りのようすを発信し、写真コンテストに参加できます。閲覧者の共感を誘い、訪れたいと思ってもらえるキッカケとなるため、来訪者の増加を期待できます。
一例ですが、栃木DC(デスティネーション・キャンペーン)県央地域分科会の場合、写真コンテストに地域住民も参加してもらえる工夫をしました。その結果、地域の魅力を再発見することができました。例えば、地域の養蜂園で販売しているジェラートの写真が投稿され、インスタグラムで共感を呼んだことがありました。地域住民が、ガイドブックにも載っていないコンテンツを見つけて発信し、知名度や集客アップに貢献できたのです。

加藤:インスタグラムでの投稿を促す秘訣はありますか。
実は以前、インスタグラムを利用し、お祭りの写真コンテストを行ったことがあったのですが、投稿数が思うように伸びなかったことがありました。

松重:ポスターやフライヤーを利用してPRする自治体もありますが、“フォトジェニック”な場所など、環境づくりから始めることが大切です。写真コンテストでは、優勝者に特産品をプレゼントするなど、インセンティブを通した投稿喚起も必要です。撮りためた写真を眠らせている方の投稿を誘うことにもつながります。

 ――共感を通じて来訪を募る取り組みと、位置情報の解析は相性が良いと思います。ナイトレイとの連携の可能性について教えてください。

石川:2社の連携は十分可能です。例えばキャンペーンを行う際、企画理由の裏付けとして、ナイトレイの位置情報解析データを活用できるのではないでしょうか。
ナイトレイが提供する「インバウンド インサイト」では、訪日外国人旅行者の位置情報にフォーカスし、国籍のほか、口コミや写真といったSNSの内容から、旅行者がどこで何に興味を持っているのかを把握できます。データに基づいた、地域ごとの滞在人数の推移や、来訪者数の予測も行うことが可能です。

 ――活用事例を教えてください。

石川:自治体のインバウンド担当者だけでなく、イベントやキャンペーンの企画を提案する広告会社の方々が利用する機会が多いですね。客観的なデータに基づく解析結果を知ることができるため、企画内容をもう一歩引いた視点で俯瞰できるのです。企画したキャンペーン設計自体をブラッシュアップすることも期待できます。

 ――お祭りを主催する際、ターゲットの設定時に利用できそうですが。

加藤:ターゲットの選定について、意識する方としない方がいて、地域によって温度差があるようです。さまざまな施策を行い、チャレンジを続けるなかで、次の一手が分からないという自治体がとくに興味を持つのではないでしょうか。
外国人に対し、ブランドを訴求したいと考える企業は多いため、「欧米系/30歳代男性が集まる地域はどこか」を知りたいという需要は高いはずです。ナイトレイが行う解析結果を伝えることで、企業と自治体の連携をサポートできるのではないでしょうか。

――自治体と企業をつなぐ役割も、オマツリジャパンは果たしているようです。

加藤:オマツリジャパンではほかにも、企画運営といったお祭りのプロデュースや、訪日外国人旅行者向けの、お祭りを楽しむツアーを催しています。青森県のねぶた祭りに参加してもらうなど、地域の方々との交流を通じ、日本の“粋”を体感してもらうよう努めています。…

 

※ 詳細は本紙1678号または7月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

民泊 ― 見知らぬ個人が予め善意を期待する

 福岡県福岡市で民泊を利用した外国人女性に乱暴し、強制性交等致傷の疑いで貸主の男が容疑者として逮捕される事件が発生した。「住宅宿泊事業法」(民泊新法)が今年6月9日に成立し、来年初めにも施行されるなかでの事件となった。

 被害を受けた女性は、容疑者が民泊施設として提供したワンルームマンションをインターネットで予約していたという。

 民泊を考えるとき、まず頭に浮かぶのが、やはり安全性についてだ。今回のようなケースでは貸す側、借りる側の双方にリスクが生じる。また、出火の危険性や騒音、近隣のルールに従わないゴミ出しの問題もこれまで数多くの事例として紹介されている。多くの民泊仲介サイトでは貸主と借り手を相互評価するレビュー制度を設けており、安全対策としてかなり有効に機能していると、一定の評価も受けていた。

 しかし、今回の事件は、民泊が内包する〝闇〟の部分が改めて強調された。

 旅は基本的に「危険なもの」である。旅館やホテルであっても、さまざまなトラブルに巻き込まれる可能性は否定できない。初対面の一般の個人を信頼して宿泊する民泊は、旅のリスクがさらに上がる。

 旅館やホテルと同じように、民泊施設の提供者も旅行者を宿泊させることができる。だが、旅館・ホテルと民泊は明らかに違う。

 旅館・ホテルは旅行者を宿泊させるためにさまざまな法律の遵守が義務付けられ、長い歴史を築いてきた。一方、民泊は「空いたスペースを有効活用する」という経済効率的な観点が優先され、ようやくできた法律がさまざまな犯罪やトラブルを後追いしている状態だ。

 この事件が生じたから、「民泊は危険極まりない」と声高に叫ぶつもりはない。もちろん、良心的に施設を提供している貸主はたくさんいる。しかしながら、民泊には危険も潜んでいるという、当たり前の認識を旅行者がしっかりと持つことが大事だと思う。

 民泊は見知らぬ者同士の善意に基づいている。旅館業、ホテル業という宿泊を生業とするプロ集団ではなく、未知の個人と個人の信頼に基づいたマッチングに委ねる。予め一度も会ったことがない見知らぬ人の善意に期待し、依拠しながらの旅は、脆く、どこか居心地の悪さを感じさせるのだ。一般的に、個人間の信頼というのは長年の付き合いのなかで生まれるもの。そして、信頼関係は人間のウェットな部分だ。そのウェットな部分に頼りながら、初対面というドライな関係。そこに少し違和感を覚えてしまう。

 旅館やホテルは宿泊客を守る法律でしばられている。玄関付近にフロントのカウンターがあり、宿泊者以外の不審者にも目を光らせる。旅館では、女将さんや支配人が笑顔で声を掛ける。仲居さんやフロアスタッフらが常に館内を歩きまわり、また宿泊者同士でも監視の目が働いている。私は、スタッフが働くなかで宿泊する安心感を、いつも肌で感じている。

 旅館やホテルはもっと民泊との違いをアピールすればいいと思う。朝に食事処で炊き立てのご飯や地元の新鮮野菜、採れ立ての魚を出す努力。また、宿を出るときに、玄関でずっと手を振りながらお見送りする。愚直だが、旅館の存在証明としては強烈だ。

(編集長・増田 剛)

米メタサーチ大手、本格参入、日本に人員を配置、投資も(カヤック)

デビー・スー氏(左)、山下雅弘氏

 世界大手のメタサーチ(旅行横断検索エンジン)、KYAK(カヤック)が日本に本格参入へ――。米国・プライスライングループのカヤックは2014年に日本語サイトを開設し、法人を設立した。一方、人員は配置していなかったが、今年の4月、日本カントリーマネージャーとして山下雅弘氏を起用した。今後、マーケティング予算の増額など投資を行い、日本市場へ本格的に乗り出していく。
【飯塚 小牧】

 カヤックはOTA(オンライン旅行会社)や航空会社など数百の旅行サイトなどを横断検索し、ウェブサイトやモバイルアプリで、希望に沿った航空券やホテル、レンタカー、航空券とホテルのパッケージ商品の情報を提供している。04年に米国で設立して以降、世界40の国・地域で20言語に対応したサービスを展開。世界で毎年15億回の検索を処理し、アプリは6千万回ダウンロードされている。ビジネスモデルとしては、広告やクリック数、サイトを通した予約数で収益を上げている。

 価格比較サイトにとどまらず、旅行者に便利なツールを用意しているのが特徴で、価格の最新情報を配信するプライスアラートや料金予測、旅程管理機能などがある。とくに、旅程管理機能の「トリップス」は、検索保存から予約管理、旅行プランの作成まで1つで行える無料ツール。他社サイトで予約したものもメールで送信すると取り込むことができる。空港までのリムジンバスの予約内容や航空券の座席番号、現地でタクシードライバーに表示できるホテルの住所など、旅行者が求めるものを備える。

 7月11日、東京都内で開いた会見で、同社シニアバイスプレジデントのデビー・スー氏は今回の参入について「日本市場は航空会社などプレイヤーが多く難しいが、重要な市場だと捉えているので本格的なマーケティングを行う」と語った。これまで日本語サイトはとくにPRはしていなかったが、毎月ユーザーは伸びている状況で、勝機はあるという。「日本ではまだ小規模なプレイヤーだが、我われはグローバル企業なので、提携先も世界ベースで有しているのが強み」と、他社との違いを示した。

 また、日本やアジアは欧米と違い、モバイルからのアクセスがパソコンよりも多く、近距離ではモバイルで検索から予約まで完了する傾向がある。今後は日本人が好むホノルルや台湾、バンコクなど近距離の目的地のデータ発信などにも注力していく考えだ。「日本ではメタサーチやOTAの違いなどの教示も必要だと思う。より多くの人に活用してもらえるよう発信していきたい」。

 日本カントリーマネージャーの山下氏は国内でのブランド事業展開と運営を担う。現在、日本のOTAや航空会社との提携を進めており、大手OTAやLCC(格安航空会社)は概ね契約に至っている。今後の課題は国内では欠かせない鉄道。「旅行者が検索したときに求める情報があるようなサイトにしなければならない」と意気込んだ。

 一方、民泊は今後注力して伸ばしていく分野だと捉えている。民泊予約サイトのホームアウェイとは提携しており、米国ではすでに物件が表示されているが、今後、日本でも公開を検討する。

「トリップス」のモデル画面

山形県・天童温泉 松伯亭あづま荘、ねこ女将「まいちゃん」が人気、自慢看板猫ランキング2位

ねこ女将「まいちゃん」の
決めポーズ

 山形県・天童温泉「松伯亭あづま荘」は天童温泉で唯一の屋根のない開放感あふれる露天風呂と絶品山形牛料理が自慢の宿だ。同館のマスコットキャラクター的な看板猫、ねこ女将「まいちゃん」が大人気で、楽天トラベルが主催した2017年版「全国の宿 自慢看板猫ランキング」で第2位に入賞している。今話題の猫の女将さん「まいちゃん」について、同館の髙橋和也常務に話を聞いた。
【古沢 克昌】

 ――ねこ女将「まいちゃん」が誕生した経緯を教えて下さい。

 猫のまいちゃんは小さいころから好奇心が強く、よく家から脱走しては家族を困らせていました。それならば旅館の広いロビーで遊ばせてあげようと連れてくることが多くなり、次第に旅館に猫がいるという噂を聞いたお客様から会いたいという要望が増え、冗談半分で猫に会える宿泊プランを作成したことが始まりです。

 ――今年度の楽天トラベル主催「全国の宿 自慢看板猫ランキング」で第2位に入賞されていますが、人気の理由は何だと思いますか。

 あづま荘内では、まいちゃんは〝奇跡の猫〟と呼ばれています。ブランド猫を彷彿とさせるような可愛い容姿と大きな眼。自分は接客業だと分かっているのか、フロントにお客様がいる間はほとんど動かず、カメラ目線もビシッと決めます。鳴かないし、大人しい、そんな猫だから人気なのではないでしょうか。

 ――宿泊されたお客様からの猫の女将さんの評判はいかがですか。

 皆様から「かわいい!」と大変評判をいただいております。まいちゃんに会うために何回も宿泊されるお客様や、テレビや雑誌の記事をまとめられている方などもいて、アイドルのような存在になってきています。小さいお子様など、初めて猫と触れ合うお客様も多く、親御様からも喜ばれております。

 ――最後に「松伯亭あづま荘」の一言PRをお願いします。

 天童温泉にて開湯から歩み百数年。伝統に革新と奇抜さを取り入れながら、さらなるお客様満足を目指し、日本が誇る旅館文化を守るために動いていきます。

「松伯亭あづま荘」の外観

全国27空港を認定、〝支援型〟分け、地方誘客へ(国交省)

 国土交通省航空局航空戦略課は7月4日、全国27空港を訪日誘客支援空港に認定した。各空港の誘客実績などに合わせて「拡大支援型」「継続支援型」「育成支援型」に分類。訪日外国人旅客の地方誘客促進と、2020年4千万人達成に向け、国際線の新規就航・増便や着陸料の割引などの支援を開始する。 

 7月4日の会見で石井啓一国土交通大臣は「空港がある自治体などで国際便の就航や、訪日外国人旅行者のさらなる誘致に向けた意欲や機運が高まり、地方誘客の一層の促進を期待している」と語った。

 拡大支援型には、仙台空港や熊本空港など19空港を認定。「地方空港受入環境整備事業費補助金」や「CIQ(税関・出入国管理・検疫)施設の整備補助」による支援を行う。なお、北海道の稚内と釧路、函館、女満別、帯広、旭川空港は、一体運営の予定があり、1空港としてカウントする。

 継続支援型には、長崎空港や花巻空港など6空港を認定。インバウンド割引制度の継続や「地方空港受入環境整備事業費補助金」の一部による支援を実施していく。

 また、訪日誘客に高い意欲を持つ松本空港と下地島空港(沖縄県)を育成支援型に認定。継続支援型同様の支援を行うほか、観光庁や日本政府観光局(JNTO)なども訪日誘客実現に向けた戦略・計画策定などを合わせて支援する。

パンダくろしお運行

 東京・上野動物園で6月にパンダの赤ちゃんが誕生したことが話題となったが、日本におけるパンダ王国といえば和歌山県。白浜町にあるアドベンチャーワールドでは現在、5頭のジャイアントパンダが暮らしている。とくに昨年9月に誕生したメスの結浜(ゆいひん)は、その愛くるしい姿が来園者に人気だ。

 そんなパンダ王国をPRする列車が8月5日にお目見えする。今年発足30周年のJR西日本が、来年で開園40周年を迎える同園とコラボし、京都―新宮駅間で運行する特急「パンダくろしお『Smileアドベンチャートレイン』」だ。車体前面にはパンダの顔、ボディーにはさまざまな動物をラッピングするほか、座席には、パンダの顔がデザインされたヘッドカバーも。定期列車として19年11月ごろまで運行予定。

【塩野 俊誉】

秋田県・ふけの湯温泉 ふけのゆ・阿部 剛右(あべ・ごうすけ)社長に聞く

阿部 剛右社長

 秋田、青森、岩手県を跨ぐ八幡平最古の秘湯として知られる、ふけの湯温泉ふけのゆ(阿部剛右社長、秋田県鹿角市)。宝永年間(1704―1710年)から現在に至るまで、多くの秘湯ファンに愛されている。今年6月、この秘湯の宿に、枡風呂・樽風呂に続き、岩風呂が完成。また一つ新たな魅力が加わった。剛右社長の母・恭子(きょうこ)女将(会長)が作る山菜料理も 〝すべて手作り〟という徹底ぶり。「お客様には心身ともに元気になって帰ってもらいたい」と話す。
【増田 剛】

山菜料理はすべて手作り、岩の野天風呂も新たな魅力に

 十和田八幡平国立公園の頂上近くに位置するふけの湯温泉。標高約1100メートルの地に、白い蒸気がもくもくと上がっている。

 1953(昭和28)年に建てられた本館は、昭和の学校の校舎のようだ。中に入ると、磨かれた廊下が光っている。とくに夜は淡いライトの反射光が綺麗だ。「『昔の面影が残る古い施設がいい』とおっしゃっていただけるお客様も多く、なんとか現状を維持させることを考えています」と剛右社長。古民家を移築して、似たような近代的デザインに改築する施設が増えているなかで、「素朴な『古さ』も個性の一つなのかなと思っています」と語る。

阿部 恭子女将

 その一方で、時代の流れに沿った施設の「使いやすさ」も追求している。食事処は高齢の宿泊客に配慮して、小上がりをすべてイス・テーブル席に変えた。1階のトイレをバリアフリー化し、車イス、スロープも整備した。客室も少しずつリニューアルしている。 

 現在は新館の3室に加え、本館1階部分の5室がトイレ付客室。2階の18室と合わせて計26室。今後、昔ながらの2階客室についても、和洋室に改築していくことも視野に入れている。「ベッドを入れても、畳の間は残したいですね。自分もほかの旅館で温泉に入ったあとは、大の字になって冷たい飲み物を飲みたい。この感覚に共感してもらえるお客様はきっといるはず」と笑う。 

 岩風呂を自分たちで造る

 「多くの人に来ていただく動機付けになれば」と、枡風呂・樽風呂に続き、今年6月、新たに岩で組み上げた野天風呂を自分たちの手で造った。

 「敷地の中はどこでも泉質の異なる温泉が沸いてきます。お風呂をたくさん造って、『お客様が好きなお風呂に入れるようにしたい』という夢をずっと持っていました」と恭子女将は話す。「源泉の温度が高いので、蒸気を使ったスチームサウナもできるのではないかと思っています」と剛右社長も乗り気だ。

枡風呂、樽風呂に続き、岩風呂も完成(手前)
白い蒸気が上がるふけのゆ。秘湯ファンにはたまらない

 先進的な湯治場

 福岡県で生まれ、東京で育った恭子女将は、1963(昭和38)年に先代と結婚すると同時にふけのゆに入った。

 それから10年後の73年のことだ。山崩れが発生し、敷地内の山側の湯治場がすべて押しつぶされた。幸い宿泊客は全員無事だった。当時は常時600人から多い時は1千人の湯治客がいたという。その湯治客が行くところがなくなり、近くの後生掛温泉や玉川温泉に流れて行った。

 「こんな山奥ですが、浄化槽をつけてウォシュレットのトイレを整備したのも近隣では最初でした。ベッドを導入したのも早かったですね。山の上の半年経営ですが、湯治客は年間10万人を超えていました。館内の売店も昭和40年代で100万円の売上がありました」と振り返る。恭子女将が結婚した当時、色々な惣菜を作り、湯治客には好評を得ていた。

 料理はすべて手作り

 女将は今も厨房に立つ。忙しい時は朝4時に起きて山に登って山菜を取り、夜10時まで座ることもなく働いている。

 料理はすべて手作り。味付けも出し汁をベースにして無添加というこだわりようだ。「温泉と自然環境と、料理が特徴です。素朴さもお客様には喜ばれます。リピーターは多いですね」と語る。

 宿の基本となるモットーは「お越しいただいたお客様に内側からも、外側からも元気に帰っていただく」こと。「内側は料理で、外側は自然環境と温泉で、すっきりリフレッシュして帰ってもらいたい」という強い思いが伝わる。

 「海の幸に比べるとお膳の華やかさには負けますが、標高約1100㍍の山の宿では、マグロの刺身を出すよりも、川魚を出したいと思っています」と剛右社長は力を込める。「その日に採れた山菜でメニューも変わります。夕食に合わせてぎりぎりに作っており、でき上がる直前に変更したり、どんなメニューになるのかわからないので、お品書きもありません」。このため、スタッフがお客とコミュニケーションを取りながら説明している。

すべて手作りの山菜料理

 フキノトウやコゴミ、ワラビ、アザミ、フキ、アイコ、ミズなど季節の山菜を、剛右社長と、もう1人のスタッフが採り歩いている。「お客様には新鮮で、美味しい食材で料理したい。買うことは簡単ですが、それだと自分の目で食材を選ぶことができません。同じ場所に生えている山菜でも、食べて美味しいものと、そうでないものがあります。せっかくお越しいただいたお客様にお出しする山菜は、自分の足で採り歩き、自分の目で選びたい」と強調する。極力、生のものを使っている。「採りに歩く方が人件費もかさみます。そして、採ってきた後の処理がすごく手間が掛かるのです」と話す。「買って来た山菜はすでにアク抜きが終わっているものもあります。採って来て、すぐに茹でて食べられると思われるかもしれませんが、実際は茹でた後に水に浸して、アク抜きをして、その後皮を剥いだり、色々と手を入れなければなりません」。

 イワナやニジマスなどの川魚は、岩手県側の岩手山と八幡平の湧水で養殖しているところから持って来て、自館の水槽に入れる。事前に連絡し、エサをやらないようにして臭みを抜く作業を行う。さらにふけのゆの沢水で数日間置くことで臭みをとり、ようやく刺身や焼き魚にして提供する。「川魚が苦手なお客様もいらっしゃいますが、『食べてみたら美味しい』とおっしゃっていただけるお客様が多いですね」という。「自分たちが手間を掛けることによって自信を持てる料理をお出ししています」と剛右社長は話す。

 以前、春にフキノトウを出すと、宿泊客から「その辺で採ってきたものを手っ取り早く出しやがって」と文句を言われた。「でも、そのフキノトウでさえ、本当に美味しいものを選んで採り歩いてきたものなのです。苦味のあるものや、柔らかいものなど、その色と葉で見分けがつくものなのです」。

 一方、「『手が掛かる山菜の料理をこんな風に出すなんてすごいね』と言っていただけるお客様も多いです。山菜がすごく手間が掛かることを分かってくださっているのですね」と剛右社長は笑みを見せる。 

 森林セラピー基地に

 今は2―3週間以上の長期間滞在する湯治客はほとんどいないというが、「滞在客には毎日料理を変えます。食材が同じでも調理法や、味付けを変えます」。

 山の宿ならではの工夫はそれだけではない。「救急車が来るにも1時間かかるので、救命講習の指導が可能な普及員の資格を持つスタッフが5、6人います。AED(自動体外式除細動器)も備えています。さらに自然豊かな環境を生かし、森林セラピー基地の認定を受け、女将が森林セラピストガイドの1級の資格を取得している。

 スタッフは現在11人。支配人と経理担当は通年雇用だが、ほかのスタッフは季節雇用だ。「なかなか思うようにいかないのが現状ですが、皆が楽に働けるような環境づくりをしたいと考えています」と剛右社長。人手不足に悩むのは、多くの宿と共通する。

 それでも、「お客さん同士が意気投合して『来年もここで会いましょう』と約束をされることもあります。そういう雰囲気を残していきたい」と笑顔で語る。

昭和の面影を残すふけのゆの外観
磨かれた廊下が光って綺麗