東京観光タクシードライバー、1割の7千人目指す

東京観光タクシーのロゴ
東京観光タクシーのロゴ

 東京ハイヤー・タクシー協会(富田昌孝会長)はタクシー生誕100周年を記念し、2012年から「東京観光タクシードライバー認定制度」を開始した。1回目の100人からスタートし、これまで約1150人が認定を受けているが、東京のタクシー乗務員数の約7万人からみると、まだ少数。同協会は20年の東京五輪の開催などを見据え、認定者数の増加や認定制度の普及をはかっていきたい考えで、五輪までにドライバー数1割の7千人の認定を目指す。

【飯塚 小牧】

 
 

認定制度の普及を

 タクシー利用活性化の一環として展開する東京観光タクシー認定制度は、観光都市・東京の観光知識を有し、質の高いサービスを提供できるドライバーを育成する事業。認定資格を得るには東京シティガイド検定に合格していることと、ユニバーサルドライバー研修修了かケア輸送士資格を取得していること、東京観光タクシードライバー認定研修を修了していることが条件となる。

 3月13日には、13年度最終の認定研修が開かれ、約25人が受講した。同協会副会長でタクシー活性化プロジェクトチームの川鍋一朗リーダー(日本交通社長)は、認定制度について「これまで比較的順調に進んでおり、認定ドライバーのモチベーションも高く維持できている」と報告。一方で、認知度がまだ十分でないことから、「協会や会社、ドライバーがそれぞれの立場で自分の労力や時間、お金を出し合わなければならない。まだない市場を皆で作っていく姿勢が重要だ」と述べた。

森敬子統括サブリーダー
森敬子統括サブリーダー

 研修では導入として、観光タクシーや観光タクシードライバーについての講習を実施。タクシー活性化プロジェクトチームの佐藤雅一サブリーダー(日立自動車交通社長)や、同チームの森敬子統括サブリーダー(すばる交通副社長)らが講師となり、観光タクシーのメリットやドライバーに求められるものなどを語った。午後はロールプレイングなどで実際の動きを確認した。

 そのなかで、佐藤サブリーダーは顧客に満足してもらうためには会社との連携が欠かせないとし、「受付をしっかりしないと現場で困るのはドライバー。最大のトラブルはお客様と会えないことだが、予約を受けたスタッフが、ターミナル駅での待ち合わせの場合、新幹線を降りたところからの案内をきちんとできるようにしてもらうこと。会社任せにせず、やりやすいように話し合うこと」と語った。

 森統括サブリーダーは「観光タクシードライバーは下車観光ができないと難しい。車内で案内ができても、車から降りて歩いて案内をするのは、知識がないとできない。予期せぬ質問が怖いという人もいる」と語り、常に勉強していくことの大切さを訴えた。

 また、森統括サブリーダーは本紙の取材に対し、「18年前から数社で観光タクシー事業に取り組み、一昨年から協会として本格的に事業を開始した」と経緯を説明。今後の取り組みとしては、「旅行会社との連携や全国にあるご当地観光タクシー、例えば香川県のうどんタクシーや神戸のスイーツタクシーとコラボレーションしたイベントなどで連携し、観光タクシーをPRしていきたい。東京でオリンピックが決定したので、これを機会に、東京タクシードライバーの1割まで観光タクシードライバーを増やしていければうれしい」と展望を語った。

認定研修のようす
認定研修のようす

外国人観光客と通訳案内士を結ぶ(トラベリエンス)

 外国人旅行者向け観光ガイド業や地域活性化コンサルティングを行う「トラベリエンス」(橋本直明社長、東京都台東区)は4月15日、訪日外国人観光客と通訳案内士資格を持つプロのガイドをつなぐ観光ツアープラットフォーム「TripleLights」(トリプルライツ、https://www.triplelights.com)のサービスをスタートさせた。

 「有名観光地以外はガイドインフラが充実していない」「ガイドを見つける手段が少ない」などといった旅行者が抱える課題を解消し、訪日外国人観光客の満足度向上と、停滞している通訳案内士業界の活性化を目指している。

 トリプルライツのガイドは通訳案内士のみが登録。専門の知識と、おもてなしで知的好奇心を満たす高品質な体験型ツアーを提供する。日本各地の通訳案内士が登録しており、日本中どこでもツアーを提供できるのが大きな特徴。10言語に対応している。

 また、ホームページ上では、動画でガイドが自己紹介し、実際にガイドが案内しているツアーのようすも見ることが可能。このため、事前にガイドの人柄やスキルを知ることができ、観光客とガイドのミスマッチが起こりづらい仕組みとなっている。

 問い合わせ=電話:03(6830)0896。

小回りを利かせた企画を、業界初の共通クルーズ券開発

五島トラベル 五島 潔社長
五島トラベル
五島 潔社長

五島(ごしま)トラベル・五島社長に聞く

 五島トラベル(五島潔社長、東京都中央区)は、レストランシップのクルーズ企画を全国各地に展開し、家族連れから国賓まで幅広い多くの利用客に支持されている。全国のレストランシップを網羅しているほか、インターネットにいち早く対応し、業界初の全国共通クルーズギフト券を開発するなど、多方面でのフットワークの軽さが特徴の五島社長に話を聞いた。

【丁田 徹也】

 ――五島トラベルのこれまでの経緯を教えてください。

 企画事業自体は48年目になります。初めのうちは企業・地域団体の講演会などを企画していました。「お客様に喜んでいただくにはどうしたらよいか」を念頭に、どれだけお客様の目線になり、個々が持つ文化や価値観を企画に反映させることができるかを考えて参りました。

 バブルが崩壊して旅行業界が低迷したあと、企業などの組織・団体よりも、自由の利く個人旅行の需要が高まったため、個人に合わせた商品企画を考えた結果がクルーズでした。

 クルーズといっても企画したのは2―3時間で周遊するレストランシップで、これをバブル崩壊直後からインターネットで販売してみました。そのころは、まだインターネット販売に同業者があまりいなかったせいか注目されず、初めの半年は鳴かず飛ばずの状態でした。それでも品ぞろえを増やして販売していると、当時最大手旅行会社に次ぐほどの集客につながるようになりました。

 ――レストランシップについて具体的に教えてください。

 東京湾をクルーズする「ヴァンテアン(1717トン、約700人乗り)」は個室が多く、どんな人数にも対応できます。部屋も多彩で貴賓室からパーティールームまで用意しており、受入体制も柔軟でさまざまな企画ができるのが特徴です。

ヴァンテアンからの夜景
ヴァンテアンからの夜景

 ――レストランシップの魅力とは何でしょうか。

 五感をバランスよく満足させてくれるところや、バスや飛行機など団体旅行の窮屈なイメージがないところです。

 そして魅力を作り出すのはストーリーです。クルーズを予約するところからクルーズ後の思い出話に至るまでが一つのストーリーになるように私たちは企画します。また、手当たり次第に提案せず、お客様の価値観に合わせたオプションを段階的に用意するのです。これは食のアレルギー対策などに応用され、ほかの船会社より早く実現しました。

 「高いお金を払って船で食事をする人なんていないよ」と言われることもありますが、それはお客様が決めることで私たちが壁を作ることではありません。「たまには行ってみようか」というお客様をターゲットにして多く集客できるようにすればいいのです。インターネットをいち早く利用したのもこういったニーズのお客様が集まりやすいと判断したからです。

 「たまに」行くところを「気軽に」探せるというのも一つの魅力ではないでしょうか。こういったことを踏まえて、全国のレストランシップで使える共通のギフト券を作成し、昨年の9月から発売しています。全国共通で誰でも利用できるので通常のチケットに比べて制限が少なく利便性に優れています。各クルーズ会社の価格や販売方針などが違うので発売まで5年ほどかかりましたが、私たちは小回りが利くのでこのような企画を掘り下げていくことができるのです。

 ――アイディアはどこから得ているのでしょうか。

 例えば直接クルーズと関係のない婦人雑誌を読みます。読者層はこの時勢に高額な料金を払っても情報を求める層で、本当にラグジュアリーな生活を求めているのだと思います。このニーズがレストランシップの利用客層にもつながっており、こういった情報が大変参考になります。

 ――今後の展開について。

 蓄積したノウハウを同業者や関係者にフィードバックし、利用客だけでなく、同業者にも喜ばれるように心がけます。

 また、船以外の企画も拡大して販売したいです。現在はホテルオークラ・JALホテルズの共通宿泊ギフト券を五島トラベルのみで販売しています。船が発着できる観光地、イベントとのタイアップも増やしていきたいですね。

 私たちは、今後もお客様目線で物事をとらえ、いつまでも思い出に語ってもらえるような企画づくりを目指していきます。

 ――ありがとうございました。

山形新幹線が一新、新デザインと新列車発表(JR東日本)

山形新幹線「つばさ」の新たな外装デザイン
山形新幹線「つばさ」の新たな外装デザイン

山形DCに合わせ変更

 東日本旅客鉄道(JR東日本)は3月4日、山形新幹線「つばさ」車両の外装デザインの変更と、新幹線初の乗ることが目的となる列車「とれいゆ」の運転開始を発表した。

 山形新幹線「つばさ」のデザイン変更は6月14日から開かれる山形デスティネーションキャンペーン(DC)に合わせ、同車両の魅力向上を目的に行う。鳥類で最も美しいと言われる紫色の飾り羽根をもつ同県の県鳥「おしどり」の紫色と、県花「紅花」の生花から染料への色の移ろいを黄色と赤色のグラデーションで帯に表現。蔵王の雪の白をバックに、山形の彩り豊かな自然の恵みと新幹線の持つ躍動感を表現したという。

 デザイン変更した同車両の運転開始日は2014年4月下旬を予定しており、16年度末を目途に全編成の塗装変更を完了する予定だ。

 列車「とれいゆ」は新幹線初の乗ることが目的となる列車で、「食」「温泉」「歴史・文化」「自然」を温泉街のように散策しながら、仲間との時間や偶然の出会いを楽しむことをデザインコンセプトとした車内空間とするという。車内には畳座席や足湯などを設ける。14年7月以降に運転開始予定。

 「つばさ」「とれいゆ」ともに、同県出身の世界的な工業デザイナー奥山清行氏(KEN OKUYAMA DESIGN代表)が手掛けた。

国交大臣賞に恵那市、総務大臣賞は宜野座村(62回観光ポスコン)

「恵那市岩村 人と自然が織りなす物語。」
「恵那市岩村 人と自然が織りなす物語。」

 日本観光振興協会はこのほど、62回日本観光ポスターコンクールの国土交通大臣賞は岐阜県恵那市の「恵那市岩村 人と自然が織りなす物語。」、総務大臣賞は沖縄県国頭郡宜野座村の「ありのままの宜野座村の暮らし」に決定した。

 今回、全国から189作品の応募があり、そのうち49作品が1次審査を通過。3月18日に開いた審査会は、作家の伊集院静氏と車体デザインなどを手掛ける水戸岡鋭治氏、グラフィックデザイナーの左合ひとみ氏を専門審査員に迎え、49作品の個別審査と審議を行った。そのなかで、審査員全員から高い評価を受けた恵那市の作品が国土交通大臣賞に選ばれた。

 なお、2月6日―3月10日に受け付けたオンライン投票は投票人数が1万3073人、有効投票数は3万9352票だった。

「ありのままの宜野座村の暮らし」
「ありのままの宜野座村の暮らし」

 各賞は次の通り。

【国土交通大臣賞】
恵那市岩村 人と自然が織りなす物語。(岐阜県恵那市/JR東海エージェンシー)

【総務大臣賞】
ありのままの宜野座村の暮らし(沖縄県宜野座村観光推進協議会/東洋企画印刷)

【観光庁長官賞】
秋田デスティネーションキャンペーン(JRグループ/JR東日本企画)

【日本観光振興協会会長賞】
仙台・宮城デスティネーションキャンペーン(JRグループ/JR東日本企画)

【審査員特別賞】
いつきてもホッ!ほの国東三河(愛知県東三河広域観光協議会/エクスラージ)▽(オンライン投票4位)眠っているのが、惜しくなる。函館(函館市観光コンベンション部ブランド推進課/北海道アート社)▽東北の魅力は人だと思う。(ソーシャルコネクト/aCtion!×tohoku)

【入賞】
「森と暮らす日々」(しもかわ観光協会/Hokkaido Design Associates)▽アゲハチョウの夜景(青森県むつ市/川口印刷工業)▽東北宣伝「古牧温泉・青森屋『ねぶり流し』」(JR東日本東京支社営業部/JR東日本企画)▽大人の休日倶楽部(JR東日本/JR東日本企画)うまさぎっしり新潟(新潟県観光協会/三条印刷)▽「富山で休もう。」ポスター(富山県観光・地域振興局観光課/電通西日本)▽宇治市観光ポスター(宇治市観光協会/WEST design)▽「岡山後楽園・岡山城」PRポスター(おかやま観光コンベンション協会・岡山県郷土文化財団/セーラー広告)▽(オンライン投票1位)神話のふるさと みやざきポスター「神話の源流へ。」(宮崎県/JR西日本コミュニケーションズ)

外国人に「和婚」を、ワタベ代表、和婚会長に

日本の挙式に関心高まる
日本の挙式に関心高まる

 国内外で挙式サービスを展開するワタベウェディング(渡部秀敏代表、京都府京都市)はこのほど、京都で日本式の結婚式「和婚」を挙げる外国人を誘致するため、京都府や地元の婚礼会社、仏教会、神社庁からなる「和婚受入協議会」に参画し、協議会会長に同社の渡部代表が選出された。同社は2007年から京都の世界文化遺産の寺社などで本格的な和婚ができる「京都和婚」を展開している。

 アジアを中心に結婚式の写真撮影で京都の寺社に訪れる外国人が増えており、同協議会では台湾や香港の旅行会社を通じて京都の魅力を発信している。また、結婚式の前撮りを目的としたツアー商品の販売も呼びかけている。ツアーでは西陣織の着物を着てもらうなど京都の伝統産業の活性化にも寄与する。

 近年、寺社仏閣での撮影マナーの問題で、ほかの観光客への配慮が必要になっており、同協議会では人気撮影場所などの選定や、マナーの定義なども検討していく。

【4/26-5/6】藍染め工房2周年、浅草で体験企画や展示販売

 浅草の機織り&藍染め工房「和なり屋」は4月26日から5月6日まで、「第4回藍染め市」を開きます。開店2周年を記念して「藍染め体験&機織り体験バリューパック」を企画するほか、職人が手掛けた藍染め作品を展示販売します。

 「藍染め体験&機織り体験バリューパック」は、藍染め体験(トートバック)と機織り体験(コースター1枚)を、限定価格(1,500円)で楽しめるお得な体験プランです。ぜひこの機会に足を運んでみては。

 このほか、Tシャツやポロシャツなどの夏物商品をはじめ、ポーチやブックカバー、小物類などの全500種類の藍染め商品や新商品を販売します。

◆日時 4月26日-5月6日 午前10時-午後7時
◆会場 和なり屋 住所:東京都台東区千束1-8-10  電話:03-5603-9169

三陸鉄道 全線つながる、震災から3年「復興のシンボルに」

望月社長が運行再開宣言
望月社長が運行再開宣言

 東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸鉄道(望月正彦社長、岩手県宮古市)が3年ぶりに全線開通した。4月5日には南リアス線の釜石―吉浜間(15キロ)、翌6日には北リアス線の田野畑―小本間(10・5キロ)が復旧し、地元住民らが沿線に集まり、列車を笑顔で迎え全線開通を祝った。6日に宮古市で開いた記念式典で望月社長は運行再開宣言とともに、さまざまな支援に対して謝意を述べた。復興がなかなか進まない厳しい環境で三陸鉄道は新たな一歩を踏み出した。
【増田 剛】

 北リアス線の全線開通を迎えた6日、午前5時15分の始発電車が出発する岩手県・久慈駅には、復旧を待ちわびた地元住民や鉄道ファン、海外からも台湾の観光客らでごった返した。沿線には列車に向かって大漁旗や手を振って喜ぶ多くの地域住民の姿が見られた。

 宮古市で開かれた全線開通を祝う式典で望月社長は「三陸鉄道は生活の足としての役割を果たすとともに、産業振興や地域の活性化に貢献することを誓う」と力強く運行再開を宣言した。

宮古駅前での記念式典
宮古駅前での記念式典

 太田昭宏国土交通大臣は「三陸鉄道は1984年の開業から30周年の節目の年に全線運行再開を迎えた。被災直後から想像を絶する苦労があったと思う」と労い、「明治三陸大津波の復興のシンボルとして先人が三陸鉄道を提案してから約120年が経った今、三陸鉄道は東日本大震災の復興のシンボルとして再び甦ろうとしている。全線復旧した三陸鉄道は被災地を勇気づけるとともに、復興の加速に向けた原動力になると確信している」と述べた。

手や旗を振り三陸鉄道の復旧を喜ぶ沿線の住民たち

 根本匠復興大臣は「安倍内閣では復興の加速化を最重要課題と位置付けている。被災地全体の復旧、復興事業が一日も早く進み、被災された方々が復興に希望を持つことができるよう復興庁が司令塔となり全身全霊を傾けていく」と強調した。

 達増拓也岩手県知事は「三陸鉄道が全線運行再開できたのは、国による支援、全国からの応援、地域の皆さんの熱意と尽力など地元の底力と、さまざまなつながりの力が合わさったもので感謝したい。『線路は続くよ どこまでも、いつまでも』という思いで、持続可能な発展へ未来に向かって進んでいく誓いの機会にしたい」と語った。

 三陸鉄道沿線地域を代表して山本正徳宮古市長は「三陸鉄道の復活を機に、山田線の復旧もしっかり成し遂げていかなければならない。さらにその先には大船渡線の復旧もある。これからも力を合わせ、三陸沿岸に一本の鉄道を通し、地域住民の足として守っていきたい」と述べた。

 全線開通に合わせてクウェートの支援により導入した新車両もお目見えした。

久慈駅で始発列車を待つ
久慈駅で始発列車を待つ

久慈から宮古へ開通
久慈から宮古へ開通

No.368 入湯税を活用した温泉まちづくり - 地域維持には「安定的財源」必要

入湯税を活用した温泉まちづくり
地域維持には「安定的財源」必要

 日本旅館協会は2月19日、東京ビッグサイトで開いた経営セミナーで、大分県・由布院温泉「玉の湯」社長の桑野和泉氏が「入湯税の活用による温泉地のまちづくり」について講演。桑野氏は「まちづくりには安定的な独自財源が必要」としたうえで、「目的税として利用客から預かった入湯税は有効に活用し、満足度を上げることでお返しをすることが使命」と述べ、由布院観光協会で会長を務める立場からも、長期的な視野に立ったまちづくりの重要性を語った。

【増田 剛】

 
 
利用客から預かった入湯税、還元できる環境整備が使命

 日本旅館協会の女性経営者委員会でメンバーが集まったとき、それぞれの温泉地で、入湯税の使い道についてあまり話題になっていないことがわかり、そこで事務局の協力を得て、約3200会員にアンケートを実施しました。年末の多忙時にも関わらず、483件の回答がありました。

 アンケートの回答を見ると、「市町村の税収額」について「知っている」が55%、「知らない(未回答含む)」が45%。「市町村の入湯税の使途」については、「知っている」が41%、「知らない(同)」が59%と、地域の中で約6割の方々がお客様からお預かりして納めている入湯税がどのように使われているかを知らないという結果になりました。

 また、「入湯税の使途について市町村へ要望を提出したことがありますか」では、「ある」が31%、「ない(同)」が69%。さらに「市町村での入湯税の会計上の取り扱い」については、「一般財源」が全体の57%を占め、「特別会計」は17%にとどまり、「未回答」は27%となりました。

 

※ 詳細は本紙1541号または4月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

人口減少で地域が荒廃 ― 旅館は「地域の文化的サロン」に

 東日本大震災から3年余り経て三陸鉄道が全線開通した4月5、6日に合わせて東京から二戸に新幹線で向かい、二戸から久慈までバスで行った。二戸駅は4月だというのに雪がちらちらと舞っていた。久慈までの道程は、ほとんど人影はなく、山道は少し荒廃していた。

 6日午前5時15分発の久慈駅発、宮古駅行きの始発列車に乗り、電車の車窓から北リアス線の海を眺めた。海の色が綺麗だった。大漁旗を振る地元の人たちや、ホームに集まって全線開通を祝う地域の人たちの笑顔を映して列車は通過して行った。

 全線開通記念式典までの時間、私は東洋大学准教授の島川崇さんと田老駅に降り、復興がなかなか進まない風景に佇んだ。駅に降りても立ち寄る場所も、人もいない。ただ、街を取り囲む万里の長城のような高さ10メートルの防潮堤の上に立ち尽くし、田老観光ホテルまで歩いて、言葉少なに駅まで戻った。

 今も全国から被災地観光として訪れる人がいるが、街そのものがなければ、数十分間そこに立ち止まり、そして去っていくだけだ。まちの復興には鉄道の復旧は欠かせない。しかし、観光客を迎え入れるには、そこに地域住民の生活や暮らしの匂いがなければ成り立たない。

 4月9日付の読売新聞1面の「東京はブラックホール」という記事は衝撃的だった。「東京」というブラックホールが地方の若者などを吸い取って地方を滅ぼし、自らも狭い住宅事情や薄い人間関係などで、結婚や出産を妨げ、衰退していく。2040年以降、全国の500以上の自治体が「消滅」する可能性があるという。国土交通省は50年には国土の6割が「無人」となると推計しており、過疎地域の荒廃がさらに進むことになる。読売新聞の記事では、島根県益田市が4月1日に「人口拡大課」を新設した山本浩章市長の危機感と「必ず人口を増やす」という決意を紹介している。

 大分県・由布院温泉「玉の湯」社長の桑野和泉氏は「観光をしっかりと取り組んでいれば地域の人口は減らない」と語る。由布院市も人口約3万5千人の小さなまちである。しかし、全国から「由布院に行きたい」と思わせる強い引力を持っている。中谷健太郎氏や溝口薫平氏など若き個性的なリーダーがまちの破壊を命懸けで守り、新たな価値観を創造していった。現在は、桑野氏が観光協会の会長として由布院温泉のまちづくりの良き伝統を継承し、さらに若い世代へと引き継ごうとしている。やはり魅力ある人が地域にいなければ、人を惹き付けるまちづくりはできない。

 都会で生活する若者や、リタイア層を地方に移住させる取り組み自体はいいことだと思う。しかし、移住する建物が安っぽいおざなりな造りであったりする。自然は豊かでも周りに文化的なものがなければ誰も移住しない。2、3日の旅行と違い、移住は生活である。地域の人口を本気で増やそうと考えるのならば、小手先の割安感を打ち出した政策などでは通用しない。

 地域には文化的な背景が必要であり、その意味で、全国から人を引き寄せる力を持つ旅館は「地域の文化的サロン」としての役割を担う存在でもある。有名作家を招いての講演会や、一流音楽家による演奏会、世界的なシェフによるお食事会などを定期的に開くことも大切だ。文化的な薫りを地域に振り撒いてほしい。

(編集長・増田 剛)