「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(142)1人の想いを街の行動に 思うままに実行して

2022年11月14日(月) 配信 

 

 先日、飛行機が遅れて到着し、空港は台風の影響で激しい雨になっていました。傘を持たずに出張していたので、タクシーで自宅に帰ることにしました。

 大阪空港は近距離・長距離と行き先でタクシー乗り場が異なります。だから、案内係が居て必ず「どこまで」と聞いてきます。私は近距離なのですが、乗り場はいつもタクシー待ちが多く、こんな雨の日はとくに待たされることを覚悟していました。
 ところが、その日は台風のためか、いつもと違ってタクシー乗り場に居る案内係の姿が見えません。エスカレーターで乗り場に降りてみると、タクシーのドア前にブレザーを着た身なりの良い人が立っていたのです。

 私の前に近付き「タクシーをご利用でしょうか」と尋ねてきました。とっさにうなずくと、ドアを開けて「頭にご注意くださいね」と声を掛けて、乗車させてくれました。

 その人はタクシードライバーだったのです。その行動に強い興味がわき、車内で思わず声を掛けると「空港は、その街の顔ですから」と返事をしてくれました。

 それは、タクシードライバー研修時に、私がいつも話す言葉でした。「すごいドライバーに出逢った」と、これだけで出張の疲れは吹き飛んでしまいました。

 先日に訪ねた観光地のことです。その日も激しい雨が降っていました。車を入れようと駐車場に向かいましたが、入口には満車の看板が置かれていました。

 よく見かける光景ですが、その駐車場のスタッフは、雨の中で看板の後ろに立って、申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げていたのです。

 一旦そこを離れて、一周まわってその駐車場に戻って来ると、予想通り空車ができて、無事に駐車できました。すると先ほどのスタッフが駐車料金の受け取りに来たとき、その会話がまた素晴らしいものだったのです。

 「本日は雨の中、お越しくださりありがとうございます」と頭を下げて、施設の入口を案内したあと、「少し回り道にはなりますが、こういうルートで行っていただければ、雨を少しでも避けて歩いてもらうことができます。施設には、少し急な階段がありますが、がんばって行ってくださいね」。

 たったひとりの行動で、その街の印象は大きく変わるものです。それは、企業においても全く同じです。自分だけがやっても何も変わらないなどとあきらめないで、思うままに実行してみることです。

 誰かが始めなければ何も変わらない。小さな仕事であっても強い想いを持ってやり続けることで、やがて周りの人たちに広がり、大きな成果を生み出すと私は信じます。

 

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

 

 

 

「観光革命」地球規模の構造的変化(252)  五輪都市と創造都市

2022年11月14日(月) 配信

 

 30年前を振り返ると、国内的にはバブル崩壊後の激動期で、世界的にはソ連崩壊後の大転換期であった。そのころに大規模イベントの未来について議論がなされていた。要約すると「19世紀を代表するグローバルイベントは万国博覧会、20世紀を代表する大規模イベントは五輪だった。

 では21世紀にはいかなるイベントが隆盛化するだろうか」という議論だった。万博は「国家の科学技術の成果を競い合う祭典」、五輪は「人間の身体的能力を競い合う祭典」だったので、21世紀には「人間の精神的成果をめぐる祭典」が重要になると予想された。ところが大阪では2025年の大阪・関西万博が準備され、札幌では30年の冬期五輪誘致が検討されている。世界の変化を大局的にみると、万博も五輪も時代錯誤的な発想であり、強い違和感を禁じ得ない。

 ユネスコは04年に「創造都市ネットワーク」を発足させた。その目的は「創造性を持続可能な開発の戦略的要素として認識している都市間の協力を強化すること」。ユネスコは7つの創造的分野(工芸、デザイン、映画、食文化、文学、メディアアート、音楽)を対象にして、加盟都市認定を行っている。札幌市は13年にメディアアート分野の創造都市として加盟認定された。

 今年10月下旬に札幌市で「ノーマップス(NoMaps)」と題されたイベントが開催された。「地図なき領域を開拓する」という願いを込め、今回は3年ぶりのリアル開催。その目的は①クリエイティブ産業の活性化と他産業への波及②創業支援・新産業の創造・投資の促進③クリエイティブな市民文化の醸成④札幌・北海道の国際的知名度・魅力の向上⑤「世界屈指のイノベーティブなまちSAPPORO」の実現。

 未来に向けて切磋琢磨する人たちが集い、アイデアを広げ、気づきを共有しながら、新たな領域を切り拓くための出会いと発見が溢れる場の提供が展開された

 「Web3」やスタートアップなどをテーマにした40本以上の討論集会が開催された。NoMapsの魅力は連日夜に開催されるミートアップ(交流会)にあり、ビジネスからアート、エンタメなどジャンルを超えた人々の出会いでにぎわった。札幌の未来を冷静に考えると、冬季五輪の再誘致よりも創造都市としてのさらなる発展の方が重要と感じる。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

「津田令子のにっぽん風土記(91)」「地元密着型講座」への想い~ 東京都・国立編 ~

2022年11月13日(日) 配信

HK学園くにたちスクールのカウンター
NHK学園くにたちオープンスクール長 続 奈宇さん

 中央線の国立駅(東京都)の南口に一橋大学国立キャンパスが位置し、国立駅から南武線の谷保駅までまっすぐ「大学通り」と呼ばれる大通りが伸びている。

 

 その通りには桜並木が立ち並び、春には多くの市民が訪れ憩いの場にもなっている。風光明媚で文教都市としても知られ、都心から移り住む人も多い。

 

 国立駅から歩いて2分というアクセス抜群の地にあるのが、カルチャー教室の企画・運営を担うNHK学園くにたちオープンスクールだ。続奈宇さんは、スクール長として日夜、新講座開発と営業、日常のスクール運営の総括に明け暮れている。 

 

 現在、くにたちオープンスクールでは250ほどの定期講座と、季節ごとの短期・1日講座を開講しているという。

 

 「最近は近隣との連携に力を入れ、夏には国立市内のビール醸造所、秋は国立駅の事務室内を見学できるお子様向けの1日講座を開講し好評でした」と続さんは満面の笑みで語る。「高校時代から通っている国立、住んでいる多摩地域の魅力をアピールできる講座をどんどん増やしていきたいです」とおっしゃる。

 

 生まれも育ちも、お隣の東京都府中市の続さんは「国立も府中も多摩地域らしい自然豊かな都市で気に入っています」。職場のある国立については、「駅からまっすぐ伸びるメインストリート大学通り。春は桜が満開に、秋は紅葉がとてもきれいなスポットです。通勤途中にそこを通るだけでも癒されます。四季の移ろいを肌で感じとれるのも魅力です。花見客でにぎわう春もいいけれど、紅葉の時期がイチオシです」と教えてくれた。

 

 NHK学園から歩いて5分ほどの高校に通っていたこともあり「母校のOBが多く勤めていました。新規の採用があったときに母校に指名があり私が条件にマッチしたようです」と話す。

 

 入社して今年で20年の節目の年を迎え、「新たに一から企画した講座で満足をしていただけるのが喜びです。おこがましいかもしれませんが、皆様の居場所を提供できるよう心掛けています」と語る。

 

 コロナ前までは月に一度は旅に出ていたという続さん。今は専ら趣味のガンダムのプラモデル作りに励んでいるというが、「コロナが落ち着いたら行ったことのない場所で新たな発見や感動をしたい。47都道府県で宮崎と鹿児島だけまだ訪れたことがないので、早めに達成して次へのステップにしたいですね」と意気込みを語る。

 

津田 令子 氏

 社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

「提言!これからの日本観光」 “旅行自粛”再考

2022年11月12日(土) 配信

 落着きをみせていたコロナ禍が再び、蔓延の兆しを見せ始めた。(執筆時点では)第7波の到来である。このため国も予定していた全国的な旅行支援(旅費支援)の実施再延期を決めた。一部の県では県境を越えた移動(旅行)自粛などを再び呼び掛け始めている。

 観光事業者はまたまた、経営危機に直面することになりかねず、対応に苦慮している。ただ今回は、過度の自粛による経済への打撃を緩和するべく、国も緊急事態宣言の再発出には慎重である。

 また、「観光(旅行)」についてもマスク着用などの普及もあり、前回のような移動規制に近い強い呼び掛けは差し控えている地域が多い。それだけに感染状況を見極めて各個人や観光団体などの判断による適切な「自粛」が求められているのではないだろうか。

 思い返すとこれまで移動の自粛の呼び掛けについてはいくつかの気になる点があった。

 まず、「観光など不要不急の旅行自粛」、「連休は『観光』を止めてステイホームを」をなどという呼び掛けが目立ったことだ。観光がただの遊びと誤解されているからと考えられるが「観光」は、人間の本能に根差す重要な文化経済行動であるから、このような呼び掛けには強い違和感を覚える。

 密回避などまん延防止ガイドラインを守った「観光」のようにコロナ禍のもとでも実行可能な「観光」があると思う。従ってこのような「観光」全体を槍玉に挙げたような呼び掛けはむしろ逆効果を生じかねない。

 次に「都道府県境を越えた移動の自粛」との呼び掛けがあった。まちがつながっている都市圏の住民は、都府県「境」を越えた移動の自粛は、実際問題としては不可能に近い。また、ウイルス側には「境」などないのだから、都府県「境」を越えた移動自粛を呼び掛けられると当惑せざるを得ない。むしろこの呼び掛けを聞くと、都府県などのナワバリ行政の弊害さえ感じるほどだ。

 「移動」の自粛がウイルスの蔓延防止に必要なことは言をまたない。しかしその呼び掛けは、めいめいが移動を自粛するきっかけにつながると共に、自粛による効果が上がるものでなければならない。

 コロナ禍という疫病の蔓延防止の場合、ウイルス側に上述のように境界の意識などまったくないのであるから、広域的な視野に立って県境などにこだわらず対象地域を明示して呼び掛けるべきだ。しかしこれまでの実態からみても人間の持つ移動本能や日常生活行動を長期に抑制するのは不適切であり不可能に近いと考えざるを得ない。

 むしろ前述のように、コロナ禍下でも必要な移動について、蔓延防止のために守るべきガイドラインをキメ細かく専門家の知見をもとに公的機関が明示すべきと考える、同時に地域などの壁を取り払った広域的かつ、総合的な蔓延防止策の策定こそ急務なのではなかろうか。今回のコロナ禍への対応をみると地域や担当者間のナワバリの撤廃こそ、急務であることを改めて感じる。

須田 寛

 

日本商工会議所 観光専門委員会 委員

 
須田 寬 氏
 
 
 
 

阿蘇山火口行きバス再開 噴火警戒レベル引き下げで(KASSEJAPAN、産交バス)

2022年11月11日(金) 配信

1日4往復8便運行する

  エイチ・アイ・エス(HIS)グループのKASSEJAPAN(有元隆社長、熊本県熊本市)と産交バス(岩﨑司晃社長、同)は11月9日(水)に、阿蘇中岳の噴火警戒レベルが1に引き下げられたことを受け、阿蘇山の火口を行先とするバス「阿蘇山火口シャトル」の運行を再開した。

 両社は2021年10月14日(木)、警戒レベルが火口周辺の立ち入りを規制する2に引き上げられたことで、バスの運行を休止していた。再会後は、休止前と同じ区間である阿蘇山上ターミナルから火口バス停までを、1日4往復8便運行する。料金は大人が500円、子供は250円。

サステナブルツーリズム実現と観光型MaaS 第16回日本旅行業女性の会(JWTC)&JATA勉強会は11月24日(木)

2022年11月11日(金) 配信

JWTCとJATAは11月24日(木)、第16回合同勉強会を開く

 日本旅行業女性の会(JWTC、坂本友理会長)は日本旅行業協会(JATA)と合同で、11月24日(木)に第16回勉強会を開く。講師にJTBコミュニケーションデザインコーポレートソリューション部プロデュース局エグゼクティブプロデューサーの黒岩隆之氏を招き、「サステナブルツーリズムの実現に向けた観光型MaaSの展開について」をテーマに講演を行う。

 持続可能な観光と、MaaSの関わりについて深掘りする内容。栃木県・日光での事例「観光配慮型・観光MaaS『NIKKO MaaS』」を参考に、公共交通事業者や宿泊事業者、観光事業者など様々な業種に跨る展開を紹介する。

 勉強会は11月24日の午後7~8時、東京都千代田区の全日通霞ヶ関ビル4階・JATA会議室で開く。Zoomでのオンライン配信も予定する。詳しくは以下のJWTCホームページにて。

〈観光最前線〉全国旅行支援の沼にはまる

2022年11月11日(金) 配信

 10月11日からの全国旅行支援。直後に旅行を予定していたことから、意図せず混乱の沼にはまってしまった。

 「損はできない」。そんな強迫観念にかられ、スマホとにらめっこ。旅マエの楽しい時をどれほど消費したことか。一喜一憂の連続に「開始が1週間後だったら」とまで思う始末。同じ境遇の人が大勢いたのだろう。ついには宿泊予約管理システムにも障害が。

 簡単に取消・変更ができる仕組みとそれを土台にした支援策。旅行が「消費」となり、スーパーの卵や家電量販店の「他店より1円でも安く」に近づいている。そう感じた。「オッサンのたわごと」と突き放されるのも承知の上。

 ただこの話、ネットではなく電話予約で着地というオチが。「最後はアナログかい」とツッコミを入れ、羽田空港に向かった。

【鈴木 克範】

日本ご当地タクシー協会 函館でサミット 「タクシー観光を当たり前に」

2022年11月11日(金) 配信

工藤寿樹函館市長と記念撮影11

 日本各地の観光タクシー会社で組織する「日本ご当地タクシー協会」(理事長=楠木泰二朗琴平バス社長)は10月12、13日、北海道函館市で会員を集めたサミットを3年ぶりに開催した。アフターコロナに向けて「タクシー観光を新しい旅の当たり前にしたい」との目的で10会員が参集した。

 ご当地タクシーは、各社の認定制度で認める専任ドライバーがうどんやラーメン、スイーツ、寿司など地域自慢の名物店を“うんちく”ガイド付きで案内する。現在、北海道から九州まで企業16社、運行タクシー12社が加盟。4社が正式加盟に向けて準備を進めている。

 12日には函館市の工藤寿樹市長を表敬訪問し、同協会と函館のご当地タクシー「愛しの塩ラーメンタクシー」の特徴や活動状況など説明した。

 その後、市役所駐車場に「愛しの塩ラーメンタクシー」、「サラブレッドタクシー」、「アップルパイタクシー」に加え、「秋山郷温泉タクシー」、「軽井沢スイーツタクシー」、「金澤寿司タクシー」、「長崎カステラタクシー」のシンボルの行灯も集合して、工藤市長に披露した。

 そして、市長を囲み、「愛しの塩ラーメン」を歌う歌手で、はこだて観光大使の「暁月めぐみ」さんも参加して、行灯を並べて会員と記念撮影を行った。

オンライン視聴も、16日から鹿児島市で3回目のナショナルパーク・サミット 銭湯・ガストロノミーホッピングも開催

2022年11月10日(木) 配信

 
ポスター

 ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構鹿児島支部は11月16日(水)、ソラリア西鉄ホテル鹿児島(鹿児島県鹿児島市)で3回目のナショナルパーク・サミットを開く。

 11月15日(火)から開始する「銭湯・ガストロノミーホッピング in 鹿児島市」の一環として、同県の有する国立公園を学ぶ場を創出、広く魅力を発信する。開催時間は午後5時から7時まで、当日のようすはオンライン(ユーチューブ形式)でも配信、申し込みなしで誰でも見られる。

 基調講演では、桜島ミュージアムの福島大輔理事長が、「ナショナルパークとしての桜島の魅力」と題し講演を行う。また、「ガストロノミーツーリズム発祥の地アルザス」について、CEEJA(アルザス・欧州日本学研究所)ディレクター兼日欧地域間連携ヘルプデスク欧州側事務局のヴィルジニー・フェルモー事務局長がオンラインで解説する。

 両者に加え、鹿児島県酒造組合の田中完専務理事、Japan Farm-Stayの江苓華社長、銭湯大使のステファニー・コロイン氏によるパネルディスカッションも行われる。モデレーターは、ONSENガストロノミーツーリズム推進機構理事長の小川正人氏が務める。

 「銭湯・ガストロノミーホッピング」は、市内44カ所の銭湯のほとんどが温泉という贅沢な立地を生かし、自由に観光と食、温泉を楽しめる特別なイベントで2021年にも同市内で行われている。

市内散策と温泉を満喫(写真はイメージ)

 鹿児島市は県庁所在地では最も多い270の源泉をもち、市電や市バスで気軽に温泉巡りができる場所。参加者は鹿児島市営の交通機関で使える1日共通乗り放題乗車券CUTEを使い、市内や桜島を散策、「鹿児島市湯巡案内」の44店舗で使える銭湯チケットで温泉を楽しめる。期間は、12月25日(日)まで。

視聴はコチラから

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〈旬刊旅行新聞11月1・11日合併号コラム〉日本のクルーズトレイン―― 「ななつ星in九州」も歴史を刻み続ける

2022年11月10日(木) 配信

 今年は新橋―横浜間鉄道開業150周年に当たることから、旅行新聞紙上でも鉄道に関わるさまざまな方々に寄稿していただいたり、10月15日の記念イベントに参加したりした。

 

 鉄道の思い出も多い。田舎育ちのため、最寄りの小さな駅に行っても電車はすぐに現れず、1時間近く駅舎で待つことも珍しくなかった。遥か遠くに1点の光が見え、それから数分間をかけてライトが少しずつ近づいてくる。電車を利用する日は特別感があり、その分憧れも大きかった。

 

 幼いころから電車は「駅のプラットフォームで待ち続けるもの」という認識がしみ込んでいたために、上京して電車が次から次にホームに入ってくる状況に驚いた。しかし、次第に「日々の足代わりに利用する」環境にも慣れていき、都会暮らしが長くなってしまった今では電車を待つことは、地方に旅行したときに体験するくらいになってしまった。

 

 

 鉄道の旅での食事は格別である。駅弁を買って好きなお酒を飲みながら、ゆっくりと流れる車窓の風景を眺める旅は理想的だ。私が上京したころは、新幹線に食堂車があった。学生だったため、お金もあまりなく九州の実家に帰省するときなどは、食堂車でカレーライスを食べることが楽しみだった。特急電車の食堂車で食事をするという行為が、とても大人な気分にさせてくれた。

 

 狭い食堂車内は、最大限空間を上手く使っている。給仕が幾分不安定なテーブルにスプーンを置き、やがて料理が運ばれてくる。揺れる車内で、グラスに入った水も揺れる。鉄道の食堂車という限られた条件の中で、可能な限り精一杯の料理を提供してくださる心配りが、通常よりも美味しく感じさせる要因なのだろう。

 

 

 鉄道開業150年という長い歴史のなかで、1964年に目的地までの移動時間を極限まで短縮させた新幹線の誕生は、世界的にも画期的な出来事であった。さらに、観光目的に特化させた周遊型豪華寝台列車「クルーズトレイン」の登場も、日本の鉄道史を語るうえで重要な転換点だと思う。

 

 2013年10月15日にJR九州が運行する「ななつ星in九州」の登場は大きな衝撃を与え、一躍脚光を浴びた。その後、17年にJR東日本の「TRAIN SUITE四季島」、JR西日本の「TWILIGHT EXPRESS瑞風」も営業をスタートした。

 

 いずれの車体も豪華で高級感があり、見惚れるほどである。日本国内を数日間かけて列車の旅を楽しめる環境が整いつつあることを感じる。

 

 

 日本のクルーズトレインの草分けとなった「ななつ星」は、九州7県の誇りである。それぞれの土地の食材を、地元の腕利きのシェフが調理し、器やお酒も九州産の逸品をさりげなく提供している。

 

 「ななつ星」が走ると、沿線の住民が自然に手を振って歓迎する。すでに九州の観光文化と経済の発展に大きな貢献をしており、乗客だけでなく、地元の人々からも愛され、憧れと尊敬を受ける存在となっている。

 

 「ななつ星」は間もなく10年を迎える。1日ずつ歴史を刻んでいくなかで、ある種の規範も生まれてくる。「本物」であり続ける伝統のオーラを纏った列車への憧れは強まっていくばかりだ。

(編集長・増田 剛)