2024年11月1日(金) 配信

旅館やホテルの多くは、料理や接客(おもてなし)などのサービスは日々磨き込みを行っているが、同様に大事な商品である客室などの清掃については、十分に手が付けられていない状況にある。工学博士の内藤耕氏は、経費の巨大な塊である「清掃」を内製化し、客室案内や、ラウンジでのサービス、洗濯などと連動できるシフトを組むことにより、労働生産性の改善につながっていくと語る。客室の「ゼロセッティング」化など、顧客満足の最大化と併せた、宿泊業における「最適な清掃方法」を探る。
【聞き手=本紙編集長 増田 剛】
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□工学博士・内藤耕氏インタビュー 客室案内が最も重要 “チェック”兼ね即座に対応

旅館やホテルといった宿泊業が提供している商品は、大きく「料理」「接客(おもてなし)」「風呂」「客室」の4つに分類できます。
お客として、どの商品が一番大事かは人によって異なりますし、宿泊業としての業態によっても異なってきます。しかし、一般的には、とくに温泉旅館に宿泊したことを誰かに話そうとするときに、まず「温泉に行ってきた」と言い、それから「どこに泊まったか」と客室や風呂、そして最後に「サービスはどうだったか」といった接客(おもてなし)、料理などについて細かに語っていくパターンが多いような気が個人的にします。
このように考えると、とくに温泉旅館では、これを「温泉」や「風呂」→「客室」→「接客(おもてなし)」→「料理」という順番で商品を捉えることができます。
一方、これまで長く、そして今もそうですが“グルメブーム”が続いています。このため、経営者は自館をアピールするときに、大きな商品の柱として「料理」に関心が集中しがちですが、「客室」や「風呂」といった施設・設備も同様に、宿泊業にとって大きな商品であることに違いはありません。
ある旅館のホームページのアクセスログを確認する機会があり、驚くことに一番多く見られていたページは料理ではなく、客室でした。旅館では滞在中に客室にいる時間が最も長いため、お客は「どのような客室なのか」「衛生的なのか」といったことを気にしているのかもしれません。このように客室は旅館にとって重要な商品であることに気づかされます。
料理や接客(おもてなし)のサービスは、商品としてどのように磨き込みをしていけばいいかは、わかりやすいですが、風呂や客室はどうでしょうか。
この風呂や客室を商品として日々磨き続ける具体的な方法は、メンテナンスです。このメンテナンスとは「保守」「保全」などと翻訳されますが、宿泊業では、「清掃」やお客が使うタオル・浴衣などの「洗濯」といった業務のことを一般的に指します。
このように捉えますと、宿泊業にとって施設・設備の清掃は、とても大事な業務となります。そして、この清掃や洗濯方法について具体的な検討がまだ十分に手が付けられていません。
また、それは経費の巨大な「塊」であるにも関わらず、その内容について、多くの宿泊業の経営者はあまり関心を向けていないように見受けられます。
コロナ禍が明けましたが、現在、宿泊業の経営は依然として厳しい状況にあります。まずはお客を増やし、売上の拡大に努力されていることは十分に理解できます。
一方、最近の人手不足や資材費の高騰から、仮にお客が増えたとしてもそれ以上にスタッフを増やすこととなり、結果としてそれ以外も合わさって経費もそれ以上に増えてしまい、増収が利益率の改善につながらない状態に陥ってしまう施設が散見されます。
増収が確実に利益率のアップにつながる流れを作っていくためには、客数増や宿泊料金のアップといった外部需要をさらに取り込むだけでなく、固定費(損益分岐点)も同時に低減していく「労働生産性」の向上への努力も必要になります。
――なぜ多くの旅館がこの重要なメンテナンス業務に関心を持ってこなかったのでしょうか。
非常に大きな経費の塊であるにも関わらず、宿泊施設内といっても基本的にお客がいない場所での業務のため、目に付きづらく地味な面があります。もう一つは、「できて当たり前」という認識、3つ目は、多くの宿泊施設がそれを外注しているからです。
さらに経営者の関心を失わせるのが、多くの現場でその契約が「1部屋当たり」での経費計算となっているため、作業効率を上げたとしても支払う金額が変わらず、むしろその努力が外注先の利益を積み増すことになり、そのテコ入れが施設にとって直接的なメリットに直結しないからです。
さらに、清掃方法を具体的に業務改善しようとすると、客室の調度品やレイアウト、セッティングなどに手を付ける必要があり、このことが客室という商品に影響し、回り回って集客に悪い影響をもたらすことを心配させます。
――外注と内製化の分岐点とは。
コロナ禍になり、客数の増減が激しくなり、またスタッフの仕事が減ったことも相まって、少しでも損益分岐点を低減するために清掃を内製化した施設もありましたが、とくに大型旅館では未だに外注している施設の方が多いように感じます。この原因として「サービススタッフすら集められないのに、清掃スタッフを集める自信がない」という、人手不足などの社会背景も要因の一つにあるようです。
では、なぜこれまで多くの旅館で清掃の外注がそもそも行われてきたかというと、市場が拡大していく人口増の時代では、ノウハウが無い部分は専門業者に任せて、会社の成長のスピードアップをはかったほうがいいというのが当時の合理的な判断でした。
これに対して、今のように市場の飽和による供給過剰から、むしろ売上が減っていく時代では、確実に利益を確保するには、会社の成長をスピードアップして増収を実現するよりも、「損益分岐点をどうやって下げていくか」という増益率に関心が向かいます。このような市場の大きな動向を背景に、宿泊業にとって固定費の大きな塊である清掃や洗濯といったメンテナンス業務へのテコ入れがとても重要になってきているのです。
――清掃業者も人手不足の状態で、客室を売り止めせざるを得ない旅館も多くあり、売上や営業に大きく影響し始めています。
とくに宿泊業にとって大きな問題なのは、お客が少ない低稼働時でも、たとえ仕事の量を減らすことができても、やらなければならない仕事の種類は減らないため、宿泊客が10分の1だからといって、ある程度固定的な人員は必要になります。
さらに、たとえ低稼働で実際の仕事の量が減ったとしても、ある一定の時間を割り当てなければパートスタッフが辞めてしまうことから、そのような日でも出勤者数をある程度確保してしまいがちです。結果として、客室当たりの清掃の人数は相対的に多くなる。そうすると、現場に作業の余裕ができますが、人はどうしても締め切りを意識して作業を進めることから、作業速度が遅くなる。いくつかの施設でデータを取得しましたが、清掃しなければならない客室数に対して投入人員数が多くなると、1部屋当たりの清掃時間は長くなる結果が出ました。
1日だけなら良いのですが、これが頻繁に続くと、遅い清掃時間が通常の時間となり、出勤者数が本来の人数となると現場は人手不足と言い始めます。また外注すると、宿泊施設側は清掃作業が遅くても、ちょっとだけ手伝いに行くことは簡単ではありませんし、逆に投入人員が多くてそこに余剰があっても、外注の人材をまめに別の作業に分担することは契約上できません。
内製化により清掃やサービスが一体となって連動できるシフトを組めれば、人が余っている時間に幅広い業務分担も可能になります。結果的に空いた時間をお互いに色々な仕事を吸収し合いながら、より圧縮された人員数でより多くの仕事を施設内でこなすことができるようになります。
その代わり管理しなければならないスタッフ数は増え、シフトなどの管理の大変さはありますが、わずかな隙間時間を補充しながら、色々な仕事を細々とできるようになり、会社全体で風通しも良くなるので、それまで以上に労働生産性の高い、効率的な現場が実現できるようになります。
――清掃しやすい客室とは。
伝統的な温泉旅館では、大きくて重たい座卓と、座布団、座椅子などがあります。それらを移動させながら清掃するとなると、結構な重労働です。布団を敷くときもそれらを移動させることで畳や壁の損傷にもつながります。
最近の個人向けのデザインがお洒落な宿泊施設などでは、このような昔ながらの重厚な座卓や座椅子は見当たりません。テーブルを軽く小さなものにして、座布団などはビーズクッションに代えるところも多く、清掃時に負担は格段に軽減します。あるビジネスホテルでは、あえてテレビを壁かけにすることで配線を短くして、静電気によってテレビの裏側が埃だらけになることを避ける工夫をしています。
作業の観点も考慮し、「顧客満足を最大化する最適な清掃方法を探していく」ことにより、清掃の抜本的なスピードアップがはかれ、チェックインの時間に間に合わないことが回避できるようになります。
当たり前のことですが、リニューアルをするときにデザイナーは素敵な客室をイメージし、お客の満足度を上げて集客できる客室を作ろうとします。とても大事なことですが、客室の壁に「出っ張り」や「凹み」がたくさんできてしまうと、清掃が大変になります。もし私がデザイナーにお願いする機会があるとすれば、「可能な限り損益分岐点の低い客室づくり」を求めるでしょう。
イニシャルコストを抑えたフラットな客室でも照明などの工夫で奥行きや多様性を作ることは可能です。日々の利益を確実に実現するために、清掃の「作業負荷」を含めたランニングコストを下げる客室づくりも、これから併せて考えることが大事です。
――客室のアメニティは。
性別や属性に合わせて人数分のアメニティを客室に事前に準備する旅館やホテルが多いですが、予約などが変更になったときにすべてのセッティングがやり直しになります。
また清掃スタッフは概ね高齢者が多いので、肉体的には弱者になりますが、このような細かな業務を間違いなく執り行うのは精神的な負担も大きく、間違いも多くなり、結果として会社は二度手間として清掃後のチェック作業も行わなければなりません。
同時に重いものを持つなど、腰を何度も曲げるために生じる腰痛が原因で退職してしまうケースも多く見受けられます。客室にあるゴミ箱の数を減らし、とくに洗面所の床にではなく、洗面台の上に置ける小型のものに変えるだけで、腰を曲げる回数を削減し、肉体的負担を大きく減らすことができます。実際にそのようにした施設でクレームはほとんど出ていません。
仮にクレームがあったとしても、何人のクレームなのかというところも冷静に見ていく必要があります。クレームを「ゼロ」にすることを求める旅館の考え方が、結果として自分たちの首を絞めている面があるのではないでしょうか。
これまで「1人の客が求めればすべての客に提供する」ことを結果的にやってしまっています。1人が「シェーバーが必要だ」と言えば、すべての客室に男性客の人数分だけ備える。「浴衣のサイズが事前に正確に分からない」となると、すべての客室に全サイズの浴衣を事前に入れて準備することが当たり前に行われています。
サービス業として、多くのお客が求めているのであれば、しっかりと対応していこうという視点は、とても大事なことです。
□“清掃とサービスの連動”で生産性改善へ
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これにクレームを減らしていくことが合わさって、お客の1人でも求めれば、すべてのお客に同じことを行うことが多くの現場で行われてきました。これでは現場の作業負担が高止まりしてしまうため、これからは「お客が求めていないことはやらない」という視点がむしろ必要となります。
例えば、客室にさまざまな種類のアメニティを置いていますが、「シェーバーを使う人にはお渡しするが、必要のない人には提供しない」場合、クレームはお客一人ひとりの事前期待とのミスマッチに起因することから、お客にまずフロントや客室案内時に施設として提供するサービス内容を丁寧に説明し、お客の期待とサービス内容の齟齬を解消することが重要となります。
つまり、例外的なことは例外的に行うことで、会社としてお客に求められたことにはムダなくしっかりと対応していく姿勢が大事となります。
――なぜ客室案内が大事なのか。
コロナ禍に「3密回避」という名の下で、多くの現場で客室案内をやめてしまいましたが、この「客室案内」こそが、メンテナンスという視点から最も大事なサービスだと感じています。
なぜかと言えば、宿泊客がチェックアウトしたあと、そして次のお客が入るまでに、スタッフは布団を上げたり、冷蔵庫の中を確認したりします。その後、清掃、アメニティや浴衣などのセッティング、客室チェックなど一連の業務がそれぞれ別チームによって進められていきます。
これらを先に述べた「腰を曲げる回数を減らす」ことで肉体的負担を減らすことと同じように、「ドアノブに触る回数を減らす」ことで、メンテナンスのために客室に入る工程を統合していくことに取り組んでいる施設もあります。これまで一つの業務を複数の工程に分断してきましたが、それぞれの工程に繰り返しや準備といったムダを作ることとなります。
例えば、客室を仕上げるセッティングの業務と、客室チェックのそれぞれをサービススタッフによる客室案内にまとめていく。客室案内をしながら、必要なアメニティや浴衣のサイズをお客にお聞きし、必要なものをその場ですべて手渡すことができるようになります。
さらに、客室案内時にスタッフが客室の施設や備品などの一つずつをお客に丁寧に説明することで、実質的に髪の毛や小さなゴミが残っていないかなどの確認作業を同時に行うことができるようになります。万が一何か不備があったとしても、目の前のお客にその場でお詫びし、即座に対応することが可能で、このようにすることで客室案内がチェック業務を兼ねることになります。
――「事前セッティング」を行わない利点は。
客室案内時に必要なアメニティなどを提供することは、客室のセッティングを一切行わない「ゼロセッティング」になります。これによって、お客の人数や属性によらず標準化された客室を準備することで、清掃業務をシンプルにすることができます。
そのうえで、従来お客がチェックインをする前に清掃のチームがやっていた客室のセッティングを、サービススタッフが案内するときに「お客に説明しながら行う」ので業務量は何も変動していません。
帳票を見ながら予め複雑なセッティングをするとミスが生じる可能性も高まり、チェック作業が必要になります。一方、お客に必要なものを聞きながらアメニティを手渡すと、事前の帳票づくりを含めたムダの多くが無くなります。
「客室案内をするサービススタッフが足りない」や「清掃スタッフは接客のスキルがない」という話にもなりがちですが、多くの現場では、チェックインの時間帯にサービススタッフは料理付けや宴会場の準備などをしています。であるならば、清掃スタッフがそれらを行うことで、サービススタッフが客室案内を含めたより手厚いサービスを提供すればいいのではないでしょうか。
このようにすることで複数の工程が一つに統合され、お客がいるときに、お客が求めることにきめ細かく確実に対応でき、接客(おもてなし)のサービスにも磨きをかけていくことを同時に実現する、典型的な労働生産性を飛躍させる方法となります。
――「分散」と「集約」について。
客室にそれぞれ置くことは「分散」。一方、使うところだけに置くというのは「集約」です。
宿泊客は客室に置いてあるアメニティや手ぬぐい、バスタオルを持って大浴場に行きます。なぜ持って行くかといえば、そこで使うからです。最も合理的なやり方は、「使う場所に置いておく」ことです。
バスタオルを大浴場に置くと使う枚数が増えると心配されますが、お客にとっては常に乾いたタオルを使えるので満足度は上がります。
また、メンテナンスの観点からも使われたタオルが客室に置いてあると、備品が湿気るだけでなく、その重さから清掃スタッフの肉体的な負担が大きくなります。このため、大浴場にバスタオルを集約して置くメリットはとても大きくなります。
「分散」すると、提供できるものは限られてしまいます。一方、「集約」すれば提供できる種類を増やすことが可能です。それぞれの客室にシャンプーを置く場合、現実的には1種類です。一方、シャンプーバイキングとして大浴場に何十種類でもそろえることが可能です。
集約して種類を増やすことで、お客は自分に合ったものを利用できるようになり、一人ひとりのお客に向き合ったサービスになります。
――最近、フリーラウンジを始める旅館が増えたような気がします。
「フリーラウンジ」とは、客室で提供しているお菓子をロビーに1カ所に集約して無料で提供することです。
多くの施設でやっている、客室で人数分のお菓子や飲み物を事前にセッティングし、客室で呈茶する代わりに、ロビーなどでコーヒーや紅茶、ソフトドリンクなども無料で提供する。1カ所に集約することにより、より多くの種類のお菓子やドリンクを提供でき、お客の満足度も高くなります。
「コストが大きくなるのではないか」と心配する声もありますが、1人当たりの原価は、一般的に飲み物と合わせても数十円ほどです。一方で、「たくさんの種類のお菓子やドリンクがあって楽しめた」など、口コミ評価は高くなり、実際にフリーラウンジを行っている施設では、わずかなコストで大きな顧客満足度を得られる結果となっています。
このフリーラウンジによって客室は同時にゼロセッティングとなりますので、メンテナンス業務の負荷は大きく軽減され、在庫管理も不要になります。このように集約することで、子供には駄菓子を、また高齢の宿泊客には、和菓子などを置くことで満足度が高められます。
客室でお菓子やソフトドリンクを飲むと、それぞれの客室にゴミが発生します。このため「ラウンジで好きなだけ召し上がってください」と伝えることで、ここでも清掃業務の負荷を最小化できます。
――チェックインをラウンジで行う利点は。
客室案内でフロントスタッフがとても心配するのがお客を「待たせる」ことです。そこで客室案内をお客の意向に任せて選択制にしようという施設もあります。
しかし、それでは客室案内を求めない宿泊客には客室のアメニティの提供などができなくなるので、ゼロセッティングを含めた全体のオペレーションの根幹が崩れていきます。
このような課題から、チェックイン時のお待たせの解消のためには、フロントではなくまずフリーラウンジにご案内し、一度ソファに座っていただく。そこでくつろいでいただきながらチェックインをして、タイミングを見計らってスタッフが案内すると、ロビーやフリーラウンジがバッファー(緩衝帯)になり、“待たされた感”が無くなります。
このように見ていくと、清掃と客室案内、ラウンジでのサービスは一体となって連動していることがわかります。メンテナンス業務の一部でも外注することは、部署間の連携にも大きな障害となってしまうため、清掃などを内製化することが会社全体の労働生産性を改善させるメリットになります。
――洗濯の内製化も提唱されています。
ゴルフ場や温浴施設などでは、タオルや部屋着といったリネン類を自分たちで洗濯しているところが多くあり、その内製化も推奨しています。
人手不足の宿泊業にとっては、「さらに洗濯の仕事まで増えるのか」と言いたくなりますが、洗濯をするのは機械なので、作業負担自体の増加はありません。冷静に考えてみれば、たとえクリーニング業者に外注したとしても、清掃のスタッフが搬入口などまで持って行っています。タオルも客室にセッティングする場合、自分たちで畳んでいます。さらに大浴場に集約している旅館では、バスタオルを畳まずに広げて置いているため、畳むという作業はありません。
実際に洗濯を内製化した旅館では、空いている隙間時間に作業を行うので、スタッフの労働時間を増やすことなく外注の経費だけが下がるという効果が出ています。
洗濯を内製化して洗面台に小さなハンドタオルを置くことができると、ペーパータオルが不要になり仕入れだけでなく、ゴミも減らすこともできます。
――ロビーやラウンジの空間を上手に活用している旅館も多いです。
客室での宴会の2次会、また増加傾向にあるインバウンド観光客やビジネスの素泊まりにおいて、部屋での飲食のゴミの問題を清掃スタッフに聞くと、「とても大変だ」と答えられます。無料で使用できる2次会のスペースをフリーラウンジに準備し、缶ビールの自動販売機などを設置し、つまみもそこで販売できれば、客室のゴミ量だけでなく、外部から飲食物の持ち込みも減らすことができます。
――異なる業務がそれぞれ連動していますが、効果を客観的に検証することが大事ですね。
このように現場を見ていきますと、「清掃」「客室案内」「フリーラウンジ」「洗濯」、さらに料理付けや宴会場の準備といった「料理」「接客(おもてなし)」「チェックイン」のそれぞれが見えないところで連動するようになっていきます。
フリーラウンジといった他館の良い部分の一部分だけを自館でも導入する施設が増えていますが、注意しなければならないのは、すべての業務が連動しており、全部がそろったところで初めて顧客満足度が高まり、経費が大きく削減され、労働生産が飛躍するのです。
各客室のお菓子を残しながらフリーラウンジを導入しても、手間や経費だけが増えていき、結果として人手不足も解消できなくなるだけでなく、むしろそれが深刻化する懸念も増していきます。
このように改革の取り組みをつまみ食いするのではなく、会社全体で業務改革を慎重に進めていく必要があります。
取り組みが実際に効果を出しているのかどうかを評価することがとても大事となりますが、その方法として、労働生産性を測る指標の一つとして「人時生産性」があります。これは損益計算書にある粗利益額を総労働時間で割ることで計算されます。
これまで業務改革を行っていない旅館やホテルではそれが3千円ほどしかないところも多く見受けられます。しかし、仮にここで紹介したような改革を丁寧に進めていくと、それが5千円、6千円に上がっていきます。3千円が6千円に上昇するということは、労働時間当たりの粗利益が2倍になったということです。つまり、この計算結果は2人でやっていた仕事が1人でこなせるまでに業務量を削減できたということを意味しています。
サービス業の基本的な考え方は、お客が求めていることにしっかりと対応していくこと。とても大変なことだと思いますが、一方で、お客が求めていないことは一切やらない。一人ひとりに向き合って、お客が求めていることに的確に、ムダなく対応していくことを徹底することが大事だということです。これがサービス業の原点であり、本質そのものだということです。
――ありがとうございました。
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