地熱対策活動費を、一般社団化へ新役員選出

廣川允彦会長
廣川允彦会長

 日本温泉協会(廣川允彦会長、1492会員)は6月26日、長崎県・雲仙温泉の九州ホテルで2012年度会員総会を開き、13年4月1日から移行する一般社団法人化に向けて新役員を選任したほか、会員提出議題として、自然保護・温泉源保護・温泉文化保護の見地から「無秩序な地熱発電開発に反対」する決議を承認した。

 廣川会長は冒頭、「日本温泉協会の喫緊の問題は地熱発電。地熱発電周辺の温泉地の方々から、温泉が枯渇したり、泉質が変わったり、地震が起こったりというさまざまな報告があった。このことを全国の温泉関係者に知ってもらうために、昨年度は2回、都道府県の温泉協会に呼び掛け、連絡協議会を開いた」とし、「協会としては、地熱発電に反対する地域と一緒になって活動を応援していきたい」と語った。さらに「協会ホームページ『温泉名人』を会員に役立てるために、i.JTBの国内旅行予約『るるぶトラベル』と連携して、7月中旬までに予約サイトとして稼働させたい」と述べた。手数料(システム利用料)は8%で、内訳はJTBが6%、日本温泉協会が2%と設定している。

佐藤好億地熱対策特別委員長
佐藤好億地熱対策特別委員長

 来賓の環境省自然環境局の大庭一夫自然環境整備担当参事官は「環境省はエネルギーのセキュリティの観点から、分散型、地産地消型に取り組んでいる。一つは温泉熱を利用するヒートポンプ、もう一つは温泉付随ガスを利用したコージェネレーションについて09年度から補助事業を行っており、現在30件以上の実績が上がっている。また、温泉発電については新たに掘削するのではなく、すでに流出している既存の温泉熱を発電に利用しようというもの。地元の小浜温泉のバイナリー発電施設も参考になるのではないか」と述べた。

 今回の総会では、地熱対策特別委員会の佐藤好億委員長から「自然保護・温泉源保護・温泉文化保護の見地から無秩序な地熱発電開発に反対する」決議が提出され、承認された。

 決議文には「地熱発電開発にあたっては、電力確保と温泉資源保護の2つの公益が共存することが前提」とし、無秩序な開発を回避するために(1)地元(行政や温泉事業者等)の合意(2)客観性が担保された相互の情報公開と第三者機関の創設(3)過剰採取防止の規制(4)継続的かつ広範囲にわたる環境モニタリングの徹底(5)被害を受けた温泉と温泉地の回復作業の明文化――の5点を提案した。現状では、原発事故などと違い、たとえ温泉が枯渇したとしても賠償規定がないことを問題視している。

 佐藤委員長は「この半年間、全国の現場を個人の実費で調査してきた。しかし、今後さらなる調査や情報収集には現状の予算ではどうしようもない。学術委員の先生方にも現地視察できるように、地熱対策委員会に寄付行為をお願いしたい」と訴え、賛成多数で承認された。さらに福島での地熱発電問題にも協会として反対していくことが確認された。

 来年度の会員総会の開催地は福井県のあわら温泉に決まった。

 なお、来年4月1日に移行する一般社団法人日本温泉協会の役員は次の各氏(副会長以上)。

 【会長】廣川允彦(松川屋那須高原ホテル)
 【常務副会長】石村隆生(仙郷楼)
 【副会長】山村順次(学術部委員長)▽根津文博(御園ホテル)▽佐藤好億(大丸あすなろ荘)▽岡村興太郎(法師温泉長寿館)▽森行成(さかや旅館)▽八木眞一郎(あわらの宿 八木)

JATA・菊間会長就任会見、会員の意見が上がる仕組みを

菊間潤吾・JATA新会長
菊間潤吾・JATA新会長

<風通しのよい組織に>

 日本旅行業協会(JATA)は6月22日、菊間潤吾新会長の就任会見を開いた。菊間会長は就任後「中小の旅行会社の方々から激励をいただき、改めて身の引き締まる思いがした」とし、「改めて一般の会員にとってJATAは遠い存在だと感じた。会員にとって魅力ある風通しのよい組織にしていきたい。会員の大半は中小なので、その意見が上がってくる仕組み作りが必要だ」と意気込みを語った。

 JATAの課題については「委員会活動で成り立っているが、現状、機関決定の場となっている懸念がある。委員会を議論の場にしなければならない。それを支える事務局も意識を高めていく必要がある」と職員の意識改革の必要性も指摘。「さまざまな問題はあるが、全体の議論を経て大きなうねりを作って改革をしていきたい」と考えを示した。

 事業方針は基本的に金井耿前会長の路線を踏襲し、今年度の事業計画のもと各種事業を展開するが、今年度から新たに展開する「政策検討特別委員会」でJATAの活動を改めて見直していく。

 各分野についても触れ、海外旅行に対しては「例え2千万人を達成したとして、どれだけ旅行会社を通したお客様がいるかが問題だ。お客様が求める旅行会社になっていかなければならない」と強調。また、訪日旅行は携わっている会員が少ない現状を述べ、「もっと参画する機運を高めていかなければならない。主体的に動いていける環境整備が必要」とした。

 一方、国内旅行については「商品を見て感じることは、もう少し幅広いテーマ性のある、海外旅行のようなSIT商品が出てきて初めて各地域が脚光を浴びてくると思う。サプライヤーの直販化の問題など環境の変化のなかで、さまざまな分野に意欲的に取り組む必要がある。それをJATAとして応援していきたい」と語った。

女将120人が仙台で“輪”結ぶ、第23回「全国旅館おかみの集い」盛大に開く

第23回全国女将サミット2012仙台
第23回全国女将サミット2012仙台

 「全国旅館おかみの集い」運営委員会と旅行新聞新社は7月3日、宮城県仙台市のホテルメトロポリタン仙台で「全国旅館おかみの集い―第23回全国女将サミット2012仙台―」を開いた。東北、東日本の観光復興大会として、初めて東北で開催したが、例年を上回る約120人の女将が全国から参加した。(次号詳細)

 今回のテーマは「『集い』―旅こそ支援、ありがとう 『学び』―経験を伝えることが恩返し 『結ぶ』―仲間の輪、23年の絆」。冒頭、磯田悠子運営委員長(ホテル松島大観荘)は「震災はどこでいつ起こるか分からない。我われの経験を全国の女将と共有したい」とあいさつした。

 会では歌手のさとう宗幸氏が歌を交えながら講演を行ったほか、4つの分科会を実施して女将同士が語り合った。夕方からの懇親パーティーには多数の来賓も駆けつけ、約230人が一堂に会した。

No.315 日本旅館協会が10月設立 - 会員数増で影響力拡大へ

日本旅館協会が10月設立
会員数増で影響力拡大へ

 6月21、22日に開かれた国際観光旅館連盟(佐藤義正会長、1058会員)と日本観光旅館連盟(近兼孝休会長、2786会員)の総会で、10月に両団体の合併新法人「日本旅館協会」を設立することが承認された。旧運輸省ベースの国観連と旧鉄道局ベースの日観連が、20年に渡る紆余曲折を乗り越えてようやく結ばれる。近年、会員数の減少に悩む両団体が、合併後は3400会員程に膨らみ、影響力の拡大を狙う。旅館・ホテル業界に新たな風を巻き起こすこととなるか。

【伊集院 悟】

≪初代会長に佐藤氏、次年に近兼氏≫

「当面は両団体事業を継承」

 6月21、22日にそれぞれ開かれた国際観光旅館連盟と日本観光旅館連盟の2012年度総会で、両団体の合併新法人「日本旅館協会」を10月に設立することについて滞りなく承認・可決された。

国観連総会後の懇親会で握手する近兼孝休日観連会長(左)と佐藤義正国観連会長

 国観連は旧運輸省と連携するかたちで、1948年に戦後増大した外国人観光客へ安心して泊まれる優良宿泊施設を提供することを目的に設立。一方、日観連は翌年の1949年に国鉄が推薦する旅館団体として設立された。両団体の合併はこの20年間、何度も話が持ち上がるが、両団体の性格の違いなどから会員の反対により立ち消えとなっていた。紆余曲折を経て、ついに昨年度の両団体総会で合併が承認され、今年度総会で9月30日に両団体が解散、10月1日に合併新法人「日本旅館協会」が設立されることが決まった…。

 

※ 詳細は本紙1468号または日経テレコン21でお読みいただけます。

未来に生き残る温泉地へ ― 温泉も「本物」志向に進む(7/11付)

 家族旅行で旅館に宿泊するときに、私は温泉を重視し、妻は料理を重視するから、なかなか宿が決まらない。温泉が極上で、料理も美味しい宿がベストなのだが、そうすると、私たちの財布が納得しない。それでも、お互いがギリギリ譲り合える線で折り合える宿を探すのはそれなりに楽しい。なんとはなしに生きているうちに、ほぼすべての主導権を失ってしまったかたちの私であるが、温泉宿選びに関しては、私の方が思い入れが強いためか、いつも粘り勝ちだ。妻は「今度は舟盛料理が食べきれないほど出る海辺の宿に行こうね」と言うが、嗚呼、やはり私はどうしても秘湯や、歴史的名湯などの方に心が引きずられてしまうのである。

 「豪華な海鮮料理や上等な肉料理は東京や横浜でも食べられるが、神秘としか思えない極上の温泉だけは、そこに行かなければ浸かれない」という気持が、知らず識らず私の中で温泉を優位に置いてしまう。

 宿選びの基準は人それぞれである。贅を尽くした豪華な楼閣の館を好む人、素朴なご主人が迎える一軒宿を愛する人、料理自慢の宿や、眺めが良く時を忘れられる客室が絶対条件の人、登録有形文化財の宿めぐりに熱中している人、とにかく安ければいい人――などさまざまだろう。だが、温泉地を訪れる旅行者にとって、「温泉」の占める比重は決して小さいものではない。百人百様の目的で宿に宿泊したとしても、温泉は日本人にとって特別なものであり、未来の旅行者は現在よりももっと温泉に対して「本物」志向に進んでいくはずだ。近い将来、温泉の持つパワーがもう一度見直されることは間違いない。

 団体客中心だった宿が、個人客を上手く引きつけることができないでいるのは、料理の問題もあるかもしれないが、温泉の問題も大きいのではないか。団体旅行なら循環方式の大型風呂でもそれなりに楽しめる。けれど、個人客が遠路訪れた温泉宿で求める温泉は、循環方式で使い回した劣化した湯や、プールのような塩素臭の風呂ではないだろう。温泉の湧出量や配湯をはるかに超える規模の大浴場や客室露天風呂に大きな疑問を持たぬ温泉旅館に危惧の念を抱く。湧出量に限界のある温泉地は、在りし日のように共同湯を生かした散策できる温泉地づくりもまた、生き残る一つの道だと思う。

(編集長・増田 剛) 

名称を一般公募、若者旅行振興を表彰

 観光庁はこのほど、若者の旅行離れが進むなか、若者旅行振興への取組意欲拡大のため、若者の旅行振興につながる取り組みを行った地域や旅行会社などを観光庁長官賞として表彰を行う制度を創設した。現在、若者層が旅行に出たくなるような名称を冠するため、表彰制度の名称(キャッチコピー)を一般公募している。

 表彰対象は、とくに20代を中心とした若者層の国内旅行活性化に寄与した地方公共団体、各種団体、NPO、企業、個人などの取組。2012年12月―13年2月に表彰対象を公募し、13年5月に審査委員による審査会で表彰対象を決定し、6月に表彰する。

 表彰制度の名称(キャッチコピー)の募集期間は12年8月31日まで。発表は9月下旬に採用者へ連絡のうえ、観光庁のホームページで発表。採用者には希望の3つの国・都市の海外ガイドブックと記念品の「MY箸」をプレゼント。応募は、「若者旅行振興の取組に関する表彰制度」の名称(キャッチコピー)、氏名、年齢、職業、住所、電話番号、商品ガイドブックの希望の国・都市名3つを記載のうえ、電子メールで送付する。

 応募先Eメール(wakamono-ryoko@mlit.go.jp)。 

くまモン売り上げ26億円、県のイメージ大きく変化

くまモン関連の商品
くまモン関連の商品

 熊本県の宣伝と営業部長として県産品販路拡大などで大活躍する、ゆるキャラ「くまモン」の関連商品販売が、昨年1年間で25億5千万円に達したことが県の調査で分かった。くまモンの身分は公務員で、民間業者は県から図柄使用の許可をもらって商品化する。商品内容はぬいぐるみ、ストラップなどのグッズから、衣類、食品など2千種類を超えた。発表した売上げ額は、調査対象業者782件のうち、回答のあった413件の合計で「実際の売上げはさらに増える」(県ブランド推進課)とみる。

 くまモンの登場は2010年の3月。夏から県内で活動を本格化させ、秋には大阪などで観光プロモーションに参加。1万枚の名刺を配り認知度アップをはかった。

 とくに昨年は3月12日に九州新幹線が全線開通し、開通前後は熊本県内や福岡、山陽、関西、首都圏などでイベントが集中。昨年1年間、くまモンのイベント出演は2千回を数えた。11月には全国の「ゆるキャラグランプリ」で第1位を獲得し、人気はさらにヒートアップ。今年1月には県の上海事務所開設イベントにも同行し、国際デビューを果たした。

 さらにサンリオとコラボした熊本フェアでキティちゃんと共演。女子サッカーチーム・INAC神戸と協定して、県物産品やグッズをホームゲームで販売。ほかにもジュースや菓子など大手メーカーのくまモン商品も続々と誕生している。ローソンは近畿圏1900店で、5月15日から約1カ月「くまモンよかモンフェアー」を展開し、パンやデザートなど6品目を販売した。

 県観光経済交流局の松岡岩夫局長は「熊本県は武骨とか雄大など男性的なイメージが強かったが、くまモンの可愛らしさ、やさしさで印象が良くなった」と喜ぶ。「くまモンの生まれた熊本に行ってみたい、という観光客も増えている」(同)という。かつて「いつまで続くのだろう」と心配したくまモン評価も、今は「当分は続くだろう」と確信に変わっている。

九州全体でIR誘致、西九州統合型リゾート研究会

西九州統合型リゾート研究会

 九州でカジノを含んだ統合型リゾート(IR)実現を目指す西九州統合型リゾート研究会(会長=前田一彦佐世保商工会議所会頭)は6月11日、長崎県佐世保市のハウステンボスで第6回定期総会を開き、地域の理解を得ながら、九州全体でIR誘致活動を展開する検討部会の発足など活動計画を決定した。

 カジノをめぐる動きでは、昨年8月に「国際観光産業振興議員連盟」(古賀一成会長)が、カジノを合法化し施行するための「カジノ区域整備推進法案」をまとめ、今国会に議員立法で上程する意向をみせるなど、実現に向けた環境づくりは進みつつある。

 同研究会は2007年に長崎、佐賀、福岡県の企業や自治体が参画して発足し、IR実現に向けた研究・活動を行っている。ハウステンボスを候補地に選定した九州・アジア統合型リゾート構想案もまとめ、同日発表した。

 計画では初期投資500億円で、ハウステンボス内に地上10階建ての新カジノホテルを建設し、ホテルヨーロッパ内にカジノ施設を設置。年間500万人の来場者で、940億円の売り上げを想定する。

 西九州エリアでの経済波及効果は2544億円、1万人以上の雇用者誘発効果を見込む。

 九州全域への波及には交通インフラの整備や魅力的なコンテンツ導入、一体的な周遊観光の仕掛けとプロモーション活動などを課題に挙げる。

 来賓の古賀氏も「西九州はアジアに一番近い。総合リゾートの概要もできている。九州が国際観光戦略の一環として一丸となって頑張ってほしい」と期待を述べた。

対談~Tourism For All~池山メディカルジャパン・池山 紀之社長×旅行新聞新社・石井 貞徳社長

池山紀之社長×石井貞徳社長対談

ピンクリボンのお宿ネットワーク
7月10日、設立総会 ―すべての人が旅を楽しめる環境づくりへ―

 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」(発起人代表=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将)の設立総会が7月10日、開催される。同ネットワークの設立に向けて協力してきた、池山メディカルジャパンの池山紀之社長と、旅行新聞新社の石井貞徳社長が「Tourism For All」をテーマに、すべての人が等しく旅を楽しめる環境づくりについて語り合った。また、一般社団法人CSRプロジェクト理事長の桜井なおみさんからもメッセージをいただいた。
【本紙3面に関連】

旅館で温泉に入る喜びを―石井社長

観光と医療の橋渡し役に―池山社長

旅行新聞新社 石井貞徳社長
旅行新聞新社 石井貞徳社長

■石井:旅行新聞は「Tourism For All」(すべての人に等しく旅行を)をテーマに、これまで「ユニバーサルデザイン(UD)セミナー」の開催などに取り組んできました。今回設立される「ピンクリボンのお宿ネットワーク」は、社会貢献事業の一環としても、ぜひ立ち上げたいと考えていました。

 国内の乳がん患者は現在約50―60万人といわれ、若い年代にも広がっていると聞いています。そのような方々も悲観ばかりするのではなく、以前と同じように楽しく旅ができる環境づくりが我われ観光業界には不可欠です。とくに日本の文化である旅館で、温泉に入って喜びを感じられるような仕組みづくりが必要でしょう。そのためには受入側の旅館がネットワークをつくることによって情報の交換や共有化ができないかと思いました。

 設立時には、大規模旅館、中小規模旅館など40―50会員に参画いただく予定で、今後もネットワークが広がっていくことを願っています。この趣旨に賛同される企業や、団体、自治体の方々の参画も歓迎致します。

■池山:私たちは乳がん患者さんのためのオーダーメイドの人工乳房をつくっています。日々患者さんと接するなかで、多くの方が「以前のようにまた温泉旅館に行きたい」と強く望んでいることを、観光関係者には意外と知られていません。誰かが声を上げない限り、このことはわからないのです。一方、病院の医師や看護師、そして私たちも、患者さんから「どこの温泉に行ったらいいの? どの宿が私たちを受け入れてくれるの?」といつも聞かれるのですが、残念ながら、どの旅館が患者さんを心地よく受け入れていただけるのかという知識や情報がまったくありません。ですから、そのようなお宿さんのリストがあれば、病院の医師や看護師といった医療関係者は、患者さんとコミュニケーションを取るなかで紹介することができるのです。

 ただ、宿のリストをつくることに関しては、そんなに難しくはないでしょう。でも、それだけでは世の中は何も変わらないのです。できることなら、乳がんの手術を受けた多くの方々が温泉旅行を我慢している現状を広く旅館側にも知っていただいくことが大事だと思います。設備投資といったものではなく、患者さんの気持ちを「理解してあげる」という心の問題なのです。

 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」は、観光業界と医療業界をつなぐ橋渡し役になればいいと考えております。全国の主要500病院や看護師会などと連携しながら、患者さんを受け入れる宿が全国に広がり、1人でも多くの方々が等しく温泉の旅を楽しめる社会になってほしいと思います。 

■石井:池山さんは医療業界と観光業界をつなぐさまざまな活動を行っていますね。

池山メディカルジャパン 池山紀之社長
池山メディカルジャパン
池山紀之社長

■池山:昨年のことですが、「人工乳房を装着したまま、この温泉に入ることは大丈夫ですか?」と患者さんが旅館に尋ねたそうです。旅館の方から病院に問い合わせがあり、その病院の看護師さんからお宿に「大丈夫ですよ」と返答があったそうです。医療業界では当たり前の知識でも、患者さんや旅館の方々が知らないことが多いことが分かり、シリコーン製の人工乳房が全国の温泉や温浴施設に浸けても大丈夫なことを確認する「おっぱいリレー」を10月に実施しました。温泉に行きたいのに行けずにいる多くの女性の不安解消にも取り組んでいます。

 私の妹も乳がんの手術を受けてから15年間、母親や家族と温泉旅館に行くことができませんでした。これは、私の妹に限ったことではなく、日々乳がん患者と接するなかで聞かれる声は、たとえ本人がふっきれたとしても、「肉親が自分の傷跡を見て悲しむ顔が辛い」「傷跡を見て驚かせては申し訳ない」と言うのです。

 私たちがつくる人工乳房は決して安いものではありません。私たちも一生懸命作っていますが、せいぜい年間500人程度です。現在の日本では、年間約5万人の方々が乳がんを患い、乳房を切除しているのが現状です。私たちが人工乳房を供給できているのは、わずか1%に過ぎません。残りの99%の方々は我慢しなければならない状態です。「胸をつくっていただいて、20年ぶりに温泉に行けました」との手紙をいただいたり、喜びの声をたくさん聞きます。何とか一番楽しみにされている温泉に入れるようにしてあげたいなと思っています。 

■石井:乳がん患者さんが宿に来られた時、旅館側はどういう対応をすればいいのか、実際のところわからないところも多いと思います。

■池山:乳がん患者さんだからといって特別なサービスなどはまったく必要なく、特別なプランなんかも必要ないのです。

 たとえば脱衣所でお着替えをする際に、少し照明を落とすとか、ついたてを置くとか、洗い場に仕切りがあるというだけで「すごく安心感がある」と言われます。また、ピンクリボンのステッカーやロゴマークなどが館内に掲出されているだけで、「旅館の経営者が自分たちのことを理解してくれているのだ」と温かい気持になるのだと言います。脱衣所は消防法の関係で、30ルクス以上でなければなりませんが、30ルクスというのは本当に暗いのです。ですから、8時以降は少し暗くするというのも一つのアイデアだと思います。きっと、このような取り組みに賛同していただける旅館は日本全国にたくさんあるだろうと思います。そしてこのようなつながり(ネットワーク)がどんどん広がっていけば、乳がん患者さんだけでなく、「すべての人が安心して、どの旅館にも行けるような社会になる」と思うのです。

 私たちは、全国の主要500病院の医療関係者に、乳がん患者さんのことをこれまでより少しだけ理解していただけるお宿さんを紹介することができます。

■石井:参画される旅館の規模やスタイルなどさまざまなだと思います。しかし、大切なことは、人的な部分で、どういうお声掛けをして、どう対応していくかを、「ピンクリボンのお宿ネットーワーク」では、セミナーや現地視察などを通じて、教育・啓蒙にもつなげていけたらいいなと思っています。

■池山:私たちも最初は患者さんにどう接したらいいかわからなかったのですが、旅館の女将さんや仲居さんが普段されている「おもてなし」で十分なのです。ちょっとだけ、患者さんや病気に関する知識を得てもらえば、何も特殊なことが必要ではないのです。

 患者さん本人が温泉に行けなければ家族も行くことができません。家族や近親者を含めると、その数は200万人を超えると言われています。その需要をぜひ観光業界の方々、温泉旅館の方々に掘り起こしていただきたいなと思います。

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CSRプロジェクト 理事長 桜井 なおみさん
CSRプロジェクト
理事長 桜井 なおみさん

「診断後も人生を楽しみたい」

CSRプロジェクト理事長 桜井 なおみさん

 ピンクリボンのお宿ネットワーク設立、おめでとうございます。

 私は、今から8年前、2004年7月に乳がんの診断を受け、右側の乳房を全摘出しました。水泳が大好き、旅行、温泉が大好きだった当時30代の私にとって、術後に見た胸部の光景は今でも忘れられません。

 看護師さんから「傷あとを見てどのように感じた?」と聞かれた私は「のっぺらぼうの砂漠のようだった」と答えました。砂漠という言葉は、当時の私の心も表現したものでした。

 フィットネスクラブを退会し、家族との温泉旅行も諦めました。胸の傷跡を、周囲の人や、年老いた親に見られたくなかったからです。

 乳房喪失。

 生命を守るためには仕方のない手段でしたし、自分からも望んだことでしたが、実際の喪失感は大きいものです。こんな私でもお風呂に入るときは今でも眼鏡をはずし、鏡に映る自分の姿をみないようにしています。

 乳がんは今や16人に1人が診断を受ける病です。診断後も変わりなく、人生を楽しめるよう、皆様の取り組みの発展に期待します。

桜井なおみ=1967年東京生まれ。一般社団法人CSRプロジェクト理事長、NPO法人HOPEプロジェクト理事長、キャンサーソリューションズ㈱代表取締役社長。2004年夏、30代でがんの診断を受ける。その後、自らのがん経験や社会経験から小児がん経験者や働き盛りのがん経験者支援の必要性を感じ、2005年から、がん経験者・家族支援活動を開始。設立1年後を契機にNPO法人化、現在に至る。07年には、東京大学医療政策人材養成講座に参加。筆頭研究者として「がん患者の就労・雇用支援に関する提言」を発表。以来、一貫して社会と医療の間を結ぶさまざまな問題に取り組む。

日本観光施設協会へ、「旅の駅」をアピール

西山健司会長
西山健司会長

 日本ドライブイン協会(西山健司会長、229会員)は6月18日、東京都港区のチサンホテル浜松町で2012年度通常総会を開き、今秋を目途に一般社団法人日本観光施設協会に移行することを確認した。

 

 また、会員拡大を目指して活動した結果、昨年の91会員から、229会員まで増強した。内訳は、中・四国観光施設協会60会員、関西観光施設連盟40会員、群馬観光施設協会33会員、静岡県ドライブイン協会28会員、千葉県ドライブイン協会10会員など。

 西山会長は冒頭のあいさつで、「公益性のある事業を行うことによって、我われは社会性を持ち、ユーザーからの支持も得られる」と述べ、「道の駅」との関係については、「すでに存在しているものは認めざるを得ない」とし、「我われの『旅の駅』をいかにアピールしていくかが今後の課題。今年度は300会員、2年後には400会員を目指していきたい」と語った。

 特例民法法人日本ドライブイン協会は33年の歴史を持つが、時代の変遷とともに、旅行形態の多様化への対応も迫られている。一方で、観光産業の発展の担い手として、「ドライブン」という限定的な枠組みのなかでの活動には限界もあった。一般社団法人への移行にあたって、全国のさまざまな観光施設が大同団結し、「日本観光施設協会」という一つの旗のもとに結集し活動していく考えだ。

 内閣府から認可され次第、日本ドライブイン協会は消滅し、新団体に移行する。

 今年度の主な事業計画は、高齢化社会に適応したバリアフリーへの取り組みや、AEDの設置、災害時における情報提供などに取り組むほか、ウェブで会員施設を結ぶことも検討していく。

 なお、西日本の会員が増えたため、来年度の総会は関西で開くことも話し合われた。