No.335 産学連携セミナー - 学生が新たな観光の可能性語る

産学連携セミナー
学生が新たな観光の可能性語る

 日本観光振興協会と日本学生観光連盟は2月5日、東京都内で「目指せ観光立国 日本!~ツーリズムイノベーション~」をテーマに第9回産学連携オープンセミナーを開き、観光を学ぶ学生を中心に約500人が参加した。今回は学生連盟のアイデアも盛り込み、学生の研究発表や産業界の代表者らが登壇したパネルディスカッションなどを実施。今後の観光産業の革新について議論した。学生目線の新たな観光の可能性などを紹介する。

【飯塚 小牧】

 日本観光振興協会の船山龍二副会長は集まった学生を前に、「ツーリズム産業は日本のリーディング産業になる可能性が非常に高い。基幹産業として経済的にパワーがあるか、雇用を生むかが非常に重要だ」とし、旅行消費額や経済波及効果など他産業と遜色ない数字を示してツーリズム産業の重要性を説いた。

 

※ 詳細は本紙1496号または3月22日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

次世代を担う旅館経営者 ― “新しい波”を感じる

 次世代を担う若手旅館・ホテル経営者16人が3月13日に、山形県・天童温泉のほほえみの宿滝の湯に集まり、「旅館と地域の明日を創るフリートーキング」を実施した。

 これは観光庁の事業で、地域を活性化させるためには、新しい時代を担う若手の旅館・ホテル経営者を育成していかなければならないという視点に立ったものだ。本紙3面でも紹介しているが、参加者たちは熱く、真剣に、自分の宿のこと、そして地域のことを語り合っていた。

 会場となったほほえみの宿滝の湯は、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部の山口敦史次期青年部長の宿。また、2月20日に東京ビッグサイトで開いた第1回旅館甲子園の発起人・横山公大全旅連青年部長、その第1回旅館甲子園でグランプリに輝いた宮城県青根温泉の観山聴月の原太一郎専務も参加し、新しい波を起こしている。

 原さんは、仙台のあるレストランで、スタッフ全員の目がとても輝いていることに感銘を受ける。そして「ともに喜べる仲間、本気のチームがほしいと思った」と振り返り、今では「お酒のつまみは僕たちの働く姿」「思手成し(おもてなし)日本一を目指す」「青根温泉を日本一活力のある温泉地にしたい」と話すまで宿を成長させた。

 この観山聴月の原さん、前回本紙の1面特集でも取り上げた新潟県の越後湯澤HATAGO井仙社長の井口智裕さん、そして「活力朝礼」を実施する高知県高知市の土佐御苑の横山公大さんの宿でもそうだが、経営者とスタッフが一体化するまでの苦労は並大抵のものではない。しかし、経営者の熱い変革の思いが、いつかスタッフの胸に届き、高いレベルで一体感が生まれてきた良い例である。そういえば、宿の紹介をする場合、少し前の世代の経営者は、風光明媚な観光名所や美味しい魚介類、温泉成分の特徴などを述べたあと、宿の特徴を控えめに語り始める人が多かったが、今は宿の理念や、スタッフ・仲間のことを第一に熱く語る経営者が増えているのが特徴だ。

 さまざまなサービスを簡素化した格安の旅館チェーンが一定のニーズを獲得した。一方、有名温泉地でも、歴史的名旅館でもないが、「働くスタッフの魅力と、チームワークのおもてなしで直球勝負しよう」という若手経営者が増えているのは頼もしい。

(編集長・増田 剛) 

第5回「旅の日」川柳、3月25日まで募集(日本旅のペンクラブ)

 日本旅のペンクラブ(代表会員・山本鉱太郎氏)は3月25日(当日消印)まで、第5回「旅の日」川柳を募集している。旅を愛する人から「旅」をテーマにした川柳を広く募り、5月16日の「旅の日」に優秀作品の表彰を行う。協賛は、びわこビジターズビューロー、びわ湖城下町観光協議会(長浜観光協会、彦根観光協会、近江八幡観光物産協会)、東近江市観光協会、日野観光協会、休暇村協会。

 応募内容は、「旅」をテーマとしたウィットに富んだ自作未発表作品。ハガキでの応募のみで、1枚につき作品3点まで、1人1枚のみ。氏名または雅号、住所、性別、年齢、職業、電話番号を明記する。

 応募先は「日本旅のペンクラブ川柳係」〒183―0041 東京都府中市北山町3―3―18 田中宛。

 「旅の日」川柳大賞(1点)には、賞金3万円分+ペア宿泊券、「旅の日」の会招待券が贈られる。また、今年は滋賀県賞(1点)が設けられ、賞金1万円+ペア宿泊券、近江牛が贈られる。優秀賞(5点)は、ペア宿泊券を贈呈。

 5月上旬に大賞、滋賀県賞、優秀賞、入賞約100句をホームページで発表する。選者は全日本川柳協会常任幹事の江畑哲男氏。

 第1回は3787句、第2回は3604句、第3回は4625句、第4回は3945句の応募があった。詳しくはhttp://tabipen.net/

 問い合わせ=電話:03(3940)7580。担当=中元千恵子まで。

食べ歩き、クーポン販売(加賀市)

おやつきっぷ
おやつきっぷ

 石川県の加賀市観光交流機構は今年3月から、山代・山中・片山津の各温泉街や大聖寺など、加賀温泉郷エリアでお得に食べ歩きが楽しめるクーポン「おやつきっぷ」の販売を始めた。利用期間は来年3月末まで。

 クーポンは3枚のチケットが付いて500円。はづちを茶店(山代温泉)のミルクソフトクリームはチケット1枚、片山津バーガーとポテトのセットは3枚と、それぞれ指定枚数のチケットと引き換えに、各店自慢の“おやつ”が味わえる。

 参画店舗は、山代温泉4軒、山中温泉5軒、片山津温泉4軒、大聖寺4軒、橋立3軒。このほか、月うさぎの里や世界のガラス館など、市内観光施設4軒を加えた全24軒で実施する。

 カフェや和菓子屋、洋菓子屋など、ジャンルはさまざまで、おやつも手作りクッキーやパフェ、どら焼き、コーヒーとお菓子のセットなど、バラエティー豊か。なかには精肉屋の揚げたてコロッケや、水産業者の干し甘エビなどもある。

 クーポンは市内の各旅館・ホテルやJR加賀温泉駅構内にある観光案内所「KAGA旅まちネット」で販売する。

 

元気な東北アピール、観光復興向け関西でセミナー(東北観光推進機構)

“元気な東北人”がPR
“元気な東北人”がPR

 東北観光推進機構は2月26日、大阪市内のホテルで旅行会社の担当者らを集め、関西圏観光セミナー・東北の夕べを開いた。南東北を代表する山寺「宝珠山立石寺」(山形県)の清原正田住職による基調講演や、会津若松鶴ヶ城紙芝居弁士による「新島八重物語」の上演、各県の観光従事者による魅力紹介など、「復興へ向けて元気な東北」をアピールした。

 同機構国内事業部の長谷川博樹部長は「東日本大震災から間もなく2年になるが、まだまだ風評被害が続いている。助け合いや絆の風化も懸念される」と現状に危機感を抱きつつ、「今年は1月からNHK大河ドラマ『八重の桜』、4月から東北を舞台にした朝の連続テレビ小説『あまちゃん』放送と、明るい話題がある。また、3月16日からは、秋田新幹線に新型車両『スーパーこまち』が登場。4月からは仙台・宮城デスティネーションキャンペーン(DC)も始まる。DCは10月に秋田、来年4月に新潟、6月に山形も控えている。この追い風を逃さず、皆さんのご協力を得ながら、東北の観光復興に取り組んでいきたい」と述べた。

 清原住職の基調講演では、比叡山延暦寺第3代座主、慈覚大師円仁が平安時代に開いた中尊寺(岩手県平泉)、毛越寺(同)、瑞巌寺(宮城県松島)、立石寺(山形県山寺)の四寺を巡る旅「四寺廻廊」を紹介。立石寺では今年4月27日から5月31日まで、50年に1度の御本尊薬師如来像御開帳が行われる。清原住職は「四寺を巡りながら温泉、食、風景、文化と東北のさまざま魅力に触れてほしい」と語った。

 “元気な東北人”による各地のPRでは、青森県・八戸広域観光推進協議会で観光コーディネーターを務める木村聡氏が、昨年のB―1グランプリでゴールドグランプリを受賞した「八戸せんべい汁」をはじめ、横丁や朝市など、八戸自慢の食を紹介した。八幡平市観光協会(岩手県)の海藤美香事務局次長は「八幡平の読み方はハチマンタイです。桜と雪の回廊が同時に楽しめる健康と癒しの郷・八幡平へぜひお越しください」とアピールした。

 また、鎧武者とくの一の姿で登場した伊達武将隊(宮城県)は、4月からの仙台・宮城DCや仙台城下での町歩きツアーなどをPR。さらに、秋田県の角館から鷹巣までの約94キロを結ぶ秋田内陸縦貫鉄道の斎藤伸一運輸課長兼営業課長は、カタクリの群生地や阿仁の樹氷など、沿線の見どころやイベント列車を紹介した。

 このほか、会津若松観光公社の新井田信哉観光推進企画グループリーダーは、大河ドラマ「八重の桜」で注目を集める鶴ヶ城天守閣を取り上げ「国内唯一の赤瓦の城を見に来てください」とアピールした。市内では来年1月14日まで、「八重の桜」の世界を紹介する大河ドラマ館も開設されている。

 セミナー後の東北の夕べでは、山形県河北町の「かほく冷たい肉そば」や、青森県八戸市の「八戸せんべい汁」など、ご当地グルメや地酒が振る舞われた。

ネット環境の整備促進を、海外8空港を調査(観光庁)

第3回WGが開かれた
第3回WGが開かれた

 観光庁は2月25日、「第3回空港における訪日外国人旅行者へのサービスのあり方に関するWG」を開いた。海外8空港の調査報告をもとに、スムーズな旅客動線の確保や、インターネット環境の整備促進など、サービス向上を目指していく方針を示した。

 WGでは空港サービスの検討と、取り組み状況の把握のため、アジア4空港(仁川、シンガポール・チャンギ、香港、クアラルンプールLCCT)と、ヨーロッパ4空港(アムステルダム・スキポール、ミュンヘン、チューリッヒ、ロンドン・スタンステッド)の計8空港にインタビューを実施。各空港が考える評価が高いと想定するサービスは「出入国、乗継の迅速化」が最も多く回答された。一方で、「妊婦や障害者、子供連れの利用客向けサービスの充実」や「空港内イベント」などの回答もあった。香港空港では、香港の印象をより良くするため、イミグレーションやセキュリティー従事者に対し、セミナーやトレーニングを実施していることが報告された。

 インターネット環境については、Wi―Fi需要の高さから、アジアでは無料提供する空港が多く、ヨーロッパでは最初の一定時間のみ無料といった形態が大半を占めていた。言語対応については、アジアでは英語、韓国語、中国語、日本語の4カ国語、ヨーロッパでは英語と自国語の対応が多かった。アムステルダム・スキポール空港は、中国人向けの対応として、春節時などの大規模休暇には、案内員を増員。香港は、日本でも導入している(iPadを利用した)自動翻訳など先進的なICTを活用している。

 文化施設は、空港動線上で自国の文化を紹介する建物やスペースの設置が各空港で進んでいる。利用者の特性に応じたサービスは、国籍や宗教を問わずに利用できる礼拝・黙想室の設置が紹介された。

 日本の空港については、今後各空港で求められるサービスを、国際拠点・拠点以外・深夜早朝便就航・LCCの4種類に分けて整理。入国管理局など、入国時の手続きに関する関係省庁との協力も進め、訪日外国人旅行者の利便性向上を目指していく。

 また、成田国際空港(NAA)が2月7日に開設した訪日外国人向けポータルサイト「旅守り:TABIMORI―Travel Amulet―」も紹介された。同サイトは、日本を旅行する外国人に役立つ情報を集約しており、NAAへのアクセス情報、急病時の対話集、緊急時に取るべき行動、日本独特のルール・マナーなどが案内されている。委員からは「ジャパニーズ『ルール』という表記があるが、『エチケット』という表記に変えた方がいい。観光に来ている訪日客は、学ぶという意識は低く、『ルール』と表記されると敬遠される恐れがある。より身近な使い方ができるサイトにしてほしい」との意見も挙がった。

3月11―14日、「旅と温泉展」、新宿駅西口広場

 日本温泉協会は3月11―14日までの4日間、東京・新宿駅「西口広場イベントコーナー」で第55回「旅と温泉展」を開く。

 情報コーナーでは、全国の温泉地や会員施設、秘湯の湯、国民保養温泉地などを紹介。今回は「温泉で日本を元気に!」をスローガンに掲げ、東日本大震災やその風評被害を受けた温泉地の復興を目的に、元気に復興しつつある温泉地の姿も紹介する。抽選会や景品配布なども日替わりで行う予定。

 時間は午前10時―午後8時で、最終日は午後5時まで。入場無料。

 問い合わせ=電話:03(5941)8610。

海外増補版を策定、ツアー登山ガイドライン(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)はこのほど、海外での安全・安心なツアー登山運行のため、「ツアー登山運行ガイドライン 海外企画関連・増補版」を策定した。

 日本山岳ガイド協会と全国旅行業協会(ANTA)、観光庁と協議・検討を重ね、国内のツアー登山運行ガイドラインのなかに、海外特有の事例を15カ所挿入し、増補した。

 同ガイドラインでは、現地ランドオペレーターの選定時に、より詳しく深い知識があることの確認や、現地ランドオペレーターが実地踏査する場合でも自社で実地踏査方法やその結果について充分に把握しなければいけないことをうたう。そのほか、募集段階での適切な情報提供や危険の告知、危急時の連絡方法、適切な保険への加入促進なども明記。登山ガイドの資格制度は国ごとに多岐にわたるので、充分な事前調査の必要性も強調した。

 JATAでは、会員自社で総点検してもらうよう、年に1回、自主点検表を配り、安全・安心の徹底を推進していく。

【震災から2年 現地レポート 4】〈南三陸ホテル観洋 女将・阿部憲子さん(あべ・のりこ)に聞く〉

ホテル観洋の語り部バス。防災庁舎の前で 案内する予約課の伊藤俊さん
ホテル観洋の語り部バス。
防災庁舎の前で 案内する予約課の伊藤俊さん

全国から集う働き手に新風を感じて

 あの日から2年が過ぎた。普段は視察を中心に住民への見舞客などでにぎわうホテル観洋には、この時期、三回忌のために訪れる人々の姿が目立つ。日曜日でも満館だ。南三陸町全体の復興はまだ遠い。しかし、町の一部であるホテル観洋では、自分たちでできることを次々に取り入れ、前進している。
<取材・文 ジャーナリスト 瀬戸川礼子>

≪◆ホテルスタッフが被災地を案内する語り部バス≫

 毎朝8時45分になると、ホテル観洋から町へ向けたマイクロバスが発車する。甚大な被害をこうむったエリアを60分かけて巡る「語り部バス」(1人500円)だ。自分の目で景色を見て、感じて、語ってもらうために今日も走らせている。

 運転手と案内役は観洋のスタッフ。8人が輪番で行っている。波の高さなど数値は統一しているが、説明内容は各自の体験に委ねている。参加者は冬は30人くらい。夏季や観光シーズンには100人にのぼり、バスを3台出すこともある。当初は、予約がなければ運休するつもりだったが、これまで走らせなかった日はない。

 朝の忙しい時にスタッフを取られるのは厳しいはずだが、「震災直後から風化の危機を感じていました」という女将の阿部憲子さんを筆頭に、「語り継いでいこう!」と共通の志で行われている。自分たちだからこそできることでもあるのだ。

 実は、南三陸町観光協会では「学びのプログラム」として10人以上から運行する視察バスが人気を博している。

 しかし、個人客が視察する機会は少なかった。個人がタクシーを1時間利用するのは負担が大きく、ホテルから出ずに帰ってしまう人もいた。そもそもタクシー車両が流されて不足しているうえ、語り部タクシーとしては商品化されていない。

 そこで、ホテルでバスを出すことにしたのだ。阿部さんは語る。「お客さまのようすからも必要性を感じました。タクシーを手配する際に行き先を尋ねると、言い難そうになさるのです。『被害の大きい場所を見たい』とは言えないんですよね。でも語り部バスがあれば、気兼ねなく現地を見ていただけます。お客さまには360度の景色を実際にご覧いただいて、風化しないために語り継いでいただきたいのです」

 語り部バスを始めるに当たっては勉強会を重ねた。試運転では地元のシニア語り部や観光協会のスタッフにも乗ってもらいアドバイスを得た。双方は競合ではなく、互いに南三陸町の現状と未来を伝える同志なのだ。観洋の語り部バスを降りた後、改めてタクシーを呼び、30の仮設店から成る「南三陸さんさん商店街」へ足を伸ばす人もおり、それぞれが補完し合う状況といえる。

 参加した人からは、「やっぱり自分の目で見ないとわからない」、「参加しやすかった」との声が挙がり、来館のたびに2度3度と乗る人もいる。

 渡邊陽介ネット販売係長(30)は、案内人の1人。1年経って、話す内容が変化してきたという。「はじめは説明が多かったですが、いまは人の思いや未来の話、役立つ話をします」。

 渡邊さんが語り部バスで伝える「戸倉小学校」の話を紹介しよう。

 震災の2日前に大きな地震があった。子どもたちは普段通り屋上に避難したが、その後の職員会議で若い教師が提言した。「本当に屋上でいいんですか?」。学校側はその日のうちに、もっと安全な避難場所として高台の五十鈴神社を定める。翌日、つまり震災の1日前に神社で避難訓練もした。そして当日。波は、屋上のさらに5㍍上まで到達したが、高台の神社に逃げた生徒と教師は全員無事だった。

 「若い先生の勇気ある発言は素晴らしい。当たり前のことを『これでいいのかな』と気付く大切さを教わります」

 渡邊さんは続ける。「辛い話は、自分的にはもういいかなって感じです。勉強になったり、元気を与えられることを語りたい」

 一番明るい話題は渡邊さん個人の話だろう。「昨年6月に第二子、男の子が生まれました。仮設からも新しい命が生まれて育っていくんだということを伝えたい」

≪◆各地から集ったスタッフがもたらす新しい風≫

 若者の流出が課題の南三陸町。ホテル観洋も求人が集まらず、創業40年で初めて、人材派遣会社に依頼することとなった。地元の雇用に貢献できないジレンマがあろうが、思いがけないメリットも生まれた。「自らここに来る人は前向きなんですね。新しい風を感じています」(阿部さん)。

 今年1月に沖縄からやってきた当間菜津美さん(25)は、地元で接客業をした後、ホテル観洋に就職した。「沖縄は被災地から一番遠いのですが、できることはないかなと思っていました。もともとホテル志望でしたし、今回ここに来られてよかったです」。震災後、当間さんのように東京、神奈川、新潟、奈良、大阪、広島と、遠方から働きに来てくれる人が増えた。

 彼らが持つ南三陸町の印象は共通している。「一緒に働く人の中にたくさん被災者の方々がいるのに、思った以上に明るくて、自分のことを気遣ってくれること」だ。「もっと過酷なのかなと思っていましたが、寮もありますし、人は温かいですし、不自由はありません。雪も気持ちよくて好きなんです」

 顧客に震災のことを尋ねられると、当事者ではないことに引け目を感じるそうだが、「沖縄から来ました」という言葉が新たな会話を生んでくれる。「以前はマニュアル的に接客していましたが、いまは人の心に寄り添うことを意識します」と当間さん。

 女将の阿部さんは新しい風を素直に喜ぶ。「社員の表情が明るくなりましたね。仲良しが都会に出てしまって寂しい思いをしている社員たちにとって、遠くから働きに来てくれた方々は本当にうれしい存在なんです」

 前出・渡邊さんも、「外の目線を持った人が来てくれている」と歓迎する。

わくわくミーティング。隊長の女将・阿部憲子さんも一緒に。右隣は渡邊陽介さん
わくわくミーティング。
隊長の女将・阿部憲子さんも一緒に。右隣は渡邊陽介さん

 最近、「わくわくミーティング」なる企画会議を始めた。従来からの5人と、外からの新しいメンバー5人で若手中心。女将の阿部さんが隊長だ。「わくわくすることをホテルでやりたいね」が合言葉。

 外からのメンバーはこんなことを口にする。「朝、起きて雪だとめちゃめちゃわくわくする!」、「雪合戦しました!」。何年も南三陸に暮らすスタッフには考えも寄らないが、「そうか、雪にわくわくするんだ。お客さまもわくわくしているのかもしれない」と視野が広がる。「近々、雪合戦をやりますよ。まず、スタッフがわくわくすること。すると、お客さまもわくわくしてくれると思うんです。新しいメンバーのお陰で、当たり前に思っていたことが新鮮に思えてくる。ありがたいです」(渡邊さん)。

≪◆これまでにない利用の仕方が増える。多様化するホテルの役割≫

 阿部さんは、ホテルの使われ方が多様化していると感じる。たとえば、仮設住宅を見舞う人が観洋に泊まる。あるいは別の被災地で仲良くなった被災者とボランティアが休暇で観洋に集う。朝のお見送りで手を振るスタッフの中に、地元住民が混じっている。

 「いままでなかった光景ですね。住民の方が『遠くに親戚がたくさんできたみたい』と言うのを聞いて、心が温かくなりました」(阿部さん)

 建物が消え失せ、困り果てている地域に観洋があることで、食事の場、宿泊の場、集う場、語り合う場が提供できる。

 「ビジネスだけではない社会的な役割を担っていけたらと思いますし、被災地だからではなく、商品サービスで選ばれることを大切にしていきたいです」

 あれから2年が経ち、阿部さんは依然として休みなく働いている。芯の強さには頭が下がるばかりだ。

 現状を嘆くよりも前に進む。すべての物事に陰と陽が存在するなら陽を見つめていく。リーダーの心根の持ちようが未来を決めるとすれば、ホテル観洋の向かう先は明るいと決まっているようなものだ。

耐震改修法改正案提出へ、全旅連が見直し訴える

(左から)東京都旅組の今井明男理事長、佐藤会長、小原前会長
(左から)東京都旅組の今井明男理事長、佐藤会長、小原前会長

 2015年末までに耐震診断と診断結果に基づく改修を義務付ける「耐震改修促進法」の改正案が2月27日、自民党国土交通部会で了承された。同改正案は、3月15日を目途に国会に提出される予定だ。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(佐藤信幸会長)は翌2月28日、同改正案についての会合を開き、「あまりにも性急な話で、旅館業界にとっては死活問題だ」と述べ、改正案の見直しを訴えた。全旅連は、(1)補助金制度について、国と都道府県が事業者の負担を最大限軽減すること(2)耐震診断の結果公表の期間延長――の2点の要望を出した。

 同改正案は、旅館やホテル、病院、店舗などの5千平方メートル以上の大規模施設を対象とし、現在の耐震基準を定めた1981(昭和56)年以前に建てられた建築物の耐震化促進が目的。耐震診断の結果に基づく改修指示に従わなかった場合は、施設名が公表され、診断拒否や結果を虚偽報告した場合には、100万円以下の罰金が科せられる。

 支援策として、耐震対策緊急促進事業の追加予算、国費100億円(2013年度予算案)が補助金にあてられる予定だが、地方公共団体(市町村)により補助金制度の有無も異なり、地域格差が生じる問題がある。

 耐震診断の費用については、約5千平方メートルで600万円程度、耐震工事は、2―3億円の間ではないかと明確な数字は避けたが、事業者負担は、耐震診断が最低6分の1から最大3分の2、耐震工事は33・4―88・5%と補助金制度の有無で大きな差が出る。佐藤会長は「少なくとも、国と市町村が補助金制度について一律化してから立法するべきだ」と指摘した。また、全旅連前会長の小原健史特別顧問は「2、3年で耐震工事の完了まで促す法案は、現場感覚としては考えられない」と語った。

 全旅連では、「耐震改修促進法」の改正案の必要性は充分理解し、反対の立場ではないと強調しながらも、短い期間での義務化を問題視。施設名の開示は営業的な影響が大きいと訴えた。

佐藤機長が要望
佐藤機長が要望

 3月7日、自由民主党本部で2013度第2回自由民主党観光産業復興議員連盟総会と、支部長会議が合同で開かれた。

 全旅連は自民党に対し、要望書を提出。同書に対し、国土交通省住宅局の井上俊之局長は「改正法案に施設名公表の期限は明記していない。耐震診断の義務が2015年までとあるのみ」と話し、施設名公表の期限は法案に盛り込まないことを確認した。

【次号で詳細】