観光を競争力ある産業に、7月から庁内体制強化(田村観光庁長官)

 田村明比古観光庁長官は7月19日の会見で、このほど留任が決定したことを受け「観光産業を今の時代に対応した競争力のある産業にしていく」と抱負を語った。観光庁は7月から、観光産業課内に「宿泊業活性化調整室」、観光地域振興部観光地域振興課内に「観光地経営推進官」を設置するなど体制を強化している。これらを生かし、観光産業の活性化をはかる。

 ■3月以降増加へ〝国内は伸び代がある〟

 2017年上半期の国内旅行市場は、昨年5月から減少傾向にあった日本人の延べ宿泊者数が、今年3月以降、前年同月比で増加に転じており、徐々に上向き傾向に変化してきている。田村長官は以前から「国内旅行は伸び代がある」と主張。今後の取り組みとして「訪日に向けた取り組みの多くが、国内旅行のためにもプラスになる。必ず国内旅行は上向きになると信じている」と述べ、訪日客の受入環境の整備などに迅速に取り組んでいく旨を報告した。

 また、海外旅行は前年同期比6・3%増と上半期も継続して好調な伸びを示している。テロなどの影響により、需要減少が続いていたヨーロッパ方面も復調傾向にある。一方で、韓国への旅行者数は、朝鮮半島問題などの影響で減退している。田村長官は「日韓両国で、韓国の新たな観光資源の魅力などについて、旅行者に情報発信していくことが重要である」と語った。

 ■上半期の訪日消費額が初の2兆円に

 17年4―6月期の訪日外国人旅行消費額は同13・0%増の1兆776億円と四半期で過去最高を記録。1―6月の上半期累計では、同8・6%増の2兆456億円と推計され、初めて上半期で2兆円を突破した。田村長官は、中国からの訪日者数の1人当たりの旅行支出額が同2・5%増と6四半期(15年10―12月期)ぶりに増加に転じたことを報告。さらに費目別の消費額では、長らく低迷していた買物代が5四半期ぶりに増加したことを明らかにした。

 ■〝状況把握へ速やかな施行を〟民泊新法

 7月16日、福岡県福岡市で民泊利用の韓国人女性に対し、貸主の男が性的暴行を加える事件が発生した。6月9日に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が可決され、来年度からの施行が決定して以降も、同様の事件報告が相次いでおり、〝民泊解禁〟に対する不安の声も広がりを増している。

 田村長官は「現在はどこの誰が民泊サービスを行っているのかがすぐには分からない状況。このため、福岡のような事件が発生してしまっている。住民の方々の安心を守るためにも、速やかに新法を施行する」と述べた。そのうえで依然として増え続ける民泊サービスについて「増えているということは、それだけの需要があるということ。これらのニーズに対応する体制を強化しなければ、20年に向けての受入体制ができていないことにつながる」とし、改めて速やかな施行に向け、関係省庁が一体となって取り組んでいく姿勢を示した。

消費額は1兆円超え、政府目標厳しい状況続く(4―6月期)

 観光庁がこのほど発表した2017年4―6月期の訪日外国人消費動向調査によると、旅行消費額は前年同期比13・0%増の1兆776億円だった。1人当たりの旅行支出は同6・7%減の14万9248円。消費額は四半期で過去最高で、上半期累計で初めて2兆円を突破したが、1人当たりの旅行支出は減少。政府目標8兆円の達成は難しい状況が続く。 

 国籍・地域別に旅行消費額をみると、中国が3682億円(同4・3%増)と最も大きい。次いで、台湾1536億円(同7・6%増)、韓国1177億円(同69・2%増)、香港852億円(同33・7%増)、米国767億円(同14・6%増)の順。これら上位5カ国・地域で全体の74・4%を占める。とくに韓国が約7割、香港が約3割の増加で全体を底上げした。

 一方で旅行支出の場合、韓国の滞在日数の低さが全体を下げる一因となった。回答者全体の滞在日数分布で63・4%が6泊以内だが、韓国は3日間以内が40・0%と短い。「国内旅行感覚で短期滞在が多くなり、1人当たりの支出は抑えられる結果になった」と田村明比古長官は分析。韓国の1人当たりの旅行支出も6万9929円(同0・9%減)と、全体より8万円近く低かった。

 政府は20年までに訪日外国人旅行者消費額8兆円を目指すが、伸びが鈍化している。上半期の累計は2兆456億円と推計され、昨年上期(1兆8839億円)と比べ約1620億円プラス(8・6%増)に留まった。

 年間で1兆円以上旅行消費額が伸びなければ、今後3年間での達成は難しい。欧米豪などの富裕層を取り込むなど、中国一辺倒の状況を打破できるかがカギとなる。

びわ湖バレイに新施設

 滋賀県・琵琶湖西岸の標高1100㍍に位置する高原リゾート施設「びわ湖バレイ」(大津市)に8月5日、パノラマ絶景が広がるカフェエリア「CAFE360」がオープンする。昨年7月にオープンした「びわ湖テラス」の新たなエリアとなる。

 カフェには210度に広がる扇状のウッドデッキ(349平方メートル)を設置。最大約230人を収容でき、ゆっくり足を伸ばしたり、寝転がったりできるという。飲食メニューは、東近江栗かぼちゃや近江八幡でっち羊羹など、滋賀の名産品を練り込んだドーナツなどを提供する。

 昨年7月以降、来場者数は好調に推移し、16年度合計では前年度比約3倍増と、40年ぶりに30万人を達成。“リゾート地”としてゆったりとした滞在を求める客層が増えているという。

【土橋 孝秀】

余暇市場2%減の71兆円、鉄道や遊園地、旅館は増 (レジャー白書2017)

 日本生産性本部(茂木友三郎会長)はこのほど、レジャー白書2017(2016年分)の概要を発表した。余暇市場全体の市場規模は前年比2・0%減の70兆9940億円だった。観光・行楽部門は同0・3%減の10兆5560億円。11年以来の減少となった。同部門は「自動車関連」と「国内観光・行楽」に細分されており、「国内観光・行楽」カテゴリーは同1・1%の増加。とくに、ホテルと遊園地・レジャーランド、鉄道が好調。旅館はそれらに続く同1・2%の増加だった。今後のキーワードとして、参加体験対応と個人別対応、外国人対応が挙げられた。

 インバウンドの増加にもかかわらず観光・行楽部門は減少に転じたが、調査分析を担当した桜美林大学の山口有次教授は、「伸び悩んだ国内航空や貸切バスなど、国内旅行に特化した分野についても今後は、インバウンドの取り込みに注力する傾向が強まるはずだ」と強調した。消費増加のためには、外国人の取り込み方法を工夫する必要があるとの見解だ。参加体験や個人別対応の具体策として、VR(仮想現実)を挙げた山口教授。都市型のエンターテインメントであるため、地域での普及は難しいものの、インバウンドの取り込み対策としては有効との考えを示した。

〝えこひいき〟で儲かる仕組み、熊本の食と観光を販売(くまもとDMC)

村田社長と浦上英樹専務(後段右)、外山由恵常務(同左)

 観光地域づくりの舵取りを担う日本版DMO(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)候補法人として、観光庁が今年1月に登録した「株式会社くまもとDMC」(村田信一社長、熊本県熊本市)に注目が集まっている。同社は地元の肥後銀行と同行、中小機構などが出資する熊本未来創生ファンドや熊本県の出資で昨年12月に設立された。県の出資比率も4%で、ほぼ民間の企業だ。

 DMCのCはCompany(会社)で、観光協会など一般や公益社団法人が多いほかの日本版DMOと比べ、利益重視の民間の強みを活かして、くまもとの「食」や「観光」のブランディングをはかり、ビジネスチャンス拡大で地域活性のリード役を目指す。

 同社の村田社長はOとCの違いを「OよりCの方が良い意味で〝えこひいき〟ができる」と表現。「行政主導の仕組みでは、プロモーションも公平さが求められ、着地型旅行も補助金がなくなれば継続できない。Cではやる気のあるところと儲かる方向で進められる」とメリットを強調する。ただ、「どこで利益を上げるか」は模索中だ。

 事業概要をみると、調査・マーケティングやDMO設立支援、Webメディア「おるとくまもと」運営、着地型旅行商品や特産品の開発・販売、インバウンドの受入環境整備など多岐にわたる。

 そのなかで、柱の1つがビッグデータなどを活用したマーケティング事業。例えば物産販売は、売れ筋商品や付加価値、最適ターゲット地などを調査・分析し、販路拡大につなげていく。今後、具体的な結果を出すなかで、マーケティング手法も売りにしたい考え。

 2つ目が観光。メインは、雄大な阿蘇の自然を活かした体験型観光。バルーンやパラグライダーなど体験メニューの価値を高め、外国人観光客向けの高単価オプショナルツアーとして販売し、消費額アップをはかる。

 同社の調査では、ハワイの牧場1日アドベンチャーは日本円で1万5千円。バルーン体験は2万円だ。例えば上空でシャンパンを飲み、朝日を見ながら写真を撮る。この特別感が価格以上の価値を高めている。また、イタリアの1泊2日農業体験は1人2万円。

 こうした海外の成功事例を手本に、熊本での観光ビジネスに落とし込み、地域の活性化に活かす。これまでも天草のイルカウォッチングや人吉の球磨川ラフティングなどは成功事例の1つであり、さらに地域との連携で消費アップを目指す。

 同社は旅行業も取得。Webメディア「おるとくまもと」を通じて、着地型商品や宿泊、物産の販売を行う。観光と食の結びつきも強化する。香港では肥後銀行が出資のファンドが4月にレストランを開業。熊本県の食材を使った日本料理を提供している。同社の初年度の売上目標は3億円。1つずつ結果を出しながら、黒字化を目指す。

Webメディア「おるとくまもと」

【山と渓谷社 広告部 斉藤克己氏に聞く】「山の日」2年目、山を観光資源に

山と渓谷社 広告部
斉藤克己氏

 「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを趣旨に、国民の祝日「山の日」は制定された。実施2年目となる今年。「山」を観光につなげる取り組みも加速中だ。

 山と渓谷社(川崎深雪社長)では、山を観光資源として捉え、「トレッキングツーリズム」の提案に注力している。来訪者や登山後の宿泊増加を通じ、地域での消費促進を目指す。インタビューで、同社広告部の斉藤克己氏は「宿泊をともなう登山者による山旅の回数は、年間約3・6回。一般旅行者の3倍以上旅をしている。ヘビーな旅行者でもある登山者に対し、観光スポットやお土産などを積極的にアプローチするべきだ」と力を込める。

 「トレッキングツーリズム」の狙いは(1)地域に訪れる登山者を増やす(2)地域を訪れた登山者に旅行者になってもらう(3)インバウンド対策――の3つ。ビギナー層を取り込むためにも、適切なプロモーションが必要だ。消費増加につながる宿泊については、下山後の過ごし方を提案するなど登山者の行動パターンに基づく施策が効果的だという。

 「富士登山者に占める外国人旅行者の割合は約3割。日本の自然に興味を持つ方も多く、地域の山々での登山者増も十分期待できる」と続ける。昨年、飛騨県事務所(岐阜県)のインバウンド事業に協力。台湾人観光客をターゲットにしたモニター企画を実施し、山麓の観光とグルメ情報を発信した。

 自治体と提携し、登山や自然愛好者向けの移住定住イベントも開催する同社。昨年は、長野県大町市と福島県の自治体担当者による相談会も実施。参加者のほとんどは移住相談会に初めて参加した人たちで、自治体担当者も驚くほど熱心な質問が飛び交った。集客には、同社が運営する登山情報サイト「ヤマケイオンライン」を活用した。

 移住定住は、一時的な滞在である旅行の延長線上に位置するもの。山を軸に据えた誘致活動は、ターゲットを限定する分、期待できる成果も大きい。

 今後も、山岳情報誌ならではのブランド力で、地域への貢献を果たす構えだ。

【謝 谷楓】

地域活性化事業など学ぶ、8月18日まで参加者募集

飛騨高山観光大学、8月30、31日開く

 観光政策や地域経済の活性化につながる事業などについて学ぶ「第34回飛騨高山観光大学」が8月30、31日、岐阜県高山市のひだホテルプラザで開かれる。対象者は全国の地方自治体や観光協会職員に加えて、観光関連学部の大学生など。運営事務局は8月18日まで、参加者を募集している。

 30日は午後1時から、高山市経済観光アドバイザーの吉澤保幸氏が「地域創生と観光のあり方~場所、時間、ひとの魅力~」について、基調講演を行う。このほか、観光コンサルティング会社である美ら地球(ちゅらぼし)の山田拓代表取締役が「高山周辺の農村風景で思い出深い経験を―SATOYAMA EXPERIENCEの現場より―」を、岐阜県畜産研究所で飛騨牛研究部長を務める向島幸司氏が「飛騨牛の現状と特徴について」の事例報告を発表する。

 特別講演には、東北福祉大学特任教授・県立広島大学客員教授の福岡政行氏が「ジリ貧大国日本の明日―安倍政権はどうなる!?―」をテーマに語る。さらに、午後6時10分から同ホテルを会場に交流会も行う。

 31日は、JA飛騨ミートや飛騨牛記念館を見学する「飛騨牛の理解を深めるコース」、タカネコーン収穫体験や石仏を見学する「高根町の食と文化満喫コース」の各2ルートで市内を視察する。

 参加費は1人6千円(高山市民は無料、交流会参加者は別途3千円)で、2日目の市内視察は飛騨牛コースが2千円、高根町コースが2500円。定員は各25人まで。

 申し込み・問い合わせ=飛騨高山観光大学実行委員会事務局(高山市商工観光部観光課内) 電話:0577(35)3145。

個人客志向へ転換、サービスを劇的に変化

リョケンセミナー 浜の湯で開催

浜の湯・鈴木良成社長

 リョケン(佐野洋一社長)は7月10―11日に静岡県・伊豆稲取温泉で、2017年第1回(通算159回)旅館大学セミナーを行った。1日目は「食べるお宿 浜の湯」の鈴木良成社長が「成長を続ける『浜の湯』の経営戦略」と題し講演。計145人の旅館経営者らが集まった。「浜の湯の『個人客志向』をぜひ学んでほしい」(佐野社長)。浜の湯は完全担当制と部屋出しを徹底し、リピーターを取り込んでいる。個人客旅館を追求するなかで、これまでの変遷を語った。 【平綿 裕一】

 転機は02年の設備投資。「個人客志向へと高質化の転換期だった」(鈴木社長)。昨年の第5期設備投資まで、施設の個人客化をリピーター向けに進めてきた。第5期ではバーラウンジを新設。夕食までの間は3回以上来館して、宿に直接予約した客だけが入室可能。アルコール類を無償で提供し、リピーターにこだわった空間にした。

佐野洋一社長

 ただハード面の施設は個人客・高質化したが、ソフト面のサービス強化が遅れていた。サービスを劇的に変えるため、4年制大学に絞った新卒採用を始めた。

 鈴木社長が会社説明から最終選考まで一貫して行う。学生には選考過程で宿の考え方や方向性を理解してもらい、共有する。「何度も話したうえで、最後まで残ってくれる。だから絶大な信頼がある」。徐々に新卒採用が増え、現在客室係は若年層が半数以上を占める。「これでサービスレベルが大きく上がった」と振り返る。

 さらに「今の時代はいかにリピーターに合うパーソナルサービスをするかが勝負だ」と強調。とくに力を入れるのが顧客カルテだ。来館のたびに新たな顧客情報を追加する。些細な会話から、料理の好みや写真撮影は必要かなど多岐にわたる。情報を元に浜の湯だけのパーソナルサービスを積み重ねていき、リピーターを囲い込んでいく。

 これらを追求するため「完全担当制」「部屋出し」を徹底。客に密接に関わる機会が多く、細かい情報を仕入れることが可能だ。「ものをいうのは情報量。完全担当制と部屋出しはつぶれるまでやっていく」とこだわりを見せた。

 このほか独自の宿泊プラン造成や、団体向けの料理を一品出しへ段階的に変えるなど、間断なく手を打ってきた。宿泊単価は年に1500円ほど上げて、今の平均宿泊単価は3万円を超える。直販の客は7割。繁忙期に全体の3分の1がリピーターという状況だ。「これまでリピーターを少しずつ増やしてきた。徐々に高単価の部屋に宿泊して下さるリピーターが増えた結果、現在に至る」と述べ「まだ成長していきたい」と締めくくった。

 講演後は浜の湯の館内で、参加者はリニューアル後の客室やバーなどを視察。個人客化の変遷を肌で感じていた。


新設のバーラウンジを見学
一圓泰成社長
井口智裕社長

 2日目は彦根キャッスル リゾート&スパ(一圓泰成社長)、越後湯澤HATAGO井仙(井口智裕社長)の代表と社員が講演。「若手社員が主役『私はこんなに旅館が楽しい!』」と題し、社員の業務や働く目的、考え方を発表した。

 次回は12月12―13日、千葉県・木更津三日月温泉「龍宮城スパ・ホテル三日月」を予定。
 
 

託児所委託契約を締結、女性が働きやすい環境を(RAKO華乃井)

白鳥和美社長

 長野県・上諏訪温泉のRAKO華乃井ホテル(白鳥和美社長)はこのほど、諏訪市内にある託児所「ももいろのきりん」と、地域初となる外部託児所の委託契約を締結した。同施設で働く子育て世代の女性スタッフが働きやすい環境を整えるため、託児料金の一部を補助。託児所は優先的に受け入れ、要望により営業時間外の託児も行う。

 今回の託児所委託契約について白鳥社長は「女性が働き続けられる企業にしたい。結婚出産を機会に退社を選択させてしまうことにずっと心を痛めていました」と語る。サービス業は女性スタッフに支えられていると言っても過言ではない。人をもてなすことができるサービス業が好きで、生涯の仕事にしたいと願う女性も少なくないという。「しかしながら、当社のような宿泊業では土・日曜が休みでなく、シフト制で不規則な業種(労務体制)なため、出産後は非常に働きづらい環境となります」。

 子育てをする女性の一番の悩みは「子供を家で1人にできないこと」だ。その悩みを解決するため諏訪市内にある公共的な託児所の利用などを検討したが、延長託児の時間にも限界があり、また週末や年末年始などの多忙期には開所しないなど、実動に添った体制ではなかった。「社内託児所も検討しましたが、中小企業の当社では運営が難しいため、断念しました」と話す。

 そのような苦悩が続くなか、2つの機会が同社に訪れる。1つは産休後、苦労しても正社員として復職したいと申し出た女性スタッフが数人いたこと。そして同社の勤務形態にも対応してくれる託児所に出会えたことだ。「さっそく託児施設代表の平田由喜美さんにお会いして悩みを打ち明けたところ、共感していただけ、まずは復職する女性スタッフのために2人で準備を進めてきました。ようやくその仕組みができ、同施設との外部託児所の委託契約が締結し、スタッフが安心して子育てをしながら復職できる環境が整いました。これにより宿泊業でキャリアアップを諦めていたスタッフが仕事を継続できる仕組みの第1歩が踏み出せました」と白鳥さんは語る。

 「当社で働く子育てと仕事に頑張る女性スタッフが働きやすいようにしたい」という思いから、今回の支援内容は正社員に限らず、短時間労働契約者(週30時間以上)も対象とした。

 「人財確保が難しいと、企業が嘆いてばかりではいけないと思います。人財育成をすべての企業が最重要項目として取り上げている延長線に、育てた人財を活かすべく企業が従業員に寄り添う時代が来ています。今回地域でも初となる託児所と当社との契約がきっかけとなり、諏訪地域が女性スタッフがより働きやすい優しい企業が集積する地域に向かっていくことが私の喜びです。ぜひ我が社がモデル社となり、多くの中小企業がこの仕組みを使って『子育てをガンバル女性に優しい諏訪市』が今以上に広がっていくことを願っています」と力を込めた。

 託児所「ももいろのきりん」は、0―9歳児を対象に開業。働く女性が利用しやすいよう営業時間が自由にできる認可外をあえて選択している(許認可の要件はそろっているがあえて認可にしていない)。営業時間は午前8時―午後10時(最大翌日2時)まで。お盆、年末年始を除いて無休。相談すれば時間外も対応している。所在地は長野県諏訪市四賀赤沼1676―2。

地元産品の再建支援、新事業創生と販路拡大へ、ふくしまみらいチャレンジPJ

テスト販売も実施

 「ふくしまみらいチャレンジプロジェクト」は6月に2年目を迎えた。同事業は2011年の東日本大震災以降に、避難指示などの対象となった同県被災12市町村の事業者を支援するもの。地元で親しまれる産品や伝統工芸品の再建を後押し、新たなビジネスの創出と、販路拡大をはかる。1年目は52事業者を支援。2年目は倍増の100以上の事業者を目指す。^t【平綿 裕一】

 福島相双復興官民合同チームと連携し、経済産業省の委託事業「17年度地域経済産業活性化対策委託費(6次産業化等へ向けた事業者間マッチング等支援事業)」の取り組みとして、ジェイアール東日本企画が受託し運営している。

 対象は(1)田村市(2)南相馬市(3)川俣町(4)広野町(5)楢葉町(6)富岡町(7)川内村(8)大熊町(9)双葉町(10)浪江町(11)葛尾村(12)飯舘村――の被災12市町村。地域の持続的な経営確立・産業創出を目指し、まちの復興をサポートする目的がある。

 支援はヒアリング後に事業者ごとに方針を検討・決定し、具体策を講じる。例えば昨年度は専門コンサルタントを派遣することで、商品力強化をはかった。

 既存商品の名称やパッケージデザイン、キャッチコピーなどを改良。マーケティングやブランディングも見直した。首都圏などで「ふくしまみらいチャレンジキャラバン」の特設コーナーを設置。支援を通じて開発・改良された商品を中心にテスト販売を実施した。

 一方、伝統工芸品の存続にも力を入れた。「大堀相馬焼」は避難先で原料入手が困難となった。派遣した専門家は「新しい大堀相馬焼」を提案。現在入手可能な原料の使用や、現代のライフスタイルに合わせた新作開発をアドバイスした。

 この取り組みで生まれた「新たな大堀相馬焼」は、全国規模の「テーブルウェアフェスティバル」に出展するまでに至った。このほか事業者間のマッチング交流会も開くなど、昨年度はさまざまな手を打って出た。

 被災から6年経ったが、帰還や移転後の事業再開は難しさが残る。引き続き被災12市町村のより多くの事業者を積極的に後押しして、再起をはかる。