【八幡屋・渡邉 武嗣社長に聞く】日々の〝信頼関係〟大事に、「また来たい」宿を目指す

里山に囲まれ、自然豊かな八幡屋の外観
渡邉武嗣社長

 福島県・母畑温泉の八幡屋(渡邉武嗣社長)は昨年9月に事業継承を行い、新体制となった。「自分たちが宿を守る」と、チームで経営している意識が強い企業風土はいかにして生まれたのか。現在進めている投資計画では、町全体を巻き込みながら、時代に合った湯治スタイルも追求している。「心とけあう、くつろぎの宿」をテーマに、里山の自然を生かした滞在型の宿づくりや、人材育成など、渡邉社長に幅広く話を聞いた。
【増田 剛、鈴木 克範】

 今年は、創業から138年目になります。宿屋としてはもっと以前から営んでいたと思うのですが、初代が湯治旅館として営業を始めた1880(明治13)年を起点として数えています。

 私は八幡屋の創業100年目に生まれ、昨年(2016年)9月に代表取締役社長に就任しました。先代は代表取締役会長となり、共同代表という体制です。運営面に関しては、全般的に任されています。

湯治宿から観光旅館へ

 母畑温泉で湯治宿をずっとやってきて、現会長が社長だった1983(昭和58)年に、観光旅館へと大きく舵を切りました。これが第1期の投資となります。90(平成2)年に第2期、95(平成7)年に第3期と、トータルで100億円ほど投資しています。

 宿が現在のかたちになったのは95年の第3期の投資からです。その後も、01年に岩盤浴を造り、13年にコンベンションホールの改装を行いました。

 今回の代替わりに合わせて、今年6月には最上階の10部屋を、和・洋室にリニューアルしたほか、全室に大型テレビを導入し、Wi―Fiにも対応できるように整備しました。さらに洋室17部屋を改装し、個別空調化も進めています。

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 観光旅館へと移行した83年当時の年商は2億円ほどでしたが、10億円の設備投資をしました。

 そのときに、スタッフが主体的に営業に回り、一方でお越しいただいたお客様を丁寧にもてなすという、八幡屋の企業風土が生まれ、現在まで受け継がれています。

 「自分たちが旅館を守る」という〝チームで経営している意識〟が強いことが特徴です。

 当時は、大手旅行会社もあまり相手にしてくれず、こんな田舎に大規模な旅館を建てたので、日ごろからお付き合いのあるバス会社や案内所、小さな旅行会社さんが地元のお客様を送客してくれました。 

 また、東日本大震災後には8月まで、被災者や復興支援者を受け入れていましたが、中小旅行会社さんとのつながりが強かったので、「大変だね」と、バスで復興支援のお客様を送客してくれました。目頭が熱くなるようなストーリーもありました。

 お客様に喜んでもらうということは、旅館として当たり前ですが、「こんなに多くのお客様を送客していただき、支えてくれているのは誰のおかげか」ということを常に考え、旅行会社、バス会社さんとのお付き合いもお客様と同じように大切にして接してきました。

そして、これらの積み重ねによる〝信頼関係〟を、大事にしてきました。

15歳で単身渡米へ、里山情緒を再認識

 私は中学を卒業後、15歳の時に単身で米国に渡り、25歳で帰国しました。その後、いくつかの企業で経験を重ね、八幡屋には2012年に戻ってきました。

 緑の多い田舎に育った私が米国・ラスベガスに留学して、砂漠の中の〝テーマパーク〟のような世界から、日本に戻って来たときに、「日本の里山情緒と、自然を生かした質の高い楽しみや、体験を提供していけばいいのではないか」という考えに至りました。これは、若い時期に海外を見てきたことが大きかったと思っています。

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 当館の年間宿泊客は約12万人で、このうち半分の6万人が県外のお客様です。今は、当館に宿泊したあと、いわき市に行って魚を買ったり、会津で歴史的な遺産を見て帰られたりするのがほとんどで、地元で過ごされることはあまり多くありません。

 地元・石川町は湯治場だった歴史もあり、いずれは長期滞在型で、ゆっくりと2―3日滞在していただけるように、地域のものづくりや、農作業などの体験もできるようにつなげていければいいなと思っています。

 とくに近年、滞在中は旅館内で完結するだけでなく、複合的に楽しんでいただく時代になってきたのを感じます。アンケートなどで宿泊客の声を聞いていると、自然環境や地域の歴史にも興味を持たれていることが分かりました。

 このため、お客様から要望があれば、まずは私が朝6時から、宿の周辺5―6㌔を約1時間30分お客様と一緒にウォーキングしながら、地域や八幡屋の歴史なども話しています。多い日には20人が参加することもあります。いずれ社員を巻き込み、最終的には町全体の運動にしていきたいと思っています。

 B級グルメや、ゆるキャラ、イベントなど一過性の取り組みは色々な地域でやられていますが、それだと、いずれ息切れしてしまいます。

 根本的に町全体の質を上げるには、植栽など身近なところからできる運動も、時間はかかりますが、一つのやり方だと思います。庭先や店の前に花を植えるだけで、訪れた人に地域のまとまりを感じていただける。駅を訪れた旅行者に積極的に声を掛けたりする空気感を、町全体で作り出していくことも大切だと思っています。

渡邉社長と歩くトレイルウォークの館内チラシ

社員教育の現場、大事なのは「今」

 社員教育で一番大事なことは「今」です。「昔はこうだった」と説明しても、「今はこうじゃないですか」という話になります。生え抜きのスタッフを取締役に就任させるなど、次代の経営層に育て上げる若手の幹部らと話し合いながら、現場の意見をくみ上げ、経営判断で改善していくスタイルを取っていきたいと考えています。

 私の社長就任は当館が企業として、実質初めて世代交代を迎えたことになります。〝第3の創業〟と謳い、「残すべきもの、変えるべきもの」を明確にして、良い企業風土、企業文化は残しつつ、商品づくりなどは時代によって変えていこうと考えています。

 八幡屋のモットーである「社員第一主義」「お客様第一主義」は、社員が体現してくれていたことを言葉にしただけのことです。

 都会の外資系ホテルのような洗練されたサービスなどはできないかもしれませんが、お客様にはとにかく明るく元気に、そして素直さと謙虚さを持って接し、社員同士でも優しさや気遣いを大事にしようと取り組んでいます。

 テクニカル、スキルの部分については、サービス接客のコンサルタントも入れて、最低限の作法の勉強もしています。最終的には、おもてなしの心の〝精神性〟の部分が一番大事だと思っています。

 具体的には、お客様が寒そうにしていればブランケットを持って行ったり、飲み物が空になっていれば注ぎ足したり、また、お客様とどのくらい会話ができるかなど、当たり前のことをどれだけ当たり前にできるかが、おもてなしにつながるのだと思っています。

団体旅行が主軸、個人客の対応も

 現在の145室という大型旅館の規模では、団体のお客様はありがたい存在です。今後も、基本的な営業スタンスとしては団体を受け入れるという主軸の部分は変わりません。

 一方で、個人のお客様が来られたときに、どれだけ満足していただけるかというところは、まだまだもの足りない部分があります。そこのニーズを拾い集めて、ベッドの部屋や、個人客に対応したワンランク上の食事処も、増築する必要があります。

 家族貸切風呂も、外湯を含め新たに4棟造る計画です。外国人旅行者や介助が必要なお客様、小さな子供がいる家族連れなど、あらゆる客層の需要にも対応していこうと考えています。

 さらに、「里山や田舎の情緒をより開放的に味わってほしい」との想いから、山の斜面の上の方に新たに大きなお風呂を造り、四季の鳥のさえずりや、植栽した花なども楽しめるようにしたいと考えています。日帰り入浴のお客様にも対応できればと思っています。

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 原点が湯治宿だったので、お客様には2―3泊滞在して、心も体もリフレッシュしていただけるような環境整備も必要です。ゆったり安らげるリゾート的な要素も取り入れながら、今の時代に合った湯治のスタイルが見つからないかと模索しているところです。「心とけあう、くつろぎの宿」が当館のテーマであり、いつの時代も、社員も、お客様も心がとけあえる宿が理想です。とがった宿ではなく、「なんか良かったね、また来ようね」と思ってもらえる宿を目指していきます。

“民泊新法”の対応合宿、各県理事長が行動方針確認(全旅連)

多田計介会長があいさつ
鈴木観光産業課長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(多田計介会長)は8月23、24日の2日間、「住宅宿泊事業法対応合宿」を開いた。東京都内に常務理事(各都道府県理事長)・理事が一堂に集結した。

 今年6月16日に公布された住宅宿泊事業法(民泊新法)は都道府県や政令市などの条例で上乗せ規制が認められている。各自治体で年間180日以内とされる提供日数の上限などを条例で決めることも可能で、今後議論は地方に移っていく。多田会長は「地域住民や利用者が安心安全に暮らし、施設利用ができる環境整備を、我われがリーダーとなって進めていこう」と語った。

 

桑田対策委員長

 合宿には観光庁観光産業課の鈴木貴典課長が出席し、「住宅宿泊事業法」についての説明と質疑応答が行われた。住宅宿泊事業者(オーナー)を監督する都道府県知事と、エアビーアンドビーなど住宅宿泊仲介事業者を監督する観光庁長官、さらには消防庁や警察庁、国税庁、保健所まで一元的に情報共有できるシステムを構築する方向性や、観光庁が民泊コールセンター(民泊110番)を立ち上げることなどを説明した。また、無許可営業者に対する罰金の上限額を3万円から100万円への引き上げなどを盛り込んだ旅館業法の一部を改正する法律案は、前国会に提出。現在継続審議中だが、次期臨時国会での成立を目指していることも報告された。

 その後、条例が定められるまでの行動方針を桑田雅之対策委員長が説明し、確認した。

45セミナーを設定、業界日の登録スタート(ツーリズムEXPO)

 ツーリズムEXPOジャパン推進室は9月21―24日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開くツーリズムEXPOジャパンの業界日、22日に実施する「ツーリズム・プロフェッショナル・セミナー」の登録を開始した。今回は45セミナーを設定。それぞれの職種や分野に応じた幅広い内容をそろえる。

 国内・訪日担当者向けの注目セミナーは、「貸切バスの運賃・料金制度等と国内募集型企画旅行における貸切バス会社名の表記に関する説明会」や、「新しい通訳案内士制度とランドオペレーター登録制度について」など。

 海外は、パラグアイやロシアなど各デスティネーションの魅力を紹介するセミナーが開かれる。さらに、顧客対応者や経理担当者向けのセミナーとして「苦情対応入門~クレームは怖くない~」や「元国税査察官が語る税務調査への対応」なども用意する。

 また、業界日には新たな試みとして、3―4千人いるエリア・スペシャリスト(旧デスティネーション・スペシャリスト)を対象にしたスタンプラリーを実施。東展示棟1―3ホールの海外出展エリアを回り、各クイズに回答すると抽選で国際航空券などの賞品が当たる。受付は午前10―11時まで。

研修内容など議論、第1回作業部会開く(通訳案内士制度検討会)

第1回作業部会のようす

 観光庁は7月31日、東京都内で「第1回新たな通訳案内士制度のあり方に関する検討会作業部会」を開いた。今回の検討内容は「既登録者の研修内容・新たに追加する試験項目について」。同作業部会は、全国通訳案内士に対する研修制度や試験の実施方法、既有識者に対する研修内容などについて検討する。決定事項は、本検討会で情報共有される。

 これまでの通訳案内士の筆記科目は、(1)外国語(2)日本地理(3)日本歴史(4)産業・経済――に関わる4科目で構成されていた。しかし、法改正後の全国通訳案内士試験においては、今までの4科目に加えて、通訳案内士の質を高める観点から「通訳案内士の実務」という筆記試験が新たに追加され、同筆記試験の合格者が、新たに全国通訳案内士として登録される。

 そのため、登録済みの通訳案内士については、「通訳案内の実務」に関する筆記試験ではなく、経過措置研修を受けることで、通訳案内の実務に関して知識を補完する必要があるとされる。

 試験内容で問う「通訳案内の実務」について事務局である観光庁は、たたき台として(1)実務において求められる知識(2)関係法令に関する知識――の2項目を明示。具体的に「実務において求められる知識」では、交通・食事・宿泊先の対応など、フルアテンドの旅程管理に関する基礎知識や、危機・災害時対応に関する基礎知識について出題。

 「関係法令に関する知識」では、通訳案内士法や旅行業法、貸切バスの安全基準である道路運送法などについて問い、既登録者に対する研修内容も、同等の内容で実施したい考え。

 経過措置研修の受講方法については、遠隔地や時間的に制約のある通訳案内士も受講しやすいよう、通信研修やeラーニングによる研修を実施。受講者の負担を考慮し、1日4―5時間程度の研修時間にまとめる方針だ。

 事務局から提示されたこれらの案件を受け、委員らは研修内容に盛り込みたい項目として、(1)ジャパンレールパスの知識(2)宗教的な観点も含む食事制限の知識(3)成田空港での出入国に関する知識(4)TAX―FREEに関する知識(5)旅程表の正しい見方・管理の仕方(6)外国人旅行者の荷物の管理(7)ガイドのマナー(8)インターネット環境についての把握と説明(9)天災以外のトラブルに関する対応(10)観光に関する最新情報の共有(11)宗教上の特徴について(12)個人情報保護について(13)おもてなしについて――の13項目の追加を要請。

 なかでも食事に関する知識は、「宗教上の問題だけではなく、ときに食物アレルギーなどは命に関わることもある」として、優先的に研修に盛り込むよう事務局に依頼した。

 研修時間については「座学で4―5時間は長すぎる」という意見が多く、次回以降の作業部会で来年度の試験内容と合わせて検討する。

訪日客へ医療情報、不安なく受診できる環境を(訪日外国人医療支援機構セミナー)

セミナーのようす
落合慈之理事長

 訪日外国人が4千万人訪れると160万人が日本で医療受診――。観光庁の調査では訪日外国人のうち、日本国内で何らかの医療行為を受ける人は4%いるという。東京消防庁発表の「訪日外国人搬送人員の推移」によると、2011年は年間922件だったものが、14年には1593件と急増した。こうしたことから、2016年11月、外国人観光客への医療機関の情報提供などを目的に「一般社団法人訪日外国人医療支援機構」(落合慈之理事長)が設立。このほど、東京都内で1回目の訪日外国人医療支援情報セミナーを開いた。

 落合理事長は、外国人が日本で受ける医療について、日本の医療技術を目的に来日するものと、日本に住んでいる人が日常的に受診するもの、旅行者がケガや簡単な病気で受診するものの3種類あると紹介。問題視しているのは急増する旅行者の医療受診で、まだ受け入れの仕組みが万全ではない。「観光立国といわれるなかで、病院が外国語表記などの対応を各々求められるのは大変だ」。こうした背景から、短期で日本に訪れた旅行者が不安なく医療機関を受診できる環境作りを目指し、機構を設立したことを説明した。

 具体策として、日本には救急車を呼ぶ前の相談ダイヤル「#7119」があるが、これを外国語対応できるようにすることを検討。観光業界の現場で対応している人の声なども参考に、「趣旨に沿うようにスキームを作り上げていきたい」と今後の展開を語った。

 一方、国も受入体制の整備を急速に進めている。セミナーでは観光庁や厚生労働省の担当者が登壇。受付から診療、会計まで包括的な体制を整備し、きめ細かい対応ができる最上位の「外国人患者受入に資する医療機関認証(JMIP)病院」と次位で医療通訳などを雇用する「医療通訳配置病院」、院内の多言語化や多言語ツールなどを備える「院内体制整備病院」を今年度中に全国で計100カ所整備するなど取り組みを紹介した。

 なお、前記以外に少なくとも外国語による診療が可能な病院として「訪日外国人旅行者受入医療機関」があり、観光庁がホームページで発表している。

滞在型の観光地へ、地域主体で学生も参加(群馬県・長野原)

八ッ場ダムとジオパーク核に

 群馬県・長野原町(萩原睦男町長)で今夏、滞在型観光地の魅力創出に向けた取り組みが始まった。地域住民が主体となり、同町と協定を結ぶ跡見学園女子大学の学生も参加。インフラツーリズムとジオツーリズムで日本一の観光地になることを目標にダムやジオパーク、温泉地などの地域の観光資源を磨きあげ、魅力を再編集する。長期滞在の仕掛けづくりや、観光拠点の整備なども進められる。7月16日に行われた決起集会では、関係者らが事業計画を説明した。
【後藤 文昭】

2年後の完成に向け、工事が進む7月の八ッ場ダムの姿

 萩原町長は同町の山村開発センターで開かれた決起集会でプロジェクトの名称を、「観光を学ぶ女子大生が種を蒔き、町民が水をやる大作戦」と命名。「これからは、我われが観光客を虜にしていかなければならない」と訴えた。

 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授は、町が進める「長野原町まち・ひと・しごと創生総合戦略」で分析している人口動態などのデータを引用し、「プロジェクトは、長野原町の生き残り戦略の基盤づくり」と断言した。そのうえでダム完成後の長野原町の観光戦略は、「八ッ場ダム」と「浅間山北麓ジオパーク」を活かし、インフラツーリズムとジオツーリズムの2つで日本一の観光地を目指すことと提言した。

 国土交通省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所は2017年春から、工事現場を見学する、インフラツアー「やんばツアーズ」をスタート。案内役に地元吾妻郡在住の女性からなる「やんばコンシェルジュ」を起用し、ダムの歴史と役割を分かりやすく解説している。個人向けツアーでは、夏のホタル観賞、秋の吾妻峡の紅葉、冬は樹氷と、季節ごとの見どころもコースに組み込む。

 やんばツアーズの今後の課題は受入体制の整備。予約なしでダム工事を見学できる展望台「やんば見放台」には、今年5―6月だけで2万人以上が訪れている。やんばツアーズ自体も、現在10月までツアーの予約が埋まるほどの人気を集め、今年1年間で6万人の集客を見込んでいる。しかしコンシェルジュ不足が予想されるなど、受入体制の整備には改善の余地が残る。

 一方で、ジオパークは観光客が魅力を感じられる状態まで整備が進んでおらず、両者の有機的な連携もはかれていない。また、町内にある川原湯温泉などと連携した地域経済循環の仕組みも構築しなければならない。篠原准教授は、「長野原町は今、お金が落ちる仕組みが作れるか。その瀬戸際にきている」と訴えた。

長野原町に新しい芽を出すために力を合わせる関係者

 未来に向けて、5つのプログラム始動

 大学生と地元住民が取り組むのは(1)川原湯温泉ブランド化・リピーター拡大研究(2)やんばツアーズ・女子大生コンシェルジュ&ジオパーク連携商品の開発(3)酒蔵・地酒ツーリズム(4)国交省道路局主催全国大学道の駅インターンシップ(道の駅八ッ場ふるさと館・観光コンシェルジュ)(5)長野原町役場インターンシップ生派遣――の5つ。8―9月上旬に学生が集中合宿を行い、プロジェクトごとに関係者と観光資源の磨き上げや整備を進める。

 川原湯温泉とダムの連携では、ダムの完成後は、やんばツアーズを組み込んだ宿泊商品造成や、夜間・早朝ツアー開発など、宿泊需要拡大への仕掛けを組み立てていく。

 長野原町の拠点として整備を進める道の駅八ッ場ふるさと館(篠原茂社長)は、オリジナル商品の開発や売り場の改革などを進める。篠原駅長は「地産物の発掘や発信は大きな課題。今回の連携で、地域の魅力をさらに発信していく」と宣言した。

 町内にある観光土産物施設の浅間酒造観光センター(櫻井武社長)は、滞在拠点として酒蔵ツアーの造成を行うほか、若者、女性客の誘致にも取り組む。櫻井社長は「長野原町でしかできない酒蔵ツーリズムを行い、地域全体で着地型観光地の形成に取り組んでいきたい」と語った。

 また、夏の間に住民向けやんばツアーズを催行し、観光面での取り組みを周知。浅間山北麓ジオパークを関連させたガイドシナリオの作成や、今後予想されるコンシェルジュ不足への対応協議など、やんばツアーズ全体の底上げもはかる。

 決起集会を終えて跡見学園女子大学の学生は「私たちが関わって、(長野原町や八ッ場ダムを)世の中に出すことで、外から注目してもらえるきっかけにしたい」と挑戦への意気込みを語った。

跡見学園女子大学の学生がやんばコンシェルジュとして、
ダム工事のようすを解説

現地視察会を実施

 7月16日に行われた決起集会に先立ち、現地視察会が行われた。

 最初に「なるほど! やんば資料館」で、やんばコンシェルジュがダム計画の歴史などを解説。説明によると、ダム完成によって湖岸延長約8キロのダム湖が完成し、低い土地を流れる吾妻川や、川に並行して走るJR吾妻線と国道145号線、長野原町の5地区が水没する。水没地区の住民の生活再建は、集落をそのまま高台に造成した土地に移す「現地再建方式」を採用し、地域コミュニティや伝統的な祭りなどを守るという。

 次に旧川原温泉地区へ移動し、当時の写真と今の風景を重ね合わせながら、当時の温泉街の姿を学んだあと、移転した現在の川原湯温泉を視察。地元の現状や歴史、土産が無いなどの課題を関係者から教わった。

 そして、ダム工事の現場へ。完成時の高さと同じ場所から、ダム工事のようすを見学し、ダム建設地の全体像や、ダムの大きさを実感。夏の間やんばコンシェルジュを務める跡見学園女子大学の生徒が、実演を行った。

 その後、ダム下流に位置する吾妻峡に移動し、地形的特色や成り立ちを学習。関係者は同地が、ダムをつくる好条件である「硬い岩盤」と「狭く深い谷」が備わっていたため、建設地に選ばれたのではないかと自身の見解を述べた。

 吾妻峡の先には、団体見学ツアーで訪れることができる見学スポットがある。最初に見学したポイントよりも低い位置にあり、こちらからはダム工事の進捗やダムの細部を間近に見学できる。

No.469 ピンクリボンのお宿ネットワーク、第6回総会 各団体と協力強化

ピンクリボンのお宿ネットワーク
第6回総会 各団体と協力強化

 ピンクリボンのお宿ネットワーク(会長=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将、事務局=旅行新聞新社)は7月24日、東京都港区の東京會舘で2017年度通常総会を開いた。12年7月に全国の旅館、女将の会、企業らが参画し設立。5年を経て、会員数は130を超え、乳がん患者・体験者に対する支援は順調だ。10月には、2018年版「ピンクリボンのお宿」冊子を発行する予定で、各施設の紹介や特典クーポンを提供する。総会後には、女性医療ジャーナリストの増田美加氏が講演を行った。

【謝 谷楓】

 
 
 
 

 畠ひで子会長は「乳がん患者・体験者が気軽に旅に出られ、入浴を楽しんでいただくことが、同ネットワーク設立の目的。50会員でスタートし、6年目を迎える今年は会員が130を超え、JTBサン&サンによる『ピンクリボンのお宿ネットワーク』の商品造成が実現した。今後も医療・患者団体と連携し、啓発活動に努めたい」とあいさつ。新年度の事業計画では、「ピンクリボンのお宿」冊子の発行と配布、ポスター制作など、広報活動のさらなる強化に注力する。宿泊施設の勉強会では、接客だけでなく、フロント・調理スタッフを対象に宿全体の意識向上も目指す。地域でのシンポジウムも開催する予定だ。

 来賓の安藤徳恵厚生労働省健康局がん・疾病対策課主査は「日本のがん対策は大きく分けて3つ。がんの予防と医療の充実、共生を目指している。年間8―9万人が罹患する乳がんは、日本人女性にとって最も頻度の高いがんとなっている。ピンクリボンのお宿ネットワークでは、乳がん患者・体験者が安心して旅に出かけ、お風呂に入る環境づくりに取り組んでいる。厚生労働省としても、皆さんと協力してがん対策を進めていきたい」と激励した。

 日本旅館協会の佐藤英之専務理事は「日本旅館協会では、生産性向上に力を入れている。このネットワークへの参画は、宿の付加価値を上げることにつながる。生産性向上に資するものだ」と深い理解を示した。

 来賓は、安藤徳恵厚生労働省健康局がん・疾病対策課主査と佐藤英之日本旅館協会専務理事、大山正雄日本温泉協会長、大堀千比呂日本政府観光局インバウンド戦略部受入対策グループマネージャー、菊池辰弥全国旅行業協会経営調査部長。…

 

※ 詳細は本紙1680号または8月23日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

同じ客室なのに… ― 直予約の方が高いホテル 悲しい現実

 この夏、オートバイで1人旅をしてきた。旅の目的は、念願だった北海道一周だ。

 茨城県の大洗港からフェリーで北海道の苫小牧港へと向かい、海岸線に沿って一般道を時計回りで走った。

 北海道をオートバイで走るのは初めてだったので、1日にどのくらい走れるか想像できなかった。また、天候によっても走行距離が変わってくる。オートバイの故障なども考慮に入れ、宿は一切予約しなかった。格好よく言えば、行き当たりばったりの旅だ。

 宿を決めていなかったので、午後になると、夕暮れまでに辿り着けそうな町を「宿泊地」と決めた。道の途中でオートバイから降りて、スマートフォンで調べて、宿に直接電話した。

 現在のIT(情報技術)社会では、当然インターネット予約の方がラクだし、料金も安いことは薄々知っていた。だが、あいにく私のスマホは初期設定の失敗から、メール機能が使えない状態になっていた。宿泊予約サイトのほとんどは、予約時にメールアドレスの記入が必要だが、私にはそれができない。仕方なく、「あの~、今日ですが、シングルルームが空いていますか?」と、直接宿に予約の電話を入れるしかなかった。

 しかし、8月の北海道はそう甘くなかった。当日に空いている宿なんてほとんどなかった。

 「ごめんなさいね。満室なので」と立て続けに断られた。人気ホテルや旅館が満室でも、小さな民宿に空室がある場合もあるが、この時期の北海道には全国から大挙してツーリング・ライダーがあらゆる宿に予約を入れており、何度も絶望的な気分になった。このため、函館や小樽など超人気観光地はできるだけ避けて、知名度が比較的高くない小さな町で宿を探すと、空室を見つけることができた。

 けれど、毎日、毎日、その日の宿が予約できるか分らない状況でオートバイを走らせるのも不安であり、また、断られながらの宿の予約自体もだんだん煩わしくなってきた。旅の中盤からは1日の走行距離も大体把握できてきたので、天気予報を小まめにチェックしながら、当日の朝には宿の予約を済ませることを日課にした。

 ある朝、私は大手宿泊予約サイトを見ながら、有名ビジネスホテルチェーンの1軒に「シングルルーム」の空室を見つけたので、ノートにメモして、そのホテルに直接電話してみた。予約係の男性からは「シングルルームは空いています」と、予想通りの返答があった。「では予約をお願いしたいのですが、ちなみに料金はおいくらですか?」と聞くと、大手宿泊予約サイトよりも2千円ほど高い料金を提示された。さすがに同じ部屋に2千円も多く支払う気はなかったので、「宿泊サイトには○○円と出ていましたけど」と言ったが、システム上、直接ホテルに申し込むと2千円ほど高くなってしまうという一点張りで、平行線を辿った。

 私が見た宿泊予約サイトには、空室が6室もあったのに、少し悲しくなってしまった。「このホテルも目の前の客より、多くの手数料を取る宿泊予約サイトを経由して予約した客に、より大きなメリットを与えるのか……」と残念な気分になった。それでも愚痴も言わず、「じゃあ、他の宿を探します」と電話を切った。私はまた一から他の宿を探し始めなければならなくなった。

(編集長・増田 剛)

MICE誘致が本格化、関係府省と連携強める(観光庁)

 MICE誘致に向けた動きが本格化する。観光庁は7月24日に第8回「MICE国際競争力強化委員会」を開き、中間とりまとめ(案)を提出した。来春までにMICE目標設定と、支援メニューの充実、官民連携横断組織を構築する。同会に先立ち、関係府省MICE支援アクションプランの中間とりまとめを策定。関係府省と手を組み、総力を挙げて誘致体制を構築する。このほか経団連や商工会議所と連携を強化。各国に遅れていたMICE誘致を多角的に連携し推し進める。
【平綿 裕一】

 「今回の大枠は政府内でMICEを重要な位置づけとして認識し、横断的に推進すること。まずは動き出すことが重要だ」(MICE推進担当室井上学参事官)。具体的対策を4つ提示し、来春までに施策をかたち作る。

 1つ目はMICE目標(KPI)の設定。C(国際会議)以外の、M(企業会議)とI(報奨・研修旅行)、E(展示会・見本市)も小委員会で定義し、年内にアンケート調査を実施する。MICE全体の経済波及効果を試算し、来年の3―4月に目標設定を行う。

 2つ目では都市力の強化をはかる。10月を目途に「グローバルMICE都市・都市力強化対策本部」を設置する。自治体とコンベンションビューロー(CB)、観光庁らで構成。これまでは規制を撤廃して新たな施策を目指そうとしても、議論の場や受け皿がなく、中心となる組織もなかった。今回の本部設置で体制を整え、国際競争力を持つ都市に進化させる。

 3つ目はMICE誘致体制の構築。まず政府を横断する体制を整備するため、7月21日のMICE推進関係府省連絡会議で、「関係府省MICE支援アクションプラン」を中間的にとりまとめた。

 バラバラだった関係府省と連携。「チームジャパン」で総力を挙げ、観光庁が中心となり、MICE推進策を進めることで合意。今後実施事項は行いつつ、検討項目などを調整し来年3月に同プランを策定する。

 このほか、経団連が行う2国間会議や、在外商工会議所の会合の場を活用して、M・I・Eそれぞれの誘致宣伝や情報提供など官民一体で働きかけを強める。経団連とは国内で、社内会議の開催や、報酬旅行実施でも手を組んでいく。

 4つ目は人材育成。10月に「MICE人材育成協議会」の設置を見込む。現状は各団体・自治体などが個々に行い、統一性がない。同会が中心的な組織となりプロググラムやカリキュラム、育成モデルを検討する。

 若年層に対しても働きかけを強める。学生インターンシップ受入強化を支援。来年度の予算で要求する見通し。大学での講演やCBなどへの受け入れを支援し、MICE業界への興味や就業意欲を喚起する。

知的財産権の保護を、WG設置、会員に啓発(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)は昨年9月、2020年前後に国内で複数の大型イベントが開かれることから、「大規模イベント開催に伴う対応ワーキンググループ」(座長=池田浩・JTB首都圏社長)を設置。成功に向けた課題や対応を検討している。とくに、知的財産権の保護は最重要課題として、会員会社への啓蒙に努める考え。

 WGは国内旅行推進委員会と訪日旅行推進委員会、海外旅行推進委員会、JATA海外旅行推進部、法務・コンプライアンス室のメンバーで構成。事務局はJATA国内・訪日旅行推進部が務める。8月3日の定例会見で、興津泰則国内・訪日旅行推進部長は「コンプライアンスを守る意思の表れ」と強調した。

 具体的に協議しているのは(1)オリンピック、パラリンピックに関する知的財産の保護・利用法の指導(2)正規ルートによる入場券の入手などの徹底(3)文化プログラムの情報提供(4)バリアフリーツアーの一層の推進(5)大会ボランティア、都市ボランティアの情報提供――。

 このなかで、最も重要な知的財産保護については先般、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の事務局から「オリンピック・パラリンピックの知的財産とアンブッシュマーケティング」の説明を受けたという。一方、内容は一般や他業界へも広く周知が必要だと考え、8月中にも同委員会に啓蒙を求める要望書を提出することを明かした。求めるのは知的財産保護を目的とした啓蒙・指導の強化と、アンブッシュマーケティングなどへの疑問に答える相談窓口の設置、ホームページでのQ&Aの開示。

 アンブッシュマーケティングとは、権利を保有しない企業や個人が権利者の許可を得ずにその権利を利用する便乗広告のこと。例えば、公式スポンサーではない企業が「オリンピック記念」などと謳うことも問題となるが、現状、こういった広告は街に溢れている。興津部長は「アンブッシュマーケティングという言葉自体馴染みがないが認知をはかり、注意喚起を行っていく。日本開催にあたり、業界をあげて対応したい」と述べた。

 また、旅行会社にとってはチケットの扱いも大きな課題。オフィシャルエージェントはJTBとKNT―CTホールディングス、東武トップツアーズの3社だが、それ以外の旅行会社が販売するには、制度上何が問題か検討を進める。