「津田令子のにっぽん風土記(32)」「国境越え音楽で人の輪が広がる」 ~ 神奈川県川崎市編 ~

2017年12月17日(日) 配信

川崎市での「歌声の会」のようす
フリーミュージシャン
舩田 忠雄さん

 舩田忠雄さんはもともと音楽が趣味で、トロンボーンやギターなどを演奏していたが、妻と共働きの状況で子育てとの両立が難しくなると、替わりに旅行を趣味とした。毎年時間をかけて計画を練り、子供たちや義父も連れてのヨーロッパ旅行を10年ほど続けた。その後、長女は米国の大学に留学し、長男は国際空港で働いている。国際的な視野が養われたのは「旅行の影響があると思います」と舩田さんは話す。

 子供たちの独立後に音楽活動を再開し、定年退職後はより力を入れている。海外旅行も、好きな金管アンサンブルのコンサートに合わせて行くようになった。

 あるとき、コンサート後にグループのメンバーに声を掛けてみると「ビールを飲みに行こう」と誘われ、仲良くなった。交流は続き、昨年には彼らと、日本で金管楽器のフリーランスプロの若い奏者を集めて自身が代表をしているブラスアンサンブルがコラボしたコンサートが、ロンドンで実現した。

 舩田さんは地域での音楽活動にも力を入れている。その一つが、川崎市での歌声の会だ。同市を中心に、高齢の方々とともに音楽活動をしている団体が開いているもので、舩田さんは参加者の歌にギターで伴奏をつけている。伴奏者の募集を見つけて応募したのがきっかけで始めたが、最初はなかなか人が集まらなかった。しかし、好きな曲を一緒に歌う楽しさが徐々に広まり参加者が増えていった。数多くのレパートリーを持ち、その場でさまざまなリクエストに応じて伴奏してくれることも人気の理由の一つのようだ。

 この会での出会いをきっかけに、昨年は川崎市内のお寺で、金管アンサンブルとソプラノ歌手によるコンサートライブを開催した。また、今年は川崎市幸区の「さいわい健康福祉プラザ(老人福祉センター)」の講座として「うたごえサロン」が開講し、そこでも伴奏を務めている。講座には定員の2倍近い申し込みがあった。「自分は下手だから、などと言っていないで、飛び込んでみると意外とすんなりできることもあるのです。それはロンドンでも川崎でも同じですね」。

 川崎市は「音楽のまち・かわさき」を掲げ、コンサートやストリートライブなどを多く開催し、情報発信もさかん。舩田さんもさらに活動を広げたいと考えており、「もっと演奏の場がほしいですね」と話す。音楽とその人柄がともに伝わるからこそ、舩田さんをとりまく人の輪は温かく広がっていくのだろう。

「井川今日子のおもてなし接客術(28)」 損をさせないおもてなし

2017年12月17日(日)配信

「選んで得した」と思わせる、おもてなしスキルを

 先日、接客研修した旅館様で、時間を割いて協議したのが「お客様に損をさせてはいけない」というテーマでした。

 例えば、お客様の到着順に優先的に夕食開始時刻を決める宿が多いかと思います。午後6―7時といった人気の時間帯が埋まってしまい、お客様の希望の時間に添えない場合に、スタッフの言い方次第では「選べなくて損した」と思わせることもあります。

 一方「自分の希望は通らなかったけど、スタッフの勧める方を選んで得した」と思わせることも可能です。

 おもてなしスキルを上げることで、一見損なことでも損と感じさせない体制を整えるよう注力するのが今回の目的でした。

 この旅館は夕食時間を2部制にしており、1部は午後5時30分、2部は午後8時という時間設定です。一般的に人気な夕食開始時間は午後6時30分や午後7時ですので、この時間設定では、早すぎる時間か遅すぎる時間かのどちらかで、食事をスタートしてもらわなければなりません。

 当然、この2つの時間設定だと、午後5時30分に集中しすぐに枠がいっぱいになります。この状況下で新たな予約が入ると、必然的に午後8時スタートの枠でお客様にご了承いただかなくてはなりません。

 スタッフ自身も午後8時には引け目を感じるようで、「大変申し訳ないのですが、午後8時でお願いできませんでしょうか」というスタンスで話をしてしまいます。

 そうするとお客様は、“人気の”午後5時30分の予約を取れなかったことで「損をした気分」に陥るうえ、「少しでも早く対応してもらえないか」とスタッフに交渉をし始めることになり、結果、スタッフが困り果てる、という悪循環を生んでしまいます。

 この現状を改善しようと、言い回しを改めることにしました。まずは「お客様のご希望には添えない午後8時の食事開始となってしまいますが、実は午後8時の方がお勧めです」と、伝える。

 次に「ご到着後は、まずはお風呂に入っていただき、浴衣に着替えてから是非ラウンジをご利用ください。午後8時までは、お食事中のお客様がいらっしゃるので、大浴場もラウンジも空いています。運が良ければ貸切状態でご利用いただけるかもしれません」と、食事時間までの時間の過ごし方を提案しながら、メリットを挙げて午後8時がお勧めである理由を伝える。

 このように一見お客様に宿の都合を押し付けてしまう場面でも、「実は得なんです」という“言い回し”を“自信を持って”すれば、お客様はすんなりと受け入れてくださることも少なくないと思います。お客様の御要望に応えられずに一見損をさせてしまうような場面でも、得と感じさせる提案・表現をして顧客満足を維持・向上させてこそおもてなしです。

(おもてなしコンサルタント 井川 今日子 )

コラムニスト紹介

井川 今日子 氏

おもてなしコンサルタント 井川 今日子 氏

大学で観光学を学んだ後、船井総合研究所を経て、10年に観光文化研究所入社。全国の旅館や観光協会を中心に、女性の感性を活かした集客・固定客化支援で活躍中。商品戦略や販売促進、現場接客サービスなど多岐にわたり提案。

「女将のこえ205」葛西 恵子さん、ホテルアップルランド(青森県南田温泉)

2017年12月16日(土) 配信

葛西 恵子(かさい・けいこ)さん ホテルアップルランド

アップルランドの女将

 ホテルアップルランドは、現在も経営する甚八りんごの卸売業から始まった。冬は極寒の地。創業者の義父が社員のために温泉を掘り、1972年にヘルスセンター「アップルランド」を、84年にコンベンションホールを有する現ホテルへと進化させたのだ。

 創業精神の象徴であるりんごは、大浴場、露天風呂、足湯に、年を通して大量に浮かべられており、すべての客室の冷蔵庫には甚平りんごが丸ごと入っている。りんご問屋ならではのサービスだ。

 さて、ヘルスセンターの開業当時は、地元にとって初の温泉施設とあって、農家を中心に大勢の人がやって来た。だが、次第に競合が増え、経理担当だった葛西さんは頭を抱えた。「晴れると農作業が忙しいのでお客さまは来られません。天気に左右されるのも悩みの種でした」。

 そんなとき、移動中に結婚式に出くわした。「こんなに晴れていても、結婚式なら人は集まるんだ」。葛西さんは早速、アップルランドで結婚式を企画する。この地域で初めて会費制を取り入れ、最盛期には400人の参列があったという。

 会議を兼ねた団体客も増え始め、96年に客室を増設する。

 「ところが、その頃から個人のお客さまが増え、人手が足りないことからクレームも増えてしまいます。辛い時期でした。例えば、お客さまはお茶を飲みたいだけなのに、人が足りないから待たされて、不満が募っていく。喜ばれるどころか、謝ってばかりの毎日でした」。義母は売店で働いていたため、女将は葛西さんが一代目。見習う人はいなかった。

 ある日とうとう、「もう、女将やめようかな」と、ポツリつぶやいた。すると、そばにいた仲居頭たちが言ってくれたという。「女将さん、やめることないよ。みんなで力を合わせてやっていきましょうよ」。

 「あの言葉に救われました。やっぱり、社員からの言葉が一番うれしいですね」。

 具体策も考えた。「お席と、お刺身とお鍋を予めご用意しておくハーフバイキングを導入したんです」。これで人的なクレームはぴたりとなくなった。

 最近のヒットは社員考案のハイタッチ大作戦だ。子供向けで、スタッフとハイタッチする度にサインが増え、16個溜まるとプレゼントがもらえる。笑顔が生まれる企画だ。

 毎朝、朝食会場には葛西さんの姿がある。「これも社員の考えです。ここではすべてのお客さまに出会えます。何気ない会話がうれしくて、『女将をやっていて良かったなあ』と実感しているんです」。

 

(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)

     ◇

住所:青森県平川市町居南田166-3▽電話 0172-44-3711▽客室数:67室(357人収容)、一人利用可▽温泉:南田温泉(弱アルカリ泉)▽創業:1972(昭和47)年▽料金: 1泊2食付1万800円~▽日帰り用の浴場もあり。足湯りんご風呂は無料開放。フロントや客室など館内の花は葛西さんが生けている。韓国、台湾など外国人客も増えている。

「ZOOM JAPON(ズーム・ジャポン)(12月号)

2017年12月16日(土) 配信

12月号表紙
クロード編集長

〈巻頭言〉

 アフリカ政策の重要性をうたうエマニュエル・マクロン仏大統領は、11月末にアフリカ3カ国を訪れました。その歴訪直後に発行した今号の特集では、日本とアフリカの交流の歴史やビジネスの現状について、当事者たちのインタビューを中心にレポートしています。文化ページでは、今年のカンヌ映画祭の批評家週間でも上映され、フランスで1月末から公開される平柳敦子監督の映画「Oh Lucy!」に注目。食のページでは、多様化するおせちやお雑煮など「お正月料理」の古今東西に触れています。旅行ページは、広島県の神楽を紹介しました。

(編集長 クロード・ルブラン)

特集 「日本とアフリカ:良好な関係」

140平方メートルの場所で食べて、飲んで、アフリカに包まれる。浜松町のカラバッシュでは音楽も楽しめる

 最近は外交や経済面での関わりが顕著に見られるが、実は日本とアフリカのつながりは古い。サムライの称号を得た最初の外国人は、1579年にイエズス会の宣教師とともに来日し、織田信長に仕えた身長180センチのアフリカ人だという。その後の鎖国、開国、2度の世界大戦、そして高度成長期を経て、日本とアフリカの関係は多様化する。■1993年に日本がアフリカ開発会議の開催を始めると、アフリカとの結びつきはより強くなる。さらに、2012年、アフリカ全土で自動車や医薬品を扱うフランス系商社CFAOを豊田通商が買収したことに見られるように、日本の企業にとってアフリカ大陸は大きな市場としての成長が期待されている。■そうした歴史や社会背景を踏まえ、2015年から日本とアフリカ大陸をつないでいるエチオピア航空や、アフリカにも多くの拠点を持つ自動車輸出会社 SBT JAPANを取材し、今日の日本とアフリカを舞台としたビジネス現場の声を聞いた。■また、1990年に来日し、俳優としても活躍しながら外国人タレント事務所を経営するガーナ出身のエニング・サムエル氏や、ガーナ生まれ日本育ちの3兄弟による音楽ユニット「矢野ブラザーズ」、東京で本場アフリカの味を提供するレストランを経営する日本人男性など、日本に暮らしながら異なる文化の橋渡し役を担い続けている人々の思いにも耳を傾けた。

〈ZOOM・JAPON 編集部発 最新レポート〉日本茶はいかがですか?

お茶の入れ方を披露する能宗-LELONG美佐子さん

 どんよりとした空の下、すでに雪も降ったパリ。街角のカフェで普段コーヒーを注文する客が、ホットチョコレートに心移りし始めるのもこの季節です。そんなころ、料理教育機関コルドン・ブルー本校にて、日本茶輸出促進協議会によるお茶のセミナーが開かれました。主な参加者はお茶のプロや未来の料理人。試飲を交え、日本茶の歴史解説から始まり、和菓子作りや抹茶を用いた洋菓子作り、手もみ茶実演、そしてフランスの水を使った日本茶の入れ方などが披露されました。飲食業に関わる人々の関心をつかむという今回のような試みにより、将来的にフランスでも日本茶が身近な飲み物になるかもしれません。

フランスの日本専門情報誌「ZOOM JAPON」への問い合わせ=電話:03(3834)2718〈旬刊旅行新聞 編集部〉

 

お祭り専用SNS、地域と参加者の交流促す

2017年12月19日(火) オープン

お祭りに特化したSNS(交流サイト)が誕生する(写真はイメージ)

お祭りに特化したSNS(交流サイト)がまもなく誕生する。お祭りをめぐる、参加者と主催者のコミュニケーションを支援するの目的。12月19日(火)以降、オマツリジャパン社のWebサイトから利用できる。

 7月には、祭りの運営に必要な人とモノ、カネの行き交うプラットフォームを立ち上げるなど、お祭りを地域おこしの主要コンテンツと捉え活動してきた同社。今回立ち上げるSNSサービスでは、レポート記事や写真を投稿できるほか、「お気に入りお祭カレンダー」機能も搭載。一般ユーザーが、お祭を知り・訪れる機会増を狙った仕様となっている。

 2015年の設立以降、各地域でお祭りの企画運営やコンサルティングに従事してきたオマツリジャパン。来訪者や消費額増に結びつく施策を提案することで、地域貢献を果たしている。今年4月には、キリンホールディングスなどからの資金調達を実現するなど、業界内からの注目も高いベンチャー企業だ。

学習ドリル「牡蠣とり帳」 生産量全国一位の広島県が制作

2017年12月15日(金)配信 

牡蠣とり帳の表紙

牡蠣生産量全国一位の広島県は、“牡蠣”という漢字の書き方や、牡蠣を用いた例文のみで構成された学習ドリル「広島 牡蠣とり帳(かきとりちょう)」を制作した。

 広島県は「牡蠣で旅人をもてなすこと」をモットーに、観光プロモーション「カンパイ!広島県 牡蠣ングダム」を今年10月から開始。県の魚でもある“牡蠣”の知識を高めるとともに、愛着を深める取り組みとして学習ドリルを制作した。

 「広島 牡蠣とり帳」は2017年12月19日(火)以降に、生産量全国一位の自治体である呉市の全小学校(学校数36校)6年生を対象として配付。冬休みの自由課題や授業などで活用してもらう狙いで、さらに生産量全国2位の江田島市の小学校などにも配付する予定。

 配付校の一つである呉市立音戸(おんど)小学校では、冬休みにこの学習ドリルを活用して牡蠣について学び、2018年1月9日(火)に「牡蠣初め式(かきぞめしき)」と題して、牡蠣という漢字の書き取り成果を披露する機会を設ける予定だ。

※全国の市町村別かき類の収穫量
(農林水産省:平成27年漁業養殖業生産統計年報より)

1位

広島県呉市

25,835㌧

2位

広島県江田島市

25,822㌧

3位

広島県広島市

21,558㌧

「牡蠣とり帳(かきとりちょう)」概要

牡蠣に関する例文で楽しく学べる

発行元:広島県

ページ数:42ページ

サイズ:B5

制作数:5千部

特徴:

・例文すべてに”牡蠣”を用いた漢字ドリル

・牡蠣という漢字が97回練習できる

・例文は牡蠣に関する豆知識などから構成されており、ドリルを書き進めながら楽しく自然に広島牡蠣の歴史・栄養・種類や、生産・取り組みについて学べる内容となっている

例文:

・「牡蠣」のほとんどは内臓だよ。

・室町時代には、広島「牡蠣」の養殖が始まっていた。

・世界で四位。日本の「牡蠣」の生産量。

監修者:

広島大学大学院 生物圏科学研究科 准教授 海野徹也(うみのてつや)

広島県呉市生まれ。1996年広島大学博士(学術)取得。

1999年北アリゾナ大学・生物科学部(文部省在外研究員)に学ぶ。同年、広島大学生物生産学部助教授。

2000年広島大学大学院生物圏科学研究科助教授。現在、広島大学大学院生物圏科学研究科准教授。

主著に、「クロダイの生物学とチヌの釣魚学」(成山堂書店)、「アオリイカの秘密にせまる」(共著、成山堂書店)、「アユの科学と釣り」(共編著、学報社)。

牡蠣の都道府県別生産量の割合

配付先概要

配付先:呉市立小学校/全36校、江田島市立小学校/全7校の6年生ほか

配付日:2017年12月19日(火)から順次

牡蠣初め式(かきぞめしき)概要

日程:2018年1月9日(予定)

会場:呉市立音戸(おんど)小学校

内容(予定):

小学6年生(1クラス)の生徒約30名が、牡蠣という漢字を題材に新年の書き初めを実施。冬休みに練習した成果を披露。

※詳細は決定次第で発表される。小学校への直接の問い合わせはお控えください。

「カンパイ!広島県 牡蠣ングダム」の概要

 広島県は、2013年度は「おしい!広島県」、2014年度は「泣ける!広島県」を、2015年度からは「カンパイ!広島県」をスローガンに設定し、観光プロモーションを行ってきた。広島県は美しい景色、美味しい食べ物、人情あふれる人々といった人々の心を動かす高いポテンシャルを持っており、こうした多彩な魅力に酔いしれて欲しいという気持ちを「カンパイ!」というメッセージに込めている。

 「カンパイ!広島県 牡蠣ングダム」は、牡蠣生産量全国1位の広島県は牡蠣の王国であり、人々の食欲を受け止める豊かな国であることを宣言するためのスローガンで、「牡蠣で旅人をもてなすこと」をモットーに、広島県への誘客促進につなげていく。

 現在は一口牡蠣や焼き牡蠣など、多様な牡蠣料理をつまみながら「はしご酒」のように街のいろいろな名物店をまわる、広島ならではの食べ歩きのスタイル「広島はしご牡蠣」を展開中。広島県内の横川商店街と大須賀町駅西地区(通称:エキニシ)を中心に楽しめる。エリアの参画店がそれぞれの得意ジャンルでオリジナル牡蠣メニューを提供する。

 また、広島電鉄とも連携し、路面電車を使って横川商店街を訪れると、オリジナルてぬぐいがもらえる「広島はしご牡蠣きっぷ」を販売するなど、プロジェクトを盛り上げていく。

旅館大学セミナー、佐野社長が講演(2日目)

2017年12月15日(金) 配信 

2日目に佐野社長が登壇。18年の経営指針として「磨け!独自価値」をキーワードに講演を行った。

佐野社長が講演を実施

「18年以降、旅館の大転換期にある」

 「18年以降、宿泊業(旅館)は大転換期にある」(佐野社長)。18年には、民泊新法が施行され、旅館業法の改正法案が成立する見通し。民泊で需要の奪い合いになり、旅館業法が施行されれば、ホテルと旅館の営業種別は「旅館・ホテル営業」に統一される。

 政府は「生産性向上国民運動推進協議会」で宿泊業の働き方改革も進めている。労働契約法と派遣法の2つの法改正で、18年問題なども浮上している。18年4月1日から、労働者は有期契約から無期への転換を申し入れることができるようになる。派遣社員が同じ組織で働けるのは3年までとなり、この最初の期限が同年9月末となる。

 とくに旅館を見ると、旅館そのもの特徴が薄れていく。客室が和室主体で、施設が和風という特徴は、必ずしも旅館だけのものではない。旅館以外でも、和室で寝具が布団、浴衣、温泉などの有する施設は多い。佐野社長は「どんどんボーダーレスになってきている。従来の旅館という既成概念で”存在価値”を求めることは難しい」と強調。これらを踏まえ、今回のキーワードとして「独自価値」を提言した。

 独自価値とは「他所に無く、客に価値として認められるもの」だという。例えば、長野県・菱野温泉の常盤館では、露天風呂に行くまでに、登山列車を使用する。これがレバレッチ効果を上げた。“登山列車に乗車して、眺望のよい露天風呂へ至る”これにより独自価値が高まり、ブランド構築にもつながっている。佐野社長は「ここに意識を集中すべき。客はブランドを購入する」と述べた。

 ただ佐野社長は「独自価値には収益改善、ビジネスモデル化を意識してほしい」と留意点を挙げた。ただ利益を追求するだけでは本末転倒だという。「旅館のアイデンティティと、独自価値のミスマッチは避けたい。客に伝えるべき価値を見誤らず、自館の活動、理念、方針などとのシンクロが重要だ」と呼び掛けた。

 独自価値をモチベーションの向上にもつなげていく。旅館は地域観光資源や地元産品など、独自の色でさまざまな価値を生むことができる。佐野社長は「独自価値を経営の希望にしてもらいたい」とし、「経営者と社員らで共有し、社が一丸となって育ててほしい」と語った。

「販売環境を整える」

鈴木正人本部長が講演

 リョケンの鈴木正人本部長は旅館の販売チャネルについて講演。同社が行ったアンケートで、17年は7年前と比べ、直接予約が13・2ポイント減少、OTAは14・2ポイント増加したことが分かった。「改めて、リアルエージェントとOTAも含め売上や利益、コストを比較した方がいい」「販売チャネルに合わせた販売環境を整えることが必要」と警鐘を鳴らす。チャネル販売環境の変化から「独自価値の訴求と、自力販売力の強化」が必要になると呼びかけた。

 一方、旅館が行っているSNS(交流サイト)については「もう少し手を加えてほしい」と話す。ただのプッシュ型の商品紹介ではなく、自館の正確な情報を発信することが大事だという。さらに自館だけで発信するより、公式SNSアカウントを創設し、客自身に写真などを共有してもらう。これにより「相互コミュニケーションができる」と説明した。

 長島本部長は生産性向上として、料理の提供方法などを説明。複数出しで、時間と労力を使うよりも1品出しで効率化するなど、成功事例を報告した。このほか、組み込み方式の事例を報告。引き出し重や、岡持ちを使用し、「オリジナリティを発揮して客に楽しみも味わってもらえる」と紹介した。また、季節や期間限定、月替わりのメニューを提供していくことや、ビュッフェの1つ先の“フードコート”などの提供方法も提示した。

 木村臣男会長は、「旅館業界は変革を迎えるが、“ピンチであると同時にチャンスである”という考えのもと、取り組めるかで変わってくる。生産性の向上などで足下固め、独自価値の磨き上げに努めていきたい」と締めくくった。なお、次回は来年7月に長野県・ホテル翔峰で行う見通し。

第160回旅館大学セミナー 龍宮城スパ・ホテル三日月で開く (1日目)

2017年12月15日(金) 配信 

リョケンセミナー開く

リョケン(佐野洋一社長、静岡県熱海市)は2017年12月12日(火)に千葉県・木更津三日月温泉の「龍宮城スパ・ホテル三日月」で、通算160回の旅館大学セミナーを開いた。宿泊施設の関係者ら200人ほどが集まった。経営方針やマーケティングなど「ホテル三日月の『個性化』と成長戦略」をテーマに講演を実施した。新たな挑戦で、改めてベトナム・ダナンへのグローバル展開も発表。7月に亡くなった前会長の遺志を継ぎ、グループ一丸となり歩みを進める志を語った。

 創業から56年の歴史を持つ。10室から始まったが、千葉県の勝浦と鴨川、木更津、栃木県鬼怒川の4ホテルの客室を合わせると、1千室を超えるまでに成長。法人として、3つのホテルを運営する勝浦ホテル三日月(小髙芳宗社長)のほか、太陽光発電所など、グループ全体で9社1組合を組織する。木更津にある龍宮城スパ・ホテル三日月の敷地面積は3万2千坪で、ホテル部門の直近売上は約54億円と規模が大きい。

佐野社長があいさつ

 佐野社長は開会のあいさつで、「『三日月グループは規模が大きく、自館とは違う』ということではない。大変強い経営意思と、卓抜な経営センスがある。むしろこの大きな組織を統率する求心力や組織能力、経営思想が、価値ある情報だ」と、開催の意義を語った。

「56年の一貫した方針」

小髙芳宗社長が講演

 セミナーでは小髙芳宗社長と小髙秀元専務、藤縄光弘総支配人の3人が講演を実施。同グループを1代で急成長させた、小髙芳男前会長(享年87歳)の跡を継いだ小髙芳宗社長が登壇。会長の傍でその手腕を学んできた。「投資遍歴を見れば、すべからく内部留保を得た後、経済情勢が一致したときに次の投資を行ってきた。これが56年の一貫した方針だった」と振り返る。

 「旬な税制がある。知らなければ損をする」とし、さまざまな税制を紹介。細かな税制を駆使し、内部留保を溜めてきた。次なる投資でグループをさらなる成長へ導くため、小髙社長は海外展開も視野に入れている。

 現在、ベトナムのリゾート地のダナン市で、レジャー施設を併設した複合型リゾートホテルを計画。日本貿易振興機構(ジェトロ)の支援を受けて進行している。一部で開業が報じられているが「絵は描けているが、決定ではない」(小髙社長)。現地の行政組織の人民委員長から投資研究許可証を受け、金融機関からの内諾は得ているものの、地主との交渉を継続して行っている段階。18年の5月ごろに最終的な決定がなされる見通しだ。

 計画では約100億円の投資をし、オーシャンフロントの約13㌶の土地を開発する。19年にアトラクションプールや温浴を楽しむ「スパドーム施設」、20年に20階建500室規模の「リゾートホテル」を建設。ルームチャージで170㌦(約2万円)ほどを設定している。

 ベトナムは経済成長率が高い。一人当たりGDPは2200㌦を超え、ダナンでは3千㌦を超えている。ただこのエリアはすでに5つ星クラスの外資系ホテルが17軒ほど先行し、競合が多い側面がある。小髙社長は「レジャー施設を併設したものは1つもない」と市場を分析。これまでのホテル三日月のビジネスモデル「スパ&ホテル」で培った知見、ノウハウを強みに、既存のホテルとは一線を画す考えだ。

 同計画では人手不足の課題解決もはかる。ベトナムで育成した人材を日本のホテルに登用し、人材の交流も狙う。小髙社長は「できるか、否か、挑戦しなければわからない。挑戦すれば何かを得ることができる。見えてくる課題の対策を練ることもできる」と力を込める。「三日月グループ一丸となり、会長の意思を継いで邁進する」と強調した。

「社長を守り立てて、全力を尽くす」

小髙秀元専務が講演

 小髙秀元専務は同グループの設備投資の経緯を説明。1998年から用地取得に動き、翌年に取得。神奈川と千葉を結ぶ東京湾アクアラインは1997年に開通した。しかし同ホテルがある内房エリアは、通過ポイントとして、「インフラが良くなったにもかかわらず、賑わいがなかった」という。同ホテルの敷地は3万2千坪。旅館事業用地としては広すぎる向きがあるが、眼前に広がる東京湾や、その向こうに広がる東京の景色、富士山など「ロケーションとしては良かった」と振り返る。

 2000年に龍宮城スパ棟をオープン。延床面積は1万7488平方㍍、総工費33億円。当時は大規模の日帰りの温浴施設はなかった。これがうけた。一方で季節波動が大きかった。

 その後、2002年に龍宮城のホテル棟を新築。延床面積が1万4500平方㍍。10階建てで260室を用意。スパ棟開業から僅か2年でホテルを用意。小髙専務は「日帰りだけでなく、宿泊などの需要増大もあり、早期にホテル建設に移った」と述べた。

 55周年事業として、新館の富士見亭の建築を行った。総投資額は120億円、延床面積2万5870平方㍍で、219室。コンセプトは、他館とかぶらないようワンラク上の高級路線に据えた。和モダンを取り入れ、客室は顧客満足度向上を考え、全室露天風呂を付けた。小髙専務は「社長を盛り立てて、投資に前向きに、全力を尽くしていく。このことが業界全体を明るくしていくことの、一因になるかもしれない」と今後の意気込みを語った。

藤縄光弘総支配人が講演

 その後、藤縄総支配人は地域社会に持続可能な貢献活動を展開していく考えを発表。「複合型リゾートはほぼ完成した。統合型リゾート(IR)も進めていく」と新たな構想も提示した。このほか、「今期は売上を73億円の達成を狙う。富士見亭の新たな魅力の発信などをはかり、利益を最大化する」と語った。

館内見学のようす

 当日は館内見学も行い、客室から大浴場、普段は見ることのできないバックヤードも視察。小髙芳宗社長は「裏導線も見てもらったのは、旅館業の皆さまに少しでもお役に立てればと思ってのこと」と述べた。

ピーチ、LCC初の「ひがし北海道」路線開設

2017年12月15日(金)配信

LCC(格安航空会社)初の「ひがし北海道」路線の開設を発表

LCC(格安航空会社)初の「ひがし北海道」路線へ。ピーチ・アビエーションが2018年8月1日(水)から、釧路-大阪 (関西国際空港)線を開設する。

 井上慎一CEOは12月13日(水) 北海道・札幌市内で会見を開き、釧路路線の開設は「“ひがし北海道”がアジアに 誇る観光ブランドになるための、大きな一歩」と強調。各自治体、JR・バスなどの接続交通の事業者とともに、エリア全体を盛り上げ、「“ひがし北海道”を確固たる観光 ブランドとして磨き上げることに貢献する」と宣言した。同社は現在、北海道旅客鉄道(JR北海道)と連携し、「Peachひがし北海道フリーパス」を発売。ピーチ利用者が、新千歳空港からJR 北海道を利用し、富良野、網走、帯広、根室、釧路などの「ひがし北海道」の周遊旅行を手ごろにできる フリー切符を売り出している。また18年度の新千歳空港拠点化計画や、道内路線開設の検討も進めている。

□釧路-大阪 (関西)線 概要

運航予定スケジュール:

 釧路、午後12:30 発→ 大阪(関西国際空港)午後3:00着

 大阪(関西国際空港)午前9:50発→釧路午前11:50着

 予定運賃: 5290 ~3万1590 円(シンプルピーチ/片道)

発売予定日: 2018 年 1 月下旬

〈観光最前線〉ろくバスが運行されています

2017年12月15日(金) 配信

帰還困難区域を進むバス

 11月の週末、福島県浜通り、国道6号沿線をガイド付きバスで訪ねる「ろくバス」に乗った。原発事故で避難を余儀なくされた市町の今を、車窓から案内し、伝える取り組みだ。福島県相双地方振興局などが主催している。

 いわき駅を出発し、今春6年ぶりに鉄路が再開した浪江町に向かった。途中、富岡町内で帰還困難区域に入ると、バリケードで覆われた建物がいくつも見られた。バスを降り、今年3月末に避難指示が解除された浪江の街中も歩いた。戻ってきた町民は約360人(8月末現在)、帰還率2%程度という町の現実が迫ってきた。

 来年は3月に運行、次年度以降の展開も検討中という。ここは東京都内から半日で行ける場所。近くのこれからが知りたく、再びバスに乗ってみたいと思う。

【鈴木 克範】