2026年4月1日(水) 配信

観光庁は、持続的な地方誘客により観光需要の平準化につなげるため、2026年度事業を拡充する。地域資源を活用した観光まちづくりを推進するための施設整備や、観光需要分散に向けたコンテンツ化を支援する新事業に取り組む。同事業を担当する観光庁観光地域振興部観光資源課の矢吹周平課長と、内閣府地域活性化伝道師・跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授が対談し、支援事業の方向性や地域への期待を語り合った。
□観光資源のコンテンツ化支援、面的活用に向けて事業対象拡充へ
篠原 矢吹課長は25年夏から観光資源課長に就任されましたが、これまでの期間を振り返り、日本の観光に関する所感をお聞かせください。
矢吹 着任して半年ぐらいですが、色々な現場を見させてもらい、「地域を元気にしたい」という強い思いを皆さん持たれていました。文化財や工芸品など、地域資源を活用して観光客を呼び込みたい。地域に経済活動が生まれることを期待されている一方で、「自分の地元が誇れる地域だ」と力を込めて言っていきたい気持ちを非常に強く感じました。
地域に国内外から訪れていただき、「良いところだった」と感じながら帰られることは、地域の人にとっても嬉しいことです。そうした思いを観光庁として支えることができればと、着任してからより強く感じました。
篠原 観光には経済的な効果のほか、シビックプライドを育てて地域愛を持ってもらい、自分たちのまちを次世代に継承できるようにする効果、役割があるのではないでしょうか。
矢吹 その通りです。観光だけでできるとも限らないですが、観光は有効なツールになることは間違いないと思います。地域を次世代につないでいくことが非常に大事であると考えています。
篠原 今年は観光立国推進基本計画も新しく改定されますが、日本の観光の在り方が大きく変わっていくのでしょうか。
矢吹 25年は訪日外国人旅行者数が初めて4千万人を超えて過去最高を記録し、訪日外国人旅行消費額が約9・5兆円と10兆円に届く勢いとなりました。観光は国全体でみると外貨を多く稼ぐ産業になっており、これからも成長分野であると考えています。今後も国の成長戦略として、大きく期待されていると感じています。
篠原 新たな観光立国推進基本計画の数値目標を達成するため取り組むことがベースにありますが、観光消費額の向上と地方への需要分散が課題と認識しています。
矢吹 観光立国推進基本計画の目標数値は、地方への需要分散が進んでいるかの指標でもあります。地域に経済活動が生まれるためには、どれだけの人が足を運んでいるのか、どのくらい消費をしているのか複眼的に数字を見ていくことが、課題に対してさらに必要になると考えています。
篠原 昔と比べて観光客の価値観が変わってきていますから、地域の中で稼ぐような仕組みをしっかりと地域側がつくらなければ、国が補助事業を実施しても消費額はなかなか上がりません。
矢吹 「戦略は細部に宿る」という言葉がありますが、細かい工夫の積み重ねが観光消費につながると考えています。例えば、お土産を小分けにしてお洒落な包装にするなど、細かい工夫も大事で、そういった地域の工夫を積み上げていくと良い方向につながっていくと思います。お客さんのニーズに合わせた商品設計や、売り方の設計を追求するということです。
篠原 観光消費額を上げることに加え、地産地消の観点が重要です。道の駅でみると、流通に載せられない規格外のイチゴを買い取り、ソフトクリームに加工して売っています。地域の中で経済が回るような仕組みも含め、観光客が地域にお金を落としていただくものにつなげられるか、考えなければなりません。
矢吹 観光客は見学や宿泊、飲食をして帰るだけでも楽しかったと感じてもらえますが、地域側は回遊してもらうための観光資源をどれだけ積み重ねできるかが重要となります。地域の産品であれば、農業体験や生産者見学などの一次産業や、加工業とも結びつけられます。これまで点であった観光資源を結びつき、束ねていくことで、地方分散の促進や、地域の活性化につながります。このような観光資源を結びつけて「線」にして、「線」をつないで「面」にしていくことが大事ではないかと考えています。
篠原 現在は観光の形態が団体型の周遊旅行から、体験・滞在・交流の3つを重視する傾向に進んでいます。地域との交流で密着度が高められれば、「第2のふるさとづくり」を推進する観光庁の施策にもつながり、それから関係人口として心の中に残れば、ふるさと納税にもつながります。
そのため、国の方針として「稼ぐ観光」を推進する支援事業に力を入れていますが、観光庁では地域にもう一度見直してやれるべきことを発掘してもらい、応援していくという図式でしょうか。
矢吹 地域の魅力を発掘していき、体験や交流といったコンテンツを埋め込んでいかなければ、消費に結びつかないのが現状です。体験・滞在・交流の3つをこれから重視していくことが必要と感じています。
篠原 観光の現状の中でも、依然として都市部や一部地域への一極集中が続いており、オーバーツーリズムの問題もさまざまで、インバウンドの受け入れと住民生活の質の確保を両立していけるのか大きな問題です。地方への需要分散には、日本中からさまざまな観光資源を拾い上げ、そして磨き上げていくことが、何よりも大切になることは間違いないです。
26年度に向けた観光庁事業の方針について、お話いただけますか。
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矢吹 観光資源の磨き上げに向けて、方針としては前年度まで取り組んできた調査事業や補助事業の拡充が、大きなテーマの一つとなります。
これまでは城や社寺、古民家などの宿泊・滞在型コンテンツを軸に、周辺の歴史的資源を面的に活用した観光コンテンツの造成を支援する「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業」を行ってきました。26年度は幅を広げ、歴史的資源のほか、食や自然、文化分野の観光資源も対象にした「地域の観光資源充実のための環境整備推進事業」(26年度予算40億円)に取り組みます。
例えば、酒蔵に体験の拠点となる施設整備の支援を行うことで、コト消費につなげていく。一個一個の点であった観光資源を地域のストーリーとしてつなぎ、面的かつ一体的な観光まちづくりを推進し、観光の磨き上げを支援していきます。
篠原 地域資源を活用した観光コンテンツの造成や効果的な磨き上げ、情報発信、販路の拡大といった事業に人気が集まる傾向があります。
昨年度は、観光コンテンツの造成を中心に支援する「地域観光魅力向上事業」が行われ、全国で約600件の事業が展開されました。後継事業の「観光需要分散のための地域観光資源のコンテンツ化促進事業」(25年度補正予算49億円)は、どのようなお考えですか。
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矢吹 「観光需要分散のための地域観光資源のコンテンツ化促進事業」は、地方誘客を進めるため、地域ならではの観光コンテンツの供給促進を目的としています。多様な地域資源を活用した観光コンテンツの造成や情報発信のほか、販路開拓が中心となる取り組みなどを総合的に支援する補助事業となります。
インバウンドの地理的・時間的な需要分散が観光の平準化につながり、地域への滞在を促すためのコト消費を生み出す取り組みです。
篠原 これまでも国の政策として、地方への需要分散やオーバーツーリズム対策を推進してきましたが、さらに具体化した事業になります。
また、日本の伝統工芸品の分野に関しても、職人たちが廃業に至ってしまい、脈々と引き継がれてきた伝統的な産業がどんどんと衰退しているのが実情です。今回の取り組みのように、特別な体験、滞在、交流の3つをセットすることで、隠れた観光資源でもある伝統工芸品が世界に向けて、クローズアップができるのではないでしょうか。
矢吹 日本は長い歴史と文化があり、地域に根付いている多様な文化を感じられる伝統工芸品は、強い観光資源になりうると思います。とくに海外の富裕層には、伝統工芸品そのものの素晴らしさに加えて、その生産者が持つ技術や、費やした時間も尊敬の対象となるでしょう。
したがって、既に完成したものを買うだけではなく、職人の方がどれだけの技術と時間をかけて、細部まで丁寧につくっているのか。それを体験したり、交流を通じて感じてもらうことが重要ではないでしょうか。
職人さんへの尊敬や、応援する気持ちがお土産の購入や口コミで広がり、リピーターや新しいお客さんが訪れてくる。当然、職人さん自身はつくることが仕事ですから、観光側の工夫でコンビネーションを取って、観光資源にしていくことが、これからの大事な視点ではないでしょうか。
地域の伝統産業だけではなく、観光資源をどう次世代につないでいくのか、大きな課題と認識しています。課題解決の一助として、観光をきっかけに販路を伸ばし、次世代につながっていくモデルを描いていきたいと考えています。
篠原 地域内で精神性を含めた職人の魂を伝えられるような関係性ができると、伝統工芸品が観光資源として、さらに深くつながります。
矢吹 そうしていきたいです。伝統工芸品がない地域もあるかもしれませんが、独自の食文化があるはずです。日本酒も非常に評価が高い。それら地域文化にストーリー性を持たせることで、良質な日本を感じられる一つのコンテンツになります。今回の事業を通じて、これらを見つけていきたいというのが、私たちの願いとなります。
篠原 観光資源のさまざまな専門的な分野ごとの掘り下げのチャンスを提供されています。観光資源課の補助事業を地域の皆さんに知っていただけたらと思います。
矢吹 私は多様性が好きなので、日本には多様な価値のある観光商品があり、地域には人を惹きつける魅力あるコンテンツがあふれ、それを追求すべきではないかと思っています。我われも多様なアイデアを発見し、感動するものが見つけられると良いなと思います。
篠原 これから日本の観光が大きく変わる1年になると思いますので、地域の皆さん、日本中の観光を目指す皆さんに対して、矢吹課長からコメントいただけますか。
矢吹 観光資源課が行う仕事は、地域で感動をつくっていく仕事だと思っています。私たちの地域が良いところであると発信する仕事であり、観光庁として一緒に頑張っていければと思います。