13線区の維持困難、持続可能な交通体系模索(JR北海道)

 北海道旅客鉄道(JR北海道、島田修社長)は11月18日、同社単独での維持が困難な線区が、北海道の鉄道網の半分以上の13線区、1237㌔になると発表した。同社は、民間企業の事業として担えるレベルを超えた鉄道輸送サービスを持続的に維持していくためのコストを、「誰がどのように負担するべきか」地域住民や国、関係機関などに相談する考え。そのうえで「持続可能な交通体系」の実現に向けた取り組みを進めていく。

 札沼線の北海道医療大学―新十津川、根室線の富良野―新得、留萌線の深川―留萌は、輸送密度200人未満(片道100人未満)の線区。1列車あたりの平均乗車人員が10人前後と、利用者が少ない。同線区の2015年度営業損失は合計で、20億円以上。また運営赤字以外にも、今後20年間で必要な老朽土木構造物の維持更新費用が合計で58億円必要になる。同社ではこれらの線区に対し、「鉄道よりもほかの交通手段が適している。手段を切り替えることで利便性・効率性の向上も期待できる」と考える。今後はバスなどの利用に転換できるよう、地域住民などとの相談を始める予定だ。

 宗谷線の名寄―稚内、根室線の釧路―根室、滝川―富良野、室蘭線の沼ノ端―岩見沢、釧網線の東釧路―網走、日高線の苫小牧―鵡川、石北線の新旭川―網走、富良野線の富良野―旭川は、輸送密度が200人以上2千人未満の線区。このなかには、観光路線の役割を担う富良野線の富良野―旭川も含まれる。しかしこの線区も、輸送密度1500人、15年度営業損失は9億5600万円。

 同社ではこれらの線区を、「単独では老朽土木構造物の更新を含め『安全な鉄道サービス』を持続的に維持するための費用を確保できない線区」に位置づける。今後は①利用の少ない駅の廃止や列車の見直し②運賃値上げ③上下分離方式の導入――などを検討し、そのうえで鉄道を輸送サービスとして維持するかどうか判断する。上下分離方式とは、設備の整備・保有主体と運営主体を分離するもの。公的機関がインフラ整備を行い、民営が電車の運行を行う。地方鉄道ではインフラ保有にかかる費用が経営を圧迫することから、導入する鉄道会社も多い。

 一方、同社単独で維持可能な線区は、函館線の岩見沢―旭川、札幌―岩見沢、小樽―札幌など585・9㌔。大量・高速輸送の観点からも鉄道でなければ輸送を担えない線区と、輸送密度が4千人以上の線区があてはまる。しかし、これらの線区でも15年度営業損失は、90億5200万円に上り、老朽土木構造物の維持更新にも多額の費用がかかることが予想されている。同社は、国や自治体などの補助スキームの活用や運賃の値上げなどを行い、同線区を単独で維持していく考えだ。

 宗谷線の旭川―名寄間と、根室線の帯広―釧路間は当面同社が維持をするが、営業損失が50億円を超えている。そこで、北海道高速鉄道開発との関連のなかで、持続的な維持方法を検討する。また北海道新幹線の札幌延伸後は、函館―長万部、長万部―小樽間を経営分離させる。

 JR北海道が18日に行った会見に対し高橋はるみ北海道知事は、道庁ホームページ上にコメントを掲載。同社が「単独での維持が困難」としている線区に対し、「本道の都市間を結ぶ幹線や地域を支える路線など道内鉄道網全体の5割を超える線区が対象となっており、その進め方如何では、本道の公共交通ネットワークに重大な影響を及ぼす可能性がある」と大きな危機感をにじませた。JR北海道には、引き続き徹底した管理コストの削減など最大限の自助努力を進めることと、関係機関などへの丁寧な説明を求めた。また道庁では、「鉄道ネットワークワーキングチーム」を新たに組織。鉄道網のあり方や課題について集中的な議論を進め、国や関係自治体との連携・協力をはかりながら、地域にとって欠かすことのできない交通網の確保に向け積極的に取り組んでいく。

 旅行者にとっても鉄道は大事な足である。定番の観光スポットとして挙がる小樽や函館、札幌以外にも、北海道の179市町村すべてに魅力は詰まっている。地域住民の足としてだけではなく、北海道の観光資源有効活用のためにも、より多くの線区が維持されるのが望ましい。そのためにも、観光者と生活者、両面の目線から交通網整備を考えてほしい。

【後藤 文昭】

「今年の一皿」が決定、パクチー料理が大賞に(ぐるなび総研)

今年の一皿は「パクチー料理」に決定
今年の一皿は「パクチー料理」に決定
滝久雄氏
滝久雄氏

 ぐるなび総研(滝久雄社長)は12月5日、2016年「今年の一皿」を発表した。大賞は「パクチー料理」。独特の香りや、健康・美容への効果だけでなく、栄養価の高さにも関心が集まった。準大賞は「日本ワイン」、特別賞は「こうじ甘酒」と「進化系餃子」、「ローストビーフ丼」で、ブラジル発祥の「シュラスコ」は特別国際賞を獲得した。

 今年は、地域版も発表され、静岡から、「静岡抹茶スイーツ」が選定された。

 滝社長は、「観光大国を目指すためには、観光資源である地元の食文化を磨いていかなくてはならない」と語り、食を通じたインバウンドと地域振興にさらなる期待を寄せた。

 「今年の一皿」は、ぐるなび総研が主催するもの。その年の世相を象徴する「食」を選定し、日本の食文化として後世に伝えるのが狙い。

バンサーン・ブンナーク閣下
バンサーン・ブンナーク閣下

 タイ王国特命全権大使のバンサーン・ブンナーク閣下が大賞トロフィーを代表して受け取り、「12月5日の今日は、亡くなった国王ラーマ9世の誕生日。タイの人々にとって、とても励みになる受賞だ」と感謝の念を表明した。

 大賞の理由について、パクチー料理研究家のエダジュン氏は、「食する機会が増えたことが大きな要因。外食チェーン店でも提供されるようになったほか、メーカーでもパクチーを使った調味料を発売するようになった」と語った。

 会場には、リオデジャネイロオリンピックで銅メダルを獲得した三宅宏実氏と、東京五輪2020のエンブレムを考案した野老朝雄氏も駆けつけた。野老氏は、受賞記念品のお皿もデザインしている。

 ほかのノミネートワードは、「伊勢うどん」、「牛かつ」、「熊本ラーメン」、「しらす丼」、「チョップドサラダ」、「カフェインレス飲料」、「機能性チョコレート」、「強炭酸ドリンク」、「コーヒー」だった。

【発表】第42回(2017年)プロが選ぶ100選

 旅行新聞新社(石井貞德社長、本社・東京都千代田区)は12月11・21日合併号の「旬刊旅行新聞」と自社ホームページで、第42回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の総合、もてなし部門、料理部門、施設部門、企画部門の入選施設を発表しました。総合では八幡屋(福島県母畑(ぼばた)温泉)が初めて1位になりました。

 ホテル・旅館100選は全国の旅行会社による投票を集計し100選施設を選出するもので、観光業界で最も歴史のあるランキングイベントです。1976年の第1回以来、今回で42回を迎えます。投票は10月に全国の旅行会社(旅行業登録1種、2種、3種)の本社や支店、営業所など1万6614カ所に、投票案内を掲載した「旬刊旅行新聞」と投票用紙(専用はがき)を直接送り、実施しました。返信いただいた投票はがきを集計し、「もてなし」「料理」「施設」「企画」の部門ごとの100選および、4部門の合計点からなる「総合100選」が決まりました。また選考審査委員による「日本の小宿」10軒も選出しました。

 同時に第37回「プロが選ぶ観光・食事施設、土産物施設100選」、第26回「プロが選ぶ優良観光バス30選」も発表し、観光・食事施設100選では伊達の牛たん本舗(宮城県仙台市)、土産物施設100選では浅間酒造観光センター(群馬県長野原町)が、バス30選でははとバス(東京都大田区)がそれぞれ1位の座を獲得しました。

■第42回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選(総合トップ10入選施設)
順位  館名 (県・地区名)
1   八幡屋 (福島県・母畑温泉)
2   白玉の湯泉慶・華鳳 (新潟県・月岡温泉)
3   加賀屋 (石川県・和倉温泉)
4   稲取銀水荘 (静岡県・稲取温泉)
5   草津白根観光ホテル櫻井(群馬県・草津温泉)
6   日本の宿 古窯(山形県・かみのやま温泉)
7   水明館 (岐阜県・下呂温泉)
8   いぶすき秀水園(鹿児島県・指宿温泉)
9   ホテル鐘山苑 (山梨県・富士山温泉)
10    指宿白水館 (鹿児島県・指宿温泉)

 総合(11位~100位)、部門(もてなし、料理、施設、企画)、観光・食事施設、土産物施設、優良観光バス、日本の小宿の各入選施設につきましては弊社ホームページに掲載しています。

■表彰式・祝賀パーティー
1月20日(金)には東京・京王プラザホテルで、入選施設や来賓、招待者を交えての表彰式と祝賀パーティーを開催します。
日時 平成29年1月20日(金)
    表彰式:11:00~
    祝賀パーティー:12:30~
会場 京王プラザホテル5階 コンコードボールルーム
    東京都新宿区西新宿2-2-1 電話03-3344-0111

【ご案内】プロが選ぶ100選ロゴマークの更新について

12月11日に「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」ならびに「プロが選ぶ観光・食事、土産物施設100選」、「プロが選ぶ優良観光バス30選」の新しいランキングを発表いたしました。これを受け、事業ロゴマークも開催回を更新いたしました。引き続き、ご活用いただければと思います。

弊社では、旅館100選ランキング冊子の翻訳版の発行なども試み、100選関連事業のより一層の付加価値づくりに務めてまいりました。今回のロゴマーク作成もその一環です。観光業界のなかでも最も歴史のあるランキング発表事業をより多くの皆様にお伝えし、入選施設様をはじめ、ご投票にご協力いただいている旅行会社様や各企業様の事業に役立つよう取り組んでまいります。

ロゴ使用に際しては、下記のリンクから申請書を入手いただき申請をいただいております。旧ロゴマークの使用を申請いただいた各社・各館様も更新にあたり、お手数ですが、再度申請手続きをお願いします。

申請書はこちら(ZIP圧縮)からダウンロードください。
(リンクをクリックするとZIPファイルのダウンロードが始まります)

退屈と向き合う ― 旅人の力量が問われる闇と静寂

 金目鯛の煮付けが無性に食べたくなった。夢にまで見るようになったので、つい先日、東伊豆を訪れた。

 しかし、不安もあった。前日から関東の平野部、東京都心にも積雪の予報が出ていた。「11月の積雪は観測史上初」というニュースを聞きながら、クルマで行こうか、電車で行こうかと、直前まで迷った。宿泊した翌日に、大雪で立ち往生することが予想されたからだ。

 電車での伊豆旅行は旅情がある。ビールを飲みながら冬景色を眺めるのもなかなか乙で、捨てがたかったが、途中、幾つか寄りたい場所があったので、結局クルマを選んだ。

 伊豆に入り、昼前に国道135号線沿いのレストランで金目鯛を食べた。宿の夕食は、「板長のお任せプラン」だったので、金目鯛の煮付けが100%出る保証はなかったので、とりあえず開始早々、今回の旅の大きな目的を達成した。早期の目的達成は安心感につながる。

 1泊2日の旅の場合、初日の昼食は、旅全体の成否を占ううえでとても重要な役割を担う。もし、この昼食で大きくハズしてしまえば、例えば奥さんや彼女などを連れていく場合、宿泊先での夕食や、朝食にも大きなプレッシャーを与えることになる。いわば、短期決戦の初戦を悪い形で負けてスタートすること同義だからだ。

 まずまずの展開で無難に昼食を終え、熱川バナナワニ園に行った。この付近は何度も通っていたのだが、初めて入園した。冬の間、ワニの動きは悪く、檻の外から挑発してもまるで置物のようだった。しかし、温泉熱を上手く活用した、同園の見せ物に十分に満足できた。そういえば、バナナワニ園の駐車場にクルマを停めたとき、隣にハーレー・ダビットソンとカワサキZRX1200ダエグが停まっていた。「真冬のような激寒の日に、おっさん2人がオートバイに乗ってワニを見に来ているのか」と思っていると、女性が2人、ワニ園から出て、そのオートバイに跨った。寒空に唯一ホットなシーンだった。いずれにせよ、温泉地の近隣にちょっとしたレジャー施設があると、旅人を退屈させない。

 その後、以前天候不良で入れなかった黒根岩風呂にも入り、宿にチェックインした。客室からは、相模湾の圧倒的な海が見えた。私は金目鯛も食べたし、雪催いの少々荒れた海を眺めながらビールを飲んで過ごすことで満足した。

 夕食は、金目鯛が出た。昼間のレストランよりも、宿の金目鯛の煮付けの方が美味しかった。私は、もう「成仏」してもいいほどに満たされていた。

 夕食が終わり、窓の外を見ると、もう真っ暗だった。海の波の音は聞こえるが、闇の世界である。ビールも昼の間に随分飲んだし、夕食もたらふく食べたので、お酒を飲みたい気分でもなかった。そうすると、もうやることがなくなってしまった。ひとことで言えば、「退屈」を感じてしまったのだ。随分勝手なものだ。旅先でテレビをつける気になれない。しかし、窓の外は真っ暗闇。そして静寂。布団が敷かれ、テーブルは隅に押しやられている。つまり、あとは眠るのみである。多くの旅館でこのような状態を経験する。これは旅館で一夜を過ごす宿命である。この時間をどう過ごすかが、旅人としての力量が問われる。私は気づいたら眠っていた。 

(編集長・増田 剛)

【特集No.448】有馬グランドホテル 機械ではなく「人を介して」運ぶ

2016年12月1日(金) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」の第8回は、兵庫県・有馬温泉で有馬グランドホテル、中の坊瑞苑を経営する梶木実社長が登場。団体客から個人化に移行するなかで、料理の運搬システムや、好評を得ている中華レストランのオーダーバイキングなどさまざまな取り組みを語り合った。

【増田 剛】

  ◇

 梶木:もともとは江戸時代から木炭を売っていましたが、現在の中の坊瑞苑のある場所で、湯治客に建物の2階を貸しているうちに、宿屋をやっていくことになったのです。個人創業として中の坊旅館を始めたのが1868(明治元)年のことで、来年創業150周年となります。

 内藤:有馬グランドホテルのオープンはいつですか。

 梶木:東京オリンピック前年の1963(昭和38)年です。その後、大阪万博前年の69年に約600人収容まで増築しました。
 95年には、さらなる増築の最中、阪神淡路大震災に遭いました。建物が完成し、既存の建物とつなげるために壁を取り外していた、まさにそのとき、地震が来たので強度が足りず、柱が破裂して傾き、全壊ということになりました。幸い宿泊者には被害はありませんでした。97年の夏に建て直し、今の有馬グランドホテルの中央館ができました。

 内藤:何部屋まで増やそうとされていたのですか。

 梶木:当時約120室でしたが24室を増築し、140室程度になる予定でした。東館、中央館、北館とあるのですが、新しい中央館ができたときは228室。最近、広い部屋を2分割して部屋数を増やしたので、現在は234部屋です。

 内藤:被災した直後は、どうでしたか。

 梶木:ライフラインもストップしたなか、先代が陣頭指揮を取って対応しました。1―2週間後には残った奥の東館だけで経営を再開しました。被災時に当館は工事中だったので、建設会社が常駐していました。このため、比較的早く復興の工事が進み、不幸中の幸いでした。
 当時、もう一つ計画がありました。有馬グランドホテルの裏山の上に、もう一つホテルを建てる予定でしたが、そこで考案していた設計プランを中央館に持ってくることができたので、設計も早く進みました。

 内藤:宿泊客の動きはどうでしたか。

 梶木:阪神間のお客様が当館の7割を占めており、地元の方々も被災されていたので、厳しかったですね。1月17日の震災から夏休みまでは、復興作業の方々が宿泊していました。徐々に一般のお客様が来られるようになるまで1年はかかりました。

 内藤:東日本大震災と違い、消費地と被災地が同じエリアなので大変でしたね。
 その後も、個人化への流れなど、旅館を取り巻く環境は大きく変化していきました。

 梶木:おっしゃるように一番大きく変わったのは、団体のお客様がどんどん減り、個人客が増えてきたことです。まず、チェックインの流れから変わりました。団体客の場合は、到着されると、ご案内は1回で済みます。
 かつては大型団体3件で満館ということもありました。今は、夏休みなどは170件まで口数が細分化されています。
 大型団体のお客様でしたら玄関でのお出迎えから、チェックイン、客室までのご案内、客室での呈茶サービスも、その到着時間に合わせてスタッフを出勤させることもできましたが、個人客化に合わせた運営に変えていかなければならなくなりました。

 内藤:団体客が大きく減り始めたのはいつごろからですか。

 梶木:2000年に入ったころから顕著になりました。お客様がインターネットで情報を調べて旅行するようになったことも、個人旅行が増えてきた大きな要因だと思います。
 3月31日にUSJがオープンした01年は、9・11米国同時多発テロの影響もあって海外旅行が大きく減り、当館は売上のピークを迎えました。その後、売上の成長が止まるなかで、「人の働き方をどうコントロールしていくか」ということが大きな課題となってきました。運営面では8月などのピーク時には、期間限定でバイキングを導入して、ピークカットをするなどオペレーションを工夫しています。

 内藤:1部屋に5人を収容していた時代から、今は2人客が主流となるなかで客室稼働率にも大きな影響がありますか。

 梶木:現在、当館では1室あたりの年間平均稼働人数は3人程度です。団体は最も多いときは、客数ベースで約4割を占めていましたが、今は全体の16―17%です。

 内藤:食事が宴会場から部屋食に変わっていったように、サービスの内容も劇的に変化していますね。

 梶木:夕食は準備の段階に始まり、メニューづくり、調理場からどのように運搬するかまで、工夫がより求められるようになりました。

 内藤:料理を運ぶ作業は、深く考えられた末に、大きな台車でスタッフが手で押して運ぶようにされたのではないかと思いますが。

 梶木:実は、ゆのくに天祥さん(石川県・山代温泉)と先代が懇意にしていましたので、見学させていただき、参考にしました。
 一つのパントリーから提供する部屋食の量が増えていたので、運搬方法や、限られたスペースの中で「効率よく場所を確保して動く」ことを考えていくなかで、12段の台車を考案しました。これによってパントリー内で縦に料理を保管することも、一挙に大量に運んで行くことも可能になりました。
 また、夕食を提供する際に、客室係がお客様から新たに受けた注文を、パントリーから台車で料理を運んで来たスタッフに伝えることができるようになりました。このため、後のオペレーションがスムーズにいくようになりました。

 内藤:運搬システムの機械化も検討されたと思いますが、あえて人を介する運搬方法を選ばれたのが面白いと感じました。機械化するよりも、人を使った方がいいと思われたのですか。

 梶木:人を使うと、人件費がかかりますが、臨機応変さや、フレキシビリティ(柔軟さ)を担保したいという考えがありました。あまり機械化し過ぎても良くないのではないかという思いも感じていました。

 内藤:おそらくスタッフが台車を押していく光景を見ると、機械化された方がいいのではないかと感じる方が多いかもしれませんが、私は有馬グランドホテルの「人が台車で運んで行く」仕組みをすごくいいなと思っています。 
 小宴会場を個人の食事会場にリニューアルしたのはいつですか。

 梶木:今年の6月です。14畳+ツインという広い客室を、個人のお客様にゆっくりしてもらえるように改装しました。高齢のお客様も増えていますので、ベッドの客室に変えました。リニューアルによって部屋食が提供できなくなりましたので、小宴会場を食事会場として改装しました。そこは、調理場を囲む形で小部屋を配置しているので、でき立ての料理をすぐに提供できます。部屋食では対応できなかった料理メニューも日々研究しながらお出ししています。客室で夕食を提供すると、パントリーから距離があるので、「最初に料理を多く並べたい」という誘惑に駆られますが、最初の膳付きの料理を少なくして、調理場で焼いた肉をすぐにお出しするようにしました。

 内藤:お膳料理から1品出しに変えていったということですか。

 梶木:そうです。部屋食も1品料理ですが、 “1品で出す”という部分をさらに強化しました。お客様から高い評価を受けています。

 内藤:今は1品出しに取り組んでいる宿も多いですが、しっかりとできているところはとても少ないという印象です。宴会場で提供する料理をそのまま個人のお客に出している施設も多く、いわゆるオープンキッチンや、食事処に近い厨房を上手く使い切れていない。「メイン厨房で前もって作る」というやり方が残っているので、オープンキッチンの脇から料理を引っ張り出してくるという流れが多いですね。

 梶木:個人客の食事会場では、「部屋食では食べられないもの」をお出ししようと、宿泊プランも、“でき立ての料理を出す”をコンセプトにしています。献立の開発の時点から見直しをするようにしています。

 内藤:部屋食と、個人の食事処では単価はどちらが高いのですか。

 梶木:ほぼ同じです。部屋食を望まれるお客様もいれば、料理が食べきれないで残すことが嫌いなお客様もいらっしゃいます。それぞれのニーズに合った選択肢を用意し、事前にお伝えしています。
 選択肢といえば、和・洋・中のレストランを館内に備えていますし、宿泊プランと組んで中華のオーダーバイキングや、寿司懐石なども提供しています。寿司も部屋食で提供すると乾燥してしまい、なかなかお出しできません。今はそのような選択肢を増やしていくことに力を入れています。

 内藤:部屋食中心から、レストランを併設し、個室の食事処もつくるなかで、売れ方のバランスは少しずつ変わってきているのですか。

 梶木:「レストランで食べたい」「でき立ての料理を食べたい」というニーズは確実に増えています。リピーターの多い当館では会席料理ばかりでなく中華料理などを楽しむことを志向される方も増えています。一方、部屋食はとくに高齢層に支持され、依然として一定のニーズがあり、全体の3―4割を占めています。部屋食は今後もおそらく無くならないと思います。

 ――連泊される方は多いですか。

 梶木:増えています。当館では1日目は和食、2日目には洋食や中華レストランを利用される方も多くいらっしゃいます。

 内藤:選択肢を増やし、満足度を上げていきながら、お客様を増やしていくやり方ですね。

 梶木:夕食時のレストランの生産性は低かった。それで、宿泊プランとして中華はオーダーバイキングを始めました。とくに年配の方は色々食べたいけど、多くの量は食べられない。それだったら「小皿のバイキングをやろう」と、1回の注文を小皿で出しています。できるだけお客様のニーズに近づけられるように心がけ、「買ってもらえる」商品をつくりたいと思っています。中華バイキングのニーズは増え続けています。

 ――外国人の宿泊客も増えていますか。

 梶木:積極的に誘客していないということもありますが、当館では年間3%弱です。外国人のお客様は基本的に個人で来られるので、部屋食が多いですね。寿司懐石なども人気です。
 外国人客向けのコースも設定しています。寿司・てんぷら・神戸牛を提供するコースは、高価格でありながら人気が高いですね。

 内藤:旅館業界全体で見ると、ニーズの掘り起こしが十分にできていないということが分かります。御社で支持を集めている中華レストランなどが良い例ですが、外国人のニーズに合った旅館料理もまだ開発の余地があると思います。
 一方で、多様性はオペレーションを複雑にし、一般的には生産性を下げていくと考えられています。その分オペレーションをしっかりと作っていく必要があります。パントリーの改革も色々やられているのですか。

 梶木:レストランは、人員を確保していたにも関わらず売上が上がっていなかったので、人を遊ばせている状態でした。そこにお客様が来るようになったので、生産性は上がったと思います。
 団体から個人化に向けては、手数が増える一方、売上が下がる時期がありました。現場のスタッフも手数が増えているので、休みが取れない。このため、客室から戻って来てパントリーの中にいる時間や、次の料理を持っていくまでの時間を動きやすく改善していきました。
 レース中のピットでは、クルーがスタンバイしてすぐに発進できるように、万全の準備をしています。当館では着物を着た係しか料理を出せないので、バックヤードでいかに作業を簡単にして、早く出ていくかを目指して、レイアウトや料理の構成を変えたり、工夫をしてきました。
 部屋食の場合、パントリーから一番端の客室まで台車で運んで行くと、私の足で95歩かかります。この運んでいる時間は、何の価値も生んでいません。しかし、新しく食事会場を作ることで、係の運ぶという作業自体を短縮できるし、料理も変えることで“でき立て感”を出すことができます。小さなことですが、このようなことを積み重ねていくことが大事ではないかと思っています。

 内藤:具体的にはどのような取り組みをされましたか。

 梶木:まず、ごはんをパントリーで炊くようにしました。
 あとは、下膳のやり方を変えました。客室から料理の下げものをしてきたときに、以前はパントリーで保管しておくものと、下のメインの食洗機で洗うものを、その場で仕分けをしていました。それでは次の料理を出すのが遅くなってしまいます。
 今はパントリーで保管しなければならないものを極力減らし、全部下で洗うようにしました。仕分けの作業自体減りますし、一度に下で洗うことができるようになりました。料理の盛り付けも、最後にひと手間をかけていたのですが、もう少し楽にできるように、調理場と話し合いながら工夫していきました。パントリー内の移動もできるだけ歩数を少なく済むように、物の配置を変えています。

 内藤:細かい話ですが、ごはんをパントリーで炊くように変えたときに、「誰がお米を研ぐのか」などは、どのように決められたのですか。

 梶木:当館ではごはんを炊く専門のスタッフがいました。宴会場のごはんも炊かなくてはならないので、専門のスタッフがお米を研ぎ、炊飯器に入れて各パントリーに運んでいます。

 内藤:ごはんを炊くタイミングは、どのように行われていますか。

 梶木:夕食が始まるのが夕方6時からが多いので、5時ごろには炊き始めます。早い時間帯に夕食を指定されたお客様には、1つだけ早くスイッチを入れるようにしています。実際、炊飯器でご飯を炊くように変えて、ごはんのロスが2割減りました。

 内藤:2割ロスが減った一番の大きな理由は何だと思いますか。

 梶木:移し替えが多かったですね。「足らなかったらいけない」という積み重ねで、ロスを生んでいました。炊飯場でご飯を炊いて、大きなジャーに移し替える。そのときに“足りなかったらいけないから”と、少し余計に入れる。そこからお櫃でお出しするような場合には、また“足りないといけないから”と少し余分に入れる。それの繰り返しです。

 内藤:ライスロボ(業務用自動炊飯器)から保温ジャー、お櫃、お茶碗へ10%ずつ多く盛っていくと、40%のロスになってしまいます。

 梶木:ごはんの移し替えをしているうちにダマになります。そうすると、ごはんの美味しさが失われてしまうので、今は小ロットで、多いときはパントリーに炊飯器を3台置いて炊いています。それによって1、2回の移し替えで済んでいます。

 内藤:お米マイスターなどさまざまな専門家に取材をしたのですが、ごはんの盛り方にもノウハウがあり、炊き上がった後に、混ぜるのではなく、“切る”のがいいということです。表面が一番美味しいので、表面を薄く切るように、しゃもじでお茶碗に載せていく。「より美味しく」というところまで議論していくと、盛りつけの仕方まで変わっていくのが面白いですね。

 梶木:ごはんを切ってお茶碗に置くように盛っていくと、お客様も気づきます。「なんでそうしてるの?」とお客様から聞かれて、そこから会話につながっていきます。

 内藤:モノには限界がありますが、作業の部分で差別化していくやり方が、結果的に単価上昇につながっていくと思います。ごはんで改善ができたら、次の一品に取り組んでいくという流れになるといいですね。お客様の前でワサビやショウガを摺ってあげると、香りも全然違います。単価を上げるために品質を上げるのではなく、品質が上がるから単価が上がると考えます。
 労務問題についてはどうですか。

 梶木:旅館で働く社員の定着率を上げていくことが、結果的に生産性を上げていくことになると思います。

 内藤:定着すると技能も上がっていきます。

 梶木:そうです。料理長や客室係にもキャリアゴールを設定できる取り組みも大切です。

 内藤:定着率を上げるのに一番大事なことは何だと思いますか。もちろん、社会的な地位向上というのもありますが。

 梶木:やりがいと、自分が成長できたことを実感できる環境だと思います。やりがいと成長も、1年目、2年目、3年目ではそれぞれ違う。接客業に携わる者にとって、「お客様に喜んでもらえた」というのが一番のやりがいなのです。でも、それが1年目と2年目が同じではいけません。我われが細かく設定すべきと考えています。そして評価者と、被評価者が状況を確認し合っていくことも必要だと思います。

 内藤:御社はオーナー企業としては珍しく労働組合があります。私は個人的には労働組合はあった方がいいと思っています。1つの大事なステークホルダーとして、労使ともに会社全体を議論していく、とても重要な機関だと考えます。一つひとつ労使協議をしなければならないなど、煩わしさがある一方で、緊張関係を保ちながら協議していくことは、長期的には会社にとって大事なパートナーになるのではないかと思います。

 梶木:確かに車の両輪のような関係ですので、上手く回っていかないと会社が前に進んでいかないということもありますね。

 内藤:労働組合はいつできたのですか。

 梶木:昭和40年代です。今も人事担当者と月に1回協議する場を設けています。私も年に3、4回話をしています。

 内藤:どのような議論が多いのですか。

 梶木:やはり労働条件ですね。あとは、我われが気づいていない、現場の声を拾えるという利点もあります。ただ、先代までの世代では、売上の増えた分をどう組合と会社が配分するのかという労使交渉だったのですが、今の世代は成長が止まっているなかでの労使交渉なので、ゼロサムの交渉もしなければなりません。

 内藤:労働組合側も成熟社会になっていくなかで変わっていかなければならない。「売上が増えないのなら、生産性を上げて給料を分配する」という考えも必要です。損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)をしっかりと読んで、「生産性がこれだけ上がったのだから何パーセントかは分配してほしい」と科学的な交渉ができるように、組合側も力をつけていかないと厳しいですよね。生産性向上の旗を振る役割を担うくらいの意識を持ってくれると、いい関係になると思います。

 梶木:日本の生産性向上運動は、そういう視点から生まれてきているわけですから、原点回帰すべきだと思います。

迎賓館で初の交流会、訪日外客4千万人実現へ(観光庁・JNTO)

会場をまわる石井啓一国土交通大臣(左端)
会場をまわる石井啓一国土交通大臣(左端)

 観光庁と、日本政府観光局(JNTO)は11月22日、迎賓館赤坂離宮本館(東京都港区)で「『4千万人』実現に向けた訪日旅行ビジネス交流会」を開いた。迎賓館は、国が最高のもてなし空間に位置付ける場所。今回初めて、ユニークベニューとして一般レセプションに活用された。訪日観光を支える国内外の関係者を招待し、交流会を開いたことで4千万人の目標に向けた動きを強める。

 赤坂離宮は世界各国の国賓や公賓の宿泊、サミットなどの重要な国際会議を行う施設。会場には、日本と海外を結ぶ交通事業者や、旅館やホテルの関係者、旅行会社の関係者など、インバウンドビジネスの最前線を支える200人が招待された。国土交通省は今回の交流会を、迎賓館を活用するリーディング・ケースにする考えだ。

 石井啓一国土交通大臣は「迎賓館の雰囲気を楽しみつつ、関係者同士による交流を深めていただきたい」と語った。そのうえで、「現在のインバウンドの勢いを継続し、2020年4千万人という新たな目標を達成するためのビジネスにつなげていただきたい」と交流会への思いを述べた。

迎賓館の外観
迎賓館の外観
「花鳥の間」で行われたオープニングセレモニー
「花鳥の間」で行われたオープニングセレモニー

 ユニークベニューとは、通常業務とは異なるニーズに応えて特別に貸し出される場所のこと。美術館や博物館など歴史的建造物や公的空間などで、会議・レセプションを開催することで、特別感や地域特性を演出することが可能になる。また、MICE の開催地決定のカギにもなる。近年、欧米などの博物館や美術館では、ユニークベニューとしての施設活用を積極的に行い、自己収入を獲得するとともに、来館者の増加につなげていこうとする動きが多くみられている。

政策要望決議など可決、安全安心の決意を固める

上杉雅彦会長
上杉雅彦会長

日本バス協会 全国大会開く

 日本バス協会(上杉雅彦会長)は11月16日に、岩手県・花巻温泉「千秋閣」で第61回全国バス事業者大会を開いた。約400の会員らが全国各地から一堂に会した。政策要望決議と、安全輸送決議を満場一致で可決。業界を挙げて「安全安心がすべてに優先する」と、決意を固めた。

 政策要望書は2017年度の予算増額を求めた。バス業界は大都市部と地方部で収支の差が拡大している。15年度の収支の差は、約500億円。

 増額対象は「地域公共交通確保維持改善事業」で、地域の生活バス交通を支援する事業。各地方における生活交通網の維持、改善に資する支援を求めたかたちだ。

 安全輸送決議は(1)基本動作の励行(2)走行中のスマートフォン使用禁止(3)飲酒運転防止対策マニュアル――などの徹底を採択した。

 安全への決議の一因に、相次ぐバス業界の不祥事がある。上杉会長は「信頼回復の時期に言語道断。忸怩たる思いだ」と会員らに再発防止を強く訴えた。

 そのほか、第60回「優良運転者日本バス協会会長表彰」や、2つの講演などが行われた。

 岩手県の開催は1989年以来、27年ぶり。多くの来賓がかけつけ、同県の達増拓也知事も祝辞を述べた。大会が終わったあと、懇親パーティーを開催。岩手県の地酒や郷土料理のほか「さんさ踊り」も披露され、盛会裡のうちに終了した。

安全輸送決議を満場一致で可決
安全輸送決議を満場一致で可決

第42回「100選」決まる、表彰式は1月20日、京王プラザ

11月18日に行われた選考審査委員会
11月18日に行われた選考審査委員会

12月11日、旅行新聞HPで発表

 旅行新聞新社・100選選考審査委員会は11月18日、東京都港区の浜松町東京會舘で、「第42回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の選考審査委員会を開き、総合100選と審査委員会特別賞「日本の小宿」10施設を決定した。

 「第37回プロが選ぶ観光・食事、土産物施設100選」「第26回プロが選ぶ優良観光バス30選」などを加えたおもなランキングは本紙12月11・21日合併号紙面および、同12月11日に更新する旬刊旅行新聞のホームページで発表する。

 表彰式は来年1月20日に、東京都新宿区の京王プラザホテルで開かれる。

 「第42回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」は、全国1万6614の旅行会社(支店や営業所を含む)を対象に専用ハガキによる投票を募り、集計した投票結果を後援団体の全国旅行業協会(ANTA)と、日本旅行業協会(JATA)の関係者、旅行雑誌編集者で構成される選考審査委員会で審査し、決定した。

 主催は旅行新聞新社で毎年実施し、今年も10月1―31日まで投票を受け付けた。

 旅行会社の皆様からのたくさんのご投票ありがとうございました。

全国で4万店に迫る、地方も半年で1千店増加(免税店数)

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 観光庁はこのほど、10月1日現在の都道府県消費税免税店数をまとめた。これによると、47都道府県すべてで店数が増加した。全国の店数は3万8653店。前回調査(4月1日)から半年で9・8%増の3451店増えた。三大都市圏を除く地方部は同9・8%増の1318店増え、1万4827店だった。

 同庁は18年に、地方の免税店数を2万店規模に成長させる。「明日の日本を支える観光ビジョン」にある従来の目標から、2年前倒した。今回の増加率であれば、18年度中に達成する見込みだ。

 20年までに1500カ所で外国人受入環境を整備。Wi―Fi環境整備や、免税手続きカウンターの設置、多言語案内表示などの取り組みを支援する。地域の稼ぐ力を引き出し、地域経済の活性化をはかっていく。