大市場求めて首都圏進出、ツーリストトップワールド・安吉 亮(やすよし・りょう)社長に聞く

安吉  亮社長
安吉 亮社長

 ツーリストトップワールド(安吉亮社長、愛知県名古屋市)は4月7日、神奈川県横浜市に関東営業所を開設した。本拠地の中京圏で老人会旅行を得意とする同社が、さらなる大市場を求めて首都圏に進出をはかる。「人と人とのコミュニケーションを大切にする」スタイルを貫いてきた安吉社長は、「旅行業界を疲弊させてきた価格競争には参入しない」と語る。ネット予約が旅行市場にも浸透するなか、あえてアナログ的な部分で勝負を仕掛ける安吉社長に話を聞いた。
【増田 剛】

価格競争には参入しない、利益が出る良い連鎖生みたい

 ――4月に関東営業所を開設されました。

 新たな市場の可能性に賭けての事業として捉えています。本拠地・愛知県での経営が安定している今こそ次の手を打っていかなければ、現状のままの市場で勝負していても、5年後、10年後に現在の社員を養っていける保証はありません。

 首都圏でも当社の得意分野である老人会の団体旅行を中心に営業して行く予定で、新規に開設した横浜の営業所は4人体制でスタートしました。

 ――首都圏では既存の旅行会社が市場を握っているのではないでしょうか。

 当然そうだと思います。しかし、既存の旅行会社がたくさん集まっているということは、そこに市場が存在するということです。市場があるのなら我われは競争をしていくだけです。旅行会社がどんどん廃業や撤退していくようなエリアにはそもそも需要がないと判断できますので、強い旅行会社がひしめいている市場の方が営業展開するにはいいと思っています。

 一方、お客様にとっても1社より2社、3社と競い合った方が、旅行会社が良いプランを持ってくるようになります。1社独占状態の方が楽かもしれませんが、それではいずれ市場は先細りすると思います。

 ――ツーリストトップワールドの経営方針は。

 当社は料金や行程など旅行の商品では勝負しないというのが一つです。

 基本的には人と人の付き合いを大切にし、お客様が困っていることがあれば旅行以外のニーズであっても応えていきます。お客様が必要としているものをどれだけ手助けできるかという部分に大きな力を注いでいます。その結果、当社に旅行を任せていただけるなら幸せです。

 このため、価格競争には参入しません。他社が安売りに出たとしても、うちは価格を下げることはしません。愛知県でもずっとこの考え方を通してきました。たとえ安売りをして仕事が取れたとしても長続きはしません。利益がなければ会社は成り立たないし、もし安い料金で利益を出すのだったら、お客様に良い旅行を提供していないということになります。どちらの面から見ても長続きはしません。ですから、価格競争以外の部分で頑張るようにします。

 ――旅行業界をみると、年々ネット販売が大きなシェアを占めています。また、団体旅行にしても依然、大手旅行会社が力を持ち、中小旅行会社の厳しい状況は変わりません。老人会自体も減少するなど楽な時代ではありませんが、自らの営業スタイルを貫くうえで、将来をどのように展望していますか。

 これから先、老人会の旅行市場がいい状態になるとは思わないですが、無くなってしまうとも思っていません。旅行商品のインターネット販売も限りなく伸びていますが、お客様すべてがネットで旅行を申し込むわけではありません。

 旅行予約サイトと、当社のようなアナログ的な中小旅行会社のどこが違うかといえば、「お客様の目の前で直接言葉を発することができる」という部分だと思います。人は生身の人間が話す言葉に安心します。老人会の市場が残っている限り、どこかの旅行会社が必要とされます。現在10社あるところが5社に減るかもしれませんが、5社の中に入るにはどうすればいいかを私は考えていきます。

 インターネット販売では、単に「他より価格が安い」ことが大きなポイントを占めます。しかし、旅行は、そんな簡単なものではないと思います。旅行は現地の人たちとの触れ合い、ガイドさんや添乗員と同行する時間も含まれます。旅行の喜びを分かち合ったり、トラブルを回避したりするのも添乗員など人間が関与するケースが多いのも事実です。決して楽観的に捉えてはいませんが、マイナス面ばかりを見てもいません。

 10年前、15年前も旅行業界は厳しいと言われていましたが、自分たちの強みをどうやって伸ばしていくかを考え、人と人とのコミュニケーションで勝負し、やるべきことをしっかりとやっていくことが一番大事だと思っています。 

 価格競争で旅行業界が疲弊してしまったのは旅行会社自身の責任だと思います。安くする方が楽です。しかし、1千円の利益で1人の社員を雇うより、2千円の利益を出して社員を2人雇う方が社会のためにもなりますし、本来、企業は雇用を生んでいく役割を担っているのです。旅館やホテルにも利益が出るように良い連鎖を生んでいきたいと思います。

 ――今年7人の新入社員を迎え、若いスタッフが多いですが、会社の考え方をどのように伝えていますか。

 会社説明会から面接も4次、5次まで行い、私が説明します。入社後には5日程度の研修も実施します。現在当社が取り組んでいることや、これからの経営計画を率直に話すことで離職率も減り、会社のビジョンに魅力を感じてもらえる人を選ぶことができます。

 また、社員の添乗員には、バスガイドさんの手腕に頼り切らずに、「自分の話術も磨け」と話しています。理想としては、ガイドさんの代わりになれるくらいにスキルを上げていくことも大切だと思っています。私も入社当時は上手なバスガイドさんの真似をしました。ガイドさんの話し方でお客様が笑ったポイントやコースの説明ですごいと思った部分はメモして、次に自分がそのコースを通ったときに実際にやってみました。お客様の反応を見て、「こういう話し方がいいのか」と学んでいくことはそんなに難しいことではないと思います。

 当社の社員は営業だけでなく、添乗のスキルも上げなければならないので、きついかもしれませんが、だからこそ人間に価値が生まれ、その人に魅力が備わり、その人と旅行に行きたいと思っていただけるのではないかと考えています。そういう社員が何人いるかが会社の財産になるのだと思っています。

 当社では担当を2人体制にしており、どちらのスタッフが行ってもお客様にとって話しやすいように対応しています。地域に根付いていくことを当社の目標としており、お客様とのコミュニケーションの部分で深く根付いていきたいですね。

新社長に高橋広行氏、グローバル戦略強化へ(JTB)

高橋新社長(左)と田川社長
高橋新社長(左)と田川社長

 JTBは4月25日に開いた取締役会で3期6年務めた田川博己社長に代わり、常務でJTB西日本社長の高橋広行氏の社長就任を内定した。正式には6月30日開催予定の定時株主総会、取締役会後に就任する。田川社長は代表取締役会長に、佐々木隆代表取締役会長は相談役に就任する。

 同日、JTBは国土交通省で記者会見を開き、高橋新社長は「佐々木―田川社長の経営理念を踏襲しながら、アジアを主戦場としたグローバル戦略を強化していく」考えを示した。
【次号詳細】

 高橋 広行氏(たかはし・ひろゆき)1957年生まれ。57歳。79年関西学院大学法学部卒業後、日本交通公社入社。07年JTB中国四国常務広島支店長、10年4月JTB執行役員旅行マーケティング戦略部長、12年6月取締役(兼執行役員)旅行事業統括、CS推進担当。現在常務(兼執行役員)、JTB西日本代表取締役社長。6月にJTB代表取締役社長に。

22・6%増の105万人、単月でも過去最高に(3月の訪日客)

3月の訪日外客数総数

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)はこのほど、3月の訪日外客数推計値を発表した。3月の訪日外客数総数は前年同月比22・6%増の105万500人で、13年7月の100万3千人を上回り、年間を通じて単月としても過去最高を記録した。1―3月の累計では前年同期比27・5%増の287万4500人と過去最高のペースで推移している。

 春の桜シーズンに向けた訪日旅行プロモーションの効果に加え、東南アジアでのビザ緩和効果、中国などからのクルーズ船の寄港などが訪日外客数の増加につながった。

 市場別では、中国、台湾、香港、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、フランス、ロシアが3月として過去最高を記録。タイは年間を通じ単月としても過去最高を更新した。

 重点市場をみると、韓国は、同7・2%減の19万2100人と、3月としては13年に次ぐ過去2番目の訪日客数となったが、2月に引き続きマイナスの伸び率となった。大手航空会社を中心とした座席供給量の減少が要因だ。

 春の桜鑑賞を目的とした訪日旅行が好調な台湾は、同41・4%増の20万8500人と、3月の過去最高を更新。年初からのLCC新規就航や増便、チャーター便の運航により座席供給量が増加し、東京、大阪などの都市部への訪日旅行需要が高まっている。4月も引き続き各旅行会社が造成する観桜ツアーが充実し、期待が持てる。

 中国も同80・1%増の18万4200人と3月の過去最高を更新。個人旅行、団体旅行ともに拡大傾向で、13年9月から7カ月連続で過去最高を記録している。

 香港も同8・4%増の6万4400人と3月の過去最高を更新した。例年3月前半は、旧正月休暇と桜シーズンの間の閑散期となるが、今年は都市部でのショッピング目的の個人旅行が人気だった。

 そのほか、東南アジア諸国も好調で、タイは同58・5%増の7万1100人と、これまで単月として過去最高だった13年10月を上回り、年間を通じ単月としても過去最高を記録した。桜の鑑賞目的の訪日ツアーと、ピーク期の4月の旧正月を外した個人旅行が好調で、企業インセンティブ旅行も引き続き好調だった。また、ベトナムは12年1月から27カ月連続で毎月の過去最高を更新中だ。

 なお、出国日本人数は同3・5%減の159万5千人となった。

野口観光が50周年、感謝の集いに約360人招く

あいさつする野口社長
あいさつする野口社長

 今春開業50周年を迎えた野口観光グループ(野口秀夫社長)は4月14日、室蘭市の室蘭プリンスホテルで、旅行会社や旅館・ホテル、一般企業の関係者ら約360人を招き、「感謝の集い」を開いた。

 あいさつに立った野口社長は、先代の故秀次氏が「心の通うおもてなし、より良いものをより安く、より多くの人に職場を」との思いで、登別の地に開業した当時を振り返り、「夢を持ち続け、変化に対応してきた創業者のDNAを引き継ぎ、次の50年に向けて取り組みたい」と述べた。

 会場には山谷吉宏北海道副知事、鳩山由紀夫元首相、堀井学衆議院議員、星野尚夫北海道観光振興機構会長ら多くの来賓のほか、50周年に合わせて制作したテレビCMで脚本・演出を手掛けた脚本家の倉本聰さんも駆けつけ、半世紀の節目を祝った。

 野口観光は1964(昭和39)年4月に登別温泉で、登別プリンスホテル(43室)を開業した。4年間は赤字経営が続いたが、社長のイスの後ろには「新施設(165室)の図面が掲げられていた」(野口社長)という。その構想は約10年後の西館竣工で現実になった。30周年事業では、湯元名水亭(伊達市北湯沢温泉)を開業、40周年を迎えると「食彩維新」をキャッチフレーズに、食のもてなしにも力を入れるなど、多店舗化や顧客の要望に沿った施設づくりを続けてきた。50周年を迎えた今年、社是や経営理念を見直すほか、湯元名水亭のリニューアル(来春開業予定)にも着手する。

北海道新幹線を製作、新型車両の「H5系」発表

北海道新幹線「H5系」外観イメージ
北海道新幹線「H5系」外観イメージ

 北海道旅客鉄道(JR北海道)は4月16日、北海道新幹線の新函館駅(仮称)開業に向けて、新型車両「H5系」を4編成(40両)製作すると発表した。

 同車両は、東北新幹線への直通運転を考慮し、10両編成の車両構成や各種設備、走行性能などの基本仕様はJR東日本の「はやぶさ」をはじめとするE5系と同様にした。外装デザインは、東北新幹線と共通したイメージを持たせるため、基本の色構成はE5系をベースに、中央の帯はライラックやルピナス、ラベンダーなどをイメージさせる紫色に変更する。また、内装の一部にも北海道独自のデザインを取り入れ、旅への期待感や高揚感を演出したという。

 なお、今秋に第1編成が完成する予定だ。

第2回旅館甲子園出場募集、オンリーワンのおもてなし競う

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(山口敦史部長)は来年2月18日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で第2回旅館甲子園を開く。

 「旅館業界で働くスタッフぞれぞれのオンリーワンのおもてなしを発表し、皆で切磋琢磨しながら学び合う場としたい」(山口部長)としており、さまざまな「おもてなし」の取り組みの応募を呼び掛けている。

 応募締切は7月末。8月末に1次審査、9月末に2次審査を行い、来年2月に決勝本大会を実施する。最優秀賞には協賛スポンサーからの豪華景品も予定されている。

 問い合わせ=全旅連青年部 電話:03(3263)4428。

まるごと旅情報 『静岡東部エリア特集』 公開

まるごと旅情報 『静岡東部エリア特集』 を公開いたしました。

第1541号掲載(2014年4月11日発行)
『静岡東部エリア特集』の紙面をご覧いただけます。

詳細はコチラから!(弊社の『静岡東部エリア特集』ページへリンクしています)

 
☆まるごと旅情報とは☆
弊社の「旬刊旅行新聞」にて掲載した全国の観光情報に関する特集記事をご紹介しています。
過去1年間分の紙面の一部をご覧いただける旅の情報ページです。

No.369 学観連が「観光教育と進路」調査 - 観光教育の現状と課題とは

学観連が「観光教育と進路」調査
観光教育の現状と課題とは

 日本学生観光連盟(学観連)の4年生有志による「これからの観光教育学生会議」が観光系学部・学科の4年生に行った「観光教育と進路選択について」の調査によると、観光業界以外へ就職した学生のうち7割は、はじめから観光業界を未志望だったことが分かった。調査に関わった卒業生の藤野里帆さんと諸角智亜さん、学観連の顧問でもある宍戸学横浜商科大学商学部貿易・観光学科教授に、観光教育の現状と課題について聞いた。

【伊集院 悟】

 
 
他業界就職の7割が観光未志望
“大学で観光を学ぶ意義を明らかに”

 「これからの観光教育学生会議」は13年9月23日―10月27日の期間に、国内の観光系学部・学科に所属する大学4年生に「観光教育と進路選択についてのアンケート」調査を行った。有効回答数は120で、内訳は男性26人、女性94人。

「これからの観光教育学生会議」調べ
「これからの観光教育学生会議」調べ

 回答者の卒業後の就職先をみると、観光業界は、旅行系が12%、運輸系が12%、宿泊系が10%の合計33%。その他企業に進む学生60人のうち、観光関連企業が第1志望だったのは16人だけで、3割に満たなかった。この結果によると、観光業界へ「就職したくても就職できない」のではなく、「志望しない」学生が多いということが分かった。

 

※ 詳細は本紙1542号または4月25日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

10月に京都で全国大会、「旅館ブランド」世界に発信(全旅連青年部)

山口敦史青年部長
山口敦史青年部長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(山口敦史部長、1380会員)は4月15日、東京都内で第46回定時総会を開き、「維新伝心~青年部(われら)の共創力(ちから)で未来を拓こう~」のスローガンのもと山口体制2年目を迎え、10の委員会の活動報告や、今年10月8日に京都で開催される全国大会に向けた事業展開、さらに「旅館ブランド」の海外発信などに積極的に取り組んでいくことを確認した。

 山口部長は「昨年4月に21代青年部長になって早1年。6月4日には仙台で行われる親会の全国大会に合わせて青年部45周年記念式典を開くほか、10月8日には京都で第22回全国大会『都プロジェクトin京都』の開催、さらに来年2月には第2回旅館甲子園などさまざまな事業が盛りだくさんに控えている」と語り、部員が一体となって事業に取り組んでいくことを求めた。また、「私がこの期でどうしてもやりたかった『旅館ブランドの世界発信』へさまざまな取り組みがこの夏花開きそうだ」と述べ、「5月にパリで開かれる経済開発協力機構(OECD)の閣僚理事会に出展する日本政府観光局(JNTO)のブースの一部を借りて日本の旅館の魅力を世界に発信する事業を行う。7月にパリで開かれるジャパンエキスポでも若者に向け旅館ブランドを発信していく」と強調した。

 山口体制の掲げる5つのミッションは(1)政策的課題の解決(2)流通課題への対応とインバウンド対策(3)構造的課題の解決(4)風通しの良い組織の構築(5)災害支援ネットワークの構築――。構造的な課題の解決では、日本学生観光連盟とのインターンシップ事業や、異業種コラボ事業の展開も精力的に行った。災害支援ネットワークの構築では、セミナー、研修事業などを含めてあらゆる可能性に備えていく――としている。

 地域の光輝く青年部の活動を10月の全国大会で表彰する褒章事業は、8月29日まで受け付けている。総額210万円が用意され、「地域活動」「県・ブロック活動」――の2部門で(1)プラチナアワード(副賞50万円)(2)シルバーアワード(同20万円)(3)ブロンズアワード(同10万円)がそれぞれ1本ずつ選ばれるほか、旅行新聞新社賞など各社賞では1本ずつ副賞10万円が贈られる。

京都での全国大会をPR
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人材難のサービス業 ― 空しさではなく「誇り」を感じたい

 先日、正午少し前に、丼物のチェーン店で安い牛丼を食べていると、店員が「いらっしゃいませ~。あちらの席で、合い席でお願いします」と来店してくる客に向かって指示した。1分置きくらいにお客が1人で入ってくると、また同じように1人で座っている客の席を指差し、「合い席」へと誘導した。

 まだ正午まで時間があったので、店内の半分以上が空席になっているなか、オートマチックに、義務感強く「合い席」を叫んでいたが、大きな荷物を持つ客が「こんなに荷物が多いので合い席は勘弁してくださいよ」と隣の空席に移動すると険悪な雰囲気が店内に流れた。そして別のスタッフが水を持って来て一言、「お客さんが来たら合い席でお願いします」。

 この店のスタッフは「いらっしゃいませ」のほかには、「合い席でお願いします」しか言っていない。大混雑時なら分かるが、まだまだ店内はガラ空き状態で、来るべき正午に向け、オモチャのように狭いテーブルにお客を「合い席」へと誘う。「合い席」はどうしても席が足りなく、お客に詰めて座ってもらう最終手段ではないのかと思うのだが、そのチェーン店の方針は違うらしい。テトリスの競技のように客を「まずは合い席で埋めていく」仕方だ。

 会社が秋葉原に近いせいか、周りにはインド人やトルコ人などの外国人が経営するエスニック料理店も多い。どのレストランや居酒屋に入っても今や外国人スタッフが接客する姿が自然に見られるが、エスニック料理店はその国を代表している意識が強いのか、テーブルも広く、ゆっくりと過ごせる空間づくりをしている。料金設定も価格競争に参入せず、母国人のスタッフは、すぐに辞めないで長く続いているようだ。昨今、日本の「おもてなし」がやたらと話題になっているが、日本のおもてなしと比べても遜色ないし、むしろ上である。当たり前のことだが、どの国であっても他国に負けない、自国文化の誇りである「ホスピタリティ」の心を持ち合わせているのだ。

 サービス業では、社員やアルバイトが集まらないとか、長続きしないという話をよく聞く。

 知識や技術の習得まで時間がかかる専門職は、一度スキルを習得すると、一生食べていける職種もあれば、重宝される人材として長く雇用される傾向が強い。また、営業職では仕事内容よりも、お付き合いしている顧客との人間関係を一生大切にし、そこに自分の成長と存在価値を見出していく人も多い。

 サービス業も日々の接客のなかで、コミュニケーション能力に磨きをかけていけば、待遇も年々厚くなり、プロとして重宝され、長続きもするはずである。しかし、なぜサービス業ではスタッフが慢性的に不足する人材難に悩まされ、長続きしない難局が続く企業が多いのか。

 最大の要因は働く人のモチベーションが上がらないからである。では、なぜスタッフの働く意欲が上がらないのか。この店でサービスするのが自分でない他の誰であっても変わらないことに「空しさ」を感じるからである。自分でない誰であっても、店の売上に大きな影響がない状況に、サービス業で働く人の誇りが得られるはずがない。自社の経営の勝敗が値引きなど価格競争が主で、「サービスはオートマチックでいい」では、慢性的な人材難は永久化するだろう。

(編集長・増田 剛)