“今しか見られない”熊本の姿、「防災教育」柱にPRへ

熊本国際観光コンベンション協会 観光コンベンション課 黒木  三奈子課長
熊本国際観光コンベンション協会
観光コンベンション課
黒木 三奈子課長

 昨年4月に発生した熊本地震から8カ月が経過した12月2―3日、熊本市内を取材した。今回の地震は、熊本市内に大きな被害をもたらした。観光面でも風評被害などがあり、観光客数の回復に苦戦。7月に始まった「九州ふっこう割」は九州全体の観光客数の回復に効果を上げたが、終了後の反動減などへの不安も大きい。熊本には「今しか見られない姿」がある。熊本空港の震災後の歩みや観光施設の状況、関係者の思いなどをまとめた。

【後藤 文昭】

「熊本観光の展望」語る

 熊本国際観光コンベンション協会は、観光客と教育旅行誘致や、さまざまな情報発信などを担っている。観光コンベンション課の黒木三奈子課長に、熊本の観光について聞いた。

 ――現在の観光施設の状況は。

 震災によって多くの施設が被害を受け、立ち入り制限、休館している施設もあり、観光施設として回れるところが震災前より少ない状況です。

 ――熊本城には多くの人が訪れています。

 熊本城は5月12日から二の丸広場が、6月8日から加藤清正神社が一般に開放され、外周からその姿を見学できるようになりました。そこでパンフレットを作成し、「ダメージは受けていますが、今のこの姿を見てください」とPRを始めました。石垣が崩れている姿は、驚きや学びにつながります。市内に住んでいる私たちも石垣の中を初めて見て内部構造を知りました。今しか見られない、学べないからこそ、観光客にもぜひ見ていただきたいです。

 ――そのほか、今だからこそ見てほしいものは。

 熊本城の周りの飲食店や土産物屋などが「日常を取り戻している」部分を見て、そして地震に負けず頑張っている熊本の「人」に会ってほしいです。

 例えば、中心部の飲食店では地震発生後約1週間程度でガスが復旧して、営業を再開できたところも多かったです。しかし、ニュースなどで熊本の被災状況を見た県外の方が「しばらくは行かれないだろう」と思われたのか、当初は「ここが熊本の繁華街か」と思うくらい閑散としていました。

 ――風評被害の影響は大きかったですか。

 首都圏の人たちに「行ったらダメなのでは」と思われていたみたいです。地震発生直後の映像はニュースで流れるのに、復興のようすや今の日常などの映像が流されないのはもどかしく感じます。復興していく姿も、報道してほしいですね。

 ――10月には初めて阿蘇に沖縄からの修学旅行生が訪れたようですが。

 修学旅行は保護者や教職員が決める部分が大きいです。子供たちが「行きたい」といっても、親は「余震もあり、また大きな地震が来るかもしれない場所になぜ行かせるのか」と心配します。

 私たちは毎年数回、各地で誘致キャラバンを行います。今年は地震もあって夏までは実施できませんでしたが、9月は沖縄で行いました。そのときに沖縄の中部・南部の中学校を回り、先生方から「防災教育という観点から子供たちに見せたい」というようなお話をいただきました。そのことも今回の結果につながったのではないかと思います。

 ――防災教育とは。

 修学旅行には学習の素材が必要で、熊本市内だと今までは歴史学習でした。今後はそこにカギとなる「防災教育」を加えたPRを計画しています。そのために、東日本大震災のときのように実際に被害に遭われた方に「語り部」になっていただく仕組みづくりを始めたいと思っています。またその際は、震災体験だけではなく「身の守り方」など地震への備え方なども教えていきたいです。

 ――12月にはふっこう割が終了します。

 1―3月は閑散期のため、不安もあります。また、首都圏からのお客様の戻りが遅いので、プロモーションの展開を考えています。移動距離が長ければそれだけ泊数が伸び、滞在時間が長くなるので、消費も多くなります。このため、首都圏や関西方面からの観光客の戻りが重要になります。飲食店や土産物屋で利用できるクーポンブックを作る計画も進んでいます。

 ――ありがとうございました。

熊本市内65カ所の施設で利用可能、クーポン付プラン販売(楽天トラベル)

印象的な表紙が目をひく おしゃれなクーポン
印象的な表紙が目をひく
おしゃれなクーポン

 楽天トラベルはこのほど、「くまもと うまかクーポン付き宿泊プラン」の販売を開始。熊本国際観光コンベンション協会が企画した。熊本市内65カ所の土産物施設、飲食店で使える3千円分のクーポン券を収録している。有効期限は3月31日まで。エリア紹介や詳細な地図、施設情報などがコンパクトにまとめられている。

 地震発生から9カ月が経過した現在も、宿泊者数や観光客数の回復に苦戦。結果、市内の多くの飲食店や土産物屋の利用者も少ない。そこで宿泊プラン利用者にクーポンを配布し、長期滞在につなげる仕組みをつくった。

 同協会の観光コンベンション課の黒木三奈子課長は「(滞在時間を長くして)ゆっくりお土産を買う、おいしいものを味わう時間を楽しんでもらいたい」と利用者への思いを語った。

「貴重な歴史を後世に」、震災後8カ月の思いと歩み

―阿蘇くまもと空港

 阿蘇くまもと空港には「国内線旅客ターミナルビル」と、「国際線旅客ターミナルビル」、「貨物ビル(2棟)」がある。そのなかで最も大きな被害を受けたのが、「国内線旅客ターミナルビル」だ。1971年に完成した同ビルは、現在までに4回の増改築がなされ、2012年までに耐震補強も終えていた。しかし今回の地震が想定以上の揺れを引き起こし、天井幕崩壊や壁面の亀裂などを発生させた。とくに損傷の大きかったのが建物のつなぎ目部分で、現在も利用客の移動を制限しなければならない状況となっている。復旧工事は、1月下旬に終了し、一部テナントの工事も2月9日に終了する。また休業中のレストランは、2月下旬に再開する。

 一方空港施設は、滑走路や誘導路、レーダー施設、通信施設などへの大きな被害はなかった。これは、震央から直線距離で約6キロの距離にありながら、「硬い岩盤上にあったから」という。

阿蘇くまもと空港の外観
阿蘇くまもと空港の外観

 震災発生後熊本空港ビルディングは、空港ビルの閉鎖と午前4時45分以降の便の全便欠航を決定。大成建設と九電工が国内線ターミナルの緊急安全点検を開始。早期運行開始に向け、航空機乗降のための動線と機能を確保する作業などを進めた。地震発生から3日後の4月19日午前7時40分には、ターミナル内を使用しない運用方法で到着便の運航が再開。同日午後3時に国内線ターミナルを一部再開し、同時に出発便の運行も開始された。その後も損傷した搭乗口の修復などを進め、6月2日には震災前と同じ規模(出発・到着それぞれ1日最大38便)の運航が再開された。

 同時に空港は全国からの救援物資の受け入れや消防、警察ヘリなどの拠点としてもフル稼働していた。これも空港施設への被害が少なく、県が整備した防災エプロンなどが最大限に活用できたからだ。例えばジェットスター・ジャパンは本震があった16日にはすでに千葉県成田市からの要請を受け、支援物資(1794トン)を成田―福岡便で空輸できていた。

 空港職員は当時を振り返り、「線で結ぶ鉄道網や道路網の復旧が難しい状況で、点と点を結ぶ空港を早く復旧させたいという期待に応えられたことが今後に向けての大きな自信になった」と語る。

漱石も暮らした大江の家
漱石も暮らした大江の家

―夏目漱石第3旧居

 1896年、夏目漱石は英語教師として熊本に赴任。2016年は、それから120年目の記念年に当たる。漱石はイギリス留学までの4年3カ月を市内で過ごし、その間6回引っ越している。漱石が暮らした家で現存しているのは、一番気に入っていた大江の家、長女筆子が産まれた内坪井町の家、留学までの3カ月を過ごした北千反畑町の家の3棟。内坪井町の家は「夏目漱石内坪井旧居」として公開し、館内には漱石の熊本での活動が分かる資料を多数展示していた。しかし震災によって現在は内部への立ち入りができず、庭園のみの公開となっている。

 熊本市は5月10日から「夏目漱石第3旧居(大江の家)」内部を特別公開した。旧居は今回の地震で壁にヒビが入るなどの被害はあったが、公開に支障が出るような損壊は発生しなかった。震災からわりと早い時期での公開決定には「イベントはすべて中止になってしまったが、記念の年に多くの人に漱石を感じてほしいという思いもあったのではないか」と現地ガイドはいう。館内では 「夏目漱石内坪井旧居」内で展示していた漱石関係の資料を公開。あわせて「熊本洋学校教師ジェーンズ邸」の資料も展示している。これは、ジェーンズ邸が今回の地震で倒壊してしまい、資料公開ができなくなってしまったための措置だ。同邸宅は熊本で最初の西洋建築で、日本赤十字社の前身「博愛社」が誕生した場所でもある。「(2つの熊本の)貴重な歴史を伝えていくために、今後も資料の拡充をはかっていく」という。11月の公開日は25日間あり、660人が訪れた。中には海外から来た漱石ファンも多く含まれているといい、取材時にも2人の外国人観光客が熱心に見学していた。

◇  ◇

人々が行きかうアーケード
人々が行きかうアーケード

 「崩れた建物の写真をたくさんの人が撮りに来るのを見て、とても辛かった」と、地元の人が話していたのが忘れられない。熊本市内のアーケードは多くの人でにぎわい、水前寺成趣園には紅葉を楽しむ観光客もいた。それらの情報はなぜ発信されず、多くの人に注目もされないのだろうか。阿蘇地域など被災した傷が癒えていない地域も多いが、多くの地域は日常を取り戻している。今しか見られない熊本がある。復興が進むよう、多くの人に現地に足を運んでもらいたい。

石垣内部の構造もよく見ることができる
石垣内部の構造もよく見ることができる

十勝バスの事例紹介、2次交通のプログラムを(観光ビジネスコンサルタンツ)

西川丈次氏が講演
西川丈次氏が講演

 観光ビジネスコンサルタンツの西川丈次代表は昨年12月19日に神奈川県横浜市で、十勝バス(野村文吾代表、北海道帯広市)の成功事例などを紹介する説明会を開いた。十勝バスは2011年、40年ぶりに利用者が増加し、以後順調に業績を伸ばしている。西川氏は着地型観光の課題に2次交通を挙げ、十勝バスの事例を取り入れたプログラムなどを紹介。参加者らに利用を呼びかけた。

 野村代表は代表就任後、業績改善を目指してきた。段階的に合理化をはかり人件費は6割削減した。ただ「会社を続け地域の足は守れたが、抜本的な問題の解決に至らなかった」と話した。改善に向けては営業強化を実施。エリアを絞って路線周辺の戸別訪問を行ったほか、小学校で「バスの乗り方教室」を開き啓発活動も行った。

 新たな商品造成にも力も注いだ。顧客らの声に耳を傾け完成したのが「日帰り路線バスパック」。路線バス沿線上の施設を組み合わせただけの商品だが、顧客は観光や用事を足す目的で利用する一方、バス会社は「固定経費」で実施可能な商品構成だ。「観光交通と生活交通の一体化で、生活交通を支えられる」とし、地方バス事業者が目指すべき姿だと強調した。

 次に登壇した西川代表は、これらの取り組みを分析した結果(1)商品力(2)販促力(営業力)(3)人間力(接客)――の計3つの力の必要性を説いた。このうえで事業目的を「創客」に置くべきだと強調。顧客を創り続けて、利益が付いてくるという正しいやり方、順番で行うことを参加者らに訴えた。

 商品力は路線バスのどこで乗降しても良い「自由度」を生かし、販促力で顧客へ周知する。人間力でリピーターやSNS(交流サイト)の口コミなどを増やすことなどが重要だと説明。「リピーターは人にしかリピートしない」と述べ、リピーター創客が最終的に売上を恒常的に高めるために必要だと語った。

 ビジネスコンサルタンツではこれら十勝バスの取り組みを分析した「手引書」をバス事業者に提供し、実務コンサルティングも行っている。

 最後にIoT型ソリューションを提供するユニ・トランド(高野元社長、東京都品川区)が登壇。目的地検索型のバス路線検索サービス「もくいく」や、バスの現在の位置情報が分かる「バスロケ」などを開発している。さらに乗降センサーとバス位置情報サービスを合わせ、即時に乗車人数を把握できるサービスも開始した。

 路線毎の実態の可視化することで、ダイヤ最適化や経営改善に寄与していく考えだ。

十勝バス・野村文吾代表の説明も熱が入る
十勝バス・野村文吾代表の説明も熱が入る

「山照(やまてらす)」オープン、雲仙福田屋の新館(2月9日)

パノラマ露天風呂「薫風の湯」(イメージ)
パノラマ露天風呂「薫風の湯」(イメージ)

 長崎県・雲仙温泉の雲仙福田屋は2月9日(福の日)、本館の隣に露天風呂付き客室や展望露天風呂、食事処などを備えた新館「山照(やまてらす)―別邸―」をオープンする。

 源泉掛け流しの露天風呂付き客室は、テラス付きや中庭吹き抜けタイプなど7タイプを用意。すべてツインベッドを備えており、内装は梁の一部が張り出すなど、全体的に落ち着いた民芸モダン調となる。

 パノラマ露天風呂「薫風(くんぷう)の湯」は、宿泊者専用の展望露天風呂。朝晩男女入れ替え制で、源泉掛け流しのぜいたくな温泉と、国立公園にもなっている雲仙の美しい景色を堪能できる。サウナも備わる。

 食事処は全部で3カ所。プライベートダイニング「鍋団欒」は、創業以来49年続く秘伝の「好いちょる鍋」をはじめ、しゃぶしゃぶ、季節の変わり鍋など、鍋料理にこだわった店。鉄板焼「桜橋」では、長崎和牛や長崎県近海の海の幸を、目の前で調理して提供する。

 このほか、幻の「高来蕎麦」など、地元の味にこだわった料理が味わえるテラス付きの「山カフェ―力(リッキー)―」もある。夕方は湯上りの憩いスペース、夜は懐かしのレコードが楽しめるバーになる。

 新館オープンに合わせて、本館1階にある食事施設はすべて閉店。食事処はすべて別邸に集約させる。

【2/25-26】山形県・庄内の18蔵元が一堂に、鶴岡市内で「地酒まつり」

地酒祭り画像

 「初孫」や「鯉川」「くどき上手」などの蔵元が一堂に-

 酒処で知られる山形県・庄内地方の全18蔵元が集結し、各蔵元の新酒18銘柄やお勧めの地酒36銘柄、併せて54銘柄の飲み比べが楽しめる催し、「おいでよ!おいしい山形・庄内 地酒まつり」が2月25日(土)と26日(日)の2日間、庄内観光物産館で開かれます。食の企画やステージイベントなどももりだくさん。冬ならではの催しになっています。

【概要】
■日 時 : 2月25日(土)、26日(日) 両日午前10時~午後3時
■会 場 : 庄内観光物産館 駐車場 特設会場(山形自動車道鶴岡インターとなり)
■飲み比べチケット : 前売り券2,000円(税込)、当日券2,500円
■イベント
 ◎あんこう汁限定特別販売(各日300杯)
 ◎庄内の「酒にあう肴」販売
 ◎ご当地ラーメン販売
 ◎ガンプラや刺し子など、子ども体験教室
 ◎ステージパフォーマンス

■アクセス: 当日は鶴岡駅前から無料シャトルバス運行
■ホームページ: http://www.shoko-corpo.jp/bussan/ (チケットWEB販売の案内もこちらから)
■問い合わせ: 庄内観光物産館ふるさと本舗 TEL:0235(25)5111

No.450 移住という選択、2人の先駆者訪ね、松本へ

移住という選択
2人の先駆者訪ね、松本へ

 自治体にとって、移住定住の促進は観光活性化と並ぶ重要課題の1つ。観光業を担う人材不足が叫ばれるなか、UJIターンによる人口増加は問題解決に向けた端緒だ。今回、長野県松本市に移住した2人を訪ね、選択の理由や理念を中心に話を聞いた。国際関係論の専門家、山本達也氏と、クラウドファンディングを活用しホテルをオープンした菊地徹氏。住むだけでなく、街の盛り上げにも積極的。山本氏は、“ALPSCITY COFFEE”の取り組みにも力を入れる。インタビューを通じ、城下町である「松本」の魅力にも触れることができた。

【謝 谷楓】

 
 
 
 ――移住することの価値について。

 移住の価値は、“生存可能性”を高めることにあります。

 不安定な中東情勢や英国のEUからの脱退など、世界の変化は目まぐるしく、年を追うごとに混乱の度合いは増しています。理由は、エネルギーを巡る環境の変化にあると考えています。石油に代表されるエネルギーは、文明の根幹を支えているため、連動して世界のようすも変わっていきます。石油の産出や消費が安定していた20世紀、例えば日本の高度成長期(1960年代)には、一度会社に就職してしまえば、良くも悪くも将来を見通すことができました。しかし、なかなかそう上手くいかないのが、それ以降の21世紀なのです。

 エネルギーの産出をはじめ、不確定で混乱の要素が多い時代では、リスクを分散させることが重要となってきます。資産についても、1点投資するのではなく、不確定要素を考慮して米ドルやユーロ、有価証券など、さまざまな形で保有することが賢明な選択です。

 生き方についても同じです。

 私はかつて、シリアのアレッポに住んでいました。当時と異なり、長引く戦争によって今、街は壊滅状態です。経済的制約をはじめアレッポでしか生活できない人は、その状況に甘んじなくてはいけません。

 シリア難民は国際問題となっていますが、“移動できる人”であり続けることは、リスクを分散させます。移住(移動できる人であり続ける)という選択は、“生存可能性”を高めることにつながるのです。

 ――移住先が松本である理由は。

 松本に移住する決め手は、“自然との距離感”でした。松本は、自然が多いだけでなく、都市としての文化も持つ、ちょうど良い規模感を有しています。…

 

※ 詳細は本紙1658号または1月26日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

宿と煙草 ― 夕食後、喫煙とデザートを楽しむ空間

 政府は、受動喫煙対策として、飲食店内や駅や空港内でも原則禁煙とする改正案を今国会に提出する方針だ。罰則規定も盛り込まれる。ただし、喫煙室の設置は認められている。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会など飲食に関わる5団体は1月12日、一律禁煙に反対し、自主的な取り組みへの理解を求める緊急集会を東京都内で開いた。

 私は煙草を吸うが、回数にして1年に10回くらいだ。我ながら珍しいタイプだと思う。ルールとして、基本的に飲食店では煙草は吸わないようにしている。それは、自分が食事をしているときに、隣で煙草を吸われるのが嫌だからという理由だ。だが、旅先でひとりぼっちのときには、煙突のように煙草を吸うときがある。だから周りからは煙草を吸わない人だと思われている。

 私は煙草を吸う人の気持ちも、吸わない人の気持ちも同じくらい分かる。その視点で見ると、例えば空港などで見かける、ガラスケースの中で吸わせる喫煙室は、喫煙者に対する悪意のようなものを感じる。高速道路のサービスエリアの喫煙スペースも、一番端っこに追いやられている。分煙によって吸わない人には迷惑を掛けていないのだから、もう少し、まともな空間を提供してもいいのではないかと思える。

 一方、マナーがひどい喫煙者も、残念ながら多い。美味しい料理を楽しもうとレストランに入っても隣に煙草を吸う人がいれば、せっかくの料理が台無しになる。飲食店にとっては、煙草を吸う客も、吸わない客も同じくらい大切な客なので、禁煙にしてしまえばお客さんを逃がしてしまうという考えもわからないでもない。一方で、禁煙だったら入りたいと思う客を逃がしている可能性もある。なかには「煙草が嫌なら来なきゃいい」「自分の店なのだから、お上から決められたくない」という経営者もいるだろう。

 喫煙者と吸わない人との間に、お互いが譲歩し、分かりあえる余地はないと思っている。完全なる分煙でなければ、吸う客、吸わない客、そしてお店もみんな幸せになれない状況になっている。喫煙者のために、喫煙室を作るというのが一番いい落としどころだと思う。喫煙室を作る資金も、空間もないという飲食店が大半だろうが、完全分煙への大きな流れに逆らえなくなっていくのは確かだ。

 例えば旅館では、食事処の近くにあまり使われなくなった小宴会場などのスペースがあれば、食後に葉巻や煙草を吸える空間を作るのも一つの方法だ。空港にあるような安物の喫煙所ではなく、アンティークのソファに座って、ゆったりと落ち着いて煙草を吸える時間と空間を提供する。ブランデーなどを用意してもいい。

 また、煙草を吸わない人のためには、夕食後、別室に移動して、紅茶やコーヒーと、地元のフルーツなど、美味しいデザートを楽しめる空間を作る。旅館では夕食後の過ごし方に困ることがある。煙草や葉巻、あるいは美味しいデザートを満喫できる空間を用意することは、宿にとって大きな魅力となるだろう。子供が遊べるプレイルームや、女性がくつろげるエステルームなども増えた。カラオケが歌えるスナックもいいが、ゆったりと過ごせる喫煙室も、新たなニーズを掴むチャンスかもしれない。

(編集長・増田 剛)

9割以上が月次決算導入、「予想を上回る数値に」(日本旅館協会)

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 日本旅館協会(針谷了会長)が開く「旅館ホテル会計実務研究会」はこのほど、会員施設に対して月次決算の実態調査を実施した。これによると、91・7%の会員が月次決算表を作成しているとわかった。予想を上回る数値としたうえで「全会員が作成することが肝要」(同会)と、今後も普及をはかる考え。

 月次決算表を自社で作成している割合は47・8%。作成者は75・0%が経理担当者で、経営者が21・9%だった。月次決算を自計化することで、正確な実績を把握可能となる。同会は「時宜を得た経営戦略が構築できる」と強調した。

 「経営を科学する」を提言する同会は、月次決算で収益改善や多角的な経営を目指し、検討を重ねている。

 調査結果は高水準だったが、まだ課題も残る。発生主義(仕入や費用を発生した時点で計上するもの)での経理処理は79・7%だったが、毎月棚卸を実施すると答えたのは40・1%と矛盾が生じた。「毎月棚卸をしないと正しい月次決算書といえない」とし、棚卸の重要性と方法を啓発する必要性を示した。

 さらに会計事務所から月次決算の説明を受けたのは68・4%に留まる。今後は新しい知識や正確な理解をはかるため、会計事務所の活用を促していく。

 同調査は対象を施設規模100室以上で大規模とし、31―99室は中規模、30室以下が小規模と区分。規模別回答数は大規模92軒、中規模394軒、小規模366軒の合計852軒だった。

 大規模旅館ホテルの代表者が毎月、表を見ている割合は96・6%。一方、中規模は96・0%、小規模は91・5%で、規模が小さくなるほど関心度が低下する傾向になった。

 作成頻度も同様で、毎月と回答したのは大規模が約98・9%、中規模が約93・9%、小規模が84・0%となった。全体を通して大規模に対して、中―小規模は月次決算の対策が遅れていることが分かった。

 メンバーは次の各氏。

 【座長】針谷了(日本旅館協会会長)【コーディネーター】福田茂夫(ヒューマンネットワーク代表)【アドバイザー】佐野直人(商工組合中央金庫審査第1部上席審査役)▽佐分建介(TKC執行役員)▽狩谷英司(観光庁観光産業課専門官)【委員】佐藤勘三郎(全旅連会長代理)▽渡邊玲緒(全旅連青年部副部長)▽桑野和泉(湯布院玉の湯社長)▽石井敏子(関東支部連合会東京都支部長)

“海旅復活”に総力、IRの概念づくりを(JATA 田川会長)

田川博己会長
田川博己会長

 日本旅行業協会(JATA)は1月6日、田川博己会長による新春記者会見を行った。2月には、“アウトバウンド促進協議会”を立ち上げる予定で、海外旅行復活に向け、業界一丸となった取り組みを加速させる。会見では、“プレミアムフライデー”や、人材育成、統合型リゾート(IR)整備推進法案をめぐる発言にも注目が集まった。“アウトバウンド促進協議会”は現在、会員を募っている最中。100社ほどを目処に、2月には設立会見を行う。民間の総力を集め、海外旅行復活を果たしていく構えだ。

 国内旅行やインバウンドについては、「日本遺産などの活用が大切になってくる。それら、ユニークベニューを用いた商品造成は、旅行会社の得意分野だ」と、企画力による差別化に期待を寄せる。また、国内外のリピーター創出や、受入体制の品質向上も課題だと述べ、デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション(DMO)をはじめ、地域マネジメントを担う人材育成の必要性を指摘した。

 人材育成について、「まだ見たこともないようなデスティネーションを見つけることが旅行会社の取り組むべきこと。五感を使ってデスティネーションを体験し、企画力を高める“閃き”や“勘”を育てる必要がある」と強調。労使関係については、「しっかりと対応をし、働きがいのある業界づくりを目指していく。日本人の休むことに対する意識改革も促していきたい。観光先進国となっていくためにも必要だ」と語り、業界活性化という観点から意見を述べた。

 2月24日から導入される消費喚起を目的とした“プレミアムフライデー”に対しては、特化した商品造成に注力する。

 IR整備推進法案を巡っては、「まずはIRの概念をしっかりとつくることが大切。例えば、カジノに限らず、医療ツーリズムなどを行う場所もIRの1つに含まれるはずだ」と語り、議論の深化に期待を示した。

カフェに魅せられ日立を紹介

 年始、JR常磐線日立駅の構内にある「天空カフェ」を訪れた。海岸段丘の高台にあるので、席に着くと国道6号バイパスと太平洋が眼下に見渡せる。改札から徒歩30秒。電車を降りた時には想像できないような景色に出会えた。

 エキナカ絶景に気をよくしたので、日立の観光案内を少々。市のシンボルといえば「大煙突」。鉱山の煙害を軽減するため1914(大正3)年に建てられた。約156メートルの高さは当時世界一を誇ったが、鉱山閉山後の93年、老朽化で上部が倒壊した。残った54メートルが補修され、今も民間企業の設備として稼働中だ。

 もう1つ、日立は日本で唯一、鵜飼で活躍するウミウを捕獲できる場所だ。夏と冬には、ウミウを捕獲する鳥屋(とや)の見学や捕獲方法などの話を聞くことができる。

【鈴木 克範】

20年度営業収益493億円に、新中期経営計画を発表(日本旅行)

堀坂明弘社長
堀坂明弘社長

 日本旅行(堀坂明弘社長)はこのほど、2017―20年度までの新たな中期経営計画「VALUE UP 2020」を策定した。激変する消費者ニーズには、「マーケット・インの取り組みで確実に捉える」(堀坂社長)とし、グループの強みを創り出すことで価値向上をはかる。4年後の20年度には単体の販売高は16年度見込み比で7・2%増の4400億円、営業収益は同9・1%増の493億円、営業利益は同40・0%増の7億円、経常利益は同37・5%増の11億円を目指す。

【増田 剛】

 13―16年度までの中期経営計画「ACTIVE2016」について、堀坂社長は「営業収益ベースでは少し目標に届かなかったが、営業損益ベースでは目標をクリアできそうだ」とし、「いいかたちで(丸尾和明会長から)引き継いでもらった」と語った。

 新たな「VALUE UP 2020」では、需要の拡大と同社の強みを生かすことができる「インバウンド」に加え、教育旅行、MICE、BTM、インターネット販売を引き続き中核分野と定める。これら成長可能性が高い分野の販売高を12年度の1193億円から、最終年度の20年度には2379億円と倍増させる。さらに、「地方創生事業」を法人営業、個人旅行営業、インバウンドに続く第4の柱に成長させる考えだ。本社に地方創生推進本部を設置するほか、東日本、中部、西日本の各営業本部にも専任体制を整える。

 法人営業は、とくに首都圏や京阪神エリアなど大都市圏での展開を強化する。

 個人旅行営業では、インターネット販売の強化を中核に、顧客拡大とリピーター化に向け、Webとリアルの融合を推進していく。また、AIを活用した「対話型の自動対応システム」の導入によって、コールセンターの業務効率化なども視野に入れる。

 企画商品では、JR西日本「おとなび・ジパング」会員をはじめ、シニア層や女性を重点顧客層に据える。

 国内旅行は西日本、北陸エリアを最重点に、JRセットプランへの取り組みを徹底する。一方、海外旅行はスペイン、ベトナム、カナダ、オセアニアを、ナンバーワン戦略国と位置づける。

 人材の活性化にも取り組み、モチベーションアップへとつなげていく。同社スタッフの20代では7割、30代の6割を女性が占める現状を踏まえ、「女性社員がさらに活躍できる働きやすい環境の整備」にも着手する。具体的には、添乗の外注化や時短化、在宅勤務も取り入れ、改革を進める。

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