研修内容など議論、第1回作業部会開く(通訳案内士制度検討会)

第1回作業部会のようす

 観光庁は7月31日、東京都内で「第1回新たな通訳案内士制度のあり方に関する検討会作業部会」を開いた。今回の検討内容は「既登録者の研修内容・新たに追加する試験項目について」。同作業部会は、全国通訳案内士に対する研修制度や試験の実施方法、既有識者に対する研修内容などについて検討する。決定事項は、本検討会で情報共有される。

 これまでの通訳案内士の筆記科目は、(1)外国語(2)日本地理(3)日本歴史(4)産業・経済――に関わる4科目で構成されていた。しかし、法改正後の全国通訳案内士試験においては、今までの4科目に加えて、通訳案内士の質を高める観点から「通訳案内士の実務」という筆記試験が新たに追加され、同筆記試験の合格者が、新たに全国通訳案内士として登録される。

 そのため、登録済みの通訳案内士については、「通訳案内の実務」に関する筆記試験ではなく、経過措置研修を受けることで、通訳案内の実務に関して知識を補完する必要があるとされる。

 試験内容で問う「通訳案内の実務」について事務局である観光庁は、たたき台として(1)実務において求められる知識(2)関係法令に関する知識――の2項目を明示。具体的に「実務において求められる知識」では、交通・食事・宿泊先の対応など、フルアテンドの旅程管理に関する基礎知識や、危機・災害時対応に関する基礎知識について出題。

 「関係法令に関する知識」では、通訳案内士法や旅行業法、貸切バスの安全基準である道路運送法などについて問い、既登録者に対する研修内容も、同等の内容で実施したい考え。

 経過措置研修の受講方法については、遠隔地や時間的に制約のある通訳案内士も受講しやすいよう、通信研修やeラーニングによる研修を実施。受講者の負担を考慮し、1日4―5時間程度の研修時間にまとめる方針だ。

 事務局から提示されたこれらの案件を受け、委員らは研修内容に盛り込みたい項目として、(1)ジャパンレールパスの知識(2)宗教的な観点も含む食事制限の知識(3)成田空港での出入国に関する知識(4)TAX―FREEに関する知識(5)旅程表の正しい見方・管理の仕方(6)外国人旅行者の荷物の管理(7)ガイドのマナー(8)インターネット環境についての把握と説明(9)天災以外のトラブルに関する対応(10)観光に関する最新情報の共有(11)宗教上の特徴について(12)個人情報保護について(13)おもてなしについて――の13項目の追加を要請。

 なかでも食事に関する知識は、「宗教上の問題だけではなく、ときに食物アレルギーなどは命に関わることもある」として、優先的に研修に盛り込むよう事務局に依頼した。

 研修時間については「座学で4―5時間は長すぎる」という意見が多く、次回以降の作業部会で来年度の試験内容と合わせて検討する。

訪日客へ医療情報、不安なく受診できる環境を(訪日外国人医療支援機構セミナー)

セミナーのようす
落合慈之理事長

 訪日外国人が4千万人訪れると160万人が日本で医療受診――。観光庁の調査では訪日外国人のうち、日本国内で何らかの医療行為を受ける人は4%いるという。東京消防庁発表の「訪日外国人搬送人員の推移」によると、2011年は年間922件だったものが、14年には1593件と急増した。こうしたことから、2016年11月、外国人観光客への医療機関の情報提供などを目的に「一般社団法人訪日外国人医療支援機構」(落合慈之理事長)が設立。このほど、東京都内で1回目の訪日外国人医療支援情報セミナーを開いた。

 落合理事長は、外国人が日本で受ける医療について、日本の医療技術を目的に来日するものと、日本に住んでいる人が日常的に受診するもの、旅行者がケガや簡単な病気で受診するものの3種類あると紹介。問題視しているのは急増する旅行者の医療受診で、まだ受け入れの仕組みが万全ではない。「観光立国といわれるなかで、病院が外国語表記などの対応を各々求められるのは大変だ」。こうした背景から、短期で日本に訪れた旅行者が不安なく医療機関を受診できる環境作りを目指し、機構を設立したことを説明した。

 具体策として、日本には救急車を呼ぶ前の相談ダイヤル「#7119」があるが、これを外国語対応できるようにすることを検討。観光業界の現場で対応している人の声なども参考に、「趣旨に沿うようにスキームを作り上げていきたい」と今後の展開を語った。

 一方、国も受入体制の整備を急速に進めている。セミナーでは観光庁や厚生労働省の担当者が登壇。受付から診療、会計まで包括的な体制を整備し、きめ細かい対応ができる最上位の「外国人患者受入に資する医療機関認証(JMIP)病院」と次位で医療通訳などを雇用する「医療通訳配置病院」、院内の多言語化や多言語ツールなどを備える「院内体制整備病院」を今年度中に全国で計100カ所整備するなど取り組みを紹介した。

 なお、前記以外に少なくとも外国語による診療が可能な病院として「訪日外国人旅行者受入医療機関」があり、観光庁がホームページで発表している。

滞在型の観光地へ、地域主体で学生も参加(群馬県・長野原)

八ッ場ダムとジオパーク核に

 群馬県・長野原町(萩原睦男町長)で今夏、滞在型観光地の魅力創出に向けた取り組みが始まった。地域住民が主体となり、同町と協定を結ぶ跡見学園女子大学の学生も参加。インフラツーリズムとジオツーリズムで日本一の観光地になることを目標にダムやジオパーク、温泉地などの地域の観光資源を磨きあげ、魅力を再編集する。長期滞在の仕掛けづくりや、観光拠点の整備なども進められる。7月16日に行われた決起集会では、関係者らが事業計画を説明した。
【後藤 文昭】

2年後の完成に向け、工事が進む7月の八ッ場ダムの姿

 萩原町長は同町の山村開発センターで開かれた決起集会でプロジェクトの名称を、「観光を学ぶ女子大生が種を蒔き、町民が水をやる大作戦」と命名。「これからは、我われが観光客を虜にしていかなければならない」と訴えた。

 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授は、町が進める「長野原町まち・ひと・しごと創生総合戦略」で分析している人口動態などのデータを引用し、「プロジェクトは、長野原町の生き残り戦略の基盤づくり」と断言した。そのうえでダム完成後の長野原町の観光戦略は、「八ッ場ダム」と「浅間山北麓ジオパーク」を活かし、インフラツーリズムとジオツーリズムの2つで日本一の観光地を目指すことと提言した。

 国土交通省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所は2017年春から、工事現場を見学する、インフラツアー「やんばツアーズ」をスタート。案内役に地元吾妻郡在住の女性からなる「やんばコンシェルジュ」を起用し、ダムの歴史と役割を分かりやすく解説している。個人向けツアーでは、夏のホタル観賞、秋の吾妻峡の紅葉、冬は樹氷と、季節ごとの見どころもコースに組み込む。

 やんばツアーズの今後の課題は受入体制の整備。予約なしでダム工事を見学できる展望台「やんば見放台」には、今年5―6月だけで2万人以上が訪れている。やんばツアーズ自体も、現在10月までツアーの予約が埋まるほどの人気を集め、今年1年間で6万人の集客を見込んでいる。しかしコンシェルジュ不足が予想されるなど、受入体制の整備には改善の余地が残る。

 一方で、ジオパークは観光客が魅力を感じられる状態まで整備が進んでおらず、両者の有機的な連携もはかれていない。また、町内にある川原湯温泉などと連携した地域経済循環の仕組みも構築しなければならない。篠原准教授は、「長野原町は今、お金が落ちる仕組みが作れるか。その瀬戸際にきている」と訴えた。

長野原町に新しい芽を出すために力を合わせる関係者

 未来に向けて、5つのプログラム始動

 大学生と地元住民が取り組むのは(1)川原湯温泉ブランド化・リピーター拡大研究(2)やんばツアーズ・女子大生コンシェルジュ&ジオパーク連携商品の開発(3)酒蔵・地酒ツーリズム(4)国交省道路局主催全国大学道の駅インターンシップ(道の駅八ッ場ふるさと館・観光コンシェルジュ)(5)長野原町役場インターンシップ生派遣――の5つ。8―9月上旬に学生が集中合宿を行い、プロジェクトごとに関係者と観光資源の磨き上げや整備を進める。

 川原湯温泉とダムの連携では、ダムの完成後は、やんばツアーズを組み込んだ宿泊商品造成や、夜間・早朝ツアー開発など、宿泊需要拡大への仕掛けを組み立てていく。

 長野原町の拠点として整備を進める道の駅八ッ場ふるさと館(篠原茂社長)は、オリジナル商品の開発や売り場の改革などを進める。篠原駅長は「地産物の発掘や発信は大きな課題。今回の連携で、地域の魅力をさらに発信していく」と宣言した。

 町内にある観光土産物施設の浅間酒造観光センター(櫻井武社長)は、滞在拠点として酒蔵ツアーの造成を行うほか、若者、女性客の誘致にも取り組む。櫻井社長は「長野原町でしかできない酒蔵ツーリズムを行い、地域全体で着地型観光地の形成に取り組んでいきたい」と語った。

 また、夏の間に住民向けやんばツアーズを催行し、観光面での取り組みを周知。浅間山北麓ジオパークを関連させたガイドシナリオの作成や、今後予想されるコンシェルジュ不足への対応協議など、やんばツアーズ全体の底上げもはかる。

 決起集会を終えて跡見学園女子大学の学生は「私たちが関わって、(長野原町や八ッ場ダムを)世の中に出すことで、外から注目してもらえるきっかけにしたい」と挑戦への意気込みを語った。

跡見学園女子大学の学生がやんばコンシェルジュとして、
ダム工事のようすを解説

現地視察会を実施

 7月16日に行われた決起集会に先立ち、現地視察会が行われた。

 最初に「なるほど! やんば資料館」で、やんばコンシェルジュがダム計画の歴史などを解説。説明によると、ダム完成によって湖岸延長約8キロのダム湖が完成し、低い土地を流れる吾妻川や、川に並行して走るJR吾妻線と国道145号線、長野原町の5地区が水没する。水没地区の住民の生活再建は、集落をそのまま高台に造成した土地に移す「現地再建方式」を採用し、地域コミュニティや伝統的な祭りなどを守るという。

 次に旧川原温泉地区へ移動し、当時の写真と今の風景を重ね合わせながら、当時の温泉街の姿を学んだあと、移転した現在の川原湯温泉を視察。地元の現状や歴史、土産が無いなどの課題を関係者から教わった。

 そして、ダム工事の現場へ。完成時の高さと同じ場所から、ダム工事のようすを見学し、ダム建設地の全体像や、ダムの大きさを実感。夏の間やんばコンシェルジュを務める跡見学園女子大学の生徒が、実演を行った。

 その後、ダム下流に位置する吾妻峡に移動し、地形的特色や成り立ちを学習。関係者は同地が、ダムをつくる好条件である「硬い岩盤」と「狭く深い谷」が備わっていたため、建設地に選ばれたのではないかと自身の見解を述べた。

 吾妻峡の先には、団体見学ツアーで訪れることができる見学スポットがある。最初に見学したポイントよりも低い位置にあり、こちらからはダム工事の進捗やダムの細部を間近に見学できる。

No.469 ピンクリボンのお宿ネットワーク、第6回総会 各団体と協力強化

ピンクリボンのお宿ネットワーク
第6回総会 各団体と協力強化

 ピンクリボンのお宿ネットワーク(会長=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将、事務局=旅行新聞新社)は7月24日、東京都港区の東京會舘で2017年度通常総会を開いた。12年7月に全国の旅館、女将の会、企業らが参画し設立。5年を経て、会員数は130を超え、乳がん患者・体験者に対する支援は順調だ。10月には、2018年版「ピンクリボンのお宿」冊子を発行する予定で、各施設の紹介や特典クーポンを提供する。総会後には、女性医療ジャーナリストの増田美加氏が講演を行った。

【謝 谷楓】

 
 
 
 

 畠ひで子会長は「乳がん患者・体験者が気軽に旅に出られ、入浴を楽しんでいただくことが、同ネットワーク設立の目的。50会員でスタートし、6年目を迎える今年は会員が130を超え、JTBサン&サンによる『ピンクリボンのお宿ネットワーク』の商品造成が実現した。今後も医療・患者団体と連携し、啓発活動に努めたい」とあいさつ。新年度の事業計画では、「ピンクリボンのお宿」冊子の発行と配布、ポスター制作など、広報活動のさらなる強化に注力する。宿泊施設の勉強会では、接客だけでなく、フロント・調理スタッフを対象に宿全体の意識向上も目指す。地域でのシンポジウムも開催する予定だ。

 来賓の安藤徳恵厚生労働省健康局がん・疾病対策課主査は「日本のがん対策は大きく分けて3つ。がんの予防と医療の充実、共生を目指している。年間8―9万人が罹患する乳がんは、日本人女性にとって最も頻度の高いがんとなっている。ピンクリボンのお宿ネットワークでは、乳がん患者・体験者が安心して旅に出かけ、お風呂に入る環境づくりに取り組んでいる。厚生労働省としても、皆さんと協力してがん対策を進めていきたい」と激励した。

 日本旅館協会の佐藤英之専務理事は「日本旅館協会では、生産性向上に力を入れている。このネットワークへの参画は、宿の付加価値を上げることにつながる。生産性向上に資するものだ」と深い理解を示した。

 来賓は、安藤徳恵厚生労働省健康局がん・疾病対策課主査と佐藤英之日本旅館協会専務理事、大山正雄日本温泉協会長、大堀千比呂日本政府観光局インバウンド戦略部受入対策グループマネージャー、菊池辰弥全国旅行業協会経営調査部長。…

 

※ 詳細は本紙1680号または8月23日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

同じ客室なのに… ― 直予約の方が高いホテル 悲しい現実

 この夏、オートバイで1人旅をしてきた。旅の目的は、念願だった北海道一周だ。

 茨城県の大洗港からフェリーで北海道の苫小牧港へと向かい、海岸線に沿って一般道を時計回りで走った。

 北海道をオートバイで走るのは初めてだったので、1日にどのくらい走れるか想像できなかった。また、天候によっても走行距離が変わってくる。オートバイの故障なども考慮に入れ、宿は一切予約しなかった。格好よく言えば、行き当たりばったりの旅だ。

 宿を決めていなかったので、午後になると、夕暮れまでに辿り着けそうな町を「宿泊地」と決めた。道の途中でオートバイから降りて、スマートフォンで調べて、宿に直接電話した。

 現在のIT(情報技術)社会では、当然インターネット予約の方がラクだし、料金も安いことは薄々知っていた。だが、あいにく私のスマホは初期設定の失敗から、メール機能が使えない状態になっていた。宿泊予約サイトのほとんどは、予約時にメールアドレスの記入が必要だが、私にはそれができない。仕方なく、「あの~、今日ですが、シングルルームが空いていますか?」と、直接宿に予約の電話を入れるしかなかった。

 しかし、8月の北海道はそう甘くなかった。当日に空いている宿なんてほとんどなかった。

 「ごめんなさいね。満室なので」と立て続けに断られた。人気ホテルや旅館が満室でも、小さな民宿に空室がある場合もあるが、この時期の北海道には全国から大挙してツーリング・ライダーがあらゆる宿に予約を入れており、何度も絶望的な気分になった。このため、函館や小樽など超人気観光地はできるだけ避けて、知名度が比較的高くない小さな町で宿を探すと、空室を見つけることができた。

 けれど、毎日、毎日、その日の宿が予約できるか分らない状況でオートバイを走らせるのも不安であり、また、断られながらの宿の予約自体もだんだん煩わしくなってきた。旅の中盤からは1日の走行距離も大体把握できてきたので、天気予報を小まめにチェックしながら、当日の朝には宿の予約を済ませることを日課にした。

 ある朝、私は大手宿泊予約サイトを見ながら、有名ビジネスホテルチェーンの1軒に「シングルルーム」の空室を見つけたので、ノートにメモして、そのホテルに直接電話してみた。予約係の男性からは「シングルルームは空いています」と、予想通りの返答があった。「では予約をお願いしたいのですが、ちなみに料金はおいくらですか?」と聞くと、大手宿泊予約サイトよりも2千円ほど高い料金を提示された。さすがに同じ部屋に2千円も多く支払う気はなかったので、「宿泊サイトには○○円と出ていましたけど」と言ったが、システム上、直接ホテルに申し込むと2千円ほど高くなってしまうという一点張りで、平行線を辿った。

 私が見た宿泊予約サイトには、空室が6室もあったのに、少し悲しくなってしまった。「このホテルも目の前の客より、多くの手数料を取る宿泊予約サイトを経由して予約した客に、より大きなメリットを与えるのか……」と残念な気分になった。それでも愚痴も言わず、「じゃあ、他の宿を探します」と電話を切った。私はまた一から他の宿を探し始めなければならなくなった。

(編集長・増田 剛)

MICE誘致が本格化、関係府省と連携強める(観光庁)

 MICE誘致に向けた動きが本格化する。観光庁は7月24日に第8回「MICE国際競争力強化委員会」を開き、中間とりまとめ(案)を提出した。来春までにMICE目標設定と、支援メニューの充実、官民連携横断組織を構築する。同会に先立ち、関係府省MICE支援アクションプランの中間とりまとめを策定。関係府省と手を組み、総力を挙げて誘致体制を構築する。このほか経団連や商工会議所と連携を強化。各国に遅れていたMICE誘致を多角的に連携し推し進める。
【平綿 裕一】

 「今回の大枠は政府内でMICEを重要な位置づけとして認識し、横断的に推進すること。まずは動き出すことが重要だ」(MICE推進担当室井上学参事官)。具体的対策を4つ提示し、来春までに施策をかたち作る。

 1つ目はMICE目標(KPI)の設定。C(国際会議)以外の、M(企業会議)とI(報奨・研修旅行)、E(展示会・見本市)も小委員会で定義し、年内にアンケート調査を実施する。MICE全体の経済波及効果を試算し、来年の3―4月に目標設定を行う。

 2つ目では都市力の強化をはかる。10月を目途に「グローバルMICE都市・都市力強化対策本部」を設置する。自治体とコンベンションビューロー(CB)、観光庁らで構成。これまでは規制を撤廃して新たな施策を目指そうとしても、議論の場や受け皿がなく、中心となる組織もなかった。今回の本部設置で体制を整え、国際競争力を持つ都市に進化させる。

 3つ目はMICE誘致体制の構築。まず政府を横断する体制を整備するため、7月21日のMICE推進関係府省連絡会議で、「関係府省MICE支援アクションプラン」を中間的にとりまとめた。

 バラバラだった関係府省と連携。「チームジャパン」で総力を挙げ、観光庁が中心となり、MICE推進策を進めることで合意。今後実施事項は行いつつ、検討項目などを調整し来年3月に同プランを策定する。

 このほか、経団連が行う2国間会議や、在外商工会議所の会合の場を活用して、M・I・Eそれぞれの誘致宣伝や情報提供など官民一体で働きかけを強める。経団連とは国内で、社内会議の開催や、報酬旅行実施でも手を組んでいく。

 4つ目は人材育成。10月に「MICE人材育成協議会」の設置を見込む。現状は各団体・自治体などが個々に行い、統一性がない。同会が中心的な組織となりプロググラムやカリキュラム、育成モデルを検討する。

 若年層に対しても働きかけを強める。学生インターンシップ受入強化を支援。来年度の予算で要求する見通し。大学での講演やCBなどへの受け入れを支援し、MICE業界への興味や就業意欲を喚起する。

知的財産権の保護を、WG設置、会員に啓発(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)は昨年9月、2020年前後に国内で複数の大型イベントが開かれることから、「大規模イベント開催に伴う対応ワーキンググループ」(座長=池田浩・JTB首都圏社長)を設置。成功に向けた課題や対応を検討している。とくに、知的財産権の保護は最重要課題として、会員会社への啓蒙に努める考え。

 WGは国内旅行推進委員会と訪日旅行推進委員会、海外旅行推進委員会、JATA海外旅行推進部、法務・コンプライアンス室のメンバーで構成。事務局はJATA国内・訪日旅行推進部が務める。8月3日の定例会見で、興津泰則国内・訪日旅行推進部長は「コンプライアンスを守る意思の表れ」と強調した。

 具体的に協議しているのは(1)オリンピック、パラリンピックに関する知的財産の保護・利用法の指導(2)正規ルートによる入場券の入手などの徹底(3)文化プログラムの情報提供(4)バリアフリーツアーの一層の推進(5)大会ボランティア、都市ボランティアの情報提供――。

 このなかで、最も重要な知的財産保護については先般、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の事務局から「オリンピック・パラリンピックの知的財産とアンブッシュマーケティング」の説明を受けたという。一方、内容は一般や他業界へも広く周知が必要だと考え、8月中にも同委員会に啓蒙を求める要望書を提出することを明かした。求めるのは知的財産保護を目的とした啓蒙・指導の強化と、アンブッシュマーケティングなどへの疑問に答える相談窓口の設置、ホームページでのQ&Aの開示。

 アンブッシュマーケティングとは、権利を保有しない企業や個人が権利者の許可を得ずにその権利を利用する便乗広告のこと。例えば、公式スポンサーではない企業が「オリンピック記念」などと謳うことも問題となるが、現状、こういった広告は街に溢れている。興津部長は「アンブッシュマーケティングという言葉自体馴染みがないが認知をはかり、注意喚起を行っていく。日本開催にあたり、業界をあげて対応したい」と述べた。

 また、旅行会社にとってはチケットの扱いも大きな課題。オフィシャルエージェントはJTBとKNT―CTホールディングス、東武トップツアーズの3社だが、それ以外の旅行会社が販売するには、制度上何が問題か検討を進める。

サントリードリームマッチ

 8月7日に東京ドームで開かれたプロ野球ファン必見の「サントリードリームマッチ2017」を観戦してきた。

 今年で22回目を迎える「サントリードリームマッチ」は、1995年から開催しているイベントで、数々の伝説のプレーヤーが集結し一夜限りの真剣勝負が繰り広げられる。

 山本浩二監督率いる「ザ・プレミアム・モルツ球団」と田尾安志監督率いる「ドリーム・ヒーローズ」が激突。注目の出場選手は名物マサカリ投法がうなる、速球へのあくなき挑戦を続ける村田兆治。伝説の三冠王ランディ・バースと桑田真澄の真剣勝負など往年の名プレーヤーたちが躍動する。今年初参戦となった川上憲伸、谷繁元信、高橋尚成、鈴木尚広などもファンの期待を裏切らなかった。まさに一夜限りの〝夢の球宴〟だった。

【古沢 克昌】

出国税を検討か、財源確保に動き(観光庁)

 政府は観光立国の実現のため、新たな財源確保を狙い、水面下で動き出している。欧州主要国や米国、豪州ではすでに出国税などを観光関連の財源などに回す例もある。好調な訪客に水を差しかねないとの声もあるが、先進例を参考に幅広く検討を進める構えだ。

 明日を支える観光ビジョンに「財源確保の検討を行う」との記載がある。出国税について、観光庁の田村明比古長官は7月の定例会見で「(諸外国の事例など)現在は勉強している段階」と発言。検討中の具体的な事例については明言しなかった。

 一方、各国では取り組みが進んでいる。例えば、米国では短期の観光・商用目的のビザを持たない外国人から、電子渡航認証システム(ESTA)の申請手数料14米ドルを徴収している。2010年に徴収を始め、このうち10米㌦(約1100円)を観光促進の財源に充てている。

 仮に日本で同様の仕組みを取り入れれば、昨年度のインバウンド総数約2400万人に対して、1人1100円を徴収すると、264億円ほどの財源になる。観光庁の17年度当初予算(255億9900万円)とほぼ同額の大きな数字になる。

 7月28日の会見で国土交通省石井啓一大臣は「幅広い選択肢を検討している」と述べている。インバウンドが好調な分、旅行者に負担になる制度は、慎重にならざるを得ない。今後は各国の事例を参考に財源確保策を練っていく考えだ。

エクスペディアホールディングス代表 マイケル・ダイクス氏に聞く

マイケル・ダイクス代表

アジアをもう一度見直す、3本柱で日本事業を推進

 エクスペディアホールディングス(マイケル・ダイクス代表=ロッジングパートナーサービス 日本・ミクロネシア地区統括本部長)は、3つの柱を据えて日本での事業を推進する。日本市場へ外資系OTA(オンライン旅行会社)の参入が激化するなか、ダイクス代表に日本における取り組みを聞いた。
【平綿 裕一】

 ――日本を含めたアジア市場をどのようにみていますか。

 日本は多くの産業が成熟しているなか、旅行業界をみればまだ伸び代があります。一方アジアの旅行市場はすでに約44兆円規模で、米国・カナダの約43兆円を抜いています。欧州は約50兆円ですが、伸び率はアジアが断トツなので、すぐにアジアが世界一の市場になると思います。

 ――狙うべきターゲットは。

 「欧米人を増やしていきたい」と最近よく耳にしますが、〝アジアをもう一度見直す〟ということがあるのではないでしょうか。1億円の資産を有する富裕層が最も多いのはアジアです。欧州や米国よりも多い。日本にはアジアの富裕層を狙える観光地の力も、地理的にも恵まれており、ここにとてもチャンスがあるはずです。

 ――日本における外資系OTAとしての役割は。

 「世界の旅行業界の基準」を日本の関係者間で共有することがあります。ほんの一例ですが、日本以外の国はほぼ1年先の在庫が入っています。しかし、日本は半年ほど。訪日旅行者からすれば、日本は半年以上先の在庫が無い「売り切れ」状態になっています。半年以上前に予約する顧客は、我われのグループ全体で13―20%と大きな数字です。これらのことを解決しなければ機会損失が生じます。

 少し大げさかもしれませんが、インバウンド4千万人の政府目標なども、業界全体で成し遂げていかなければなりません。4千万人の達成は、旅行先としての日本が国際競争に勝つことです。だからこそ、海外での常識を、日本でも当たり前にしていかなければなりません。

 ――日本での事業の方向性は。

 3つあります。1つ目の柱はコンサルティングです。さまざまなデータを活用した提案をしていきます。日本は各地域でインバウンド受入体制の成熟度が異なっています。成熟度が違えば、各地域に合ったコンサルティングが重要になってきます。

 例えば、以前からインバウンドに取り組む沖縄や京都などの地域は、多くの流入があります。インバウンドのボリュームがあれば、どの市場を狙うかピンポイントで選別できます。

 一方地方では、まずボリュームが欲しいので、どちらかといえば認知度向上。次に流入が増えてくれば、徐々に市場を選別していくことも可能になります。この流れが間違いなくあります。

 今後各地域が成熟してくれば、コンサルティングへの要求も高くなります。我われはそれに応えていくため、コンサルティングに力を入れていくのです。

 ――2つ目の柱は。

 「旅行先としての日本の告知」です。16年はグループ全体で約4800億円分の広告を展開しました。本業はOTAのホテル・フライトの予約ですが、オンライン広告の専門部署も持っています。

 今の旅行者はオンラインで調べ、予約し、すべて終わらせたいのです。認知させる手段も、考え直さなければなりません。日本もすでに約半数のトラフィックはスマートフォン経由。さらに3件に1件の契約がスマートフォンからです。

 オンラインどころか、オンラインのなかのモバイルが拡大している。この状況はしっかりと理解しなければなりません。

 最近の新たなサービスで、地域単位の広告を打てるものを出しました。特定地域のホテル同士が集まり、資金を出し合って、その地域やテーマの単位で海外に情報を発信できるのです。これにより小さな地域単位で海外への露出が可能になりました。

 ――温泉街といった単位でも可能ですか。

 まさにそういったところも可能です。今後は日本各地でこのサービスを進めていきます。

 ――もう一方の柱は。

 新規獲得です。現在日本では1万件弱の掲載があります。大都市はほぼ獲得していますが、まだムラがあります。掲載されていない地域には、新規獲得だけを担当するチームを設けています。

 サイト内の充実もはかり、国内線のフライトもすべて掲載されるようにしました。今後は日本各地への足ができ、地方への流入は一層加速するはずです。LCC(格安航空会社)も地方空港に増便しています。引き続き地方施設への送客に注力します。

 ――日本の業績や目標値は。

 国別に具体的な数値は言えません。ただ、アジアでは日本が1位です。15年後半から17年後半にかけて、アジアでの業績を3倍にする目標を立てていましたが、日本単独でこの目標値を超える実績があります。

 我われのなかで日本は「投資すべき国ナンバーワン」です。