腕におぼえあり

 世界が注目するトランペッター、近藤等則のCD『夢宙』が6月20日に発売された。

 1993年に活動拠点を海外に移し、東京とアムステルダムを行き来しながら「地球を吹く」プロジェクトに取り組み、12年から日本での音楽活動を再開した。本作は11年に亡くなられた両親に捧げられたもので「宇宙と地球を思わせる近藤等則のサウンドの世界感」を表現した力作だ。

 先行予約で購入したのだが、届いたCDを眺めて驚いた。なんとジャケットに私の名前入りで直筆サインが入っているではないか。予約特典は近藤等則自身が選曲した『時々のメロディー』で、この中にNHK時代劇「腕におぼえあり」で使用されたテーマ曲も含まれていた。これまで過去を振り返ることがなかった近藤等則の新しい一面を垣間見た。

【古沢 克昌】

道後温泉再訪で ― 地方都市の旅は「食」と「酒」が楽しみ

 6月下旬に日本温泉協会の総会で、愛媛県松山市の道後温泉に向かった。道後温泉は4回目の訪問だ。あいにくの雨模様だったが、取材の合間に道後温泉の街歩きも、少しだけできた。

 松山市は活気を感じた。2年前の夏にも訪れたが、さらに活気を帯びている印象を受けた。四国最大の都市であり、日本最古の温泉の一つである道後温泉も市内にあり、街がコンパクトにまとまっている。松山空港から市内へのアクセスも至便だし、市内に入れば路面電車やバスが並走しており、2次交通も整備されている。

 総会が終わり、宿泊した大和屋本店は、いわゆる“正統派”の旅館である。前夜は遅くまで酒を飲んでいたので、朝の早い時間に温泉に入った。道後温泉は市街地のため、多くの温泉地のように大自然に囲まれた露天風呂などは望めないが、敷地内の良く手入れをされた庭園に降る雨の滴の音と、土や石が濡れる匂いを嗅ぎながら、「ああ、やはり温泉旅館はいいなあ」と思った。最近はビジネスホテルや民宿、リゾートホテルなどに宿泊する機会が増え、一方、オーソドックスな大型温泉旅館に正直なところ、大きく心を揺るがす期待はしていなかったが、静かな温泉に浸かりながら、「こんなゆったりとした、時間と空間は、日本旅館でしか味わえないな」と思い直したのだった。

 道後温泉のシンボルである道後温泉本館は、間もなく改修工事に入る。しかし、完全に閉館するわけではなく、一部営業を続けながらの工事となる。道後温泉には、もう一つ、椿の湯という共同浴場がある。道後温泉本館が主に観光客が利用するのに対し、椿の湯は地元の人たちが日常的に利用する。私もチェックアウト後、椿の湯に入ったのだが、近くの温泉旅館で働く人たちの姿も見られた。

 道後温泉本館が改修工事に入ると、観光的なダメージは避けられない。そこで、松山市は工事中の道後温泉本館を一つの観光資源として、見学ができるようなことも考えている。また、椿の湯の隣接地に、596年の聖徳太子来湯にちなみ、飛鳥時代をテーマとした共同浴場を新たに造る計画だ。この辺りの考え方は、さすがと思わせる。

 松山市は夏目漱石や正岡子規などに縁が深く、「文学のまち」としての顔もある。市内にはさまざまな資料館などもあるが、今回は時間的な余裕もないし、雨も強かったので何処にも寄らずに松山空港に向かった。

 帰りの路面電車の中で濡れた街並みを眺めながら、この松山市を再訪する機会があったら、自分はその旅に何を求め、何を楽しもうとするだろうかと想像した。

 これは、何も松山市に限ったことではない。地方中核都市を旅する場合、よほど親しい知り合いがいたり、何か明確な目的があれば別だが、何度も訪れる理由を見つけるのは難しい。幸い、松山市には世界にも誇れる歴史と物語性がある温泉地が近いという大きな特徴があるが、他の都市はどうだろうか。

 40代の男である私にとっては、地方都市の旅先の楽しみは、食と酒である。私は松山滞在中に同じ店で2回、じゃこ天うどんを食べた。松山の名物は鍋焼きうどんや五色そうめん、鯛めしなどが有名だが、行く前からじゃこ天うどんを食べようと思っていた。何か、地元にそのような食べ物があることも大切である。

(編集長・増田 剛)

全国女将サミット2016鳥羽 初の旅館開催

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 全国旅館おかみの集い運営委員会と旅行新聞新社は7月5日、三重県鳥羽市の鳥羽シーサイドホテルで「全国旅館おかみの集い―第27回全国女将サミット2016鳥羽」を開いた。初の旅館開催となった今回は、全国から約150人の女将が集まった。

 中かほる運営委員長(旅荘 海の蝶)は、旅館の女将の仕事が、外国人をはじめ、まだ多くの日本人にも理解されていないことを踏まえたうえで、「女将という仕事をひと言、ふた言で皆様に理解していただけるような言葉が必要」とし、「今後の女将サミットのあり方も含め、分科会などで“女将とはどのような仕事なのか〟について話し合うなど、時代の流れと共に変化させていくことも必要」とあいさつした。

 夕方から開いた懇親パーティーは、鈴木英敬三重県知事をはじめ、多くの来賓を含む約300人が参加した。

(次号詳細)

第12回 あなたが好きな露天風呂のある宿

第12回 あなたが好きな露天風呂のある宿

風情、四季の風景、泉質などで推薦、808軒を一挙掲載

 旅行新聞新社は本紙が主催する「第41回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」発表冊子内、さらに本紙と業務提携する地球の歩き方T&Eのウェブ「日本の歩き方」(2016年2―3月)内でネットユーザーを対象に、「あなたが好きな露天風呂のある宿」アンケートを実施した。その結果、3383票の回答(有効回答は2246票)があり808軒の宿泊施設が推薦された。第1位はホテル浦島(和歌山県南紀勝浦温泉)。トップ10に初めて入選したのは6位の銀波荘(兵庫県赤穂温泉)。湯船から見える山や川、海など風景や湯船の数、泉質、そして紅葉や雪景色、夕日、雰囲気などさまざまな推薦理由があった。

 発表にあたり、上位10施設については順位と代表的な推薦理由を、以下は地域別に順不同で代表的な推薦理由を掲載した。…

 

※ 詳細は本紙1635号または7月15日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

九州復興へ決起集会、10万人の送客を目指す(ANAグループ)

九州復興へ結束強める
九州復興へ結束強める
片野坂真哉社長
片野坂真哉社長

 ANAグループは7月5日に東京都内で、「でかけよう九州 決起集会」を行った。九州復興支援「でかけよう九州」プロジェクト第2弾の実施を発表するとともに、九州各県の自治体や国の関係機関、旅行会社の連携を深め、九州復興に対する取り組みの強化をはかる。ANAホールディングスの片野坂真哉社長は、「九州の復興をどうにか支援したいと思い、プロジェクトを立ち上げた。今後、ANAグループは9月までに、九州への送客数を10万人と目標設定し、達成に向けて全力を挙げて取り組んでいく」と述べた。

 同プロジェクトは、送客支援で(1)九州発着路線の「旅割」運賃の一部値下げ(2)国内線特典航空券マイルバックキャンペーン(3)セブン&アイホールディングとの連携――などを行っていく。業務提携をしているセブン&アイホールディングスと協力して、「ANAマイレージ」の会員かつ「nanacoポイント」の会員が、九州着の対象路線に搭乗すると、搭乗ごとに「nanacoポイント」が付与されるキャンペーンを実施する。詳細は7月中旬ごろに発表予定。

 一方、国の公金を利用して展開される「九州ふっこう割」を活用し、航空券と宿泊が同時に予約できる「旅作」と、宿泊単品予約の「ANA九州ふっこう割宿泊プラン」を7月1日から販売開始。すでに完売している商品やコースもある。

 このほか、全国のほぼすべての空港店舗で特設コーナーを設置し、熊本県産品を販売する。また、5月中旬から行っている、公営施設や避難所でお風呂を提供する「こころの湯」活動は、現地から感謝の声や継続の要望もあり、7月末まで延長する。

 九州のゆるキャラが勢ぞろい

九州のゆるキャラが勢ぞろい

「Tokyojin」を発信、世界で1億人規模へ  

 ブランドイメージ画像

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monopoの佐々木芳幸社長
monopoの佐々木芳幸社長

 monopo(佐々木芳幸社長、東京都港区)は6月21日、「東京人(Tokyojin)」を世界共通ブランドとすることを目指すプロジェクト、「poweredby.tokyo」を始めた。東京人とは「東京の都市文化を選び、独自のスタイルとして体現している人びと」のこと。東京人の思想や生活、価値観などを可視化し、これまでにない東京の魅力を、人を通じて世界に発信していく。2020年までに世界で1億人規模に拡大することを掲げ、同日にブランドサイトを公開。東京人のライフスタイルが日常風景を切り口に、物語仕立てで顕現化されている。

 佐々木社長は、「東京人」という呼称を再定義した理由を、「世界の大都市では『ニューヨーカー、パリジェンヌ』とこの呼称を聞けば、ライフスタイルが想像できる『ブランド』が存在する。多くの産業や文化をけん引しているが、東京にはこのブランド化された呼称がない。なので、再定義した」と説明。

 また、同企画の発起人のチェイス・フェダー氏は、「都市は大きな広告代理店が掲げたキャンペーンではなく、人とそのコミュニティから構築されていく」と述べ、「同企画の目指す東京はそこにあり、その東京を作り上げる基盤となる」と話した。現在、東京で独自の感覚や考え方で生活している人が多数いるなか、これらを一つの東京人というブランドで、周知させていく。 

左から4人目が、同企画発起人のチェイス・フェダー氏
左から4人目が、同企画発起人のチェイス・フェダー氏

 同企画は、(1)東京人のライフスタイルを可視化させ、発信するメディア機能(2)未来の東京、東京人スタイルを探求するシンクタンク機能――の2つ役割がある。シンクタンク機能は、官民一体となって、共同コンテンツ開発やイベント開催などを東京人目線で、取り組む場となる。

 外国人有志が中心となって発足された同企画。既に後援に渋谷区観光協会、参画企業には、トランジットジェネラルオフィス、BEAMSなどが決定している。日本の伝統文化とは趣が異なる、最先端の東京の文化を表現し伝える動きに、今後も注目したい。

【平綿 裕一】

海外旅行は7.4%増に、旅行意欲継続 支出は慎重(JTB夏休み 旅行動向)

 海外旅行は7・4%増の260万人、国内旅行は1・0%減の7485万人に――。JTBはこのほど、「夏休み(7月15日―8月31日)に、1泊以上の旅行に出かける人」の旅行動向の見通しを発表した。昨今の日本をめぐる経済環境はめまぐるしく変化しており、先行きへの不透明感がぬぐえない状況が続いている。このことから、今夏は8月のリオデジャネイロオリンピックや、今年新たに国民の休日として設定された「山の日」などの影響により、旅行意欲は継続するものの、急激な円安などの影響で支出に関しては慎重になるとみられる。

 今年は、8月11日が「山の日」として国民の祝日となる初の夏休みだが、同アンケート結果によると「8月11日が山の日になったが夏期休暇への影響はない」と回答した人が21・2%いることから、新たに国民の祝日「山の日」が設定されても、あまり影響を感じていないことが伺える。また、今夏は8月にリオデジャネイロオリンピックが開催されるが、アンケートによると「オリンピックを家でTV観戦したいからでかけない」は5・8%、「オリンピックに合せてTVを買い替えるので旅行は行かない」は0・3%となり、オリンピックも夏休みの旅行には直接的な影響は見られない結果となった。

 今年の夏休みの海外旅行人数は、前年比7・4%増の260万人となる見込み。日本人の年間出国者数は2013年以降低迷が続いていたが、今年1月から4カ月連続で対前年を超えている。海外旅行の行き先を方面別にみると、アジアでは台湾、タイが昨年に引き続き堅調。中国や韓国は復調傾向にある。ヨーロッパは国際情勢の影響はあるものの、スペインやポルトガルなどが好調で前年を上回る見込み。

 同社の海外旅行企画商品の予約状況によると、出発日のピークは、欧州などの長距離方面は8月13日、ハワイや東南アジアなどの中距離方面は8月10日、韓国や台湾などの近距離方面は8月14日。

 国内旅行人数は、同1・0%減の7485万人と前年と比べ微減となる見込み。アンケート結果によると、旅行の目的では「帰省・離れて住む家族と過ごす」が19・4%(同3・8%増)と前年より増加。その一方で、「テーマパークやレジャー施設」は9・3%(同2・2%減)、「おいしいものを味わう」は4・9%(同2・9%減)と減少傾向にある。宿泊施設に関しては、「ホテル」42・7%(同1・7%減)、「旅館」25・9%(同2・0%減)が減少し、「実家・知人宅」が27・3%(同5・5%増)と昨年より増加している。今年は、帰省が増え、費用を抑える傾向にあることが伺える。

 旅行の同行者は、「子供連れ(中学生まで)」が31・9%(同0・4%減)、「夫婦のみ」が17・1%(同2・0%減)が昨年より減少し、「3世代旅行」は9・8%(同2・0%増)で、全体では家族連れが67・9%(同0・9%増)と増加した。

 利用交通機関では、鉄道の利用が前年に比べ23・8%(同2・8%増)と上がっていることから、北陸新幹線や北海道新幹線の開業効果や、地域の魅力を集めた観光列車の人気が続いていると考えられる。

 国内旅行の行き先を方面別で見てみると、北海道新幹線の開業にともない、北海道や東北が注目されている。また、熊本地震後に帰省やボランティアに参加する人が増えていることから、九州が増加している。

 さらに、今春開業した京都鉄道博物館や、15周年を迎えたユニバーサル・スタジオ・ジャパンの効果から、近畿も行き先として高い人気を誇っている。

 国内旅行企画商品の予約状況では、出発のピークは8月12―15日となる見込み。

 なお、同調査は1200人から回答を得た旅行動向アンケートに加え、JTBグループの販売状況、航空会社の予約状況、業界動向、経済動向から推測。1969年の調査開始以来、今年で48回目となる。

「異業種提携で差別化を」、日旅、堀坂新社長が会見

堀坂明弘社長が就任会見
堀坂明弘社長が就任会見

 日本旅行は6月30日、堀坂明弘社長と丸尾和明会長の就任会見を東京・日本橋の本社で行った。堀坂明弘社長は「社員にとって夢のある会社にしていきたい」と抱負を述べたうえで、観光客の消費動向が変化していることに注目。国内と訪日旅行ともに、体験型旅行の需要増加に応えるべく、「国内外の旅行者に対し、温泉や寺社仏閣への参拝など、多様な体験を提供できるような商品を、異業種と連携することで提供していきたい」と述べ、同社にしかできないサービスの追求に尽力し、他社との差別化をはかる狙いだ。

 また、OTAが拡大の一途をたどる現状に対して、鉄道や航空会社など流通各社との提携販売を強めることで対応する方向性を示した。

 昨今の海外旅行の不振について、堀坂社長は、「増加傾向にあるオセアニアや東南アジアの開拓に取り組んでいきたい。ヨーロッパに関しては、治安の良いデスティネーションへは、国際情勢を顧慮しつつ、チャレンジしていきたい」と語り、海外旅行復活にも積極的に取り組む構え。

 相次ぐ他社の不正アクセスについて同社は、マニュアルの徹底による予防と、被害を最小限に食い止める事後対応に力を入れる意向だ。

「九州ふっこう割」開始、150万人の宿泊取り戻す(九州観光推進機構)

九州一体で観光客の呼び戻しをはかる
九州一体で観光客の呼び戻しをはかる

 九州観光推進機構は6月23日、熊本地震でキャンセルを受けた宿泊施設や観光施設へ観光客を呼び戻すため、九州観光支援の割引付旅行プラン助成制度「九州ふっこう割」を7月1日から開始すると発表した。国の支援助成金180億円を活用し、国内、インバウンド向けのオンライン宿泊旅行商品や旅行会社の旅行商品などを最大5―7割引きで販売。7月から12月までで150万人の旅行需要喚起を目指す。

 九州ふっこう割は夏休み期間を中心にした7―9月が第1期で、直接被災地の熊本・大分両県が最大70%、他の5県が50%の割引。10―12月は熊本・大分両県で最大50%、他県が40%を設定する。

 割引上限金額は宿泊のみが2万円、交通付き宿泊旅行が2万円(1泊2日)、2泊3日が3万円。2県以上にまたがる2泊型の周遊型宿泊旅行は、3万5千円までが限度。

 地場の旅行会社が主体となり、地域の観光資源を活かした体験やまち歩きなどの着地型旅行商品も割引対象となる。

 割引宿泊券(プレミアム付き宿泊クーポン)では、福岡、長崎、大分、宮崎県がコンビニで販売予定。熊本県は専用ウェブを通じたクーポン販売を予定する。ふっこう割の利用促進をはかるため、九州が一体で観光プロモーションを行い、機構、県が協力して九州域外、域内で広報・宣伝を展開する。

持続可能な事業か否か、着地型観光の現状を語る、ツアー・ステーション 代表 加藤広明氏

加藤広明代表(左端)と同社スタッフ
加藤広明代表(左端)と同社スタッフ

 6月1日に創立20周年を迎えたツアー・ステーション(加藤広明代表、愛知県丹羽郡)。同社は「着地型観光」事業に置いて愛知県下で唯一、中小企業地域資源活用促進法の認定を受け、また、その事業内容は「がんばる中小企業・小規模事業者300社」で表彰されている。しかし加藤氏は、この着地型観光が存続可能か危機感を覚えていると言う。今回は、「着地型観光」の問題点や課題、さらに文化を軸にクルーズや祭りなどを活用した観光について聞いた。
【平綿 裕一】

 加藤氏は着地型観光について、「後発の日本版DMOが主流になりはじめ、脇に追いやられている向きがある」と危惧し、「着地型観光は持続可能な事業なのか否か、実践者が経営判断でどちらかに決めていい。けれど、暗に儲からない事業とし、無視しては着地型観光の発展や、地域活性化につなげていくことが難しくなる」と着地型観光の現状と課題を語る。

 この現状に対し具体的な取り組みとして、3月の「国内活性化フォーラム in 鹿児島」と「第2回地旅博覧会」に先駆けて、鹿児島市内で「第2回着地型観光事例報告会」を開き、有識者らとディスカッションを行った。参加者は7人と少数だったが、大学教授や行政の担当者、民間事業者など多岐にわり、実りある議論の場になったという。加藤氏は「着地型観光が次の段階へと進むためには、問題点や課題、これからの方向性、事業体系など、全体を通じた交通整理の必要性を感じた」と振り返った。

 今後は中部運輸局らと連携して、着地型観光の専門者会議を開いていき、着地型観光の中部版モデルと称する事例報告集の作成などを行う予定。また、これを観光庁に提出し、全国各地の地方運輸局に周知してもらう取り組みの実施を中部局に提言している。最終的にはフォーラムなどを開き、着地型観光の振興に寄与したい考えだ。

 同社は創立以来20年間クルーズの発地型観光を継続し、同行日数は延べ1千日を超え、客数は延べ850人を超える取扱実績がある。

 世界のクルーズ事情については、「アジアに中間層が増えてきたことなどを背景に、ここ1、2年で北東アジアに新たな市場を探し求めている」と分析する。この現状を鑑みて「外国客船の日本発着クルーズと、着地型観光とを融合させると面白いはず。寄港先で、地元に根付いた着地型を扱う旅行会社に任せれば、品質の高い、企画商品を提供できる。地元ならではの商品で、クルーズで来た人が、『ああ、日本の田舎っていいな』と言ってもらえれば成功だ」と着地型観光の可能性を探る。

 また、政府が外国客船による訪日観光客の目標値を2020年までに500万人に定めたことについて触れ、ポイントとして(1)大型客船が寄港できるように港を整備(2)日本の海洋を周遊する広域観光ルートの形成――の2つを挙げた。「この2つを行えば500万人を達成できるはず。政府も外国客船を受け入れる環境整備のために、大型融資などを用意している」と話す。一方、「注意すべきは、誘客自体が目的となってしまうこと。訪日客がどれだけの経済効果をもたらすのか、この定量目標を定めるほうが優先すべきではないか」と持論を展開する。

 インタビュー終盤で祭りが話題に挙がり、今年の11月に、祭りがユネスコの無形文化遺産保護条約登録候補として、全国33カ所が認定される予定で、このうち16カ所が中部管内にあると説明。しかし、祭りが無形文化財に登録されることに対して、「いざ登録された際に、『ユネスコ文化遺産!祭りに行こう!』などと商品が出てきて、ただレジャーの対象となっては本末転倒。つまり、祭りは信仰の対象であり、その精神性などが文化として重要であり、この前提がなくなると、祭りが形骸化してしまう」と不安をにじませる。

 「日本の祭りというものを学ぶきっかけが必要。私も働きかけ、動き出しているが、なかなか大きいテーマなので、上手くいかない。ただ、今年は風が吹いている。祭りに関してフォーラムやシンポジウムを行い、知識を得て、我われ観光業界はこれを機になにをすべきかを、業界全体で考えなければいけない」と祭りの文化的側面を学ぶべきとの方向性を示した。