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【特集No.576】鼎談「精神性の高い旅」 Ⅱ 喪失感や悲嘆を旅が和らげる

2021年3月10日
編集部:入江千恵子

2021年3月10日(水) 配信

 未曾有の災害となった東日本大震災。今年で発生から10年の節目を迎えた。津波や建物の倒壊によって多くの人が亡くなり、避難のために住み慣れた土地を去り、家族や仲間と離れ離れになった人もいる。人生では、大切な人との死別や離婚、リストラなど、さまざまな場面で喪失感や悲嘆に直面することがある。それらの悲しみを旅によって和らげる「精神性の高い旅」について、前回の鼎談(昨年1月11日号掲載)からさらに深化し、旅の具体例などについて語り合った。

         【聞き手=本紙編集長・増田 剛、構成=入江 千恵子】

 鼎談は、前回に引き続き、仏教学者で前東洋大学学長の竹村牧男氏(オンラインで参加)、神奈川大学国際日本学部教授の島川崇氏、東洋大学国際観光学部講師の石井亜由美氏の3者によって行われた。

                  ◇

 ――東日本大震災から10年です。昨年はコロナ禍に見舞われた1年でもありました。現代の宗教と旅について、どのように考えますか。

 竹村 現代では、非常に癒しが求められています。宗教は、その癒しを超え、生きながらの「死と再生」によって、新たな自分、本物の自分になれるものと思います。

 旅は、気づきや影響を受けることがあります。国内では伊勢神宮や高野山など、神社仏閣を参拝することで、自分を超える大いなる何かに出会えることもあります。山岳、自然は霊気を有し、宗教性を発揮する聖地も多々あります。そのような場所に行くことで、自分を生かしているものに出会う体験は重要です。これらを“旅”として実現することが、今後のポイントになるのではないでしょうか。

 ――島川先生たちが研究する「精神性の高い旅」は、どのような旅ですか。

 島川 喪失感や絶望感などを抱え、人生において歩みを止めてしまった人たちに、日常から離れて心が洗われるような場所に出掛けることで、再び生きていこうと思えるきっかけ作りの旅です。

 静寂が保たれている寺社や教会、巡礼道、景観などを1人で訪れ、心に染み入る対話ができる僧侶や牧師などの宗教者や、それに代わる人たちと会います。前回の鼎談で、竹村先生は、宗教における旅について「“求道(ぐどう)の旅”と“伝道の旅”に分けられる」とおっしゃいました。「精神性の高い旅」は、求道と伝道の両方を実践していきます。

 参加者の想定は主に中高年層ですが、喪失感を持つ人であれば年齢は問いません。日程は、忙しい人も行きやすいよう1泊2日が理想です。しかし、日帰りや2泊3日でも構いません。スピリチュアル、呪術的なものとは一線を画します。

 ――石井先生は、グリーフセラピー(悲嘆療法)の観点から「巡礼」の論文をまとめられました。どのようなことを感じましたか。

 石井 東洋大学大学院で論文を書こうと思ったきっかけは、悲嘆や喪失感など、抑えきれない感情を自分の中に置き去りにして良いのかと思ったことです。悲しみを吐露する場所や相手はいないのだろうか。旅の途中で出会った見知らぬ人に、これまで言えなかった思いや秘密を話すことや歩くことで、心の浄化作用が生まれるのではないか。そのうえで、巡礼が喪失感を持った人たちの救いの場になるのではないかと思い、研究を始めました。

 「精神性の高い旅」は、基本的に“人の心を救う観光”と考えています。また、「自分と異なる価値観を知る旅」にもできたらと思っています。

 例えば、アイヌの人たちは「人間に恵みを与えてくれるものすべてがカムイ(神)である」という考えを持っています。樹木も鮭も熊もカムイです。しかし、忙しい毎日を送っていると、目の前のものに対して、感謝の心を忘れがちになってしまいます。「精神性の高い旅」をすることで、自己の内面を高められるのではないでしょうか。

 もう1つは、デジタルデトックスです。ステイホーム中は、スマートフォンやパソコンでSNS(交流サイト)漬けの生活になりがちでした。デジタルの生活から脱出し、大自然の息吹を感じられる場所に行くことも大事です。

 自然や温泉の中に心身を置いて、自分の人生を見つめ直す思考時間を楽しむことで、これまで見えなかったこと、心の奥底から求めていること、今後の進むべき方向性、改善していくべきアイデアなどが浮かんでくるのではないでしょうか。

【全文は、本紙1826号または3月16日(火)以降、日経テレコン21でお読みいただけます。】

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