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大雪 ― 東京は雪に強い、山間地こそ弱い

2014年2月21日
編集部

 2月に入り、大雪が襲った。これほど首都圏で雪が積もったのは私自身初めての経験である。首都圏といっても私の仮寓は東京都心から相当に離れているので、雪もかなり深かった。道路にはタイヤの跡や足跡もなく、歩く人影もない道を、吹雪のように強い風が吹き荒れるなか、膝近くまで埋まりながら歩くのは、住宅街の中とはいえ、恐怖と孤立感を覚えた。雪は窓の中から見る分にはいいが、吹雪の中を歩くのは本当に恐いことなのだと実感した。

 2011年12月24日のクリスマスイブの日、私は家族と和歌山県の高野山にある名宿・福智院を訪れた。天気予報では、近畿地方で記録的な大雪になることを伝えていたので、私は前夜、オートバックスでチェーンを購入した。結構な出費となったが、命には代えられぬと、クルマの荷台に積み込んだ。23日は念願の和歌山県・湯の峰温泉や川湯温泉の仙人風呂に浸かり大満足だった。24日も昼過ぎに龍神温泉に到着するまでは順調だった。手ぬぐい頭に、ちらちらと舞う小雪にちょいと乙な気分に浸っていた時点までは良かったが、露天風呂に浸かりながら山の方を見ると、あっという間に白銀の世界に変わっていくさまを目にした私は急に激しい不安を覚えた。チェーンがあるとはいえ、ノーマルタイヤでこれから高野山を登らなければならないのだ。案の定、高野山に向かうスカイラインは峠道を進むごとに雪深くなった。チェーンを巻いたが、クルマはスリップしまくって生きた心地がしなかった。後続のノーマルタイヤのクルマはスルスルと滑り、側溝にクルマの半分が落ち込んでしまった。辺りが見えなくなるほどの大雪で、雪の怖さを骨の髄まで感じた旅だった。しかし、そのころの私は全国の秘湯巡りに命懸けで挑んでいたので、その後も性懲りもなく、晩秋の山梨や、群馬、長野、新潟の山深い秘湯の宿を目指してクルマを走らせており、峠を登って行くごとに、路面の凍結部分が広がっていく恐怖を何度も味わった。これら経験をした私は、今では少しの雪でも降ると「羹に懲りてなますを吹く」ような運転スタイルになっている。

 東京に大雪が降るたびに、テレビのコメンテーターは「東京はホントに雪に脆いですねぇ」などと笑いながら言うが、私は日本で東京ほど雪に強いエリアはないと思っている。ニュース映像では、雪にすべって転ぶサラリーマンやOLたちの姿を映したり、電車や飛行機が止まって駅や空港で困惑している人たちの表情や言葉を拾うが、そんなものは多少の混乱はあるだろうが、命に別条はない。街にはレストランや居酒屋がごまんとあるし、風雪を除ける巨大な高層ビルや、地下に潜れば迷路のように広がる地下街もある。夜は人口が少なくなるかもしれないが、朝になると若い元気な人間が一斉に集まって来る。その気になれば、全員で雪かきをすれば、道はすぐにできる。

 一方、山間の過疎地域は大雪が降れば道路は寸断されるし、歩いている人は途中で避難できるような高層ビル街や地下街もない。吹きさらしの中で倒れると誰にも気づかれずに凍死するしかない。食料や水も届かないし、停電すれば何日も復旧しない。本当に孤立してしまう。東京は圧倒的に雪に強い。人の手もなく、後回しにされてしまう、山間の集落こそが雪に弱いのだ。

(編集長・増田 剛)

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