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〈旬刊旅行新聞9月1日号コラム〉北海道・猿払村 もう一度見ておきたい景色を再訪

2020年9月1日
編集部:増田 剛

2020年9月1日(火) 配信

今回の旅では、知床のカムイワッカ湯の滝も訪れた

 北海道の北端の村・猿払村(さるふつむら)の景色が忘れられずに、今夏、再訪した。

 
 3年前の夏、スズキのST250という、空冷単気筒エンジンの古いオートバイに乗って、北海道を一周旅行した際に訪れた村だ。その旅は、海岸線をひたすら時計回りに走るだけの旅だった。セイコーマートにお世話になりっ放しで、北海道の美味しいものを食べたわけでもなく、行く先々で雨にも降られ、“キツイ”旅でもあった。

 
 それでも、稚内市のノシャップ岬近くの小さな宿で女将さんの優しさにも触れるなど、私にとって忘れることができない思い出がたくさん残った。

 
 そのなかで、どうしても、もう一度見ておかなければならない景色があった。それが猿払村だった。

 

 
 猿払村には、取り立てて何か象徴的な観光名所があるわけではない。

 
 多くのライダーたちは時計回りで北海道を走るときに、日本最北端の宗谷岬で旅の一つの到達点を迎える。あるいは、そのゴールに辿り着く前の、利尻富士を左に北海道道106号稚内天塩線の圧巻の直線道路に心を奪われる。

 
 しかし、到達点を過ぎた猿払村の景色にどうして私は心が惹かれるのか。ずっとこの数カ月、自問しながら、広大な牧場と、少し暗いオホーツク海の霧に覆われた猿払村を走ることを夢見てきたのだ。

 

 
 8月のある日、私は夜明け前に、ボストンバッグを紫色のクルマの後部座席に投げ込んで、ヘッドライトを付けて神奈川の自宅を出発した。

 
 そのまま高速道路を北上し、青森港で青函フェリーに乗り、函館へと渡った。4時間の船上で吹き抜ける津軽海峡の潮風に、疲弊した心身を清めた。

 
 北海道では、旅人の姿は少なかった。私はクルマに乗って、人のいない田園風景や、大自然の中をゆったりと走った。

 
 ニセコから眺める羊蹄山は壮観だった。駒ヶ岳や支笏湖、摩周湖、美瑛町の白金青い池の美しさは、言葉もいらない。サロマ湖や、能取湖の地の果てを感じさせる旅情の豊かさや、媚びた表情を一切見せない白老の海岸線も大好きな風景である。けれども、猿払の景色はまたもや私の心を捉えて離さなかった。

 
 カムイワッカ湯の滝にも訪れた。知床半島の先端に向かって11㌔にも及ぶ未舗装の道を、4WDを駆使して白い砂煙を上げながら辿り着いた。

 
 靴を脱いで、ジーンズをまくり上げて、私は滝の上流に向けて歩いた。ヒグマとの遭遇を警戒し、温泉が流入した心地よい温度の川の水を感じた。

 
 その後、羅臼温泉熊の湯にも入った。カーナビゲーションの無いオートバイの旅では、深い霧のため、小さな看板を見つけることができなかったが、今回は熱い硫黄臭たっぷりの力のある温泉に全身浸かった。あまりの温泉の熱さに、命懸けで浸かった。

 

 
 北海道を回る旅は8日間で、東北自動車道往復を含め、3650㌔を走った。1日平均450㌔である。

 
 私は何も考えずにハンドルを握り、深い緑の森を抜け、真っ赤な夕日や、直線道路の向こうを眺めた。それでいい、と思った。今眺めている景色は無意識の底に沈殿し、都市生活で疲れたときに、きっと再訪への想いをかき立てるだろう、と確信した。

(編集長・増田 剛)

 

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