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〈旬刊旅行新聞2月11日号コラム〉一流の“ものづくり力”を養おう 安易な「観光立市」は地域力を落とす

2020年2月10日
編集部:増田 剛

2020年2月10日(月) 配信

一流のものづくりこそ、地域の実力。「観光推進」を打ち出さなくても人は魅了される(写真はイメージ)

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大に伴い、世界各国が水際での感染の封じ込めに全力を尽くしている。徹底した人的交流の制限により、観光業界だけでなく、世界経済全体への多大な影響も報じられている。

 日本の観光業界をみると、2020年に訪日外客数4000万人達成に向け、官民挙げてインバウンドの拡大に取り組んでいる。この成果もあり、19年の訪日外客数は前年比2・2%増の3188万人と、7年連続で過去最高を更新した。

 しかし、そのインバウンドの飛躍的な伸びも、昨今陰りが見え始めている。昨年7月に韓国向け輸出管理の運用見直し後、日韓関係は悪化。19年の訪日韓国人旅行者数は同25・9%減と、大幅に減少した。

 そして、19年に訪日客全体の約3割を占め、年間959万人が訪日した中国が新型コロナウイルスの影響で、今年は激減することが予想される。一方、出国日本人数も19年に初めて2千万人を達成したが、厳しい状態を迎えている。

 

 政府は成長戦略の柱の1つとして「観光立国」を推進している。「観光」という視点を重視する姿勢は素晴らしいことだと思っている。日本は11年から人口減少時代に突入した。労働人口も減っているなか、多くの外国人旅行者が日本を訪れ、旅館やホテルに宿泊し、買い物もして、たくさん消費してもらうことで、日本経済を支える基盤にしたいという考えである。

 観光客が訪れる利点はそれだけではない。世界中の異なる文化の人々を受け入れることによって、さまざまな摩擦を経験しながら磨かれ、人も、まちも洗練されていく。これ自体はすごく良いことである。

 一方、これまで日本人ですらあまり訪れなかった地域に、「写真映え」や「アニメの聖地」、「ドラマのロケ地」などを理由に、その土地の許容量を超える外国人観光客が訪れるエリアもある。世界中から注目され、誇りに思う面もあれば、生活が乱されるため、迷惑に感じることもあるはずだ。自発的に何もしていないのに、ある日突然、意図していない観光客が押し寄せる風景に当惑してしまうのは、自然な感情だ。

 だが、これらの観光客はコロナウイルスの感染拡大や、国際情勢の変化、自然災害などの要因によって大きな変動が起こりやすい。22年には北京冬季五輪を控える。中国人のウインタースポーツ熱の高揚に着目し、その受け入れを推進する企業やエリアもあるが、地方創生を目指すのなら、リスクが大きい。

 近年、「観光立国」だけでなく、地方自治体のホームページや、街の中にも「観光立県」や「観光立市」を掲げる看板をしばしば目にするようになった。一見、素晴らしい政策に映る。だが、「地方創生には観光推進、観光客の誘致拡大が不可欠」という考えがいつの間にか刷り込まれていないだろうか。観光客の誘致は、数ある地方創生の手段の1つに過ぎない。

 国や地域の実力は、第1次産業の「農林水産業」であり、第2次産業の「製造業」だと私は思っている。一流の農業力や、ものづくりの力を地道に養う。その卓越した技術力や先進的な思想に世界中が魅了され、訪れたくなるものだと思う。とりあえず「観光立〇」を前面に出して、観光客を呼び込もうとする安易な姿勢は、地域力を落とすだけだ。  

                                                                                                                  (編集長・増田 剛)

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