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【寄稿】玉川大学教育学部教授 寺本潔氏、若者が憧れる観光業へ DMOに託したい観光教育支援

2019年11月13日
編集部:木下 裕斗

2019年11月13日(水) 配信

寺本潔氏 玉川大学教育学部教授

  小・中・高等学校の「観光教育」の現状に危機感を覚え、変革を訴える玉川大学教育学部教授の寺本潔氏が本紙に寄稿した「DMOが観光教育、人材育成を主導してほしい」と提言する。

◇ 

 外国人旅行者が国内で使ってくれた金額は2018年、4・5兆円。日本人の国内旅行消費額と合わせると実に26・1兆円にもなります。これに伴い、空港線の鉄道利用や都市開発、情報産業、ブランド農水産品販売などが伸びています。今や、観光は我が国の発展に欠かすことのできない基幹産業に成長しつつあるのです。

 しかし、観光業を担う若者世代の育成は、大学生や専門学校生以上の中核人材育成だけに傾注され、小・中・高等学校といった基礎人材育成は等閑視されたままです。

 事実、小・中・高等学校の社会科教科書を開いても、自動車産業や農林水産業、情報産業などの記述は詳しいのに観光産業についての記述は皆無に近い状態です。観光産業や観光の動向は社会のグローバル化や地域創生にも大きく関わり、平和の構築にも寄与する魅力的なジャンルであるにもかかわらず、その意義が若者世代に語られていません。 

 ところで、本紙の読者の多くは旅館やホテル業、土産物店、運輸業、観光協会、出版・広報などで働く方と想像しています。 

 ご自身の仕事の社会的な意義や観光業の将来像をご子息に語っておられますか?
産業としての観光業の役割について、子供に憧れを抱かせるような説明はできていますか?

 ご子息が通われている学校で観光業についての確かな学びが施されているならば、後継者としても安心ではないでしょうか。観光の重要性に気付かせ、人材育成につながる観光教育が総合的学習や社会科などとタイアップして推進できれば、ご子息の地域資源理解や企画力、マーケティングの基礎、シチズンシップ(市民的資質)も育成できます。

 さらに、商店街や港、観光スポットで観光ガイド役や外国人観光客へのインタビューの機会を与え、効力感を抱かせることができれば、語学力や対人関係力を身に付けたいと思うようになります。 

 また、「持続可能な社会の創り手」を求めた学習指導要領の理念を観光教育に生かせば、「人々の幸福と自然を基盤とした解決策」(Nature-based Solutions)をゴールと定め、バックキャスティング的な考え(未来を予測し目標設定して、今何をなすべきかを考える方法)で教育設計していくことが適切です。

 自然遺産への立ち入り制限や京都市などで発生している観光公害の解決策をマネジメントできる人材や、それに賛同する良識ある市民も必要です。

 でも、そんな地域人材はすぐには養成できません。今、地域で観光教育を開始しなければ、地方の未来は切り拓けません。

 教科書への記述が皆無に近い観光業ですが、導入できる箇所があります。例えば、小学校社会科4年の単元「わたしたちの県」や、中学校社会科の「日本の諸地域」「地域の在り方」に位置づく、伝統工芸品の扱いが挙げられます。教科書には数ページを使って県内の著名な焼き物や織物、木製品などの生産工程や技術継承の大切さが解説されていますが、観光商品としての扱いは不十分です。 

 現実では工芸品の多くは一部の年配の富裕層や外国人観光客の購入で支えられており、小・中学生を持つ若い家庭ではほとんど購入されていません。つまり伝統工芸品が若者世代から縁遠いものとなっています。 

 私は小学校への出張授業で工芸品の価値に気付かせるため、子供たちに向かって「皆さんを含め日本人が買わない・使わないなら、もう伝統工芸品は無くなってもいいんじゃないか?」と思い切った切り込み方で「ゆさぶり」を試みたこともありました。

 5年の農業単元でも伝統的な米づくり学習に終始するだけなく、ブランド米や日本酒、リンゴや柑橘類は観光資源に高まっているため売り方と合わせて扱うべきです。

 進学校の高校でも出張授業を試みましたが、地元の観光動向や、観光資源に関する知識は小学生と大差ありませんでした。つまり、観光を題材とした教育はなされていないのです。

 私はこの7年間、全国各地の学校で観光の出前授業を延べ80時間、教員に公開しました。教材コンテンツも開発しながら県や市の教育委員会に働きかけましたが、腰が重い状況です。

 今後は、将来の受益者であるDMO(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)が主導して、教育界に観光教育の必要性を訴えてもらいたいのです。そのためのお手伝いなら、微力ながら喜んで致します。 

 総論では優秀な人材がこの業界に集まってくることに誰しも賛成して下さいますが、そのための具体的施策については動きがありません。幸い、観光庁観光産業課が主導され、プロモーション動画(観光教育ノススメ)が3月に作成されています。

 庁のホームページにアップされていますから、是非読者の皆様ご覧下さい。その中に私が指導した那覇市の小学生による外国人観光客へのインタビュー調査の場面も映っています=写真。

那覇市国際通りで外国人観光客に英語で来沖理由を尋ねているようす(小学5年生)。延べ150人のアンケートが実施できた。歴史や文化を理由に挙げた客が少なく、沖縄観光の課題が明確化できた

 「観光を教育する」といったフレーズには、未だ教育界への訴求は弱いままです。観光業は地域色が強く現れるため、各地でDMOが組織されたようです。だとすれば、「地元で観光基礎人材を育てる!」といった意識が必要ではないでしょうか。

 先進的な試みでは、沖縄観光コンベンションビューローが小学生向け「観光学習」副読本(62㌻)を編集し、県内の小学校に無料で配布しています。さらに、沖縄県では「未来の産業人材育成事業」を立ち上げ、小・中学校現場に観光の専門家が出向いて、観光業の大切さを直接子供たちに伝え始めています。

 地域が成熟した観光地へと成長することを本気で期待されるならば、若者世代に憧れの産業としての観光業を見せてあげて下さい。そのために各県のDMOと教育委員会が連携して観光の基礎人材育成をすぐに開始してほしいと切に願います。

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