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日本は正しい選択をしているか ― 原発賠償「観光予算の500年分」

2014年1月11日
編集部

 旅で、少し早めに旅館やホテルにチェックインするのが好きだ。午後3時のチェックインだったら、7―8分前に宿の玄関に向かう。少し迷惑な客かもしれない。でも、まだ客のいない宿のロビーの雰囲気が好きなのである。大きな旅行鞄を横に置いて、客を迎える準備を整えるようすを眺める。どうかしたら、「待っている時間が申し訳ない」と思われるのか、お茶を持って来てくれることもある。口開けのバーで飲む一杯のマティーニが一番美味しいように、銭湯の一番客が最も気持ち良いように、まだ観光客によって空気が汚されていない宿の清らかな空気が好きなのだと思う。

 チェックインを早くするのには、もう一つ理由がある。釣り竿を持って、海に糸を垂らすのがこのところの習いである。釣りの最中は、海を眺める。海の向こうを眺める。誰もいない海で、1人釣り糸を垂らすのが好きである。釣れても、釣れなくてもどっちでもいい。知らない土地の初めての海に、細い糸を一本海に垂らすだけで、すでに8割の満足感を得ている。釣れた魚は、友人のように親しみの気持を覚える。「君は、ちっちゃいなー」などと話しかけながら、海に戻してあげる。

 海を間近に眺めていると、透明度の高い青い海には心が洗われる。でも、黒く汚れた海を長時間眺めていると心が濁ってくる。自然に対する思いが自分の中でも大きく変わってきているのを、最近強く感じる。

 日本とトルコは友好国として両国の間では知られている。1890年に和歌山県串本町沖でオスマン帝国の軍艦「エルトゥールル号」が遭難し、串本町の住民らが救助を行い69人を救出したことも両国の絆を強める要因となった。このように、友好関係を世界各国と築いていくには相当の時間がかかるし、簡単なことではない。そのトルコに日本政府は原発輸出に向けた動きを加速させようとしている。また、アジアでも日本と良好な関係にあるベトナムに対しても、原発輸出を計画している。

 京都大学大学院准教授の伊藤正子氏の論文などを読むと、ベトナムでは、「原発の安全神話を築くために、日本の原発プローモーションがベトナム語で流されている」とのこと。原発予定地は開発が遅れている地域であり、原発に対する情報が圧倒的に少ない状況にある。ここにも原発マネーが流入している。原発輸出と原発の安全神話はセットである。多くの日本人がいつか見た景色である。

 トルコは地震が頻発する地域である。ベトナムには津波が何度も襲っている。日本国内をみると、福島の原発問題はまったく終わっていない。汚染水は今も海水に流れている。この現状のまま、一方で、海外の友好国に原発を輸出することが日本の正しい選択だとはどうしても思えないのだ。

 昨年12月に東京電力から追加要請のあった原子力損害賠償支援を国が認めると、計4兆7888億円にものぼる。別の補償金と合わせると約5兆円。14年度の観光予算98億円の約500年分である。国のお金の流れが歪な構造になっていないか。

 そして、今年は消費税増税の年だ。新年会では政界、経済界、そして観光業界も景気の話に始終するだろう。大きく、逞しい権力を持つ強者の声に押し消されがちな「小さな声」を拾い上げ、紙面で伝えていきたいと思う。

(編集長・増田 剛)

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