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〈旬刊旅行新聞11月11日号コラム〉旅と病 旅先で体調を崩してしまうことも

2018年11月10日
編集部:増田 剛

2018年11月10日(土)配信 

異国の旅先で病気になることもありうる

ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画「シェルタリング・スカイ」が好きで何度か観ている。旅がテーマの映画や文学に魅かれてしまい、レンタルビデオショップに立ち寄ると、つい手に取ってしまう。

 旅を扱った映画のいいところは、旅のもの憂さが漂うところである。旅とは、基本的にもの憂いものだと思っている。シェルタリング・スカイは北アフリカを舞台に、ニューヨークの生活に飽きた1組の夫婦が主役だ。倦怠や喪失、虚無など行き場のない感情が、男と女の仕草や表情の端々に垣間見える。エキゾチックな街並みや現地の人々の営みが、冷酷に、時にまとわりつくように映し出され、2人は運命の川に流されながら、淡々と時が流れていく。

 この映画では、主人公の男(夫)が、旅の途中にチフスに罹る。そしてそれ以降、旅の大半は、ずっと病気で苦しんでいるシーンが続く。旅先で病に苦しむ男の筋書きに、「なぜ、これほどまで自分が引き込まれるのか」と、ずっと不思議に思っていたのだが、思い返してみると、私自身、旅先で体調を崩してしまうことが多々あることに気がついた。

 10月から11月にかけて、地方への出張が続いた。後半、少しずつ体調を崩し、最後は宿泊するホテルでダウンしてしまった。暗いホテルの部屋で、ウトウトしては目が覚め、頭痛と吐き気を感じながら夜明けを待った。幸いにも体調は回復し、翌日にはすっかり元気を取り戻すことができた。

 数年前に香港を旅したときも、高熱を発してしまった。ホテルに着いて、騒がしい人々の声やクラクションの鳴り響く音、路上まで競り出した派手な看板だらけの街は、健康状態の良いときとは異なる表情を見せてくれた。ホテルの部屋に戻り、ベッドで体を休めながら、また少し街を歩いたり、食事をしたり、観光を楽しんだ。食欲がわなかったために、中華料理はあまり食べられなかった。数日間の滞在中、灰色のカーテンを閉めた異国のホテルの部屋で過ごす時間は、夢と現実の境界が曖昧になる。今となっては、華やかなるネオンサインの夜景とともに、薄暗い安ホテルで過ごした静謐な時間が鮮明に思い出される。

 九龍から、小雨の降り続く香港島にスターフェリーで渡り、坂の途中で果物を売っていたおばあさんからオレンジをたくさん買って、食べているうちに、体調は急速に回復していった。 

 このほかにも、旅先で体調を崩した経験が何度かある。晴れの日があれば、雨の日もあるように、当然旅行者の体調も絶好調のときばかりではない。

 旅には転地効果があると言われている。日常生活を離れ、いつもと違った環境に身を置くことで、五感が刺激され、精神的にも肉体的にもプラスの効果が得られるということだ。私は体調があまりよくないときには、この転地効果を過度なまでに期待している。そして、その効果はこれまでてき面に表れている。少しくらいの風邪だと、旅先に着いて少し歩けば治ることもたくさんあった。

 今回、出張先で体調を崩したとき、ホテルのスタッフが客室に温かいうどんを持ってきてくれた。食事を手配してくれた方と、スタッフの気遣いが嬉しかった。孤独と不安が混じる旅先での優しさは、格別に身に沁みた。

(編集長・増田 剛)

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