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「ピンクリボンのお宿ネットワーク」鼎談、医療現場から観光業界への期待

2013年4月21日
編集部

鼎談は3月20日に行われた
鼎談は3月20日に行われた

「ピンクリボンのお宿ネットワーク」の会員施設の情報を掲載する冊子。問い合わせ=事務局・旅行新聞新社 ☎03(3834)2718。
「ピンクリボンのお宿ネットワーク」の会員施設の情報を
掲載する冊子 問い合わせ=
事務局・旅行新聞新社 ☎03(3834)2718。

 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」(会長=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将)が昨年7月設立した。同ネットワーク副会長で医療機関との橋渡し役を務める池山メディカルジャパン社長の池山紀之氏と、乳がん患者さんの乳房再建の第一人者でもある市立四日市病院(三重県四日市市)形成外科部長の武石明精氏、総合病院土浦協同病院(茨城県土浦市)の乳がん看護認定看護師の関知子氏は3月20日、医療現場から見た観光業界への期待や課題などについて語り合った(本文の一部は3月31日付臨時増刊タブロイド版「第24回全国女将サミット2013福島特集号」で掲載)。
【増田 剛】

≪治療後の生活まで考える ― 武石氏≫
≪冊子で温泉旅行が現実味 ― 池山氏≫
≪観光と医療をつなぐ文化 ― 関氏≫

 

 

池山 紀之氏
池山 紀之氏

池山:「ピンクリボンのお宿ネットワーク」が昨年7月に発足しました。昨年12月には、会員施設の情報を掲載した冊子も発行し、会員のお宿や全国約550の主要病院、個人の希望者にも配布しています。医療機関では現在、約5万部が患者さんなどに配布されました。武石先生の市立四日市病院や、関さんの土浦協同病院にも置いています。
現場から見て、患者さんの冊子に対する反応はどうですか。

:実際、毎日接している患者さんたちの温泉に対する関心はすごく高いですね。

武石:四日市市民病院ではあっという間になくなりました。どんどん事務局に補充をお願いしています。

 
 

関 知子氏
関 知子氏

池山:乳がん患者さんを切り口に、「すべての人が旅や温泉を楽しんでもらえるように」と、ピンクリボンのお宿ネットワークが設立されたのですが、お二人は医療現場から見て、ピンクリボンのお宿ネットワークに一番期待されることはどのようなことでしょうか。

武石:実際に温泉に入浴できるということでは、患者さんに「癒し」が得られます。しかし、患者さんがそこに一歩踏み出す勇気を、「ピンクリボンのお宿」というネットワークの名前自体が与えてくれるのです。患者さんは身体的だけでなく、傍から見ている以上に、精神的なハンディを背負っています。
乳がんの患者さんは医療に関することは相談できますが、「温泉に行くことを病院の先生に相談してはいけないのではないか」と思われるケースも多く、我われから温泉に関する情報を提供することによって、患者さんが一歩踏み出す勇気を与えてあげることができるので、すごく素晴らしい取り組みだと思います。

武石 明精氏
武石 明精氏

池山:この冊子はネットワークの会員となっている旅館のガイド冊子なのですが、病院の先生が旅館のガイド冊子を患者さんに直接手渡すことに抵抗はありませんか。

武石:乳がんの患者さんにどこまで踏み込んでいるかによると思うのですが、乳がんを専門としている医師には抵抗はあまりないと思います。とくに乳腺や形成外科医は、乳房を再建したあと患者さんが温泉に入ることまでを考えますから、抵抗はないと思います。

池山:乳がんの患者さんにとっては、術後に以前と同じような生活を送ることができるかが大きな関心事で、看護師さんも患者さんから術後の生活について相談されることが多いですよね。

 

:退院指導のときに患者さんには、「温泉にも行けますよ」とお話をするのですが、「ウソでしょう」と本気にしてもらえないことが多々あります。「ピンクリボンのお宿が紹介されていますよ」と、冊子を配布するようになってから、「本当に温泉に行ってもいいんだな」と話される患者さんもいます。言葉だけでなく冊子をお渡しすることで患者さんはより現実的に実感できるみたいですね。もっとネットワークを広げてもらえたらいいなと思います。
患者さんからは「どういうサービスをしてくれるのでしょうか」と聞かれることが多いですね。冊子に割引クーポンなどを付けてもらえると、患者さんや、患者さんのご家族もすごく参加しやすくなるのではないでしょうか。

池山:掲載されている施設にも温度差があるのは事実で、これから横のネットワークを広げるだけでなく、旅館の意識の向上も重要な課題になってきます。会員旅館が増えてくれば、冊子も改訂版を出していく予定ですので、患者さんや医療現場の方々のさまざまな意見を反映していければと思っています。

武石:家族風呂や、貸切風呂がある施設もありますが、患者さんが口をそろえて希望するのは「以前と同じように大浴場に入りたい」ということです。患者さんは傷を人に見られることを非常に気にされるので、洗い場などに仕切りがあれば大浴場に入る時にすごく安心されます。脱衣所や洗い場が工夫されている会員旅館さんの状況を分かりやすく提示していただけると、とても喜ばれると思います。

:武石先生がおっしゃったように、患者さんは温泉に入っているときよりも脱衣所や洗い場の方が気になるので、さりげなく目隠しになっている配慮や工夫があるといいですね。乳がん患者さんだけでなく、さまざまな理由で目隠しがあることで大浴場に入りやすい人が多いと思います。

武石:大浴場が比較的空いている時間帯を冊子で案内したり、夕食時間をずらすことで対応するのも一つのアイデアではないでしょうか。

:昨日お会いした患者さんは「水着を着たまま入れる温泉しか行かない」と言っていました。でも、大部分の患者さんは「裸でそのまま大浴場に入りたい」というのが本音なのです。

池山:日本では現在、年間約5万人が乳がんの手術を受け、術後の生活をされている患者さんも数10万人います。その方々がなかなか温泉に行けない。私の妹のときもそうでしたが、家族や友人も温泉旅行に行けないのです。この現状を観光業界が真剣に受け止め、「温泉に行きたくなったら誰でも行ける」という環境を整備していくことが、需要拡大に向けてプラスに働くと思います。温泉は日本の文化であり、我われ医療という別の業界にいながら「もったいない」という思いを強く持っています。

:うちの病院では人工肛門を装着されている患者さんの会があって、年に1回、日帰り温泉旅行を20年近く実施しています。

池山:大腸がんの患者さんも乳がんの患者さんと同じ規模の年間約5万人ほどなのです。

武石:患者さんのツアーでは参加できる人は多いのですが、家族では行ったことがないという人が多い。一番行きたいのは家族との旅行なんです。

池山:毎年10月は「乳がん月間」ですが、愛知県の湯谷温泉は「ピンクリボン癒しの郷(さと)」として、今年10月1日を「ピンクリボンの日」として、同温泉地の全旅館が乳がん患者さんだけを受け入れることを決めました。

:患者さんは自分の体の傷を他人に見せることで驚かせてしまったり、不快にさせたくないという思いが強いですね。

武石:旅館は一般のお客さんにも「乳がん患者さんを受け入れています」というアナウンスがあればもっといいと思いますね。

池山:その意味も含めて各会員の施設に「ピンクリボンのお宿ネットワーク」のプレートや、冊子を置いています。

武石:脱衣所の照明を少し暗くしたり、洗い場の仕切りを作ることも大切ですが、それ以上に宿のスタッフ全員が「乳がん患者さんを受け入れる宿だ」という意識を共有することが大事だと思います。不安ながらも患者さんがお宿を訪れて、客室係のスタッフに相談したとき、「わかりません」と言われてしまっては「やっぱり駄目だった」と、がっかりすることになります。

池山:本格的な高齢化社会を迎え、乳がん患者さんに限らず、体の不自由な方、高齢者が旅館を訪れるケースはこれからますます増えていくなかで、社員教育の一環として医療現場の声を伝えることも必要になると思います。

 ピンクリボンのお宿ネットワークが昨年12月に新潟県瀬波温泉で実施した「第1回ピンクリボンのお宿セミナー」のような大規模なものではなくても、全国に187人いる認定看護師さんや、武石先生のような医師の方々にもセミナーや講習会にも参加していただいて、観光業界と医療業界の垣根をなくし、連携を強めていけたらいいなと思います。

 

武石:乳がん治療というのは手術だけではなく、その後も治療は継続されます。化学療法や放射線療法、ホルモン療法などさまざまな治療法があり、患者さんの症状もそれぞれ異なります。そのことを知るだけでも、お宿さんにとっては大きな前進だと思います。

:ホルモン治療をしている人は発汗量が多かったり、体温調整が難しかったりするので、タオルや浴衣を数枚使えるように用意してあげると、きっと喜ばれます。

武石:QOL(クオリティー・オブ・ライフ)という言葉が使われだしてから長い年月が経ちますが、医療現場として「患者の病気を治した」「命を救った」で終わりというのは、もう時代遅れです。患者さんの病気が治った後の生活が、病気になる前と比べてどこまで回復しているかに重点が置かれています。

 

 現在のQOLはまだ、「職場に復帰した」「普段の生活は大体できるようになった」というレベルですが、これからは、我われの意識をもっと上げていかなくてはならないと思っています。

 娯楽スポーツも含めて「遠くまで旅行にいけるようになった」「温泉に行けるようになった」「以前のようにスポーツやハイキングができるようになった」というレベルまで考えていく必要があると思います。そのためには我われ医療現場にいる人間はほかの業種の方々とも関わっていかなくてはならないし、その現場のことをもっと勉強していかなくてはならないのです。

池山:そうですね。「ピンクリボンのお宿ネットワーク」は日本の観光と医療をつなぐ新しい文化と歴史をつくっているのだと思います。

【18面に関連記事】

〈鼎談出席者

武石 明精氏:市立四日市病院(三重県四日市市)

 関 知子氏:総合病院土浦協同病院(茨城県土浦市)

池山 紀之氏:池山メディカルジャパン(愛知県名古屋市)

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