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〈旬刊旅行新聞8月11・21日号コラム〉京都とパリ―― 最先端を走る気概失えば衰退あるのみ

2018年8月17日
編集部:増田 剛

2018年8月17日(金)配信

「源氏物語」の舞台にもなった京都・宇治川

子供のころから一番好きな季節は夏だった。しかし、近年は秋に完敗し、「花粉症の無い」という条件付きで、春の後塵を拝する事態となっている。

 とくに今年の夏は猛暑のため、室内で冷房を効かせて過ごす時間が多くなる。だから、休日はあえて早朝に起きて洗濯物を干したあと、オートバイのエンジンをかけ、夏草が薫る宮ヶ瀬ダムに向けて走り出すのだ。

 目的地に着いて、炭酸飲料で一服しながら清涼感に包まれる時点まではいい。山の上の天狗になった気分である。さて、ここからが「修行」である。山から颯爽と降りて来るころには、下界は正午近くになっている。めまいがするほど暑く、帰宅後は再び強烈な冷房が効いた部屋で過ごすことになる。

 「猛暑と冷房の印象しか残さないまま、夏が過ぎていくのは寂しい」と、日々モヤモヤ感じている折、宇治市を訪れる機会を得た。京都も連日猛暑続きだったが、台風14号の影響か、涼しさを感じさせる日だった。

 宇治は日本が世界に誇る「源氏物語」宇治十帖の舞台である。世界中に「源氏物語」のファンが存在し、平安時代の日本文化に浸ろうとする人たちが、かくもたくさんいることを再認識した。「源氏物語」では珍しく、とりわけ宇治十帖が好きである。とくに与謝野晶子の現代訳で描かれた、京都と宇治、あるいは人と人との〝距離感〟が心地よく好んで読み、宇治再訪をずっと望んでいた。

 中学校の修学旅行で訪れて以来となる平等院鳳凰堂にも立ち寄った。伏見稲荷大社と同様に、外国人観光客の存在感が際立っていた。取材まで少し空いた時間、宇治の街を散策した。

 創業の古さを競うように宇治茶の老舗店が並ぶ。風鈴の音が涼しげで、抹茶のソフトクリームや、宇治金時のかき氷も人気の的だった。欧米、とくにフランス人旅行者の多さにも驚いた。街を眺めながら、ふと、「今年は平成という時代の最後の夏なのだ」と思いがよぎると、目の前の風景が急に感慨深く映った。日本の古くからの歴史や、伝統文化を色濃く残す京都・宇治を訪れることができた喜びとともに、平成末期を迎えた時代の〝肌触り〟をいつまでも覚えていようと思った。

 夕方、京都市内に移った。旬刊旅行新聞で、毎月21日号に翻訳記事を掲載している仏誌「ZOOM JAPON」の日本窓口となっている樫尾岳氏と、本紙関西支社次長の塩野俊誉と3人で、京都の風物詩である先斗町エリアの川床で会食した。

 「ZOOM JAPON」は、日本を愛するフランス人に絶大な支持を得ている人気フリーペーパー。特集記事は日本人も知らないレベルまで深く掘り下げている。樫尾氏はパリに留学し、その後、同誌で働いていた経験を持つ。

 京都とパリ――。古い歴史を有しながら、現代性を重んじる。保守性とアバンギャルドな横顔の両面を垣間見せる、似た都市。「最先端を走る気概と創造性を失えば、衰退あるのみだ」。そのようなことを考えながら、料理を、酒を口にした。本紙は秋以降、フランス発の最新情報の発信を一層強化する。一方で、日本の旅館や、まだ知られぬ地域の魅力をフランスに発信していく企画なども話し合った。鴨川のほとりにも川風が流れ、明るかった夏の空もいつの間にか藍色の闇が支配し始めていた。

(編集長・増田 剛)

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