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津波到着まで5―10分、6強に耐えられる建物を

2012年2月11日
編集部
富士常葉大学の小村隆史准教授
富士常葉大学の小村隆史准教授

 静岡県ホテル旅館生活衛生同業組合女性部会「あけぼの会」(宇田倭玖子会長)は1月25日、湊のやど汀家(静岡県焼津市)で新年研修会を開き、富士常葉大学環境防災学部の小村隆史准教授と匠のこころ吉川屋(福島県・穴原温泉)の畠ひで子女将が講演を行った。

 「あけぼの会」では、震度6弱を記録した2009年の静岡沖地震を経験し、地震発生時に女将がどう対応すべきかをまとめた「女将の地震初動マニュアル」を10年に作成。その際、防災や危機管理を専門とする小村准教授が監修を務めた。

 小村准教授はこの日、「東日本大震災を踏まえた静岡の観光業の防災対策―『女将の地震初動マニュアル』、3・11、そしてこれから―」をテーマに講演。東日本大震災と静岡で起こりうる地震を比較し、①地震で倒壊する建物が少なかったこと②津波到着まで20―30分の猶予があったこと――の2つの大きな違いをあげた。「3・11の地震は地震規模の大きさにしては、建物の倒壊が少なかったが、静岡で同規模の地震が起きた場合は、倒壊がもっと起きる。また、津波が来るまでは5―10分と考えるべき」と強調。基本的には10年に作成した「女将の地震初動マニュアル」の見直しの必要はないとするが「ただ、宿ごとに状況は違う」と声を大きくする。人間の避難時の歩行目安に「5分で300㍍」をあげ、「旅館から300㍍の範囲に津波から逃れられる高台があるかなど、シュミレーションをしておくことが大切」とアドバイスした。

経験談を語る畠ひで子女将
経験談を語る畠ひで子女将

 また、建物の耐震性について「構造物の耐震性の問題は避けては通れない」と指摘し、「6強の地震で施設被害がない状態」を一つの目安に提案。「近い将来、じゃらんネットや楽天トラベルなどに『耐震性』という項目順位ができるくらい、人々の関心は高まってきている。25年、30年後の代替わりを考え、耐震補強ではなく、建て替えも選択肢の一つとして考えてみては」と提案した。

 匠のこころ吉川屋の畠女将は「被災地からのメッセージ―Never give up―」と題し、震災時の状況とその後の対応、今後の課題など実際に被災した経験を語り、あけぼの会の女将達にアドバイスした。匠のこころ吉川屋では、防災対策の避難訓練を年6回実施。「あまり地震の無い地域なので、地震発生時は本当にびっくりしたけれど、日頃の訓練のおかげで心構えができていたのか、従業員皆が各自てきぱきとやるべきことをやり、すみやかにお客様の避難誘導ができた」と日頃の訓練の重要性について説いた。

 また、女将として「あわてずにどっしりと構えること」を心がけ、「本当は足がガタガタ震えていたけれど、お客様一人ひとりに笑顔で『大丈夫ですよ。皆様は何があっても私たちが守ります』と声をかけてまわった」と話す。女将と従業員の心ある対応に、震災後、当日泊まっていたお客から感謝の手紙がたくさん届いた。「どんな状況でもベストを尽くす。お客様からのお礼の手紙を読んだときには、涙が止まらなかった」と振り返り、目を潤ませた。

静岡県内の女将40人ほどが集まった
静岡県内の女将40人ほどが集まった

 「大震災を経験し、あると便利なものは何か?」という質問には「ラジオ」と「電池」をあげる。「電気が止まり、テレビもインターネットもダメで情報源が断たれてしまった。たまたまラジオを1つ持っていたので、みんなで聞いたのだが、もっとラジオを用意しておけばよかった」と実感を込める。あけぼの会の女将たちからは「実際にあれだけの震災を経験した旅館の体験談はとても貴重でありがたい」との声があがった。

 地震が多い静岡の女将は他県よりも防災意識が高く、全国で初めて「女将の地震初動マニュアル」を作りあげた。あけぼの会では今後も皆で一丸となり防災対策に取り組んでいくという。

【伊集院 悟】

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