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全旅連の「観光元年」に~全旅連・多田計介会長インタビュー

2018年6月4日
編集部:増田 剛

2018年6月4日(月)配信 

全旅連・多田計介会長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(多田計介会長)は6月6日、福岡県福岡市内で第96回全国大会を開く。多田会長は就任1年を振り返り、「初年度は民泊に尽きる1年だった」と語る。住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月15日に施行されるが、行政や宿泊4団体、メディアなどとの連携を重視し、「違法民泊」への監視を強めていく考えを示した。人手不足や風営法の規制など、直面する課題にも積極的に取り組んでいく姿勢だ。

【聞き手=本紙社長・石井 貞德、構成=増田 剛】

 ――全旅連会長に就任して1年間。振り返って、現在の心境や、今後注力すべき活動について伺いたいと思います。

 初年度は、民泊に尽きる1年でした。北原前会長が一生懸命に民泊の問題に取り組まれていました。しかし、残念なことにどこかでボタンの掛け違いが生じてしまい、全旅連の主張が、官邸の進める施策の「反対勢力」に映り、自民党本部とも溝が広がってきました。

 そこで、我われも「民泊反対ありきではない」と主張し、決められたことは受け入れる姿勢を示しながら、運用の内容が粗すぎる点を指摘しました。人命を預かったり、地域の安全・安心を守る法令を順守してきた宿泊業の長い歴史のなかで、とくに安全性などの面で、今回の民泊を取り巻く動きに大きなギャップを感じたからです。

 住宅を宿泊事業に転用するといっても、最終的な目的は、我われ旅館ホテル業とまったく同じです。「民泊は住宅地域でも営業可能」というのはいかがなものかと、観光庁にも我われの立場を何度も説明しました。

 17年12月に策定された住宅宿泊事業法のガイドラインは、運用面の管理などの規制が予想以上に厳しいために、事業者の申請数は少ない状況のようですが、6月15日の施行後にどのように動くか、注視していかなくてはなりません。ただ、我われの主張がある程度通用して、民泊が新しいビジネスとして、〝境目なく爆発的に”広がっていくことがなくなったのは、一つの成果だと捉えています。「地域住民らの行動で自分たちの街を守れる」という流れが成立したのだと思っています。

 昨年8月23―24日の2日間、全国47都道府県の理事長が東京に一堂に集結し、「全旅連常務理事・理事研修会」を実施しました。私は「地域住民や利用者が安心安全に暮らし、施設利用ができる環境整備を、我われがリーダーとなって進めていこう」と呼び掛けました。そして、本部の提案を各地域の理事長が中心となって運動していただきました。

 今だから言えますが、当初「民泊に関する条例に関しては30%の都道府県に動きがあれば評価していいのではないか」とも考えていました。結果的には約68%の都道府県が、保健所を有する市町村などの首長の発言によって新たに条例が定められたり、検討がなされたりしています。全国の理事長を先頭に、組合員の皆様が汗をかいた運動が実った結果だと思っています。私は2000年3月に撤廃された「特別地方消費税」の“撤廃運動”以来の大きなうねりを感じました。

 今回の運動は中央ではなく、地方で拡散し、各地で〝運動”が行われたことが大きな特徴です。大所帯の全旅連組織が、全身を駆使して1つの目的に向かってがんばった〝一体感”を得られたことが、47都道府県の理事長の1人として、この1年間で最も大きな成果だと思います。

 ――6月15日の住宅宿泊事業法施行後については。

 例えば私の地元・石川県金沢市では、行政の立場から保健所の中に指導的な窓口が設置されています。3年後に見直しもあるので、行政や民間機関と協力し、地方の皆様方としっかりと連絡を取りながら、注視していきたいと思っています。

 6月15日以降は、アンダーグラウンドに潜る民泊事業者がかなり出ることが予想されます。

 地域住民の皆さんは元より、日本旅館協会や日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟など宿泊4団体が連携し、「違法民泊はダメ」というメッセージを発信する。法治国家である日本の法律に従って「治安維持にも協力していく」ように、旅行会社やOTA(オンライン旅行会社)、メディアなども巻き込むことが大事です。しっかりとコミュニケーションを取って対処していきたいと思っています。

 ――旅行会社も民泊の販売へと動いています。

 消費者は旅館やホテルと、民泊を使い分け、ときには「価格を重視することもある」との理解も必要でしょう。

 一方、我われ旅館やホテルは、自分たちのおもてなしのサービスをもう一度見直し、良質なサービスをこれまで以上に磨き、価値を高めていくべきです。

 ――人手不足も宿泊業界では大きな課題となっています。

 全旅連は7割の組合員が小規模旅館。労働力の要求も、地域や規模によって異なります。アンケート調査をすると、外国人労働者へのニーズは千差万別です。中・大規模は「とにかく労働力がほしい」という回答が多くあります。組合員に役に立ち、モデルになるような取り組みや、考え方などの情報を本部が吸い上げて、広く伝えていくことが大きな役目だと思っています。

 ――宿泊業4団体で構成する「宿泊業外国人労働者雇用促進協議会」では、外国人技能実習制度の活用も検討されています。外国人労働者についての考え方は。

 「外国人の労働力は不可欠」というのが大前提です。押し寄せる波には勝てず、変わっていく部分もあるかと思いますが、都心の有名ホテルもベッドメーキングなどは多くの外国人労働者が担っています。

 一方、お客様との接点が多い部署では、文化の大きく違う地域の外国人の雇用は、難しい部分もあるのではないかと考えます。

 このため、「即戦力」的な教育システムが必要だと思っています。働く外国人も歓迎され、お客様からも感謝される「三方良し」の枠組みができないか。学校のような仕組みをつくり、一定のレベルに達した者には認定証などを発行するのも一つのアイデアだと思います。宿泊4団体で連携して考えていきたいと思います。

 全国の旅館やホテルでは、「1日2時間のみ」「週に3日」など多様な就業形態も進んでいます。私の宿でもある職場では、漁師さんがスタッフの半数を占める日があります。悪天候が続く時期などは漁に出られないため、不漁のシーズンなどは、若い漁師さんが当館のバックヤードでお手伝いに来てくれたりもしています。これらも面白い人材発掘の一例だと思っています。

 人手不足の解消には、考え方や着眼点を変えていくことがポイントになります。「たすき掛け」シフトによる労働管理など、これまでの慣習に固執しないことも大事です。

 「お客様をお出迎えした客室係が翌朝のお見送りをする」――このことにこだわると、どうしても長時間労働となります。しかし、こだわっているのは我われ旅館側だけで、実はお客様はそこまで期待していないことも多々あります。

 ――全旅連という組織も大きく変わろうとしています。

 そうですね。今年の総会で定款の一部を変更します。

 定款の第一条に「観光立国の実現推進」、第五条には「観光立国推進に関する観光関係団体との連絡調整」などを追加する予定です。

 観光立国に向けて宿泊業4団体の連携強化や、大手旅行会社などとのビジネス面での連携事業も、大きな可能性を持つことになります。

 全旅連は公衆衛生に関しては、長い歴史を通じて一つひとつ積み上げてきましたが、本格的な観光への取り組みについては、今年が“スタートの年”であり、「全旅連の観光元年」だと認識しています。

 ――旅館文化が正しく理解されることも大切ですね。

 おっしゃるとおりです。例えば、旅館の宴会場は畳が大部分です。このため、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の規制の対象となっています。

 一方、ホテルの宴会場は絨毯のため、対象外です。「お酌」の文化は〝風俗営業”という江戸時代的な時代錯誤な捉え方があるのも事実です。日本文化を代表する旅館の畳文化が差別されるようではいけません。警察と協力しながら、旅館業の社会的な評価、存在意義を高めるために、新しい枠組みづくりにも取り組んでいきたいと思います。

 ――熊本地震から2年余りが経ちました。今回は熊本市で理事会・総会を開き、福岡市で全国大会を開催されます。

 我われ全旅連の仲間である熊本や大分、九州全体が苦労したなかで、井上善博九州ブロック会長とも話し合い、理事会・総会は熊本で開くことが決まりました。全国の都道府県を代表する理事長が熊本を訪れ、危機管理なども学んでいただきたいと思っています。このため、熊本をよく見ていただけるスケジュールを組みました。その後、全国大会の会場である福岡に集結する流れです。

 観光業界にとって災害は他人事ではありません。

 私も07年3月に発生した能登半島地震の際、半年間お客様が来ないことも経験しました。全旅連の仲間が経験したことから多くを学びたいと思っております。

 ――ありがとうございました。

 

 

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