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旅行会社と協業 ウィンウィンの関係築く (横浜中華街・招福門)

2018年5月18日
編集部:謝 谷楓

2018年5月18日(金) 配信

【図表】国内宿泊における団体と個人旅行者数の推移(増減率)、観光庁の資料を基に、旬刊旅行新聞編集部が作成した

旅行会社を経由した団体客の取り込みをどう立て直していくのか? FIT(個人旅行客)全盛のなかで、この問いに対する答えを見つけることは難しい。IT技術を活用した販売管理や営業努力に頼るだけでなく、コンテンツ力や旅行会社との関係強化も視野に入れる必要がありそうだ。実践例を求め、横浜中華街・招福門(6階、570席)を訪ねた。【謝 谷楓】

個人と団体客 双方に照準

 団体旅行の減少が著しい。2017年と13年を比較すると、団体旅行者数(延べ)は15%のマイナスと大きく落ち込んだ。個人旅行者数が順調に推移しているだけに、両者の差は今後ますます深まることが予想される。これまで、団体客の取り込みを念頭に施設や設備の投資・設計を行った観光関連事業者も多く、すぐさまターゲットをFITに鞍替えすることは容易いことではない。投資費用の回収を思えば、TTA(既存旅行会社)からの送客は、欠かすことのできない収入源。団体旅行の減少は、ホテル・旅館や飲食店、土産物屋ら地域に根付く事業者にとって、看過できない事態となっているのだ。

 団体客をいかに増やすか? 設備などハード面の変更が困難ななか、旅行会社の事務所訪問や、営業代行を担う総合案内所を経由したセールスなど、施設担当者の工夫は尽きない。一方【図表】が示すように、団体と個人旅行の増減率の差は明らか。時代の流れに即しつつ、団体客にも照準を定める、ハイブリット型の戦略が求められている。そんななか、長年培ったコンテンツ力を武器に、新しい仕掛けを提案する施設も出てきた。

インタビューに応じてくれた、横浜中華街・招福門の小林清美営業部長

品質と価格、個人客はバランスの良さで獲得

 1999年にオープンし、横浜中華街で飲茶食べ放題を広めた招福門(勝田俊也代表、神奈川県横浜市)では、1月から新たに美食同源ブッフェフロアを設け、「新中国料理・オーダー式食べ放題」の提供を始めた。F2層(35―49歳の女性)の獲得に注力している。同社営業部長の小林清美氏は、団体と個人双方を意識した商品だとしたうえで、次のように語る。

七種野菜の烏龍茶漬け(新中国料理・オーダー式食べ放題メニューより、提供=招福門)

 「モノからコト消費への転換など、国内ユーザーの成熟が顕著ななか、高い品質を維持しつつ、価格を据え置くというバランスの良さが求められています。新しく設けたフロアのコンセプトは美食同源。料理100種のうち、薬膳を意識したものを約20種用意しました。中華街で食べ放題は一般化していますが、この価格(3758円、ランチ、ディナー同じ)でこのクオリティを提供することは容易いことではありません。大規模店ならではの取り組みで、差別化をはかっていきたいと考えているのです」。

 飲茶食べ放題とフカヒレのコース料理が経営の柱となっている同店。各々F1(20―34歳)層とミドル世代後半の女性を中心に支持を集めてきた。F2層をターゲットに据え、新設ブッフェフロアで提供する新中国料理・オーダー式食べ放題は、これまでの取りこぼしを拾い上げる狙いもある。

 「20歳代にとって、4千円に近い価格は高いと感じるかもしれませんが、美容に対する関心がより高いF2層には刺さるテーマです。当店は飲茶食べ放題を中華街で最初に始めたこともあって、リピーターが豊富です。得意客のなかでも、美味しさ以上の価値を求めるようになった大人の女性を取り込めると考えています」。

 ユーザーの消費動向を理解したうえで、自社の強みと顧客需要のマッチングポイントを探り当て、商品化に漕ぎつけた一例といえよう。では、団体客の獲得につながる旅行会社との関係構築についてはどうか。

旅行会社の視点に立ったコンテンツづくりを

雲白肉 ~ゆで豚の薄切り薬膳ニンニクソース~(新中国料理・オーダー式食べ放題メニューより、提供=招福門)

 招福門では、旅行会社向けには、3600~1万5千円台の宴会メニュー(8種)を用意するほか、ランチを中心に飲茶セット(2千円から)の提供も行ってきた。団体客1人当たりの平均単価は4千円。宴会需要が減少するなか、ランチ単価の底上げが求められていたという。自社の利益に直結する単価を引き上げつつ、旅行会社からの送客を促す。相矛盾する2つの課題を同時に解決するためにも、新設の食べ放題は有効だと小林氏は説明する。

 「当店の利益を確保しつつ、旅行会社からの送客を促すことは本当に難しい。実際、断らざるを得ない単価から商談を始めることもあり、頭を抱えることも少なくありません。一方、団体客が占める割合は25%(年間8万人)、宴会場の稼働やお土産購入も期待できるため、旅行会社経由の送客は当店にとって欠かすことのできない比重を占めています。自社と旅行会社、ウィンウィンの関係を維持するためにできることを考えたとき辿り着いたのが、旅行会社の視点に立ったコンテンツづくりでした。飲食店である当店は、ターゲット選定と受入対応で、旅行会社をサポートできると考えています」。

白身魚のガダイフ巻き上げザクロソース(新中国料理・オーダー式食べ放題メニューより、提供=招福門)

 旅行商品のなかで、飲食店は通過ポイントと見なされる場合が多い。売上は〈席数×回転数×客単価〉から求められ、座席と回転数の積がその日の客数となる。単価か回転数いずれかを高めことができれば売上増を期待できる仕組みだ。旅ナカの通過点となるため、時間ごとにどれだけ回転数を上げられるかが闘いとなるが、平均単価(4千円)を顧慮すると、単価の引き上げは難しい。商談でもやはり、高品質のコンテンツをどれだけ低価格で提供できるかが成否を分けてしまう。

 「一般ユーザーの視点に立つ旅行会社が、価格にシビアなのは当たり前のことですから、送客増を望む我われが、その意図を汲み取ることは当然です。そのためには、しっかりとターゲットに刺さるコンテンツをつくり、商品造成に資する提案を行うことが必要だと捉えています。例えば、美食同源をテーマとした新設の食べ放題では、F2層にメインターゲットを据えていますから、旅行会社の狙う団体層と合致すれば、営業提案を協力して行うことが可能となります。旅行会社の担当者にとって、心強い味方でありたいと考えているのです」。

 同食べ放題はすでに、FIT向けのプラン商品に起用され、早くも実績を上げている。

デザート イメージ(新中国料理・オーダー式食べ放題メニューより、提供=招福門)

 「クーポンや、大型バスの無料駐車場、添乗員への食事対応など、現場レベルでも送客をサポートする仕組みが整っています。立ち寄れない団体客のために、車内販売を行うこともあります。バスの車内で注文を伺えば、その日のうちに届けることが可能です。旅行会社と事業者間には良くも悪くも緊張関係があるものですが、団体客が減少するなか、旅行会社任せにするのではなく協業する姿勢を示すことで、ウィンウィンの関係を構築していきたいですね」。

 大手旅行会社が販売する宴会パック商品でも、毎年高い評価を獲得している招福門。長年培ったコンテンツ力で、時代に立ち向かう。

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