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「登録有形文化財 浪漫の宿めぐり(80)」(新潟県新潟市)小さなお宿 小松屋≪客は1日3―4組 歴史260年の小さな湯宿≫

2017年12月3日(日) 配信

民家を思わせるような本館の外観。玄関を入ると趣が変わる

 岩室温泉は開湯1713(正徳3)年と伝わる。弥彦神社参詣者の精進落としの湯として栄えた。そのなかで小松屋も創業が宝暦年間(1751―63年)といわれ、岩室温泉と歴史を共にしてきた宿と言える。弥彦神社への行き帰りに利用されることがほとんどだったが、ここ数十年は温泉と地元の魚料理を楽しむ観光・保養客が中心になってきた。そして嬉しいことに、多くがリピーターとなって古い宿の建物や、木々の多い小ぢんまりと落ち着く雰囲気を喜んでくれる。庭と建物がマッチした宿は岩室温泉にも少ないのだ。

 小松屋は敷地約500坪。前庭と2つの中庭、自然の山を含む裏庭には、松、梅、モミジなどの木々が茂る。渡り廊下などでつながる建物は建築年代ごとに呼び名を変えていて、もっとも古い広間棟が1914(大正3)年、次いで表座敷棟の25(大正14)年、本館51(昭和26)年、奥座敷棟57(昭和32)年と続く。7つの客室と広間、3カ所の温泉浴室があり、浴室以外のほとんどの部分が登録有形文化財だ。

 館内に入ると、大旅館のようなフロントはない。主人の渡邉浩史さんは「旅籠のようなもの」というのだが、それにしては造りが凝っている。玄関の上がり口には磨かれた欅の一枚板が並び、香炉や屏風を置いた飾りも客を迎えるのに品がいい。表座敷棟は<RUBY CHAR=”蹲”,”つく”><RUBY CHAR=”踞”,”ばい”>という客室だが、数寄屋造りで床柱は<RUBY CHAR=”槐”,”えんじゅ”>。落し掛けや違い棚の筆返しなど、床の間回りに使われている黒柿は、敷地内にあった柿の木から採ったもの。その黒柿の根が床の間に飾られている。柾目の鴨居や長押も美しい。

 広間の松風は神代欅の床柱や黒柿を使った天袋、そして幅が1㍍あまりもある板を並べた天井に目を見張る。床脇の天袋は扉に描かれた金地に植物の絵が鮮やかだ。「建築当時の色だ。顔料がよかったのだろう」というのは先代主人の渡邉紀夫さん。旅館の建材についても「地元の杉を多く使っている。目が詰んでいるので質がいい」と教えてくれた。一級建築士で増築部の設計もしたそうだ。

 細工物では蓬莱の間の障子が面白い。桟格子を植木の棚に見立て、瓢箪が葉とともに彫刻された組子だ。建具づくりで知られる新潟県加茂市の職人が手掛けたという。面皮柱などを使った奥座敷棟や、皮付きの桜木を棹縁天井に用いた紅梅の間もしゃれている。そしていずれの客室も、奥行の浅い床の間が軽快感を生んでいる。

 客室は7室あるが、1日の宿泊客は3―4組に抑えている。そのため館内にゆとりができ、どの客もゆっくり過ごせるようだ。最近目立ってきた外国人にも、1週間ほど滞在した客があったという。主人の浩史さんが握る包丁で作る魚介料理、温泉、そして建物と庭が作る和の雰囲気。日本人にも外国人にもファンが増えつつあるのだろう。

(旅のルポライター 土井 正和)

コラムニスト紹介

旅のルポライター 土井 正和氏

旅のルポライター。全国各地を取材し、フリーで旅の雑誌や新聞、旅行図書などに執筆活動をする。温泉、町並み、食べもの、山歩きといった旅全般を紹介するが、とくに現代日本を作る力となった「近代化遺産」や、それらを保全した「登録有形文化財」に関心が強い。著書に「温泉名山1日トレッキング」ほか。

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