test

新たな“東洋モデル”へ、社会のニーズに応える人材輩出

1656_05_03

 東洋大学は2017年4月に国際観光学部を開設する。観光産業において産官学のミスマッチが指摘されるなか、社会のニーズに応える人材を輩出する。学部は5つのコースに分け、産業界と連携を密にする画期的な「東洋モデル」を創設した。東洋大学国際地域学部国際観光学科の島川崇学科長・教授と、徳江順一郎准教授に開設に至る想いを語ってもらった。
【聞き手=増田 剛編集長、構成=平綿 裕一】

東洋大学国際観光学部 4月開校

島川 崇教授
島川 崇教授

島川:現在、観光業界では産官学連携を謳っていますが、この3者はまるで歩み寄ろうとしていません。お互いが欠点を言い合う状況です。我われが新しい学部を開設する際に意識したのは「何を変えることができるか」です。
 まずこれまでの観光学科ではマネジメント教育ができていませんでした。「難しいことは分からないけれど、お客様の笑顔がみたい」という学生が多かった。けれども、やはりファイナンスなどの知識を、しっかり学習できる教育体制を敷くべきだと考えました。

徳江:我われが一番議論していたのは「根幹にいるお客様は誰か」ということ。これは学生の就職先の企業になるはずです。社会は即戦力や将来の幹部候補を欲していると思います。
 なので、私たちはさまざまな業界の人たちに話を聞いて回りました。「社会は観光を通じて何を期待し、観光の将来をどう描いているか」を考えました。

徳江 順一郎准教授
徳江 順一郎准教授

島川:これまでは教員らは個人事業主のような傾向が強く、自分たちの得たものを外に出していなかった。そこで、お互いの知識やノウハウを出し合い数多くの議論をしました。5つのコースは明確に学習内容や目標を分けて、新たな「東洋モデル」を構築しました。午前はインターン先で働き、午後から授業というかたちを取り入れたコースもあります。これは日本初の試みです。
 さらに観光を総合的に、横断的に学べるように全体のバランスを考えて作り、事前事後の学習も確立しました。開設の前からさまざまな企業や団体から期待を集めています。

島川:国際観光学部は①ツーリズム②エグゼクティブマネジメント③サービスコミュニケーション④観光プロフェッショナル⑤観光政策――の計5つのコースで構成しています。
 5つのコースのうち、旅行会社に特化しているのがツーリズムコースです。ここでは旅行業務取扱管理者資格を取得してもらいます。1年次で国内の試験、2年次で海外を含めた総合の試験に合格してもらいます。
 ここでしか受けられない授業に、募集型企画旅行演習があります。実際のパッケージツアーに参加し、企画者の想いや企画過程など多くを学ぶことができます。
 また、議論のなかで、パッケージツアーにホテルの視点が絶対に必要だと分かりました。以降は実習でも、必ずホテルの視察を取り入れるようにしました。旅行業に関しては学部化以前にも実績がありますが、ホテルの視点も加わり、さらに磨きをかけられました。

徳江:東洋大学は多くの学生がホテル系をはじめとするホスピタリティ系に就職しています。ただ、経営のトップになった学生は多くはありません。総支配人層や、経営者層を育成しなければと強く感じ、エグゼクティブマネジメントコースを創設しました。
 これまで足りていなかったファイナンスや計数管理、不動産知識など、それぞれ専門の教員を採用して強化しました。同時にこれまで連綿と続けてきたサービス教育を合わせ、両方を兼ね備えた人材育成をはかります。30代で総支配人となる人材を輩出することが目標です。
 一方、これまでのサービス教育の強みをより出していくのがサービスコミュニケーションコースです。学部内のコースで1番ボリュームがあります。サービスに特化することで、ホテルやブライダル、キャビンアテンダントなどのほか、小売業全般の接客を行う人材を育てます。

島川:観光プロフェッショナルコースはこれまでにない「働きながら学ぶ」枠組みが特徴です。1年次から3年次までの3年間、昼過ぎまでインターン先で働き、そのあとに授業を受けてもらいます。さらに3年間同じ企業に通うことも新たな試みです。通常は3週間ほどですが、長期間でみた方が企業の実情を理解できると考えました。

徳江:今年は間に合いませんでしたが、普段は東京の営業所で働き、休み期間中は地方にある旅館で働くといった取り組みを検討しています。
 最後に観光政策コースです。公務員となり地域それぞれのアイデンティティを発信し、観光を盛り上げたいという学生向けです。公務員試験対策も用意しています。

島川:ただ、全体を通して授業に工夫が必要でした。会計学科が行うようなファイナンスばかりでは、学生が興味を持つのは難しいと考えました。もっと親しみやすく、敷居が低くなるように努力しました。また、実習の授業も充実させる一方で、理論に立ちかえることも重要視しました。

徳江:「女将・総支配人論」という授業があります。一見面白くて受けたいと思うかもしれませんが、担当の先生には理論をしっかりと教えてほしいと念を押しています。
 例えば「女将が果たしてきた社会的役割」「近年なぜ女将が減少し、ホテル的な経営をする旅館が増えたのか」などについてです。きちっと分析してもうことが前提で、語っていただく。
 学生側も事前に調べさせ、そして実習で現場の人とやりとりをする。事後は吸収したことをさらに学ぶ、というプログラムをどんどんやります。

島川:コースは5つに分けましたが、すべての学生に受けてほしい授業があります。リーダーシップ論とサステナブルツーリズム論です。
 観光で人と人をつなぎ、物と物をつなぎ合わせるときに必ずリーダーシップは必要です。リーダーシップの経年変化を通して、リーダーシップの潮流を学んでほしい。
 国連世界観光機構はサステナブル(持続可能性)とレスポンティビリティ(責任)を強調しています。これを踏まえ、産業と一体となって、連携しなければなりません。
 一方で産業はともすれば1―2年の近視眼的な利益に動いてしまいがちです。ここで我われが歯止めとなって、観光における持続可能性や責任を伝えていくことが使命だと思っています。

徳江:私たちは学部開設にあたり、インターンにも力を入れました。これまで産学連携が大事といいながら、学生を丸投げしている状況でした。ただの労働者として働くので、相手先の企業について何も学べない。戻ってくれば、業界を嫌いになる学生もいました。
 そこで、私達はインターン先を可能な限り視察しました。日本国内はもちろん、タイ、スリランカンなど、世界各国です。

島川:インターン先は信頼関係を持てる企業を厳選しました。例えば今回お願いしているはとバスさんは、1年目は東京の営業所で、次はコールセンターなどのバックオフィスを経験させてもらいます。その後、上手く話せてマイクを持てるような学生が出れば、バスガイドを経験できるかもしれません。そこで互いに納得すれば、そのまま就職もあります。このように密に企業と連携をはかっていきたいと思っています。

徳江:業界全体でいえますが、中学生の年代あたりから、もっと業界の啓発が必要だと思います。「観光は人が喜んでお金を払ってくれる仕事だ」という認識はあまり中高生にはない。世間一般のイメージを超えなければなりません。

島川:学部の開設だけでなく、高校と大学の「高大連携」も強めていきたいと思っています。全国には観光科や、第2外国語を取り入れている高校もあります。高校で旅行業務取扱管理者資格を取っていたら入学させるなど、積極的に働きかけたい。第2外国語で仏、中国語など取得していれば、インターンなどで選択肢が生まれます。
 そのほかホテルを持っている大学と連携をはかります。学生はホテル教育をしながら、実践で学べる。いつになるかわかりませんが東洋大学ホテルを造りたい。この想いはずっとあります。連携によってどのような教育をしているか、ノウハウをしっかりと学びたい。国際観光学部は飛ぶ鳥を落とす勢いでやっていきます。

いいね・フォローして最新記事をチェック

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。