VRが変える未来の観光スタイル、「見せられる」から「見る」観光へ

VR化で復元された高松城
VR化で復元された高松城

 今、さまざまな場所でVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)の活用が進んでいる。観光分野でも、多くの自治体がVRを用いたプロモーションやコンテンツ制作に取り組むなど、注目度が高い。実際成田空港では、訪日外国人向けのおもてなしにVRを使い、10日で約350人の利用があったという。そこでVR観光について取り組んでいる2社に、現状や課題、展望などを取材した。はたして、VRは未来の観光スタイルにどこまでの革新をもたらすのだろうか。
【後藤 文昭】

斎木信昌氏
斎木信昌氏

 印刷会社である凸版印刷は、文化事業推進を20年前から行っており、文化財保護のためのデジタルアーカイブ化を進めている。また最近新たな動きとして、観光面での自治体の課題解決にも取り組んでいる。9月21日には、「ストリートミュージアム」をリリース。観光誘致のためのスマートフォンアプリで、現地でVRポイントに近づくと、プッシュ通知される。また周辺の史跡情報を表示することで地域回遊を促すことができるだけではなく、GPSで実際の地図と連動した古地図表示もできる。今回は、同サービスの開発に携わった情報コミュニケーション事業本部、トッパンアイデアセンター先端表現技術開発本部ビジネス開発部の斎木信昌係長に聞いた。

 ――スタートしたきっかけは。

 今多くの自治体が、観光資源の掘り起しが上手く行っていないことに悩んでいます。観光強者といわれる京都などには、寺社仏閣などの歴史的建造物が多くあり、そこに人が集まりますし、再訪率も高い。しかしそれに比べると、観光資源があっても城跡などでは「インパクトが弱い」というのが多くの自治体の悩みです。そこで、それを補えるものをということを相談され、当社から文化財のVR化を提案したのがこの取り組みの始まりです。

 ――自治体にとって、VRを活用するメリットは。

 コストですね。失われた文化財である史跡の観光資源化としては、「絵を起こす」、「模型を作る」、「復元する」のどれかを選んで公開します。そのなかで1番分かり易いのは「復元」ですが、費用が高い。最近名古屋城天守閣を木造で復元する計画が発表されましたが、その総事業費には、約470億―500億円かかるそうです。一方VR化する費用は、数千万円でできます。もう一つは、時間の短さです。城の復元をするとなると、時代考証の時間も考えるとかなりの年月を必要とします。その点VRなら1年以内にできます。2020年に向けてリードタイムを短く資源化できます。

 ――富岡製糸場では、お土産としてVRスコープを販売していますが。

 自治体との話し合いのなかで、「収入源として新しいものは無いのか。土産として何か作れないか」という話が出たときに、当社の印刷会社としての得意部分を活かし、さらに新しい価値観を持ち帰ってほしいと思い、「VRスコープを土産として売ってみましょう」と提案しました。また、土産にすることで、持ち帰った人が周りの人に広める、口コミ効果も狙えます。

 ――現状での課題は。

 高品質のCGをつくれても、それを届ける手段が無いことです。シアターであれば、当社の設備環境で高品質なものが見せられます。しかし、一般の方々が持っているデバイスでは、通信環境の影響で粗い画像しか見せることができません。受け手側の通信環境の整備が必要です。

 もう一つは、VRブームがピークを迎えていますが、その定義が曖昧だということです。今はスコープを使うものをVRと言っていますが、本来はCG空間がそこにあるだけでバーチャルリアリティ(VR)です。そこを混同せずに、どうVRを楽しんでいけばいいのか、どう定着させるのかが、今年のポイントになります。

 ――自治体の浸透度は。

 情報に対する感度の高い自治体と、低い自治体の差が大きいことです。「文化財をVR化する技術があって、それが観光資源になりやすい」ということへの認知度が低いと、感じています。今後どう自治体にアピールしていくかが課題です。

 ――観光業にVRが与える影響は。

 「見せられる観光」から、「見る観光」に変えていけると思っています。「案内書きやガラスケースの中のものを見る」ことが今までの観光スタイルでした。それを、自分が知りたいものを知ることが簡単にできる「能動的な観光スタイル」に変えることができます。

 ――能動的な観光スタイルになると、そこから何が生まれますか。

 一つひとつの土地に対する思い入れが深まり、リピート率も向上するのではないかと思います。「なんとなく行って、弾丸で周ってきて、写真を見ないと思い出せない」というのが、今までの観光だったと思います。今後は、一つひとつの歴史、物語を伝えることによって、次は別の側面で魅せたら面白いのではないかと、多面的に見せられる観光資源、観光地づくりができます。

 ――安全面に関してはいかがですか。

 まずは、自治体と協力して危険の無いエリアづくりをしていかなければならないです。将来的には、観光に最適なまちづくりが目指せないかと考えています。当社のアプリでは、利用者の個人情報は残りませんが、行動ログだけは見られます。例えば、人が滞留する場所が分かれば、大きな広場を整備できます。こういったフィードバックはその点に十分活かせます。

「技術×旅」=新たな可能性

波多野貞之氏
波多野貞之氏

 近畿日本ツーリスト未来創造室は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年以降の会社の未来をどのように作っていくのかを考え、また新規事業を立案する組織。新規事業開発の中で「最先端技術×旅」を「スマートツーリズム」と名づけ取り組んでおり、トレンドであるウェアラブル端末メガネ型「スマートグラス」を活用した観光を推進している。これは、訪れる土地の史跡や物語などのCG映像での復元、平和・震災学習での活用を含め、現実風景に映像を重ねて見ることで仮想現実を体験する。未来創造室の波多野貞之課長に聞いた。

 ――スタートしたきっかけは。

 エプソン様からスマートグラスの話を聞き、個人が室内で活用している機器を、屋外で行う団体の観光に活用できないか検討を始めました。会議では、「東京の観光」がキーワードに挙がりました。今後技術の進歩も見込め、市場も拡大していくと言われているウエアブル端末に東京の観光や、インバウンド、地方創生などを掛け合わせて何かしたいということで、スタートしました。

 ――VRを活用するメリットは。

 観光において、過去や未来が可視化された体験は驚きや発見があるばかりでなく、より深く、わかりやすく知ることができると思います。仮想現実の体験がその場をよりリアルに体感させてくれるのは大きなメリットですね。イヤフォンガイドの解説は多言語対応可能なので、急増する訪日外国人の方にも正確にわかりやすく内容を伝えることもできます。

 ――旅行会社が行うメリットは。

 旅行会社の機能の一つに「現場に行ってもらう」ということがあります。私たちが体験型の新しいサービスを提供することで、顧客満足度が向上し、地域活性や自社の企業価値向上につながるのではないかと思います。

 ――現状での課題は。

 初期費用の高さが1番の課題ですね。機材を、ツアーが催行できる分用意するだけでも大きなお金が必要になります。コンテンツの製作費も、利用者がお金を払って満足できるレベルだと、少し大きなお金が必要になってしまいます。ただこの分野はまだ始まったばかりなので、今後技術が向上すれば、初期費用を抑えることができ、気軽に利用できるようになると期待しています。

 映像コンテンツの利用時の制約などもそうです。国が推進している地方創生への貢献や、ユニバーサルツーリズムを考えた旅行体験のために、地方自治体や企業が所有している映像素材は積極的に提供してもらいたいと思います。

VR化された江戸城
VR化された江戸城

 ――スタートから今まで、どのようなツアーを組まれましたか。

 2015年2―3月に「江戸城天守閣&日本橋ツアー」を行い、その後福岡城、弘前城、富岡製糸場にてガイドツアーを展開してきました。また島根県にある出雲たたら村ではロケツーリズムも行いました。

 ――今行っている復元による地域振興以外ではどのような活用がはかれますか。

 震災学習とロケ地観光です。

 東日本大震災から5年が経ち、現地では復興の格差と遺構を残すかどうか判断する時期に来ているようです。それは記憶の継承と観光の振興を考えなければならないことでもあり、新たな震災ツーリズムが必要になってきています。東北の方に話を聞いていると、津波の悲惨さや大変さを知ってほしいのではなく、そこには人々の暮しがあり、長い歴史の中で地震と津波を体験した町の歴史を学んでほしい、知ってほしいと思っています。そのための手段としてVRを活用した震災学習プログラムにより、過去と現在の歴史をわかりやすく伝えていければと思います。

 ロケ地観光は以前から取り組んでいたことですが、スマートグラスを使ってロケ地で撮影シーンを実際に見ることができるのは新しいアプローチであり、ロケツーリズムに貢献する取り組みだと思います。地域においては、観光施設をつくらなくてもロケが行われれば観光地としてPRすることができるので、地方自治体は積極的に取り組んでいくのではないかと考えています。

 ――観光業にVRが与える影響には何が考えられますか。

 旅行の本質は例えば「人とまち」など「何かと何かを結ぶこと」だと思います。「旅と技術」を結ぶことで、新しいサービスが生まれることを提示すると思います。「スマートツーリズム」という考え方のなかでVRに限らず「技術×旅」観光を考えると、新しいアプローチがどんどん生まれてくるのではないかと期待しています。もう一つは、旅の叶わない人も旅の仮想体験ができるようになるのではないということです。それが実現すれば、ユニバーサルツーリズムにつながると思っています。

 ――安全面に関してはいかがですか。

 そこも、しっかり考えなければならないです。今の機器では、装着中は危ないので歩けません。技術が進歩して安全面が向上すれば、歩くことも可能になるかもしれないですね。

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