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避暑地が恋しい ― 自然を体感できる快適空間への欲望

2015年8月18日
編集部

 今年の夏は暑い。全国的に猛暑に襲われているみたいだが、とりわけ東京は気温の高さに加え、異様に蒸し暑い。もはや長時間の外出は難しく、年々夏が観光に適さなくなってきているのを感じる。

 そうなってくると、「避暑地」が恋しい。日本の避暑地としてすぐに頭に浮かぶのは、軽井沢や上高地、那須塩原、富士五湖、洞爺湖などがある。地理的に九州など南の方であっても、高原などでは気温がぐんと下がり爽やかに過ごせるので、とくに夏は人気が高い。

 個人的にも、夏は好んで東北に旅行した。北へ、北へとクルマを走らせ、十和田湖畔や小岩井農場近くの温泉地で涼しく過ごした日々を、汗まみれの東京で思い出すと、貴婦人のような避暑地の面影を追ってしまう。

 今、グラマラスとキャンピングを掛け合わせた造語である「グランピング」というスタイルが世界的に流行っている。

 多くの人は、大自然の魅力を満喫したいが、虫が嫌いだったり、道具を準備するのが面倒だったりする。「自然を全身で体感したい」「野生動物を間近に見たい」と思っている一方で、どうしても人間は、危険や不快な思いは極力避けたいという相反する欲望を持つ。グランピングは2つの欲望を同時に解決する試みでもある。極言すれば、アフリカのサバンナの大地に突如豪華な部屋を設置する。真っ白いシーツのベッドに寝そべり、心地よい冷房の利いた部屋で高級シャンパンを飲みながら、窓の外でたむろしているライオンを眺めているようなものである。一挙両得の最高のエンターテイメントである。

 私自身、時折早朝バーベキューを行っていることを以前この欄で記した。大型テントを持たないので昼になれば太陽の直射日光を遮るものがなく、楽しみより苦痛の方が大きくなるため、夜明け前に家を出て、日の出前に火を起こし、朝食として焼肉を貪るように食べ、皆が河原にやって来る午前9時ごろには火を消して帰るという奇行を続けている。でも、ラグジュアリーホテルまではいかなくても、庇の広いログハウスでバーベキューをしながら、冷房の効いた部屋で休んだりできるといいなと思うことは多々ある。

 年々、夏は長時間出歩けないほど暑くなってきているが、だからといって、冷房の効いた室内に一夏閉じこもっていたいとは思わない。夏の日差しの明るさや自然の匂い、蝉の鳴き声などを感じながら、苦痛を感じる暑さから逃避できる空間も同時に確保したい。この身勝手な欲望を解決できる身近な場所は、どこにあるだろうか?

 旅館である。多くの旅館は山間地や高原、湖畔、渓谷、海辺など自然豊かな、涼しげな場所にある。そして冷房の効いた空間も提供している。だが、それだけでは足りない。必要なのは、「宿泊者が快適に自然を体感できる空間」なのだ。人工的に、一分のすきもないほど手入れをしている庭園もあるが、これは芸術であり、鑑賞用である。一方、まったく手を入れず天然の山や藪になっている場所には危険を感じる。旅館、あるいは温泉地が適度に手を入れることで、旅人が安心してデッキチェアに揺られながら、涼しげな木陰でうたた寝ができるような空間を提供できれば、身近な避暑地として、新たな旅行スタイルのニーズを掴んでいけると思う。

(編集長・増田 剛)

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