東北観光の復活目指す、「JATAの道」ツアー実施

除幕式のようす
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 日本旅行業協会(JATA)は10月28―29日に、「第3回みちのく潮風トレイルJATAの道」ツアーを岩手県で実施した。戸川和良副会長を団長に、約60人が参加した。同プロジェクトは、東北復興に向け、地域の自然や生活の再生を手助けするための取り組み。環境省が整備するトレイルコースを旅行商品の造成に活かし、地域への誘客増加を狙う。一行は今回、碁石海岸のある大船度市中南部ルートと釜石市ルートを中心に視察。地域との交流も活発で、観光業関係者らとの懇親会も盛況だった。
【謝 谷楓】

 ■「みちのく潮風トレイル」と「JATAの道プロジェクト」
 同トレイルコースは、環境省が整備管理する三陸復興国立公園の一部で、青森県八戸市と福島県相馬市をつなぐ。リアス式海岸特有の景観から、森の散策や観光スポット巡りまで、歩きながら東北の自然や文化に触れることができる。
 現在も整備が行われており、岡本光之環境省自然環境局国立公園課課長は、「地元の方々と一緒になって同コースの選定を行ってきた。環境省は、国立公園が地域の発展に役立つよう、今後もJATAの皆様と協力していきたい」と語る。
 復興支援に尽力するJATAは、2014年から「JATAの道プロジェクト」を開始した。3回目となる今回は、岩手県の大船渡市と釜石市を中心に視察した。同プロジェクトでは、地震と津波によって破壊された東北の自然景観と生活文化の再生をはたし、観光業の復活を目指す。視察を通じ、トレイルコースを活用した商品造成や販売といった成果を期待している。
 地域との交流も積極的に行われ、一行は地元ワイナリーが運営するりんご園や、復興庁主催のビジネスコンテストで大賞を受賞した甘露煮の生産現場を訪れた。
 大船渡市では、キャッセン大船渡(田村滿代代表)の臂(ひじ)徹取締役が、同市での新しいタウンマネジメントについて講演した。

説明する語り部と、震災遺構の旧タピック45(陸前高田市)
説明する語り部と、震災遺構の旧タピック45(陸前高田市)

 ■“あの日”を振り返る
 1日目、陸前高田市にある東日本大震災追悼施設を訪れた一行は、犠牲者の死を悼み、黙祷を捧げた。戸川副会長と黒川惠社会貢献委員会副委員長による献花も行われた。
 旧タピック45(道の駅高田松原)では、語り部の釘子明氏から震災当時のようすについて説明を受けた。3月11日、15㍍を上回る津波に飲みこまれた同施設は現在、被害の甚大さと恐ろしさを後世に伝えるために、震災遺構として当日のようすを今に残す。奇跡の一本松と、復興まちづくり情報館にも近く、周辺には一般観光客の姿も。

 ■碁石海岸を歩く
 トレイルコースを巡る出発式は1日目に、碁石海岸インフォメーションセンターで行われた。団長の戸川副会長は、「これから歩くコースをぜひ、商品造成に活かしてほしい」と薦めた。
 大船度市中南部ルートでは、2チームで碁石海岸周辺を散策。椿の里大船渡ガイドの会所属の菊池英夫氏によるユニークな語り口とともに、一行は、えびす浜や碁石岬からの景色を堪能した。海岸付近では遊歩道が整備され、所要時間は40分ほど。キャンプ場もあり、岬にある碁石埼灯台では、桜や椿など四季の花を楽しめるという。

 ■釜石市に案内板を贈呈
 三陸鉄道・南リアス線を走る「震災学習列車」への乗車から始まった2日目。盛駅から唐丹駅まで、窓外には、美しいリアス海岸と復興に勤しむまちが広がる。車内では、内舘昭二南リアス線運行部担当部長が、震災当日や復旧状況について解説した。同企画は、被災した地域を窓外に、震災時と現在のようすを知ってもらおうと、同社が沿線住民らと協力し実施するもの。
 続く目的地、釜石鉄の歴史館では、「みちのく潮風トレイル 釜石市案内板除幕式」が行われた。案内板は、JATAから釜石市へ贈られ、観光客の利便性を高めるのも目的の1つ。観光客は、わかりやすいルート地図を確認し、おすすめコースを知ることができる。
 式典には、野田武則釜石市市長も出席し、感謝の念を表明した。
 ラグビーワールドカップ会場建設地を視察した後、根岸海岸を望む宿、宝来館へ。岩崎昭子女将は「県外から来る皆様との交流が地域の産業につながる」と語り、同コースを活かした旅行商品の発売に強い期待を示した。

釜石大観音と釜石港を望む
釜石大観音と釜石港を望む
講演する臂徹氏
講演する臂徹氏

 ■今後の街づくり
 1日目の夜、大船渡市で新しい街づくりに取り組むキャッセン大船渡の臂氏が講演を行った。
 来年4月に、市や商工会議所とともに、テナント型商業施設を中心市街地にオープンする。臂氏は、「洋食屋なのにラーメンが美味しいお店があるという声が聞こえてくるような、昼と夜で雰囲気が変化する、多様性に冨んだ街づくりを目指したい」と、さまざまな人が交わる港という、同市の特徴を活かすアイデアを披露した。
 懇親会には、戸田公明大船渡市市長から、りんご園を経営するスリーピークス及川武宏代表や「三陸甘露煮」で有名なバンザイファクトリー高橋和良代表ら、地元の名士が参加。地域食材を活かした料理が並び、りんご園の果実を使った炭酸酒、シードルも食事にマッチすると好評だった。

九州観光復興へ財政支援を、熊本城など早期復旧も、7県と観光・経済界が要望

ガイドの案内で被災した熊本城を見学する観光客も増えている
ガイドの案内で被災した熊本城を見学する観光客も増えている

 九州7県と九州観光推進機構、九州経済連合会などの経済団体は11月8日、「九州ふっこう割」終了後の反動減などの対策に関わる国の支援を求め、内閣官房、観光庁など関係省庁を訪問して「熊本地震を受けた九州観光復興のための要望書」を提出した。

 九州では4月に発生した熊本地震で、当初宿泊キャンセルが70万件を超えるなど、観光産業が大きな打撃を受けた。7月からは国の交付金180億円を活用した割引付旅行プラン助成制度「九州ふっこう割」事業をスタートさせ、宿泊者数は徐々に回復してきている。

 機構がまとめた九州ふっこう割第1期実績(速報値)では、事業目標の150万人泊に対して達成率97・8%の146万8千人泊と目標達成が目前に迫っている。

 ただ、東京、大阪など大都市圏からの観光客の戻りは今一つで、10月8日に発生した阿蘇中岳噴火や熊本地震の余震発生などが復興にブレーキをかけるなど、九州全体の観光産業への影響が懸念されている。

 また、ふっこう割事業が終了する1月以降の宿泊予約も昨年に比べて低く、修学旅行も地震後に方面変更され、九州での実施が見送られていることも、懸念材料の一つとなっている。

 インフラでは阿蘇へ向かう国道57号線や周辺道路、豊肥本線などの鉄道復旧にも時間がかかり、熊本城や阿蘇神社など観光施設再建にも長期間要することが、観光復興へ向け支障となっている。

 要望書では国道、鉄道など公共交通インフラの早期復旧、熊本城、阿蘇神社など文化財の早期復旧、ふっこう割の反動減解消対策などに向けた財政支援を求めている。

 また、地震発生から1カ年に向けた九州観光復興応援感謝旅行キャンペーンや九州各地でのおもてなしイベントの実施。今回のふっこう割対象外だった観光施設やドライブイン、土産店、飲食店、鉄道、貸切バス事業者などへの直接効果事業への財政支援要望も盛り込んでいる。 さらに、海外向けプロモーション連携の強化や、修学旅行の次年度以降の方面変更対策事業に対する財政支援も要望した。

乗船客600万人突破、“松江観光のエースに”(堀川遊覧船)

記念式典のようす
記念式典のようす

 島根県松江市の松江城のお堀を船でめぐる堀川遊覧船の乗船客数が11月1日、600万人を突破した。1997年7月の就航から19年余りで大台に到達した。

 600万人目は神戸市の小針真人さん。妻と一緒に日本一周の旅をしている途中で、松江に訪れたという。同日行われた記念式典で、松浦正敬市長から花束や遊覧船の年間パスポートが贈呈され、600万人達成記念のラッピングが施された特別船に乗り込み、お堀を一周した。

 松浦市長は「毎年30万人以上の皆様にご乗船いただく松江観光のエースになっている。来年7月には就航20周年の節目を迎え、島根県そして山陰を代表する観光施設として、国内外のお客様をお迎えできるようさまざまな取り組みを行っていきたい」と述べた。

VRが変える未来の観光スタイル、「見せられる」から「見る」観光へ

VR化で復元された高松城
VR化で復元された高松城

 今、さまざまな場所でVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)の活用が進んでいる。観光分野でも、多くの自治体がVRを用いたプロモーションやコンテンツ制作に取り組むなど、注目度が高い。実際成田空港では、訪日外国人向けのおもてなしにVRを使い、10日で約350人の利用があったという。そこでVR観光について取り組んでいる2社に、現状や課題、展望などを取材した。はたして、VRは未来の観光スタイルにどこまでの革新をもたらすのだろうか。
【後藤 文昭】

斎木信昌氏
斎木信昌氏

 印刷会社である凸版印刷は、文化事業推進を20年前から行っており、文化財保護のためのデジタルアーカイブ化を進めている。また最近新たな動きとして、観光面での自治体の課題解決にも取り組んでいる。9月21日には、「ストリートミュージアム」をリリース。観光誘致のためのスマートフォンアプリで、現地でVRポイントに近づくと、プッシュ通知される。また周辺の史跡情報を表示することで地域回遊を促すことができるだけではなく、GPSで実際の地図と連動した古地図表示もできる。今回は、同サービスの開発に携わった情報コミュニケーション事業本部、トッパンアイデアセンター先端表現技術開発本部ビジネス開発部の斎木信昌係長に聞いた。

 ――スタートしたきっかけは。

 今多くの自治体が、観光資源の掘り起しが上手く行っていないことに悩んでいます。観光強者といわれる京都などには、寺社仏閣などの歴史的建造物が多くあり、そこに人が集まりますし、再訪率も高い。しかしそれに比べると、観光資源があっても城跡などでは「インパクトが弱い」というのが多くの自治体の悩みです。そこで、それを補えるものをということを相談され、当社から文化財のVR化を提案したのがこの取り組みの始まりです。

 ――自治体にとって、VRを活用するメリットは。

 コストですね。失われた文化財である史跡の観光資源化としては、「絵を起こす」、「模型を作る」、「復元する」のどれかを選んで公開します。そのなかで1番分かり易いのは「復元」ですが、費用が高い。最近名古屋城天守閣を木造で復元する計画が発表されましたが、その総事業費には、約470億―500億円かかるそうです。一方VR化する費用は、数千万円でできます。もう一つは、時間の短さです。城の復元をするとなると、時代考証の時間も考えるとかなりの年月を必要とします。その点VRなら1年以内にできます。2020年に向けてリードタイムを短く資源化できます。

 ――富岡製糸場では、お土産としてVRスコープを販売していますが。

 自治体との話し合いのなかで、「収入源として新しいものは無いのか。土産として何か作れないか」という話が出たときに、当社の印刷会社としての得意部分を活かし、さらに新しい価値観を持ち帰ってほしいと思い、「VRスコープを土産として売ってみましょう」と提案しました。また、土産にすることで、持ち帰った人が周りの人に広める、口コミ効果も狙えます。

 ――現状での課題は。

 高品質のCGをつくれても、それを届ける手段が無いことです。シアターであれば、当社の設備環境で高品質なものが見せられます。しかし、一般の方々が持っているデバイスでは、通信環境の影響で粗い画像しか見せることができません。受け手側の通信環境の整備が必要です。

 もう一つは、VRブームがピークを迎えていますが、その定義が曖昧だということです。今はスコープを使うものをVRと言っていますが、本来はCG空間がそこにあるだけでバーチャルリアリティ(VR)です。そこを混同せずに、どうVRを楽しんでいけばいいのか、どう定着させるのかが、今年のポイントになります。

 ――自治体の浸透度は。

 情報に対する感度の高い自治体と、低い自治体の差が大きいことです。「文化財をVR化する技術があって、それが観光資源になりやすい」ということへの認知度が低いと、感じています。今後どう自治体にアピールしていくかが課題です。

 ――観光業にVRが与える影響は。

 「見せられる観光」から、「見る観光」に変えていけると思っています。「案内書きやガラスケースの中のものを見る」ことが今までの観光スタイルでした。それを、自分が知りたいものを知ることが簡単にできる「能動的な観光スタイル」に変えることができます。

 ――能動的な観光スタイルになると、そこから何が生まれますか。

 一つひとつの土地に対する思い入れが深まり、リピート率も向上するのではないかと思います。「なんとなく行って、弾丸で周ってきて、写真を見ないと思い出せない」というのが、今までの観光だったと思います。今後は、一つひとつの歴史、物語を伝えることによって、次は別の側面で魅せたら面白いのではないかと、多面的に見せられる観光資源、観光地づくりができます。

 ――安全面に関してはいかがですか。

 まずは、自治体と協力して危険の無いエリアづくりをしていかなければならないです。将来的には、観光に最適なまちづくりが目指せないかと考えています。当社のアプリでは、利用者の個人情報は残りませんが、行動ログだけは見られます。例えば、人が滞留する場所が分かれば、大きな広場を整備できます。こういったフィードバックはその点に十分活かせます。

「技術×旅」=新たな可能性

波多野貞之氏
波多野貞之氏

 近畿日本ツーリスト未来創造室は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年以降の会社の未来をどのように作っていくのかを考え、また新規事業を立案する組織。新規事業開発の中で「最先端技術×旅」を「スマートツーリズム」と名づけ取り組んでおり、トレンドであるウェアラブル端末メガネ型「スマートグラス」を活用した観光を推進している。これは、訪れる土地の史跡や物語などのCG映像での復元、平和・震災学習での活用を含め、現実風景に映像を重ねて見ることで仮想現実を体験する。未来創造室の波多野貞之課長に聞いた。

 ――スタートしたきっかけは。

 エプソン様からスマートグラスの話を聞き、個人が室内で活用している機器を、屋外で行う団体の観光に活用できないか検討を始めました。会議では、「東京の観光」がキーワードに挙がりました。今後技術の進歩も見込め、市場も拡大していくと言われているウエアブル端末に東京の観光や、インバウンド、地方創生などを掛け合わせて何かしたいということで、スタートしました。

 ――VRを活用するメリットは。

 観光において、過去や未来が可視化された体験は驚きや発見があるばかりでなく、より深く、わかりやすく知ることができると思います。仮想現実の体験がその場をよりリアルに体感させてくれるのは大きなメリットですね。イヤフォンガイドの解説は多言語対応可能なので、急増する訪日外国人の方にも正確にわかりやすく内容を伝えることもできます。

 ――旅行会社が行うメリットは。

 旅行会社の機能の一つに「現場に行ってもらう」ということがあります。私たちが体験型の新しいサービスを提供することで、顧客満足度が向上し、地域活性や自社の企業価値向上につながるのではないかと思います。

 ――現状での課題は。

 初期費用の高さが1番の課題ですね。機材を、ツアーが催行できる分用意するだけでも大きなお金が必要になります。コンテンツの製作費も、利用者がお金を払って満足できるレベルだと、少し大きなお金が必要になってしまいます。ただこの分野はまだ始まったばかりなので、今後技術が向上すれば、初期費用を抑えることができ、気軽に利用できるようになると期待しています。

 映像コンテンツの利用時の制約などもそうです。国が推進している地方創生への貢献や、ユニバーサルツーリズムを考えた旅行体験のために、地方自治体や企業が所有している映像素材は積極的に提供してもらいたいと思います。

VR化された江戸城
VR化された江戸城

 ――スタートから今まで、どのようなツアーを組まれましたか。

 2015年2―3月に「江戸城天守閣&日本橋ツアー」を行い、その後福岡城、弘前城、富岡製糸場にてガイドツアーを展開してきました。また島根県にある出雲たたら村ではロケツーリズムも行いました。

 ――今行っている復元による地域振興以外ではどのような活用がはかれますか。

 震災学習とロケ地観光です。

 東日本大震災から5年が経ち、現地では復興の格差と遺構を残すかどうか判断する時期に来ているようです。それは記憶の継承と観光の振興を考えなければならないことでもあり、新たな震災ツーリズムが必要になってきています。東北の方に話を聞いていると、津波の悲惨さや大変さを知ってほしいのではなく、そこには人々の暮しがあり、長い歴史の中で地震と津波を体験した町の歴史を学んでほしい、知ってほしいと思っています。そのための手段としてVRを活用した震災学習プログラムにより、過去と現在の歴史をわかりやすく伝えていければと思います。

 ロケ地観光は以前から取り組んでいたことですが、スマートグラスを使ってロケ地で撮影シーンを実際に見ることができるのは新しいアプローチであり、ロケツーリズムに貢献する取り組みだと思います。地域においては、観光施設をつくらなくてもロケが行われれば観光地としてPRすることができるので、地方自治体は積極的に取り組んでいくのではないかと考えています。

 ――観光業にVRが与える影響には何が考えられますか。

 旅行の本質は例えば「人とまち」など「何かと何かを結ぶこと」だと思います。「旅と技術」を結ぶことで、新しいサービスが生まれることを提示すると思います。「スマートツーリズム」という考え方のなかでVRに限らず「技術×旅」観光を考えると、新しいアプローチがどんどん生まれてくるのではないかと期待しています。もう一つは、旅の叶わない人も旅の仮想体験ができるようになるのではないということです。それが実現すれば、ユニバーサルツーリズムにつながると思っています。

 ――安全面に関してはいかがですか。

 そこも、しっかり考えなければならないです。今の機器では、装着中は危ないので歩けません。技術が進歩して安全面が向上すれば、歩くことも可能になるかもしれないですね。

日本一の星空ナイトツアー、冬季も企画、3万人集客へ(長野県・阿智村)

ブースで「ウインターナイトツアー」を再現
ブースで「ウインターナイトツアー」を再現
熊谷秀樹村長
熊谷秀樹村長

 「日本一の星空」のブランド化に取り組む長野県・阿智村(熊谷秀樹村長)は12月3日から17年3月31日まで、ウインターナイトツアーを実施する。12年8月から「天空の楽園 日本一の星空ナイトツアー」を開始。77日間で6535人を集客した。2年目は前年比130%増の約1万5千人、5年目の今夏は約10万人が参加している。今年は冬季にも星空を見てもらおうと、「ウインターナイトツアー」を計画した。

 11月11、12日に東京ミッドタウンで開いた「TREND EXPO TOKYO2016」内に展示ブースを出展。「ウインターナイトツアー」を再現し、企画の演出などを手がけるNAKEDが同ツアーの魅力をいち早く体験できる機会を提供した。

 11日には、熊谷村長が出席し、「長野県の最南端に位置する阿智村は人口6600人の小さな村。どのようにブランディングしていくかが喫緊の課題であり、なんとか観光で地域を盛り上げたい」とあいさつ。現在、年間130万人の観光客が訪れるようになった取り組みを紹介した。「昼神温泉には年間70万人がお越しになられているが、温泉地だけでは観光客の維持は難しい」と考え、「色々なところを見て、体験してもらう滞在型観光に取り組んできた」と話した。2006年に環境省から「星が最も輝いて見える場所」に認定されたことを受けて、「この冬も新しい企画をたくさん用意している。多くの人に実際に阿智村に来ていただき、きれいな星空を体験してほしい」と語った。今冬は、同ツアーに3万人の集客を目指す。

カーシェアと高速バス、連携へ社会実験を開始(国交省)

 国土交通省は11月15日、「高速バス&カーシェアリング社会実験」をスタートした。高速バス停周辺の駐車場にカーシェアリング車両を配備。高速バスとカーシェアリングの連携を強化することで、高速バス利用者の行動圏の拡大による観光振興や地域振興の可能性を検証する。

 実験に参加するのは遠州鉄道(斉藤薫社長、静岡県浜松市)とタイムズ24(西川光一社長、東京都千代田区)。

 行動範囲の拡大効果と、利便性向上効果、高速バス&カーシェア導入時の課題などを検証する。背景には、「カーシェア利用者の急増」と「レール&カーシェアの普及」がある。

 利用者はあらかじめカーシェアリング車両を予約し、高速バスに乗車。浜松インター駐車場で車を受け取り、観光地に出かける。浜松市には17年NHK大河ドラマ「女城主直虎」の主人公井伊直虎が出家した龍潭寺、出世城といわれる浜松城など史跡、城跡をはじめ多くの観光資源がある。同省は、浜松市で両交通手段の連携を強化させることで、高速バス利用者の行動圏が拡大し、観光振興などにつながることを期待する。

 同実験は2017年10月31日までの期間を予定している。

訪日客2000万人突破 ― 外国人旅行者を「穴埋め」と考える状況

 2016年の訪日外国人客数が10月30日に、累計で2千万人を超えた。1千万人を達成したのが13年のことで、わずか3年で2倍を大きく超えることになる。このままのペースで推移すると、今年は2400万人前後までいきそうだ。今後は、4年後の20年に4千万人という目標に向けて、国を挙げて突き進んでいくことになる。

 一方、11月8日に米国大統領選挙の投票、開票が行われ、共和党のドナルド・トランプ氏が劣勢を覆し、大統領就任を確実にした。今年6月に英国で行われた国民投票でEU離脱を決めたことに続く、世界的に衝撃を与える選択となった。どちらも僅差ではあるが、グローバリズムから、内向きのナショナリズムへの転換を映し出した。とくに欧米では移民の受入れや自由貿易などを推し進める一方で、さまざまな軋轢も生まれ、EU離脱や、トランプ氏勝利といった現象を生み出した。

 民主党のヒラリー・クリントン氏ではなく、トランプ氏が米国大統領に就任することで、世界の秩序や枠組みは、大きく変化していくだろう。

 日米同盟を基軸とした安全保障のあり方も、大きく変わる可能性がある。12月に山口県を訪れるロシアのプーチン大統領との北方領土交渉にも少なからず影響を与える。尖閣問題、あるいは朝鮮半島の不安定化も、今回の米国大統領選挙の影響を強く受けることは間違いない。

 今はインバウンド拡大で沸く日本であるが、移民問題についても今からしっかりと議論し、対策を考えなければ、いずれ国民を二分する大問題になっていくことが予想される。

 訪日外国人客が2千万人を突破した日本だが、一時期大ブームとなった“爆買い”は落ち着きを見せ始めている。また、東京や大阪などで異常なほど高止まりをしていたホテルの客室稼働率も僅かだが下降傾向にある。全日本シティホテル連盟が発表している客室利用率調査では、8月の東京は前年同月比4・7ポイント減の86・4%、大阪は3・6ポイント減の89・7%と、ともに高水準ではあるが90%台を割っている。

 都心部では百貨店の免税店売り場を拡張し、今もビジネスホテルの建設ラッシュが続いている。だが、ブームを追いかけている最中に、社会の動きが急展開するのが世の習いだ。日本のバブル経済の崩壊を目の当たりにしてきた経験から、異常な沸き上がり方をしている産業や現象を見るにつけ、「こんなお祭り騒ぎはいつまでも続くはずがない」という感覚が、哀しくも、染み付いている。

 懸案の民泊問題も、埋めることができないのに、建物を建て続ける建設業や不動産業、そして不動産賃貸業者が「穴埋め」的に、訪日外国人でお金儲けをしようという構図である。けれど、それは人口減少に加え、所得が増えないことや、休暇制度がまったく思うように進まないために行き詰った観光業界と同じである。縮小しつつある旅行市場の「穴埋め」として外国人観光客を受入れている状況と、なんら変わりない。もちろん、多くの外国人観光客が日本を訪れてくれるのはありがたいことだ。しかし、それら外国人観光客を、国内問題の行き詰まりの「穴埋め」的に考えて、国が観光政策を進めているのなら、民泊問題でもそうだが、やがて大きな軋轢や新たな問題を生むだろう。

(編集長・増田 剛)

社内カンパニー制導入、経営体制 大きく舵切り(HIS)

12年ぶりに社長に復帰した澤田氏(左)と、平林氏
12年ぶりに社長に復帰した澤田氏(左)と、平林氏

 HIS(エイチ・アイ・エス)は11月1日から新たな経営執行体制を敷いた。澤田秀雄氏はHISの社長に復帰。会長を兼務し、最高経営責任者(CEO)となる。現社長の平林朗氏は副会長に就き、新会社HISホテルホールディングスの社長や、新たに設置したM&A本部で本部長などを兼務する。多くの事業分野を抱え、小回りが利かなくなった経営体制を再編した。社内カンパニー制により決済速度を上げ、迅速な事業展開や、世界展開、次代の経営者育成もはかる。
【平綿 裕一】

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澤田氏が社長に復帰

 10月28日に行われた会見で、澤田新社長は「社内カンパニー制を導入し、権限と責任をしっかりと下に落とす」と強調した。多岐にわたる事業領域を分類。権限と責任を明確化し、素早い意思決定が行える環境を整えた。グループ全体の戦略の策定と実施を行う経営構造も創出。旅行事業を軸に置いた経営体制から、大きく舵を切る。

 澤田氏は「総合旅行会社はすでに古い」と持論を展開。数10年間続けてきた経営体制を再編し、世界で戦える経営体制を構築した。組織は大きくコーポレート部門(人事・総務・内部監査など)と旅行事業部門の2つに分けた。

 コーポレート部門は「連結グループ本部」の業務執行部署に位置付ける。旅行事業部門は「HISJAPAN」、インバウンド事業は「HIS訪日事業部門」としてそれぞれ、いわゆる事業子会社とする。連結グループは「海外の旅行事業」「テーマパーク事業」「ロボット事業」など多数の事業領域を分類し、各事業部門に経営執行体制を再編した。

 今後は「連結グループ本部」を常設。澤田氏と平林氏を含む業務執行取締役6人で構成する。連結グループの戦略策定などの重要事項を決定する「連結グループ戦略会議」を主宰。これによりグループ全体の統制、選択と集中、事業部門間の整合性をはかっていく。

 一方、新たに設置したM&A本部で、M&Aを主導し企画・検討・実施する。国内外問わずIT分野を中心に、500億円規模までを目標とした。これまでは社外からの引き合いが多かったが、今後は能動的に活用。拡大戦略の1つに据える。

 HIS100%出資の新会社、HISホテルホールディングスは(1)ホテルマネジメント契約の受託(2)M&Aの実施(3)自社による物件の取得――を通じ、今後5年間で100軒の運営を目指す。国内外に点在する既存のホテルも統合する構え。

 今回の再編は、ハウステンボスのグループなど本来の旅行事業以外が傘下に入り、連結業績に占める割合が増加したことが内部の主因となる。外部要因は国内外のオンライン旅行会社(OTA)の台頭や訪日需要の増加、異業種の参入による業界構造の変化などがある。

 とくに旅行事業は「今までの成功体験を捨ててゼロから見直す必要がある」(平林氏)とし、新たにグローバルオンライン事業を創出。「澤田と私で力を入れてやっていく」と強調した。

 2004年に一線から退いていたが、12年ぶりに社長の座に復帰した澤田氏。経営者育成については「今後3年から5年で30―40代にバトンタッチしていきたい」とし、新体制によって「将来の経営者が育ってほしい」と語った。

No.446 座談会「貸切バスの安全安心を」、業界の統一したコンセンサスへ

座談会「貸切バスの安全安心を」
業界の統一したコンセンサスへ

 2016年1月15日の軽井沢スキーバス事故を受け、利用者は貸切・高速バスに対する安全安心への関心を高めている。日本バス協会(上杉雅彦会長)は、11年から貸切バス事業者安全性評価認定制度を始め、協会会員に取得を促し、利用者に安全なバスの周知をはかってきた。一方で、認定制度が安全安心に資する制度として利用者に充分に浸透していない。これらを踏まえ、バス業界、国土交通省、旅行業界の各リーダーらが集まり、貸切・高速バスの安全安心、今後の展望について語り合った。

【司会進行=本紙社長・石井 貞德、構成=平綿 裕一】

 
 
 
【座談会参加者】
鶴田 浩久 氏 国土交通省自動車局旅客課長
富田 浩安 氏 日本バス協会貸切委員会委員長(日の丸自動車興業 代表取締役社長)
加藤 信貴 氏 日本バス協会貸切委員会副委員長(名鉄観光バス 代表取締役社長)
平野 利晃 氏 JTB国内旅行企画常務取締役事業部長

 ――貸切バス事業者安全性評価認定制度について、日本バス協会貸切委員会の富田委員長から説明をお願いします。

■富田:認定制度ができたきっかけに、2007年に大阪府吹田市で起きた貸切バスの重大事故がありました。それまではどこかで「どのバスに乗っても安全だ」と利用者も我われも思っていました。しかし、事故は実際に起きました。

 2000年の旅客自動車運送事業の規制緩和のあとで、かなり事業者が増えていました。当時は、事業者の間で安全の確保や認識についてばらつきがあったのです。利用者により安全なバスを選んでもらうため、認定制度は11年に始まりました。そのあと、12年に関越自動車道の高速ツアーバス事故が起きますと、運転者の過重労働防止のため、交替運転者の配置基準などがガイドラインで定められました。

 ――制度の基準や現状を教えてください。

■富田:我われは、(1)安全性に対して法令の遵守をきちんとしているか(2)事故や違反がないか③安全に積極的な取り組みをしているか――などを総合的に評価しています。基準を満たせば星の数(最高3つ)で認定、公表しています。有効期限は2年で、更新制となっています。認定事業者はその証である「SAFETY BUS」のシンボルマークを車両などに貼付できます。

 認定事業者は、16年10月現在では、全国1050事業者(日本バス協会会員の43・2%)、2万3588両(会員保有車両数の64・4%)となります。

 軽井沢スキーバス事故を受けて、旅行会社が認定事業者を使う流れが出ています。協会内の認定事業者は14年度から比べると、100%以上の増加をみせています。

 ――認定制度の課題を、行政と旅行会社の立場からお話いただけますか。まずは国土交通省自動車局の鶴田課長からお願いします。

■鶴田:軽井沢スキーバス事故を契機に、消費者庁が大々的に貸切バスに関する消費者の意識について調査を行いました。これによると、観光ツアーで貸切バスや高速バスを利用したことがある2500人のうち、およそ4分の3(74・1%)は「SAFETY BUS」マークや制度を知らないと答えました。マークと制度の両方を知っている消費者は、5・6%にとどまりました。

 一方で、9800円のツアーに参加しようした場合に、「同じ内容でより安全に留意したツアーに追加でいくら支払えますか」という質問がありました。1番多い回答は1千円(28・6%)でした。大事なところは、1千円以上追加で支払う人は、6割以上(63・6%)いたということです。

 つまり、消費者は1―2割追加で支払っても安全を確保する意向があるにも関わらず、4分の3は制度やマークを知らないということになります。このギャップを埋めることが必要だと思います。

 ――旅行会社からJTB国内旅行企画の平野常務はどのようにお考えでしょうか。

■平野:JTBは1千社強のバス事業者と契約していますが、昨年の時点で認定事業者は半数ほどでした。今年9月の認定によりさらに増えてはいますが、教育旅行も含めて、ピーク時に認定事業者のみでお客様のニーズを吸収しようとすれば、まだ一定の限界があると感じています。

 また、現状では保有車両の多い、複数の事業者が認定を失えば、認定事業者のみでの手配はかなり厳しい部分があります。

 1つの課題として、バスの安全やサービス面で、お客様は選択する基準を持ち合わせていないところだと思います。どうしたらお客様が選びやすいのかというかたちを、バス事業者と旅行会社の両業界で考えていかなければいけません。

 ――これらを踏まえて、協会として認定制度の課題や、対策などお話下さい。貸切委員会の加藤副委員長からお願いします。

■加藤:個々のお客様だけでなく自治体や学校関係者、旅行会社などに携わっている人の認知も少ないと感じます。周知活動をただ漠然と行うのではなく、ローラー式に自治体や学校関係者、旅行会社らに対して、再度周知をはかる必要があります。ここは、地道な努力をしていく以外に方法はないと考えています。…

 

※ 詳細は本紙1650号または11月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

訪日外客数2千万人に、3年で2倍、20年4千万人へ

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 観光庁は10月31日、訪日外国人旅行者数の累計が30日時点で、2千万人を突破したことを発表した。その後日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)が独自に推計した結果、30日までの累計数は、2005万人に上り、2013年の1千万人突破から、3年で2倍の数字を達成した。

 今回、訪日者数が2千万人を突破したものの、観光大国フランスの年間8千万人以上という数と比較すると、まだまだ遠く及ばない状況だ。政府は、「明日の日本を支える観光ビジョン」において、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる20年に、訪日者数4千万人を目標に掲げている。現在、訪日者数の大部分が、アジア周辺地域が占め、景気減退や関係悪化などが発生した場合、訪日者数に直接影響を及ぼす可能性もある。残り4年を切り、アジアのみならず欧米からの訪日客をどこまで伸ばすことができるかが、目標達成のカギとなる。

 また、消費額を増やすことも重要だ。16年7―9月の訪日外国人旅行消費額は、9717億円と19四半期ぶりにマイナスとなった。中国人観光客による爆買いが下火になりつつあるなかで、前年に比べ、宿泊料金や飲食費の構成比が拡大しつつある。

 今後、地方への分散も視野に入れつつ、各地がその場所に長く滞在してもらうために、観光資源の磨き上げや、PR方法などに工夫を凝らしていくことが、20年に向けた、新たな一歩となるだろう。

【松本 彩】