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「観光革命」地球規模の構造的変化(220) 新型ウイルスと観光立国

2020年2月29日
編集部:木下 裕斗

2020年2月29(土) 配信

 今年は日本の観光立国が飛躍的に発展するはずの年であった。政府は今年開催される東京オリパラを最大限に活用して、「2020年インバウンド4千万人(19年は3188万人)」という数値目標を掲げると共に、「20年訪日旅行者による消費額8兆円(19年は4兆8113億円)」という政府目標を掲げていた。

 ところが昨年12月に中国・武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症が短期間で世界に広がり、パンデミック(世界的な大流行)を生じさせた。WHOは1月末に新型コロナウイルスによる感染拡大について「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。日本を含めた世界全体で観光客数が大幅に減少し、旅行・観光産業に深刻な打撃を与えている。

 中国では02~03年にSARSが大流行し、世界的に感染が拡大した。SARS流行のときの中国と比べると、現在の中国は世界第2位の経済大国に発展しており、03年の中国人の外国旅行者数は約2千万人であったが、昨年は約1億5千万人で飛躍的に増大している。それだけ世界に与えるインパクトが大きくなっている。習近平国家主席は「建国以来、最も困難な公衆衛生の事件」と宣言して対応強化をはかっている。

 日本でもすでに新型コロナウイルス感染者が各地で増えており、死者も出ている。とくにクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」における集団感染は全世界に報道され、日本のイメージを著しく低下させている。政府は今年、国際クルーズ船客500万人誘致を目指して積極的なプロモーション活動を行ってきた。しかし日本のイメージ低下によって、すでに国内各港への寄港中止のケースが相次いでおり、関係者は頭を抱えている。

 日本国内における市中感染の拡大に伴ってクルーズ船寄港中止だけでなく、訪日旅行を忌避する動きが各国で生じている。国際航空運送協会(IATA)は新型コロナウイルスの感染拡大の直撃を受けるアジア太平洋地域の航空会社は20年に約3兆1千億円の損失を被るとの試算を公表している。

 さらに日本国内ではウイルス感染拡大の影響でさまざまなイベントの中止が相次ぎ、旅行・観光産業は大きな痛手を被っている。新型ウイルスの早期終息を祈るばかりだ。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

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